第四話―街に向けて出発じゃ
窓から木漏れ日が差し込んでいる。いい朝じゃ。
起きようとするも、いまだ腰にクレアを装備したままなので起きることができない。周りを見渡してみると皆ちゃんと帰ってきていた。夜のうちにフォルクが狼煙をあげて合図をしてくれたのじゃ。
「よう、随分と懐かれたな」
カイルがにやけながらこちらを見ている。
「美少女が無防備に寝てるからって襲っちゃダメじゃぞ」
「誰が襲うか!だから俺はロリコンじゃねぇ!」
「ほう、わしらには襲う程の価値はないと」
「いや、可愛いのは認めるけどよ……自分で言うんだな」
そりゃあ、わしの最高傑作じゃからな!
「ん……」
カイルを弄って遊んでいると、クレアを起こしてしまったようだ。
「おはよう、クレア。よく眠れたかの?」
「……んぅ?……うん」
また寝た。かわいい。カイルの代わりにわしが襲ってやろうか。って、こうしてる場合じゃない。街まではそこそこ離れている。夜になる前に着くにはそろそろ支度をしないと。
「クレアー、クレア起きるのじゃぁ~」
「んぅー……大人しくお姉ちゃんの抱き枕になりなさい……」
どうやら妹と間違えているようじゃな。
「早く起きるのじゃー、そろそろ支度せんと夜までに着かんぞ」
「もぅ……うるさいわねぇ……ふあぁ……あれ?」
なんとか上体を起こすと目をこすり欠伸をする。そして周りを見渡し、わしと視線を合わせると状況を把握したのか、顔を真っ赤にして「いやああぁぁぁ」と叫びながらドアから飛び出して行った。
「おいおい」と言いながらも微笑ましいものを見る顔で外を見ているカイル。ラピスは我関せずと昨日の残りのスープを食している。
「まぁ、少しすれば帰ってくるだろ。フォルクは近くの村に馬車を借りに行ってくれた。皆が揃ったらすぐ行けるように準備しておこう」
「そうじゃな。と言っても何をすればいいんじゃ?」
「これから馬車で半日かけて街に行くわけだが、街道を通るので魔物もほとんど出ないし、盗賊も冒険者の馬車はまず襲わない。とりあえず武器と金だけ持てば……って、そもそも金は持ってるのか?街は初めて入る時に金が必要だぞ。身分証はなければその場で仮発行してもらえるが」
「ああ、多少だが持ち合わせはあるから大丈夫じゃ。いくらかかるんじゃ?」
「街に入るだけなら銀貨三枚だが、身分証の仮発行から一週間以内に正式な手続きが必要になり、その時に金貨一枚だな」
ちなみに貨幣価値は日本円に直すと大体
銅貨=十円
銀貨=千円
金貨=十万円
白金貨=千万円
といったところじゃ。同じ貨幣が百枚で価値が上の貨幣と同等じゃな。一般的な平民の年収が金貨十枚強らしい。つまり身分証の発行には大体月収と同じくらいの金が取られる。
「なんと……ずいぶん高いんじゃな。まぁ、一週間じゃろ?わしにかかればそれくらいすぐ集まるわ。……たぶん」
「……まぁ嬢ちゃんが大丈夫ってんなら問題ないが、手続きをしなかったり金が払えなかったりすると、一年は街に入れなくなるぞ」
なんじゃと……そんなことになったら貿易して、ダンジョンを発展させつつ引きこもるというわしの計画が……。
「一応冒険者ギルドに登録すればギルドカードが身分証の代わりになるから金はかからんぞ。ただしランクの低い内は、依頼を週に一度はこなしていないと登録を抹消されてしまうがな。命を落とす可能性もある危険な職業だからな、いくら募集しても人手が足りないのさ。だからギルドに登録すれば身分証の発行代金はギルドが負担してくれるというわけだ」
ふむ、つまり金を払わずに済んで、仕事も見つかって、さらには週休六日制というわけか。素晴らしいではないか!
「おお!ならばわしは冒険者になるのじゃ!こんなにもわしに向いている職業などないのではないか?」
「おいおい、ちゃんと話を聞いてたか?危険な職業なんだぞ。フォルクの話じゃ結構できるとは聞いたが……まぁ道すがら詳しく教えてやろう」
「そうと決まればすぐに出発ね。行くわよ!」
「いつの間に戻って来たんじゃ?さっき……」
「そうと決まればすぐに出発ね。行くわよ!」
先ほどの事はなかったことにするらしい。可愛かったんじゃがな。
「別に気を許したわけじゃないんだからね!ただ……そう、ただあなたと目的は一緒だし、協力し合えば達成も早くなるから休戦中なだけよ!」
なんじゃそれは。まぁ元気にはなったようじゃな。
「何笑ってるのよ!でも……昨日はありがとう」
やっぱりクレアはいい子じゃな。「ほら、ぐずぐずしてないで皆行くわよ!」
「はは、じゃあ行くか」
皆で馬車に乗り込む。昨日は随分と濃い一日だったが、今日も色々ありそうじゃ。これが後に歴史に残る魔王レン旅立ちの日になるんじゃな。
「フフフ……出発じゃー!ふぎゃっ!」
馬車の中で立ち上がったらすっ転んだ。動き出す前に一声かけんか!
