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第六話―初めてのお泊りなのじゃ


「何やってんのよ……適当に人族とか書いておけばよかったじゃない。見た目は大して変わらないんだし」


「すまんのぉ、そこまで頭が回らんかった」


 今わしらはギルドマスターの部屋にいる。目の前には受付のおっさん。


「それでギルドマスターはいつになったら来るんじゃ?」


「いい加減気づけよ!俺がここのギルドマスターだ」


 なんと……ギルドマスターとは書類仕事ばかりだと思っとったが、どう見ても脳筋にしか見えないおっさんにも勤まるものだったんじゃな。おっと、いかん。人を見かけで判断するのはダメだと先ほど言っておったばかりじゃったな。


「なんか失礼な事を考えてそうな顔だな……それで、吸血鬼とは本当なのか?」


「ああ、本当じゃよ。ほれ、牙があるじゃろ?」


 いーっと口を広げて歯を見せる。ここは正直に言っておくべきじゃな。魔族の可能性があると知っていて部屋に招いてるという事は、少なくとも話をする気はあるということじゃろう。後々の事を考えてもここで嘘を付くのはよくないと思われる。


「何故冒険者を目指す。人族と魔族は長年敵対している。人族の中には魔族を差別し迫害する者も少なくはない。それなのにお前ほどの実力を持った魔族が、人族の助けになる事をしたいと言う。何のつもりなんだ?」


「まぁ、一言で言うなれば、わしは人族と魔族が手を取り合い共存していく世界を創りたいのじゃ。夢物語かもしれん、綺麗事を言っているのもわかっている。それでもわしはそんな世界を目指したい。この子のためにも、わし自身のためにもな。冒険者になるのはその最初の足掛かりという訳じゃ」


 あちこちで争いが起こっていては、おちおち引きこもってもいられんしの。

 この話が嘘だとしても何を目的として冒険者登録に来たのかなんて皆目見当もつかないだろう。いくら実力があろうと、街のど真ん中で大立ち回りをしたところで勝ち目なんて皆無だ。逃げるだけならできるだろうが、それならわざわざ部屋についてこないで魔族だとバレた時点ですぐに逃げている。

 逆に本当であれば、何を世迷い事を言っているんだと切り捨てられてもおかしくはないような話ではあるが、実現すれば人族にも多大な利益をもたらす可能性がある。だが、下手に魔族と手を組めば魔族に寝返った国として別の国が一気に敵対する可能性もある。まさにハイリスクハイリターンだ。


「……嘘は言ってねぇみたいだが、全てを話せる訳ではないと言ったところか」


 なかなか鋭いおっさんじゃな。どうみても脳筋じゃというのに。


「そこは追々わしがお主の信用を得られてから話すのじゃ。少なくともわしは、その場で大事にせず部屋に招いてくれたお主をある程度は信用できると思っているが、まだ会ったばかりじゃ。これから親交を深めていこうではないか」


 さすがに魔王だとは言わない。わしは二の轍は踏まないのじゃ。もっと信頼関係を築いて今更後戻りできないところまできたら明かすのじゃ。フフフ……わし、魔王っぽい。何?魔族だと明かしてる時点で思慮が足りんと?


「それでだ、お主に一つ提案……もとい頼みがあるんじゃが」


「……なんだ、言ってみろ」


「人族と魔族が共に暮らせる街を造る。その手助けをしてはくれんか?」


「そんなもの勝手に作れば国や教会が黙っていない。攻め込まれて終わりだろうよ。ついでに手伝った俺の人生もおしまいだな」


「まぁ何もせず普通に作ればそうなるじゃろうな。しかし膨大な利益を生み出し、貴族などと取引をしていた場合はどうじゃ?簡単には切り捨てられなくなるじゃろう。そのためのルートが欲しいんじゃよ。ギルドマスターであるお主ならできるじゃろ?」


 今何より欲しい物は信頼の置ける権力者の信用だ。いずれは一般市民の信用も必要になるが、それは長い目で見ていけばいい。まずは権力のある人族に利益を示して貿易をする。他では手に入らない物を大量に取引していけば、魔族だと知っても簡単には切り捨てられなくなる。


「そしてもう一つ、わしが街をつくる場所はここから西の森の中じゃ」


「ふむ……そういうことか、理には適っているな。返答まで少し時間をくれないか?新しい街をつくれないか次の会議の時に提案してみよう。もちろんお前が魔族だと言う事は黙ってな」


「まぁお主の一存で決めれる事はないだろうし、すぐに返答できるとは思っておらんよ。常にこの街にいるわけではないが、冒険者として活動しておるからギルドに寄った時にでも声をかけてくれ」


 ここの森は西に向かうにつれて魔物が強くなる傾向にある。その森の中に街をつくれば、街が防波堤になり強い魔物が弱い魔物しかいないエリアに紛れ込むという事が減るし、街を冒険者たちの中継地点に使う事も可能である。

 さらには、森の南には敵対国がいる。敵国が城塞都市を無視して西の街を攻めようとした際には、防衛地点として利用できる。

 何故そんな重要な拠点となりそうな場所に街をつくっていなかったのか、それは魔物の住む森は簡単に開拓することなどできないし、敵国も魔物のいる森を抜けるのは余程の事がない限りしないためだろう。城塞都市に近い位置を通れば森の中で魔物と挟み撃ち、かといって西の方を通れば強い魔物がいるところを抜ける必要がある。森を抜けるにはそれこそ強力な部隊や大群が必要になり、そこで負けたりすれば戦争にも負ける可能性が高くなる。

