第一話―初めての邂逅なのじゃ!
白い部屋に机と椅子、机の上にパソコンと携帯が乗っている。その画面には齢十くらいの銀髪の少女の顔が反射して映り込んでいる。そう、わしの想像した理想の孫の姿じゃ。
「なん……じゃ……これは……」
確かに『転生する時に理想の姿に転生させます』とか言っていたが、なんで理想の孫の姿にするんじゃ!わし自身が少女になりたいなんて一言も言ってないのじゃ!これではお爺ちゃんと呼んでもらえんではないか!わしは即刻やり直しを要求するぞ!セレスティアはどこにいるんじゃ!
周りを見渡すも机の上に乗ったパソコンと携帯、それと白い壁しかない。……どうやって出るんじゃこの部屋。どっかに隠し扉でもあるのかのぉ。白い壁を押したり、叩いたりしてみるも何も起こらない。そういえばダンジョンコアがどうとか言っておったの。しかしそれらしきものは……もしかしてこのパソコンか?
電源を入れると一瞬で立ち上がりユーザーの選択画面になる。さすがはメイドインゴッドのパソコンじゃな。ほう、パスワードではなく網膜認証か。ハイテクじゃのぉ。しかし、わし以外使えないはずなのに認証やユーザー選択は必要あるんじゃろうか。
デスクトップには「ダンジョンメニュー」「神様ショップ」「りーどみー」と三つのアイコンが並んでいる。とりあえずりーどみーじゃな。
・お知らせ
『これを読んでいるという事は無事に転生が済んだようですね。新しい体に不備はないでしょうか?もし何かありましたら携帯にてご連絡ください。私の連絡先を登録しておきましたので。ただし、転生してすぐには繋がりません。私にも色々と仕事がありますので、ご理解頂きますようお願い申し上げます。あなたのダンジョンコアはパソコンと融合させておきました。慣れてる端末の方が使いやすいでしょうから。それと前世でのあなたの口座に残っていたお金は、神様ショップでも使えるようにしておきましたのでご確認ください』
むぅ……すぐには解決できなそうじゃのぉ。今すぐ問題があるわけではないし、しばらく我慢するしかないかのぉ。今はこれを読んでしまうのが先じゃな。
・ダンジョンコアとDPについて
ダンジョンコアとはダンジョンの心臓や脳にあたり、これを操作する事によりダンジョンを拡張する。コアが破壊されるとダンジョンも崩壊する。
DPとはダンジョンの拡張に使うポイントである。
主にダンジョンの中、もしくは周辺で生物が死亡することにより獲得。
ダンジョンに配下以外の生物が存在することで徐々に増加。
魔王が基本的に城の奥深くから出てこない引きこもりなのはこのシステムのせいじゃな。ダンジョンの拡張に使うDPを獲得するのにダンジョンに侵略者を呼ぶ必要があり、コアを破壊されないため魔王が守る必要性があると。
しかし、この条件なら街を作った方が効率がいいのではないか?魔王のダンジョンに安心して人が住めるかと言ったら、そこは信頼を獲得するか、バレないようにするかしかないが。
・まずはダンジョンタイプを決めよう
ダンジョンメニューをダブルクリックすると初期設定画面が開きます。最初の階層のデザインを決めてしまいましょう。最初の階層を後から変更するには初期化が必要になるので気を付けましょう。
ふむ、わしは元人間じゃからあまり人族と敵対したくはないのじゃ。そうなるとやはり街を作り人間と交流したい。というわけでここは地上:森タイプじゃな。何故かというと洞窟じゃ人が居着かない、草原や砂漠では身を隠せないし、海などはそもそもわしが住めん。森なら身を隠せるし、木材が大量にあるから建築がしやすいのじゃ。
場所は……この辺りじゃな。村と大きな街が近くにあり、隣に資源の豊富そうな海と山がある。完璧じゃ。
・玉座の間をレイアウトしよう
ダンジョンコアを守る最後の砦、魔王の住処にもなる玉座の間を作ろう。自身の種族に合わせて作らないと住みづらいから気を付けよう。
森タイプに適したダンジョンのテンプレート一覧は木々の堅牢、毒の沼地、迷いの森、泉の祠、などなど。うん、人間の住める場所がない。とりあえず雨風の凌げる建物が欲しいんじゃが……ああ、別に森タイプ以外からも選べるんじゃな。ふむ、玉座の間だけ地下に設定して上に木の家じゃな。これで決定を押せばいいのかの?
