被害者と呼ばれた
「なるほど。被害者の方でしたか」
被害者?たしかにそうだが。
「俺のような存在が他にも?」
「そこまで多い訳ではありませんが、数十年〜数百年に一人はいますね。なにせ女神様はドジっ子ですから」
結構なペースであんな失敗してたのかあの駄女神。
そうだよな。マニュアルがあるってことは、それなりに回数こなしてるだろう。
勝手に能力追加しますよ〜って言うのが速かったのはそういう訳か。
「なんとも迷惑な。そのレベルだともう邪神じゃないですか」
「ははは。まあ、あの方も生き物ということでしょう。それと今の発言は熱心な信者の方に聞かれるとまずいので今回で最後にしたほうが身のためですよ」
おっと確かに今のはまずかった。この人が熱心な信者じゃなくて助かった。
「分かりました。そういう事なら街まで送りましょう。人の足だと二、三日はかかりますから」
親切な御者に礼を言って俺は幌馬車の幌の中へ入る。
流石に商人と言うべきか。馬車には様々な品が積まれていた。それらの隙間を通りつつ座れる場所を見つける。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はエニシ・ジッゲーンと申します。商人です」
「俺は神楽梨音。梨音が名前です」
「ではリオンさんと呼ばせてもらいます。私のことはエニシと」
エニシは馬を走らせながらそう言った。
うっ、揺れが酷いな。地球の車に慣れてたからより酷く感じてしまう。
「これから行く街にもお一人被害者の方がいますよ」
「そんな近くに!?」
「被害者の方は現れるスパンは長いですが、寿命が長いので、この世界にはある程度います。と言っても、一国に一人いるかいないかという程度なので珍しいことには変わりありませんが」
そうか。被害者の先輩が居るのか。何年も昔の人だから話が合うか分からんけど。
……やっぱりガタガタ揺れる。酔はしないけど尻が痛い。床は硬い板だし狭いし、降りたら変なところが痛くなりそうだ。
外から見えないから暇だ。何もすることが無い。