これは罰ゲームじゃない
その、二十代半ばほどの女は、よほど憔悴していたのだろう。
翌日の夕刻まで、目を覚ますことはなかった。
その間に俺がしたことと言えば、まず、彼女の身体を拭くこと。
むろん変態ではないので、了解を得ないまま服を脱がせるようなことはなく、血はあちこちに付いているが、装備をはずして怪我を確かめ、肌が露出している部分だけを拭う。
・・・ベッドには、寝かさない。
布団やシーツがあっという間に汚れて、終わってしまうからだ。
それでもまだ、春先の寒さが残っているため、毛皮を何枚か床に敷き、女をシーツに挟んでまた毛皮をかける。
サンドイッチの具のような状態だが、まあこれで風邪をひくことはないだろう。
あとは・・・「起きたときの、衣服とかだよなあ・・・」
食料なんかは大量にあるが、まさか異性の着衣や、生活用品など、ここにあるわけもない。
「・・・」
恐らくこの女は、命を狙われている。
だから、先ほど腰に着けていたバッグをあらためさせてもらったが、そこには何か情報を得られるようなものはなかった。
金品がいくらかと、旅の小道具、他に大きな荷物がないのが不思議だったが、厳しい逃亡生活の中で、手放してしまったのかもしれない。
ーーあっ!?
さらに言っておくが、俺は変質者でもないぞ!?
所持品を探らせてもらったのは、今すぐにでも彼女を追うやつらが現れて、命のやり取りになるような事態を恐れたからだ。
少しの情報でも、あるかないかの差で、死ななくてすむこともあるからな・・・!
しかし、これ以上は何も得られないことが分かると、俺は仕方なく町へと出かけることにしたのだった・・・。
「はいっ、ニールさん。頼まれた女物の服に・・・その他いろいろ、雑貨品だよ」
「おう。いつも使い走りにして悪いな、ソラ」
俺は、町中で駄賃を渡しながら、十二、三歳の少年から品物を受け取っていた。
この子供は、冒険者ギルドに出入りしている情報屋の弟子で、なかなかに目端の利く男なのだ。
俺が山を下り、下界で変わった物を買うとあっという間に噂が広がってしまうため、そういう仕事で慣れているソラにまかせたわけである。
「へへっ。ニールさんは、いつも多めにくれるから好きさ」
銀貨二枚をほうり上げて、しっかりと受け止める少年。
「それにしてもまさか、良い歳の女だなんて・・・。ニールさんを知ってる奴が聞いたら、さぞ山小屋で、恥辱にもてあそんでるんだって思うよ」
「おい」
「冗談だって。絶対だれにも話さない」
軽く笑って歯を見せるが、ソラは賢い。
情報屋は、ちょっと口を滑らせただけで息の根を止められるような事態になることを、よく分かっている。
「・・・じゃあね。また何かあったら、すぐオレを呼んでよね」
両手を大きくふって、少年は町中に消えていったのだった。
果物屋の脇にいた俺は、手の中に収まった荷物を、じっと見る。
・・・異性の、下着だって?
頭が混乱しそうだった。
まだ人混みの中で自分は暮らせると信じていたころ、女と生活を共にしたことはある。
だが、こちらが取り立てて何か緊張するような相手ではなく、しばらくするとまた俺と出会った時のように、他の男を酒場で見つけて離れていった。
その女が、やたらドタバタ音を立てて毎日過ごすために、俺の人心、人家離れは進んでしまったのかもしれない。
(・・・いや。これはまあ、言い訳だな)
自分の性質は、どう転ぼうがけっきょく同じ場所に、自分を運んでしまうものだ。
背に担いできた大きなバッグに荷物を入れると、俺は残りの買い物へと、足を向けたのだった。




