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第七話―魔法の練習なのじゃ


 うむ、まぁ両側から抱きつかれた状態で寝ててスマホを弄れる訳もなく、身動きが取れないまま朝になりました。いい加減ゲームをしないと禁断症状が出そうじゃ……。


「もう朝じゃぞ。二人ともそろそろ起きんか」


「……ん……おはよう」


「ほら、クレア。お主が起きんとわしも起きれんのじゃ」


「んぅ?……うん……」


 なんかまだ半分寝ておるが、起き上がったからよしとしよう。目を閉じたまま舟をこいでいるクレアをラピスに任せて朝の支度をする。

 宿の者が用意してくれたお湯で顔を洗いつつ、今後の予定を考えてみる。

 セレスティアが言うには怪しい動きをしている魔王を探せとのことだったが、そもそもこの世界での魔王がどういった立ち位置なのかがわかっていない。魔王が魔族の王なのか、魔の王、つまりただの邪悪なモノなのかで対処は大きく違ってくる……まずは情報収集が必要じゃな。

 魔王の事だけではなく、様々な事を知る必要性がありそうだ。この世界に存在するかはわからんが図書館で歴史を調べたり、定番の酒場で聞き込み調査といったところか。人族側の意見だけでは偏見ばかりであったり、事実が捻じ曲げられてる可能性もあるため、いずれ魔族領での聞き込みも必要になる。

 また、他の魔王と戦闘になる事も視野に置いて自身を強化する必要性も出てくるだろう。近接戦闘は対人においてなら前世の経験が生きているため問題ないだろう。しかし当然ながら魔物との戦闘経験など過去にはない上、短剣では大きな魔物や硬いゴーレムなど相手では歯が立たない。そうすると大剣や大槌などといった巨大な武器、ないしは魔法などが必要になる。


「まずは金を貯めつつ戦力強化じゃな……」


 幸い魔法の使い方に関してはラピスが師事してくれると言う。わしの保有マナは膨大であるらしいが、使いこなせなければ宝の持ち腐れじゃからな。


「ラピス、魔法を教えてくれると言っておったが、早速頼めるかのぅ?」


「依頼を探すのが先よ、急がないと仕事がなくなるわ」


 完全復活したクレアが代わりに答える。まだ髪はぼさぼさだが。


「そういえば依頼は早い者勝ちだと言っておったな」


「……そんなに急がなくても私はずっと傍にいる。ゆっくり覚えていけばいい」


 クレアが朝の支度をするのを待ってギルドに向かう。

 依頼の貼ってある掲示板前は汗臭い冒険者の男達で溢れ返っていた。


「むぅ……わしらの身長では依頼が見えんのぅ」


 冒険者の男達による肉壁が形成されているため子供の身長では依頼が見えないのである。レディファーストしてくれてもいいんじゃぞ。


「……レン、ちょっとしゃがんで」


「ぬ?こうか?」


 肩の上にラピスが跨る。なるほど、肩車か。確かにこれなら見えるかもしれん。こんなところで遊んでんじゃねぇよガキどもという視線は気になるが。

 依頼を受けるには掲示板に張り付けてある木札を取って受付に持って行く必要がある。あるいは恒常依頼であれば達成した後に報告だけしにくればよいが。


「……低ランクでは特においしい依頼はなさそう」


「恒常依頼でいいんじゃないかしら。いつも通りゴブリン討伐とか薬草採取とかならあるでしょ」


「それならゴブリンの討伐かのぅ。やはり冒険者の最初の仕事と言えばこれじゃろ。魔物との戦闘経験も積んでおきたいところじゃしの」


 ゴブリンは戦闘力は低いが一匹見たら百匹いると思えと言われるほど数が多く、いくらでも湧いてくる上、数が増えすぎるとメイジやキングといった強力な個体が現れるため、見かけたら常に狩ってもらえるように狩った分だけ報酬が出るようになっている。

