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ちぐはぐコンビネーション

ーー まあ、大げさな言い方をしてしまったが、それほど壮大な冒険が待っているわけではない。


とりあえずの目標、竜が待っている『コルゴア山脈』までは、徒歩で2週間弱、という程度の旅だった。

馬車なら、一週間強。


もちろん俺たちは、ギルドで初めて魔物討伐依頼を受けた、ひよっ子パーティーなどではない。できる限りの楽をするためにも、金にものをいわせて馬車を町で借りたのだった。


あっ。ちなみに、俺の地元の町、”サザーラン”で借りたわけじゃないからな?

ちゃんと足がつきにくいよう、いくつかの村や町を越えてから、馬を手配したのだ。


「・・・私、ほとんどが攻撃補助系ですけど、少しなら神聖魔法が使えるので、クリスさまの怪我を治しましょうか?」

ゴトゴトと揺れる荷車は無言だったが、三角巾で腕をつるしている御者が気になったのか、フリアはそんなことを言った。


「おう、そうか? ならそうしてもらうーー」

「却下」

クリスがふり返って彼女の好意に甘えようとしたが、俺は即座にそれを遮っていた。

「なんっ? おいニール、友人がケガしてるんだぞ? そもそも、お前も薬草くらい出したらどうなんだ」

「フリア。あんたはまだ充分に魔力が回復していない。・・・そうだな?」

ためらいがちにだが、その質問に彼女はうなずく。

「その上、自分たちの足跡に『浄化』の魔法をしばしばかけている。精霊などにとって、不浄な人間の痕跡を、自然に還すものだろう。それは」

「・・・はい」

もし追っ手がいるならば、それだけで多くの時間が稼げるはずだ。

・・・もともと、俺がフリアをかくまっているのは、国の隠ぺい体質の被害者だからだ。

だが友人クリスは、たから目当てに欲をかいた、ただの自業自得である。

「という訳で、こんなエゴ野郎のために大切な魔力を使う必要はない。しっかりと取っておきなさい」

ーー ハイ。

しばらく迷っていたが、俺が断言したことにより、彼女は思いとどまった。

「・・・」

これは別に、友人をいじめて楽しんでるわけではない。

いちおう、神聖『魔法』というものは、貴重なアドバンテージなのだ。

他の魔術に比べて、”信仰”系統は極めて限定性が高く、指向性もピーキーなものが多い。一度聞けばほとんどの呪文を使える俺でも、神を信じないことには難しい、唯一『正規に』魔法と呼ばれている分野なのだ。


「はあ~。しかし、『山脈』のふもとにある、最後の中継(むら)まで、あと4日もかかるのか・・・。俺がもし一人だったら、馬をとばしてあっという間に着くのになあ」

自分から俺たちを誘いにきたくせに、クリスはそんなことをボヤいている。

恐らくこいつも、パーティーが解散になったあと、独り身の気楽さを存分に味わってきたんだろうなー。


「まあのんびり行くのも悪くないさ。俺たちが人生で急ぐ用事なんて、もう一つもありゃしないんだからな」


後ろをときどき気にしながら、そんなことを伝える。

ふっとフリアを見ると、街道から見える森を、遠い目で眺めているようだった。

『カルナック』に入ったばかりだったとはいえ、仲間が全滅したのだ。沈むのも無理はない。


俺もそれなりに旅をしてきたが、どんなに強力なパーティーであっても、知らぬ間に噂を耳にしなくなったーー実は、あっさり死んでた、なんてことは少なくなかったのだ。


長く冒険者をつづけていられるのは、本当に一握りの、努力とハードラックを持ち合わせた人間だけなのかもしれない。


いや、これはめっちゃ自慢話なんだけど。


・・・そのまま、馬車の上の三人はまた無言になって、街道の石畳の揺れに、心地よく身をまかせる。

今のうちに、眠っておくのもいいかなーー

見晴らしのよい原野に、俺がそう思っていた時だった。


「・・・ん?」

御者をしていたクリスの声に、ぞわっ、と首すじのあたりが逆立つような違和感をおぼえる。


何だ?

目をこらして友人が見つめている先に視線を合わせるとーー

「あれは・・・!」

「レッドキャップ!!」

フリアが、涼やかな声で短切に告げる。


人を見れば、すぐさま手にした斧で襲いかかってくるような、血帽子の悪鬼だ。

こんな街道沿いを歩いているなんてーー


俺は不思議に思った。

奴らは、血塗られた歴史がある廃墟などがお好みで、揚々(ようよう)と日向ぼっこに出てくるような性質ではない。


シルフなどの ”シーリーコート(善妖精)”に対して、”アンシーリーコート”と呼ばれる、加害性、残虐性の強い妖精なのだ。

「・・・どうする!? あいつらは相当素早いが、体力はそれほどでもない。この距離で馬車なら、スルーできるぞ!」


クリスはそんなことを言うが、放っておけるはずがない。

「街道から見える範囲にいるんだぞ! 素通りすれば、間違いなく死人が出る!! やるぞ!」


俺は片手斧を手に、馬車をとび降りた。

無言でフリアがあとに続く。

「けっこうな集団だ。全滅させるような広範囲魔術は、お前らも無事じゃすまない。中心から小さく爆散させるが、残りは任せたぞ!!」

言うや、クリスは呪文を唱えはじめた。


普段の愚行からは考えられないが、崇高な文学を流麗な音調で読み上げるように、大気に魔の火種をつけてゆく。


破嵐氷(バースト=ブリザード)!」


シュドッ!!


「うおっ!」

「ッ!!」


肌を裂くような氷風がこちらまで届いて、俺とフリアは顔を覆う。

何でここで、苦手な水系の魔術をやるんだよ!

「アホぉー!」と叫びながら、俺は爆発の円周へと走り出していった。


レッドキャップは非常に好戦的で、こんなもので士気をくじくことはできない。

飛び散らされた小鬼たちが、ぎょろりと紅い目でこちらを睨むと、信じがたい速度で迫ってきた。


「ーー おらっ!!」

ざんばら髪を振り乱してかかってくる魔物を、前後に距離を刻みながらタイミングを合わせ、ボールを打つように狩っていく。


ドッ! ザシュ!!


少しの合間にフリアを見れば、彼女も身体どころか、自分の武器にすら敵からは触れさせず、血帽子を処理していた。

「やるねえ。大したもんだ・・・!」


教会付きの孤児院で育ち、そこを出てからはずっと一人で冒険者依頼をこなしてきたらしいから、場数ばかずも普通じゃないのだろう。


俺とクリスは安心して、自分の目の前にくる相手だけに集中したのだった。











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