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幸福の淵  作者: 黒山幸和
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 七月、蝉の煩さにも耳が慣れた頃、疎遠になっていた中学時代の友達から連絡があった。友達といっても三年前にほんの一時付き合いがあり、その後は文字通り絶交だから、突然の電話に「私、井口だけど」と親しげに近況を問われ驚く。絶交なれど互いに憎む所はなく、単なる無精故の音信不通にお互い様とはいえ罪悪感があったから、長い合間を感じさせぬ馴れ馴れしさに却って動揺したのだ。


 だから高校生活について取り留めない会話の後、

「話したい事があるから、会おうよ」

と、その言葉の切れ端に見えた刺は寧ろ納得できるものだった。勿論、音信不通だったからには機嫌を損ねる理由もなく、今さら三年前を掘り返して腹がたった訳でも無いはずだ。触らぬ神に祟られた理不尽さも感じるが、長く続いた互いの無関心に相応しくもあった。


 相応しいままに断ろうとしたが、結局は口説き倒され有耶無耶に再会を約束した。先程の刺が気に掛かり、少しの話では済まない確信が得体の知れぬ不安に代わって、再会の前に心を構えたいと仔細を尋ねても全く要領を得ない。携帯の向こうで彼女を急かす声がして、苛ついた男の声だったが、それではまたと心構えの出来ぬままあっさり通話を切られた。


 履歴に残った見知らぬ番号を見て、不安が急に恐ろしさになる。三年越しの今し方連絡したのだ。その場に居合わせたあの男も無関係の筈がない。低い声だった。熊男を妄想した。繁殖期の気性猛々しい熊だ。


 すっぽかす事に決めた。


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