「お?……おおおおお!揺れるのじゃぁ~!」
こんなに揺れるなら事前に書いておかんか!頭ぶつけたじゃろ!随分と揺れたが多分設定した場所に空間を繋げていたのじゃろう。相変わらず真っ白な部屋だが、端に階段が追加されている。さて、ちゃんと設定した場所に着いたかのぉ。
「うむ、なかなかいい家じゃな」
地上部分の家は木で作った簡素な家だが、なかなか広く、今後家具を置いても狭さは感じなそうだ。もし狭くなってもまた拡張すればいいしの。
さて、外は……まぁ、ただの森じゃな。確か地図だと東に村、そこから北東に行ったところに大きな街があったはずじゃ。とりあえず村人の生活レベルが知りたいのじゃが、大丈夫かのぉ。村人以外皆敵!みたいな村ということはないと思いたいが、歓迎されない可能性はありそうじゃからな。それ以前にまず、転生に服はついてこなかったのじゃ。つまり、わし、全裸。
というわけで神様ショップで服を買うのじゃ。えー、現在の残高六万八千円也。なんで貯金がないのかって、それはもちろん全部課金に突っ込んだからじゃな。言うまでもない。しかし早く稼げるようにならなくては、ネトゲができても課金ができないのじゃ。
食材、家具、武器、その他。他にも何も書いてないタブがたくさんある。おそらく今後商品が増えていくのじゃろう。というか防具や服飾類はないのか?自分で作れとか言わぬだろうな。まさか魔族は服を着ないのが当たり前なんじゃろうか。
三日間限定!初心者用スターターキット!五万円!……なんじゃこの射幸心を煽る商品は。その他を開いてみるとセット商品がひとつだけ入っていた。どうやらランダムで十個の商品が当たるらしい。セレスティアのやつ完全に遊んでおるな……。値段設定もギリギリ買えるくらいだし、わしの残高見てから値段決めたじゃろ。
「……よかろう!あえて釣られてくれるわ!」
ガチャと聞いて引かずに無視したらネトゲ廃人の名が廃るのじゃ!購入を押すとパソコンから虹色の光が溢れ出し『ピロリンッ!ベッドが当たりました!』……空から商品が降ってきた。
「……ぬ?のわーっ!!」
殺す気かーっ!!危うく下敷きになるとこだったわ!セレスティアのやつ、次会ったら覚えて……『トマト3kgが当たりました!』わ、わしのベッドが……『木の鍬が当たりました!』呆然としてる場合ではないのじゃ!落ちてくる商品を『鉄の短剣が当たりました!』拾わないと『トマトジュースが当たりました!』ベッドが『トマトジュースが当たりました!』ぐちゃぐちゃに『トマトジュースが当たりました!』なんじゃそのトマト推しは!『トマト3kgが当たりました!』もういいわ!
結局無事?だった物は、トマト7個、穴が開いたトマト染めのベッド、木の鍬、鉄の短剣、木の食器セット、タオルセット(もちろん真っ赤)だけである。それと全裸でトマトまみれのわし。次セレスティアに会ったら神だろうがなんだろうがぶん殴ることが決定した。
トマトばかり降ってきた原因はラインナップが少なすぎることだった。食材にトマト、トマトジュースとじゃがいもしかない。ちなみにトマトジュースは容器に入っていなかった。β版にしてももう少しまともな物が欲しい。じゃがいもは嬉しいんじゃが。ダジャレではない。
「近くに川があったはずじゃな」
ベッドは重いので一旦放置してタオルと短剣だけ持って川に向かう。しかし、これは客観的に見ると随分と猟奇的じゃろうな。ナイフを持って血まみれの少女にしか見えない。誰かに見られたら悲鳴を上げられそうじゃな。
そんなことを考えていると歩いて五分ほどで川に着いた。水が透き通っていて魚が泳いでるのがよく見える。ここで川魚を取って食べるのもよさそうじゃのぉ。今度釣竿でも作ってみるか。
足の先からゆっくりと川に入る。冷たくて気持ちいいのじゃぁ……。トマトまみれになった髪をよく洗い流す。今更じゃがこの辺りにモンスターとかいないんじゃろうか?短剣一本でモンスターに勝てるのかのぉ。まだ魔法の使い方もわからんのじゃが。
ふむ、誰もおらんし試してみるか。確か体の中のマナを使って大気中のマナをコントロールするんじゃったな。目を閉じて……集中じゃ!
おお、なんとなくわかるのじゃ。この体の中を血液のように循環しているものと、大気中にある水の流れの様なものがマナか、こうしていると海の中に沈んでいるみたいじゃな。
これを……どうするんじゃ?体内のマナを使ってコントロール?うーむ、放出すればいいのか?手のひらにマナを溜めて……おお、なんか集まってきたのじゃ!これをどーんじゃな!
