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第1章 エピソード4:失くしたもの

寒いのが苦手な自分はこたつを出すか未だ悩んでいます。

最近、アクセス解析とやらがあることを知って確認したところ、思ってる以上にたくさんの方が僕の小説を読んでくださってることに驚きました。ありがとうございます。

これからも拙い文章ですけど、皆様が楽しんでいただけるよう書いていこうと思います。よろしくお願いします。

 叶わないと知りながら異世界に憧れ続け、常に何不自由ない生活を繰り返していたが、それがたった今、女神によって異世界に転移するという極めてメジャーな形で実現しようとしている。



 そしてこういうのは決まって"あれ"がある。



「それじゃあさっそくボクの世界に来てもらおうと思うんだが、その身一つで生き抜くためにはあまりにも心細い。なので君に贈り物(ギフト)を今回だけ特別に二つ与えよう」


「きっ……たぁあああああああああああああああああああ!!!!!」


「うわっ! びっくりした~。どうしたの? そんなに叫んで?」


「だってこういう異世界ものは、必ずと言っていいほどなんかすげぇチートみたいな力を貰えるわけじゃん! わくわくして当然だよ! 伝説の魔剣とか、規格外の馬鹿力とか、しかも俺は二つも貰える!」


 期待に胸を膨らませているさなか、アリシアは少し困った表情をしていた。


「ん~君の言う伝説の魔剣とか、規格外の馬鹿力みたいなものを想像しているなら、残念だけどそこまでのものを君には与えられないんだ」


「またまた~そんな女神ジョークなんて一般人には通用しませんよ~」


「えーっと、それだけの力を与えるには、それだけの力を有していないと成り立たないんだよ。もし仮に君に規格外の馬鹿力なんて与えた時には、体が反動に耐えきれなくなって、四肢が飛散しちゃうんだ。だから、少し辛い言い方をすると、努力なしで大いなる力を得るなんて虫のいい話はないんだ。ごめんね」


「マジで?」


「マジで」


 膝から崩れて、膝を強打し、悶絶。恐ろしいほど綺麗な流れだった。


「で……でも! その二つの力が君の役に立つことは、この女神アリシアが保障するよ!」


「……じゃあ、どんな力をくれるっていうんですか?」


 膝の痛みからなのか、それともショックだったからなのか、やや涙声を混じらせながら問いかけた。


「ふふーん。聞いて驚くな! まず一つ目は!」


「ゴクリっ……」


 消えたはずの期待が胸から次第に込み上がってくる。


「テテーン! 多種族との会話ができるようになります!」


「意外とフツゥウウウウウウウ!!!!」


 すってんころりん。まさか自分が漫画の動きを再現してしまうとは……。さすがの加倉井くんもびっくりだ。


「えー普通かなぁ? 情報の獲得手段としては最高の武器だと思うけどね」


「たしかにそうですけど! なんか地味っていうか…」


「地味だから、派手だからで優劣をつけるのはいただけないなぁ。下手な力より、知識を効率よく得ることの方がこれからの生活を過ごす点においては、圧倒的に優っている。君は運がいいよ」


 反論しようがない。流石に高望みし過ぎたのは否めない。アリシアの言うとおり、己が未知の世界に飛び込む際に言葉が通じないんじゃあ、食料の調達、宿の場所すら分からない。初っ端から詰むのはごめん被る。


「言葉による交流が可能になったのはたしかにメリットしかないですね。それでもう一つは?」


「うん。その二つ目なんだけど、魔法の才を君に与えようと思うんだけど、こっちは少し難あり。気にするほどでもないんだけど」


「と、言いますと?」


「魔法の才を得るということはすぐに魔法が使えるようになるってわけじゃないんだよ」


「えっ!? それ意味ないんじゃ……」


「まぁまぁ話を最後まで聞きなさいな。使えないわけじゃない。すぐに魔法が使えないだけなんだ。魔法が使えるようになるのではなく、魔法を使うに値する存在になるということ。つまり、最初は無理でも、勉強して、日々鍛錬していけば、おのずと使えるようになるってことさ」


 魔法が使えるようになるのは嬉しいんだが、最初からそれで大丈夫なんだろうか? 勉強はできるほうだと自負しているが、魔法なんて類は専門外だ。


「ん? さっきの話を聞く限り、自分に 見合う力を貰うことになるんですよね?ということは俺自身が自分の使える力の中から、選べるんじゃないんですか?」


「たしかにこの二つの力はボクチョイスだ。君が選ぶ権利はある。でも、やめたほうがいいよ。なんせ他の力があまりに特殊過ぎる」


「絶対そっちの方がいいじゃないですか! なんですか! その特殊な力って!」


 特殊という言葉に滅法弱いのだが、変えられるなら、変えておきたい。


「んーとね〜。羊の毛を刈ることに長ける力とか」


「そういう感じの特殊!?」


「そうだね〜あとはコーヒー淹れるのが上手くなるとか、二日酔いしなくなるとか、靴の底が擦りへらなくなるとか、シャーペンの芯が書いてる途中で折れないとか……」


 後半にいくにつれて内容がショボくなっていくのが明らかだ。俺ってそんなに価値ないのかとさえ思えてくる。


「まぁでも君が望むなら、ボクの選んだ二つ以外を選ばせてもいいけど〜」


「すんません。アリシアチョイスでお願いします」


 にやにやと腹立つ顔を俺に見せつけてくる。すごくぶん殴りたい。


「よし! それじゃあさっそく君を送り出そう。あと、ここでの記憶はボクの世界に連れて行くという贔屓のもと無くならないから、安心してボクを思い出してオカズにしたまえ!」


「下ネタ連呼する女神様なんて忘れたくても、忘れられないです」


「あっ力はもう君に備わったから」


「え!? なんか光が輝いたりして与えられるもんじゃないんですか?」


「だって〜輝かせるのめんどくさいし〜時間の無駄じゃん」


「この女神は……」


 すると羽毛のように軽く、体がふわふわと浮き始めた。

 なんとなく旅立つ時が来たと察した。


「お別れだね。まぁまたすぐに会えるさ。最後に一つ。君に送る最後の助言だ」


 上昇し続けていく俺の姿を、まるで愛しいなにかを眺めているかのような表情で浮かべている。




「強く在れ。自分の価値を陥れるような行為はやがて自分に返ってくる。それは全ての世界に通じること。君は君らしく、強く在るよう心がけるんだ。人間ってそういう造りになっているから、どんな苦境だって乗り越えられる。ボクは人間の可能性を誰よりも信じているよ」




 女神だということを思い出させるような慈愛に満ちた言葉。その表情はずるいという気持ちと惚けた顔。そして、少しの違和感を感じとった。けれどもそれを問うことなく体は上昇し続ける。


「あの! ……ありがとうございました!」


「ふふっそういうところはしっかりしてるんだね。良い旅を!」


 もうアリシアの姿も見えなくなってしまった。この上昇はいつまで続くのだろうか? まぁそんなことどうでもいいか。まず、これからの目標を立てなくちゃな。異世界で俺は何をしようか。魔王とかボス的なやつもいるのかなぁ。てか、俺に倒せるのか? そこは努力次第ってか。不安要素しかない。でも、旅の始まりってこんな感じなんだろうな。きっと俺も、どこかの誰かも、こんな風に、きっと…きっt…………………。



 意識が途絶える。なぜか暖かい気持ちだけが、体と心を包むように、赤子を抱きあげるように優しく、別の空間へと引き寄せられる。そして………。



--加倉井 奏太は人間ではなくなった。



この小説を読んでくださり、ありがとうございます。

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