旅と嫁
「ん?米?こんな中世ぽい世界なのに日本で食べてる形の米があるんですか?」
「ああ。これは和風の島国から俺が持って帰って育てた米だよ」
そういえば、あの女神もそんな所あるって言ってたなぁ。
米もそこで育てられてたのか。
「色々旅してるんですね」
「まあな。将来の旅の為の下調べってことだ」
「将来の旅?」
「俺たちは長生きだからな。その有り余る時間を潰すなら旅をするのが一番だ。一度本格的な旅に出たら、いつ帰れるか分からないから嫁が逝くまではこの街にいるつもりなんだ。あいつももう長くないだろうから」
何でもないかのようにあっさりと言ったが、別れのために残るのだから、奥さんの事を本当に大切にしているんだということが伝わった。
「あたしは別に見送りは不要だと言ってるんだがねぇ」
そう言って話に入ってきたのは、白髪の老女だった。
老女と言ったが、老いを感じさせるのは頭髪と僅かな顔の皺だけで、背筋はピンと伸びている。
腕と脚にもしっかりと筋肉が付いていた。
20歳の女性と運動しても十分ついていけそうだ。
「つれないこと言うなよ。60年の付き合いだろう?梨音、紹介する。嫁のベルだ」
「ベル・タチバナだよ。あんたが新しい被害だね。よろしく」
「よ、よろしくおねがいします。梨音と言います。翔さんが長くないとか言ってたからもっとお年の方かと思いましたよ」
「リオンさん、見た目で判断してはいけませんよ。こう見えてももう、痛っ」
エニシがベルの年を言おうとすると、彼女に頭をはたかれた。
「女の歳を簡単に言うんじゃないよ」
「はい、スミマセン」
60代くらいかと勝手に思ってたけど、エニシの言い方だともっと上のようだ。
「リオン、あたしゃまだまだ死なないが、それでもこの人よりは先に逝ってしまう。同じ長寿のあんたなら長い付き合いになるだろう。これからもこの人を頼むよ」