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第二話―トマトはおいしいのじゃ

体調を崩して遅くなってしもうた、すまんのじゃ。

こういうのはスタートダッシュが肝心だと思うのじゃ。小説の宣伝とか皆どうしてるのかのぉ。


「ふむ、記憶喪失……ね」


 気づいた時には森の中の家に一人で立っていて、食料を得ようと外に出たところを盗賊に襲われ、何も持っていなかったために服だけ奪われた。タオルは家の中にあったものだ。という事にしておいた。

 ちなみに、今は服の代わりにもらった簡素なローブを着ている。二人はこの辺りで起きた地響きの原因がないか調べるクエストを受注、森を見て周ったが異常なしと報告するために街に帰る途中だったそうだ。二人について行き、街でちゃんとした服を買う事にした。


「それはそうと、暗くなってきたな、村の宿屋で一泊してから街に向かうつもりだったんだが、近くにお嬢ちゃんの家があるならそこに泊めてもらえないか?」


「ああ、よかろう。わしも街に行くために準備をしたいしの」


 パソコンは持っていけないにしても携帯は必需品じゃからな。どちらかが常に近くにないと落ち着かないのじゃ。先ほどはトマトまみれで川に行くから仕方なく置いて行ったが。しかし、不懐属性ということは水洗いしても平気かの?


「あと二人、魔術師と狩人がいるんだが大丈夫か?魔術師は多分同じくらいの歳だから気が合うかもしれない。ちょっと無口だがな」


「家具も何もない家じゃから寝るスペースはいくらでもあるし、問題ないじゃろう」


「助かる。それじゃあクレア、二人を呼んできてくれるか?」


 カイルが声をかけると無言で背を向けて森に入っていく。カイルの態度からして人族すべてが魔族を敵対視しているわけではないようだが、少なくとも仲が良いわけではないらしい。


「すまない、あいつは幼いころの出来事でひどく魔族を嫌っていてな。悪く思わないでやってほしい。これを機に魔族すべてが悪いわけではないとわかってもらえればいいのだが……」


「大丈夫じゃ、気にしてはおらんよ。この上なく怪しい事も承知しておるしの」


 こんな森の中で何してたんだって話じゃな。近くの村人どころか人族ですらない、魔族が一人で森の中の家で暮らしている。恐らく人族と魔族は対立関係にあった、もしくは現在進行形で対立しているだろう。その魔族がだ。何か良からぬ事を企んでいるようにしか見えないだろう。


「戻ってきたみたいだな」


「カイル……今度は何やらかしたんだ?クレアのやつ、すっげえ機嫌悪くて「来て」の一言だけで連れてこられたんだが」


「……カイル、おなかすいた」


「あー、すまん。今から説明する」


 カイルに文句を言っていた茶髪の男が狩人のフォルク、マイペースな事を言っている後ろの水色の髪をした少女は魔術師のラピス。二人は夕飯の食材として獣を狩っていたそうだ。

 それにしても魔術師か、一緒にいる間に魔法のコツとか教えてはもらえんかのぉ。しかし、かわいいのぉ。お爺ちゃんとか呼んでくれんかのぉ。


「と、いう訳で、この子の家で一晩やっかいになった後、街まで案内することになった」


「そうか、お前がなぁ……」


「ん?何か問題があったか?」


「いやぁ、まさかロリコンだったとは」


「なんでそうなる!村で部屋を借りて後で合流するより効率的だろう!」


 ふむ、あやつはロリコンじゃったのか、近づかないでおこう。中身はともかく、今のわしは外見だけなら可憐な少女じゃからな。


「……なんでそこで距離を取るんだ。俺はロリコンじゃないぞ!」


「自業自得ね」


「……カイルがロリコンなのは周知の事実。それより、ごはん」


「わしの家までつけばトマトがあるから簡単なスープなら作れるぞ」


「……トマト?鳥ならフォルクがさっき狩った。スープに入れるといい」


「おお、これはありがたい。トマトと言うのは野菜の一種じゃよ。家はこっちじゃ、ついてくるといい」


 カイルがまだぶつぶつ文句を言っているが、わしも腹が減っているしさっさと家に帰るとしよう。トマトはこちらの世界にはないのかのぉ。となるとピザ、オムライス、ミートソース、色々な料理がなさそうじゃ。いずれ街を作ったらトマト料理を名物にするのもいいかもしれんな。