む、ただマナが集まって木にぶつかって霧散しただけじゃな。これに属性をつければ魔法になるのか?自身の適正属性である氷をイメージ……放つ!製氷機で作ったようなサイズの小さな氷が飛んでいき森に消えた。一応できたが誰かに師事を仰いだ方がよさそうじゃな。
「誰だ!!」
なんじゃ!?敵襲か!?森から二十代後半くらいの男が姿を現す。革の鎧を着て腰のロングソードに手をかけている。
「おお!冒険者じゃ!冒険者じゃな!」
「す……すすすす、すまん!まさか水浴びをしているとは思わなくて、石が飛んできたからゴブリンかと……とにかくすまん!」
冒険者らしき男は慌てて謝ると踵を返して逃げていった。ああ、そういえば今はわし女じゃったな。しかしこれを逃す手はないのじゃ!
「待つのじゃ!怒ってはおらんから助けてはもらえんか!」
「すまん、謝って済む問題じゃないよな!許してもらえるとは思わないが慰謝料を……」
「いいから話を聞くのじゃ、別に見られたところで怒らんよ。わしが誰もいないと思い込んで勝手に裸になっておったのじゃから、悪いのはわしじゃろう」
「……それでもこういう時に責任を取るべきなのは男だろ」
やっと落ち着いてきた。怒っていないことはわかってもらえたようじゃ。さて、正直に話すわけにもいかんのだが、ある程度秘密を共有できる協力者は欲しい。冒険者ならコネとかもあるかもしれんしの。
「実は追剥にあってしまい、服も盗られてしまっての。服がないから村にも入れんし、新しい服が買えなくて困っていたのじゃ」
「盗賊か?どうやって逃げてきたんだ?」
「ガキには興味ねぇ!とか言って手足を縛ったまま去って行ったのじゃ。この短剣は落ちていた物を偶然拾っての、これがあったから生き延びたのじゃ」
うむ、我ながら怪しいがありえない話ではないじゃろ。
「それは大変だったな、ちょうど俺のパーティーに女性がいる。事情を話して余っている服がないか聞いてみるよ」
「その必要はないわ。話は聞いていたから」
森の中からローブを羽織った金髪の女性が現れる。その耳は尖っており、幼いながらも整った顔立ちをしている。エルフの少女だ。燃えるような深紅の瞳はこちらを警戒するように細められていた。
「おお、クレアちょうどいいところに。あの子に服を「そこの布はどうしたの?」」
「……拾ったのじゃ」
がばがばだった。しょうがないじゃろ!わしに機転を求めるでないわ!男は慌てて後ろを向いたからごまかせたが、隠れていた女はちゃんとこちらを見ていたようだ。
「カイル、敵よ。構えて」
「何故だ!俺は少女に剣を向けることなどしない!」
「あれは恐らく魔族よ。それも上級の。わかったら構えなさい」
なんでわかるんじゃ。女の勘ってやつかの?こちらの世界の人間の実力がわからない以上戦闘は避けたいんじゃが……。とりあえず武器を捨てて無害アピールじゃな。
「確かにわしは魔族じゃが、戦闘の意思はない。わざわざ騙して不意打ちをするくらいなら、二人であることがわかった時点で逃げ出しておる」
「詭弁を……むしろ私達が二人ではないとわかったから逃げないのでしょう?逃げたところで私達の他の仲間に攻撃をされる恐れがあるから。それとも近くの村を襲撃するためのチャンスを潰されたくないのかしら?……カイル、やるわよ」
クレアと呼ばれた少女の剣がこちらに迫ってくる。やるしかないか。幸い剣筋は遅い。この者がどの程度の強さに位置するかはわからないが。
少女を殴り飛ばそうとしたその時、剣が止まる。男の剣が少女の剣を防いだのだ。
「カイル!何をしてるの!」
「待て、俺はこの子を信じたい。本当に騙すのなら魔族であることを言う必要性はないし、そもそもこの子が人間に危害を加えるようには思えない」
「……勝手にしなさい!!」
魔族であることはバレてしまったが、カイルと呼ばれたこの男はわしを信じてくれるらしい。うむ、底抜けのお人よしじゃな。仲間は苦労しそうじゃが、きっとそこに惹かれて集まったのパーティーなんじゃろうな。
「すまなかった。俺の名前はカイル、こいつはクレアだ。……君は?」
「わしの名前はレンじゃ。よろしく頼む」
とりあえずなんとかこの場は乗り切ったようじゃな。さすがわし、やるときはやるのじゃ!
不定期更新じゃが、できるだけ三日に一話くらいは投稿したいのじゃ!
17/9/26
・無駄な空白を削除
・言い回しなどを細かなところを微妙に修正(物語に影響はなし)
・クレアの容姿についての説明を追加