 特にからまれたりせず無事にギルドを出てゴブリンがよく出没するという東の森に向かう。東の森にはあまり強力な個体が現れないため初心者の練習場となっているそうだ。

 魔物は大気中のマナから生まれる。マナが濃ければ濃いほど強い魔物が生まれやすくなり、強力な魔物がいる場所にはマナが溜まりやすい性質があるため、また新たに生まれる魔物も強くなる。そのため、地域によってある程度魔物の強さが決まっているらしい。ゴブリンが増えすぎると強力な個体が出てくるのもそれが原因だ。


「あの森は弱い魔物しか出ないけど、たまに物理攻撃がほとんど効かないスライムも出るの。今回はラピスがいるからいいけど魔術師がいない時に出会うと逃げるしかないし、ゴブリンと戦ってる時に横からちょっかい出されるとめんどくさいのよね」


「……大丈夫、逃げなくてもいいようにクレアも一緒に魔法覚える」


「レンさん、少々お待ちください」


ギルドから出てゴブリン退治に向かおうとするが呼び止められる。よくある新人いびりの冒険者とかではない。受付嬢だ。わし、何かしたか?


「なんじゃ?」


「ギルドマスターがお呼びです」


 わしらだけに聞こえる程度の声だったので、またギルド内がざわつくような事はなかった。あまり変な噂が立っても困るしの。

 まさかもう結果が出たというのだろうか。いや、いくらなんでも早すぎるだろう。何か問題が発生したとか、聞き忘れた事があるとかだろう。まぁ行ってみればわかる。


「すまん、助けれくれ」


 開口一番、おっさ……ギルドマスターに助けを求められる。


「実は今高ランクの冒険者がほとんど出張っていてな……東の森で起きている問題を対処できる人員が足りていない」


「東の森……?ちょうど行こうとしていたのだけど何かあったのかしら」


「あ?お前ら注意書きを見てないのか?危険な可能性があるので立ち入り禁止と書いて掲示板に貼ってあっただろ」


「……私達は身体が小さい、掲示板が見えないから肩車で通常の依頼だけ確認したが、特にいい依頼が見当たらないため、恒常依頼が出ているであろうゴブリン退治に東の森に向かおうとしてた。普段ほとんど変わらない恒常依頼の場所は確認していない」


 そういえば何故か以来が入れ替わる事の少ない恒常依頼の掲示板の前も人が多かったな。あれは注意書きを確認していたためか。


「そうか……一応東の森に続く街道にも立て看板は設置したが、確実に注意書きを見てもらうためにも現状の掲示板前の状況をどうにかしないとな……」


「それで結局何があったんじゃ?」


「すまん、本題から逸れたな。……実は昨日の夜、東の森で普段確認されないはずの魔物が確認された。ガイアウルフというオオカミの魔物だ。素早い魔物で初心者じゃ対処できずにやられちまうんだが、お前なら問題ないだろ?発生した原因を調べて俺に報告して欲しい。初心者の狩場となる場所がなくなってしまうと後続の育成が難しくなってしまうのでな」


「わしは構わんが……何故他の冒険者達はおらんのだ?」


「年に一度王都で冒険者同士の武闘大会があってな、この街では何か用がなければ出るように決められてるんだ。領主がその武闘大会のファンでな、出場するだけで報酬もたくさん出してくれるもんだから、ほとんどの冒険者は参戦者兼領主の護衛としてついて行っちまうんだ。本当に大事な用があるやつらを除いてな。というわけで、ランクが低いのに実力があるお前さんしか頼める相手がいないってわけだ。もちろん見合った報酬は出すぞ。指名依頼の追加報酬に加えて、今後様々な場面において便宜を図るしよう」


 この依頼を受ければ今後何かわしらに不利な事が発生した時に、ある程度こちらの肩を持ってくれるという事でいいだろう。多少危険はあるかもしれんが、それを補って余りある報酬だろう。受けない理由はない。