 しかし、敵国が有利になった場合や、逆にもう後がなくなったりすれば攻めてくる事は十分に有り得る。その際の防衛地点として活用できる場所に、少し支援するだけで街をつくってくれるというのだから利用しない手はないだろう。


「余計な混乱を招かないようお前の種族は人間として登録させてもらうがいいか?」


「ああ、かまわんよ。その方がこちらとしても助かる」


「そうか、ならこの件についての話は終わりだ。我々アグレライト冒険者ギルド中央本部は君を新人冒険者として歓迎しよう」


 その後、新人冒険者としてのレクチャーや詳しい規則の説明を受けた。受付に戻ると、先ほど血相を変えたおっさんに部屋に連れ込まれたせいで、ギルドマスターロリコン疑惑がまた再燃していたが、そこは自分で処理して頂こう。


「あ、ラピスおかえり、宿は見つかった?」


「……ん。大丈夫。ちょっと高いけど広くていい宿が取れた。案内する」


 そう言うとラピスは路地裏に入ってどんどん進んでいく。


「……着いた」


 小さいお城のようなド派手な外観、これはどう見ても……


「何突っ立てるの?早く入りましょう。今日は疲れたわ」


 もしかしてこちらの世界ではこれが普通の宿なのか?いや、そんな訳なかろう。だが、しかし……うーむ。


「いらっしゃいませ、ご宿泊ですか?あ、先ほど予約していただいたラピス様ですね。お部屋の鍵はこちらになります」


「……五○一号室」


 階段を登る際に数回客とすれ違うが、男女のペアしかいない。

 部屋の鍵を開けるとそこには大きな天蓋付きのベッドが鎮座していた。うむ、これは完全に普通の宿ではないわ。三人なのにベッド、一つしかないし。


「あれ?広いけどベッドは一つしかないわね。あの店員部屋を間違えたのかしら?ちょっとフロントに行って聞いてくるわ」


「……大丈夫、間違えてない。皆で一緒に寝る。広さは十分」


 あの、ラピスさん。それは普通に、何もせずに、ただ寝るだけですよね?


「……昨日レンとクレアは一緒に寝てた。二人だけずるい。私も、一緒。友達として一緒に寝たいだけ、変なことはしない。……まだ」


 何やら随分と気になる言い回しじゃが、そういうことなら構わんじゃろう。まぁ、こんなに広いベッドがあるのはこういう宿だけだからこの宿を選んだというだけじゃな、多分。


「あら、お風呂もあるのね。随分設備が豪華だけど、相当高かったんじゃない?」


「……ん。私が払ったから心配ない」


 孫のような年齢の女の子に宿代を払わせてしまうとは……いつか金持ちになったら小遣いいっぱいやるのじゃ!


「せっかく広いお風呂があるんだし皆で一緒に入るわよ」


「……ん、賛成」


「い、いや、さすがに三人で入るにはちと狭いんじゃないかのぉ?」


「何慌ててんのよ、別に女だけなんだから恥ずかしくないでしょ」


 すみません、中身男です。爺だけど。大丈夫、この子達は孫じゃ、うむ、孫なら別に問題ないな。


「ほら、手伝ってあげるから早く脱いじゃいなさい」


「や、やめるのじゃ、わしは子供ではないのじゃ!一人でできるわ!」


「いいから、ほら……ラピス!ちょっと腕抑えてて!」


「……こう?」


 こうなってしまえば最早抵抗は無意味だ。お姉ちゃん風に吹かされたクレアはもう満足するまで止まらない。


「のわーっ!!」


 一糸まとわぬ姿にされると、湯船に放り込まれる。


「ほら、入れないからもっと詰めて、レンは真ん中ね」


 背中からわしを抱きかかえるようにクレアが密着している上、ラピスが体重をこちらに預けるように乗っているので身動きが取れない。

 背中から伝わってくる二つの感触は、成長途中だが身長の割には少々大きめだ。どうやらクレアは着やせするタイプらしい。ラピスはいかにも年齢相応と言った風で、これからの成長に期待……痛い、足をつねられた。


「ふぅ、お風呂なんて久しぶりに入ったわね」


「……友達とお風呂は初めて」


「気持ちいいのぉ……」


 お湯も確かに気持ちいいがそれよりも、わしを包み込むように人肌の温もりが……何より、人をダメする双丘が背中に……いかん、このままでは戻れなくなる。


「それじゃあ温まったからわしは先に出るのじゃ」


「待ちなさい、まだ千数えてないわ。ゆっくり数えるのよ」


 そんなに数えてたらのぼせてしまうわ!

 逃げ出そうとするが、身動きが取れない。


「逃がさないわよ。フフフ……大人しくしなさい」


 数十分後、案の定ふらふらになってしまったわしをクレアが着替えさせてベッドに運んだ。ちなみにラピスはのぼせる前に一人で風呂を上がっている。助けてくれてもよかったのじゃが……


「もう、しょうがないわねぇ」


 わしのせいなのか!?


「……明日は早い。もう寝る」


「そうね、朝早くからギルドに行って依頼を探しましょう」


「もう今日は疲れたのじゃ……おやすみなのじゃー」


 まぁ、わしは二人が寝たのを確認してからスマホを弄るんじゃけどな!

クエストポイントを消化……せめてログインボーナスだけでも……


次回、ついにわしの魔法が炸裂!?するといいんじゃけどな


それにしてもお風呂回って難しいのじゃ

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