 しかし、街を作るにはまだ何もかもが足りない。まずこちらの文化レベルを調べる必要性があるし、何より圧倒的に人が足りない。住む人をどうやって確保するかが問題だ。さらに言うと、家を作るのはダンジョンの機能を使えば簡単なんだが、何分一瞬で作られるため、どうやって作ったのかという話になる。そのため、人が住むようになれば人の手で建築をしてもらう必要が出てくるのだ。


「着いたぞ、ここがわしの家じゃ」


「なかなか立派な家だが……ほんとに何もないな」


「一応地下室にベッドはあるんじゃが……今は使えん状態でのぉ」


「使えない状態?壊れたのか?」


「なんと言えばいいか……まぁ疲れてるじゃろうし、とりあえず休憩するがよい。わしは料理を作るのじゃ」


 鍋を三千円で購入、スープに入れるじゃがいもとトマトジュースも購入した。キッチンがないので外に出て薪を集める。しかし火はどうやってつけたものか……こんな時の魔法か。

 マナを集めて……火をイメージ……燃えるのじゃ!少し暖かくなった気がする。しかし何度試しても燃える気配はない。


「……むぅ、点かないのぉ」


 氷はちょっと作れたのじゃが……やはり適正属性以外は使えないんじゃろうか。適正は氷、時、闇、これで炎は作れんものか。氷とか熱を操作するわけだし逆の炎は使えそうな気もするが、時間は無理そうじゃな、闇は……闇の炎とかありそうな気もするが、戦闘で使うと詠唱長すぎて馬鹿な!とかなりそうじゃ。


「……燃えろ」


 おぉ、これが魔法か!様子を見に来たラピスが火を点けてくれた。お腹が空いたと先ほどから言っておったしのぉ。早くおいしいスープを作ってあげたいものじゃ。


「……手伝う。一人より二人の方が早い」


「ありがとう、助かるのじゃ。ならばそこの芋を一口大に切ってくれるかの」


「……わかった」


 まずトマトに切れ目を入れ、熱湯に五秒ほどくぐらせる。こうすることで皮が剥きやすくなるのじゃ。皮とヘタを取ったらザク切りにし、鍋に入れる。鳥肉とじゃがいもも鍋に突っ込む!そして塩がないので代わりにトマトジュースを入れる。うむ、これでよし。


「後は煮込んだら完成じゃ」


「……トマト、おいしい?」


「うまいぞ、生でも食えるのじゃ。わしは生のままでは青臭いので苦手じゃが。食べてみるか?」


 ラピスは真っ赤なトマトを手に取り、しばし思案した後かぶりつく。何度か咀嚼し、零れんばかりの笑顔を浮かべる。よほどおいしかったのじゃな。


「……おいしい。甘くて果物みたい」


「それはよかったのじゃ。なんならまた食べに来るといい。そのうちここで育ててみようかと思っとるのでな」


「……ん!また来る。私とレンは友達」


「友達か、いいのぉ。わしとラピスは友達じゃ!」


 嬉しい事を言ってくれるものじゃな。孫が欲しいと思っておったが、こんな笑顔が見れるのならこのままでもいいのかもしれん。どうせそのうち歳を取れば爺に、いや婆じゃな。どちらにしろ孫はできるのじゃから問題は……あるな。わしが女では男とくっつかなければならないではないか!それは断固阻止じゃ!


「さて、そろそろ頃合いかの」


 ラピスと一緒にスープを運ぶ。味見をしたが、我ながらなかなかいい出来だと思う。適当に煮込んだだけだが。


「おっ、いい匂いだな……これは、なんだ?随分真っ赤だが食えるのか?」


「これはトマトの色じゃな。おいしいぞ」


「……大丈夫。私も食べたけどおいしい」


 恐る恐るスープを口に運ぶカイルとフォルク。口に入れた途端に暗かった顔が晴れる。さて、わしも食べるとするかの。うむ、うまい。ほどよい酸味と甘みが鳥肉によく合う。じゃがいもにも味がよく染み込んでいる。