「いいだろう。この依頼受けるとしよう」


「助かる。では詳しい話をしよう」


 新たな魔物が生まれる可能性というのは低く、そもそもウルフ種のいない森で突然変異によりウルフ種が生まれる事はないため、自然に発生したものではない。

 敵国が捕まえてきたウルフ種を森に放った可能性もあると考えたが、その線も薄い。何故ならこの森は敵国にとっても欲しい土地だからだ。その土地を荒らしてしまっては戦争に勝って自分の土地にしても意味を為さない。その上ウルフを放ち新人の冒険者の育成が遅れたからと言って戦争に大した影響があるわけではないし、かなり長期的に見ないと効果はない。

 そうなると、新たなダンジョンが生成されたと見てまず間違いないだろう。ダンジョンには二種類あり、わしのように魔王がダンジョンコアを扱って作られているダンジョンと、自然精製型のダンジョンがある。自然に生成されたダンジョンは魔物を生み出し、冒険者を誘い込み自らの糧とするのだ。ダンジョンに宝箱が設置されていたりするのも冒険者を誘い込むためである。ダンジョンコアを壊せばそのダンジョンは活動を停止する。上手く扱えば大量に益を生み出してくれるダンジョンを壊したりすることはないが。


「つまりはダンジョンの入口を探せばいいんじゃな。報告した後に冒険者を集めて入口を封鎖、外に出ているウルフ達を狩ると言ったところか」


「話が早くて助かる。冒険者は脳筋が多いからなかなか理解してもらえなかったりするんだ。それでは頼んだぞ」


 当初の予定とは違うが東の森に向かう。森までは歩いて一時間程だ。

 道中ラピスから魔法の基礎を教わった。わしが森で試した事は間違いではなかったようだが、しっかりとしたイメージと、そのイメージを行使するに見合うマナの量が必要とのこと。またイメージを補佐し集中を手助けするため、慣れない内は詠唱もした方がいいとのことじゃ。恐らくあの時はイメージに反して込めるマナの量が少なすぎたために小粒の氷しか飛ばなかったんだろう。順番が逆だったんじゃな、イメージをしっかりとすればそれにマナが追随してくる。わしの想像力が貧困なわけではない。決してない。


「つまり、私はイメージが問題なのね」


 なんでもクレアの場合、火属性魔法を使おうとするとあの日の光景が蘇ってしまうらしい。火属性以外にもエルフの固有属性も使えるはずだが、教わる前にあんな事になってしまったためわからないそうだ。


「イメージが出来たら後は恰好いい詠唱を考えればいいんじゃな!」


「……詠唱は使いたい魔法をイメージしてると、なんとなく思い浮かんでくる。人によってイメージは無数にあるから詠唱も個人で特徴が出る。でも簡単な魔法は大体皆一緒」


 それは面白いのぅ。それなら敵の前で堂々と詠唱してもどんな魔法かは悟られづらいかもしれんな。しかし、わしの魔法がどんな詠唱になるのかも楽しみじゃな。


「……見てて」


 ラピスが手のひらを上に向けて詠唱する。


「……清らかなる水よ、我が手に集え」


「おお、手のひらに集まったマナが水に変化したのじゃ」


「……そう、これは生活魔法。これを撃ちだせば攻撃になる」


 今度は杖を森に向けて掲げ集中し始める。


「……清らかなる水よ、集い来たりて我が眼前の敵を打ち払え。【 水弾 】(ウォーターバレット)


 水の砲弾を撃ち付けられた木が大きな音を立て揺れる。

 これが初級攻撃魔法か、初級と言ってもなかなかの威力が出るものなんじゃな。人に当たっても死にはしないだろうが一発で無力化できそうじゃ。


「……やってみて。属性が違っても初級魔法なら同じくらいの魔力を込めれば形になるはず」


 ふむ、わしの場合氷か。初級魔法というとイメージするのは氷の矢じゃな。


「――凍てつく氷よ、無数の氷刃となりて、我が敵を貫かん。【 氷矢 】(アイスアロー)