「ちょっ、ちょっと何やってるのよ。大丈夫?」
「うう……痛いのじゃー。わしの顔が潰れたのじゃー……」
「……見せて。治癒」
ラピスが回復魔法をかけてくれた。ぶつけて赤くなった顔がみるみる内に元の白い肌に戻る。
「おお、痛くない。魔法とはすごいもんじゃな」
「え、あなた魔法がどういうものかも覚えてないの?」
「んー、なんとなくしかわからんのじゃ。昨日試しに使ってみようとしたが、小石サイズの氷が作れたくらいでな」
「……私が教えてあげる」
「ふむ、それは有難いがわしは本当の基礎もわかっておらんぞ?時間がかかると思うんじゃが、大丈夫なのか?」
パーティとして活動しているなら、当然そちらを優先しなくてはならないし、わしも今後冒険者になることを考えると時間の合う日などないのではなかろうか。
「……大丈夫。レンについて行く。クレアも一緒」
「ちょっと!勝手に決めないでよ!……まぁ元々そのつもりだったけど」
「ぬ?そしたらカイルとフォルクはどうするんじゃ?」
さすがに二人を引き抜いたみたいになるのは嫌じゃぞ。
「何か勘違いしてない?パーティっていうのは基本的に臨時で組むものよ。よく組む冒険者はもちろんいるけれど、皆それぞれ予定とかあるんだし常に一緒いるわけじゃないわよ。常に一緒に行動する人達はパーティじゃなくてクランを作るの。そういう常識も完全に記憶にないのね」
「すまんのぉ、常識というものが抜け落ちてるので思わぬところで迷惑をかけるかもしれん。わしもできるだけ気を付けるが……何かおかしな事があれば、その時々で教えてもらえると嬉しいのじゃ」
「まぁいいわ。どうせしばらくは一緒にいるんだしね。私も色々教えてあげる」
もう二人ともついてくることは決定事項なんじゃな。
そうして街に行くまで馬車の中で皆に色々な事を教わった。
冒険者はF~Sまでのランクに分かれており、Fの初心者から始まり、基本的にはAランクが最上級だ。Sランクというのはほんの一握りの英雄だけである。仕事の種類は様々だが、採取、討伐、護衛、探索が主で、自分と同じランク、もしくはパーティメンバーの平均ランクひとつ上の仕事でないと受けられず、護衛の任務はDランクからでないと受けられない。仕事をこなすと内容に応じて報酬をもらうと共にランクが上がっていく仕組みだ。
今回は森の探索依頼を受けてきたとのことだったが、四人一組のパーティを四つ作り、それぞれ東西南北に分かれて探索し異変がないか調査、報告するという内容で、依頼を受ける際に集まったメンバーの中でパーティを組んだそうだ。
「偶然だけど皆組んだことのある面子だったのよ。それにカイルはお人よしだし、フォルクはお調子者だけど仕事はちゃんとこなす。そこに数少ない女の子の冒険者であるラピスが加わる。完璧じゃない?」
何が完璧なのかはよくわからないが、多分男だけの中に自分ひとりだと心配だけど、女の子がもう一人いればそんなに怖くない。男の方も人となりを考えると襲って来たりするタイプじゃなさそう。とかそういうことだろう。
街に着くまで時間はたっぷりあったので他にも色々な話をした。
この世界の物価の話。各国の特徴。使われている食材や調理方法。魔法の系統や種類など様々だ。特に女子二人はわしの世界のお菓子の話には食いつくようにして聞いていた。女の子が甘いものを好きなのは異世界でも同じらしい。
「さぁ着いたぜ、ここが王国の南に位置する街、アグレライトだ」
城塞都市アグレライト、四方を巨大な城壁に囲まれており、敵国を何度も返り討ちにしてきたライト王国最強の都市である。ライト王国というのは今いる国じゃな。
それにしても大きな城壁じゃな。これほどでかい城壁が必要になる敵などいるのだろうか。超でかいドラゴンとかか?
「森の調査を依頼された冒険者だが、森で盗賊に襲われたらしい少女を一人保護した。身寄りがなく持ち物は全部盗られたらしい。身分証の仮発行を頼めるか?」
「そうか、災難だったな。この板に血を一滴垂らしてもらえるか?」
綺麗な模様の描かれた透明な板の前に行くと針を渡される。血を垂らすと板は光り輝き見たことのない文字を描き出した。血から何らかの情報を読み取っているのだろう。DNA鑑定みたいなものだろうか。しばらくして光が収まると名刺サイズくらいの木の板が渡される。
「これが一週間の間身分証の代わりになる。その間に正式な発行手続きをしてくれ。一週間が過ぎると強制的に街から追い出されて一年は入れなくなるからな」
「了解なのじゃ」
手続きが終わり巨大な門をくぐる。
初めての異世界の街に到着じゃ!
何?投稿が遅い?べ、別にグラ○ルやFG○をやっていた訳じゃないぞ。消費AP半額期間だからってずっとゲームしていたわけじゃないんじゃからな!
ちょっと前のセレスティア
「これはまずいですね……後で絶対怒られます。今からでも機能を色々アップデートしてレンさんに対して悪意はないんですよーと示しておかないと」
そして無駄なシステムを追加してさらに怒られる事になるのは自明の理である。セレスティアには本当に悪意などないのである。ただ仕事モードが切れるとポンコツになるだけで。
17/9/26
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