「赤い食べ物なんて初めて食ったがなかなかうめぇな!」


「ああ、魔族はいつもこんな旨いものを食べてたのか!」


 いや、別に魔族がトマトを食ってるかどうかは知らんのじゃが。まぁ、おいしそうでなによりじゃ。


「ん?食べんのか?毒など入れておらんぞ」


「そんなの信用できるわけないでしょ」


「でももう皆食べておるし、お主だけ食べんでも意味ないのではないか?」


 クレアの腹の虫が鳴る。恥ずかしそうにしながら器をひったくるように取り、スープを胃に流し込む。まじまじと見ていると、さらに顔を赤らめてそっぽを向く。


「何よ……意味ないんなら食べてもいいじゃない。悔しいけど、おいしいわ」


「それはよかったのじゃ。まだたくさんあるからいくらでも食べるといい」


 根は悪い子ではなさそうじゃな。ただちょっと不器用な子なんじゃろう。そのうち仲良くなれるといいんじゃが。


「ふぃー、食った食った」


「……おいしかった」


「さて、わしは地下室を掃除してくるのじゃ」


「掃除か、手伝おう。一晩世話になるわけだしな」


「おお、そう言ってくれると助かるのじゃ。こっちの階段を降りたところなんじゃがさすがにベッドを一人で運ぶのは骨が折れるのでな」


 そこには赤く彩られた世界が広がっていた。


「こいつぁ……なかなかひどい惨状だな。殺人現場か?」


「……トマトもったいない」


 ほとんどはベッドの上に散乱しているので床はちょっと拭くだけで終わったが、布団はカイルとフォルクに手伝ってもらい川で洗った後、木にかけて干すことになった。


「それで、この光る板は一体なんだ?見たことのない文字や絵が浮かんでいるようだが」


「ああ、それはわし専用のアーティファクトじゃよ。様々な事を調べたり、計算したりと色々な事ができる。こっちの小さい板は持ち運べるようにするために、少し性能を落として小型化したものじゃ」


「アーティファクトだと!?国宝級のアイテムじゃないか!」


「わしがここに来た時に何か光る女によこせと言ったらくれたんじゃ。何やらダンジョンコアと融合させたとか言っておったの」


「ダンジョンコア?しかしこの家はダンジョンと呼べる規模ではないし、魔物など一匹もいないぞ」


「そりゃそうじゃ、そんな設定しておらぬからの」


「設定だと?ダンジョンの操作は魔王にしかできんはずだが……」


 む、そうじゃったのか。これは墓穴を掘ったかもしれん。いやしかし、魔王とバレたところで特に問題はないのではないか?大々的になれば問題かもしれんが、個人にバレる分には黙っておいてもらえばいいだけじゃろ。

 むしろ魔王だと知ってる者がいくらかいた方が後々動きやすいかもしれん。いずれ魔王だと公言する必要性が出た時、魔王だと知りながら接していた者がいるかどうかで印象が大分変ってくるだろう。それならもはや開き直って喋ってしまった方がよいじゃろう。


「いや、だってわし、魔王じゃし」


「そうか、魔王だったのか。なら操作できるのも当然……魔王?」


「その光る女に頼まれての。何やら魔王として、他の怪しい動きをしている魔王を潰せと言われたのじゃ。アーティファクトはその報酬じゃな」


 皆呆然としている。まぁ目の前に魔王がいるんだから当たり前じゃな。わしの威厳の前にひれ伏すがよいわ!はっはっはっ!


「ふむ……まぁ、そういう魔王がいてもいいのかもしれないな」


「こんな可愛い魔王がいたら俺なら魔族側についちゃうかもな!」


「ぬ?皆驚いたり怖がったりしないんじゃな、ちょっと拍子抜けじゃ」


「……魔王だとか関係ない、レンと私は友達」


 ラピス……そう言ってくれるのは嬉しいが、お主とわしはまだ会ったばかりじゃろう。裏切ったりしたら後ろから刺されそうでちょっと怖いのじゃ。もちろんそんなことはせんが。


「なんで……なんで皆平然としてるのよ!目の前に魔王がいるのよ!」


「なんでって、どう見ても害意はないだろう。俺が剣を鍛えているのは弱い者を守り、皆を助けるためだ。敵でもないやつに振るう剣は持ち合わせていない」


「俺も俺も!可愛い子は撃たないって決めてるんだ!」


「……レンは友達」


「魔族は皆、私の敵よ……魔王は私からすべてを奪っていったんだから……!」


 クレアは目尻に涙を溜めつつ叫び……森に飛び出して行った。

誤字脱字、変な言い回しがあったりしたら教えて欲しいのじゃ。

一応読み返してはいるが、自分では気づけん事も多いからの。


17/9/26

・無駄な空白を削除

・言い回しなどを細かなところを微妙に修正(物語に影響はなし)

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