 空中に現れた七つのつららが木に向けて飛んでいき突き刺さる。


「おお、わしにも魔法が出来たのじゃー!」


「……びっくり。いきなり成功させるなんて、よほど想像力がないとできない」


 後で聞いた話だが、普通は初級魔法を使うのに最低でも一か月は練習が必要になるらしい。ラピスでも一週間はかかったとのことだ。

 それは恐らく文明度の違いによるものだろう。わしは何故、どのように物が凍るのか、それを知っていてイメージを確固たるものにできるからすぐに使えた。火でも同じことが言えるだろう。この世界の人たちは物が何故燃えるのかを知らない。


「次は私の番ね……大丈夫、今はレンがいる。怖くはない……!――我が呼び掛けに答えよ炎獄の支配者、其れ即ち憤怒を司る者……」


「ちょ、クレア!その詠唱はどう考えてもヤバイのじゃ!」


 この仰々しい詠唱からしてどう考えても初級魔法ではない。そんなもの森になど撃ちこんだら……どうなるかは想像に容易い。クレアは集中していて聞こえていないのか、呼びかけも虚しく詠唱は継続され、クレアの前方にとてつもない量のマナが集まる。


「――其の強大な力は一切の終焉を齎さん。我が眼前に立ちはだかりし罪深き者共よ、悔い改めよ。絶望せよ。嘆き、赦しを請え。この炎獄からは決して逃れる事能わぬ。【罪を裁きし炎獄】(ブレイジングラース)


 クレアの前に集まったマナが森に広がっていき……轟音と共に一斉に黒炎が吹き上がる。その黒き炎は森の生きとし生けるモノ全てを焼き尽くすまで燃え続けるだろう。

 クレアが膝から崩れ落ち、倒れる寸前でわしの腕の中に納まる。


「クレア!!……眠ってしまっただけか、マナ切れじゃな」


「……戦術級の魔法は宮廷魔術師が十人は集まらないと起こせない大魔法のはず……」


 で、どうするんじゃこれ。一瞬にして大規模森林火災が発生してるんじゃが。このまま放っておいたら焦土と化すぞ。ついでにウルフも倒せたかもしれんが、森が失われては意味がない。

 チラッとラピスの方を見て目で問いかけるが、ラピスは横に首を振る。


「……私の水魔法じゃこの規模の消化は不可能。森が全て燃える前にギルドに救援を要請するしかない。森の半分は焼けるかもしれないけど、幸い今は人払いがされているから誰もいないはず」


 しかし……試してみるか。セレスティアが言っていた事が真実であれば、わしであれば消火できるはずじゃ。被害が広がる前に食い止めた方がいいだろう。氷ならそのうち溶けるだろうし。

 森を凍らせるイメージ……ゲームなんかでよくある氷の森のイメージでいいじゃろうか。


「――全てを凍てつかせる氷狼よ、深き闇に封印されし氷狼よ。

 ――我が其の鎖を断ち切ってやろう。故に其の力を寄越すがいい」


 森に溢れていた熱気が消え、辺りに冷気が満ちる。


「――凍れ、凍れ、凍れ、其の息吹は荒れ狂う極寒の吹雪。

 ――凍れ、凍れ、凍れ、其の咆哮は全ての命を永久の眠りへと誘う」


 森が氷に包まれ、炎は潰えた。


「――我が望むは美しき凍れる世界。命の潰えた死の世界。

 ――故に閉ざせ、果て無き凍れる牢獄にて命を閉ざせ」


 遂に森に住む全ての命は潰え、静寂が訪れる。


「――【全て潰えし白】(ホワイトエンド)


 全ては凍り、全ては潰え、全ては白に染まる。

 そこには善も悪もなく、全ての命は果て無き牢獄にて終焉を迎える。


 ……やりすぎたのじゃ。


遅くなってすまんのじゃ。

度々遅くなるかもしれんが失踪はせんぞ。

書きたいものはいっぱいあるからの。


よかったら評価やブクマを頼むのじゃ。

先日評価ポイントが100を突破したのじゃ。感謝するのじゃ。

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