#7 エピローグ
「ったく……なんでこんなことになっちまったんだ……」
ベッドサイドにあるテーブルの上のランプに照らされた宿屋の一室。ジンはベッドに座り頭を抱えている。服装はマントのままだ。
目の前にはベッドが2つ等間隔で並んでいる。
「どうする……いや、どうするもこうするもないよな……」
そんな事をつぶやいていると、ドアが開いた。
「ふう、いいお湯だった。あんたも入ってくれば?」
宿屋の貸し出す、ゆったりとした白いローブのようなパジャマを着たエルザが、茶色の長い髪を拭きながら部屋に入ってきた。手には先ほどまできていた洋服が入ったカゴを持っている。
ジンはその姿に思わずつばを飲み込んだ。胸当てで気付かなかったが、エルザの胸は大きく、身長も高いこともあって、まるでモデルのようだった。
その顔も、酒場でも思ったが、何度見てもジンが今まで出会ったことがないほどの美人である。
そして、入浴後でしっとりと濡れた髪と、少し赤くなった肌も非常に色っぽい。急に恥ずかしくなったジンは慌てて目をそらした。
「なによ? あんまりあたしが美人だから照れてるの?」
「ば、馬鹿言ってるんじゃねぇよ」
「じゃあ、あたしは美人じゃないの?」
エルザはにやにやとしながら意地悪そうに笑っている。
「なあ、一つ聞いてもいいか?」
「ん? なに?」
「真面目な話、なんでこんなに良くしてくれるんだ?」
「なんでって、助けてくれたからに決まってるじゃない」
「でも、それにしたってな……」
ジンは腕を組みながら考え込んでいる。それを見たエルザの顔が急に真剣なものになる。
「あんた、あたしを助けるときにどう思ったの?」
「え?」
「例えば、あたしの体やお金とかが目当てだった?」
「はぁ? 馬鹿にするなよ。困ってる奴がいたら助けるのが普通だろ?」
「でしょ? だからよ。酒場とか宿屋の入り口でもそうだけど、あんたはいい人すぎるのよ。なんて言うか、年上として放っては置けないのよね」
エルザは小さく笑う。外は静まり返り、何の音も聞こえない。
「後ね。あんたがあたしのことを友達っていってくれたじゃない。あたしね。友達とか仲間って、初めてだから嬉しかったのよ」
「なんだよ、大げさだなぁ。初めてとか冗談だろ?」
「……ならいいんだけどね」
エルザは笑う。しかし、その目はひどく寂しそうだ。
ジンはその目を見てひどく後悔した。
「悪かった!」
突然、ジンは頭を下げる。
「ちょ、ちょっと。いきなりどうしたの」
「人の親切を疑った上に、そんな顔をさせちまうなんて、どうかしてた。許してくれ」
その様子を見てエルザは笑う。ジンは頭を上げると気まずそうに顔をそらした。
「な、なんだよ。なにがおかしいんだよ?」
「いや、あんたって本当にまっすぐよねぇ。あたしの言うことを全部信じるつもりなの?」
「え? 仲間やダチの事を信じるのは当たり前だろ?」
ジンは頬の傷を触りながら言い放つ。そこには一切の迷いは見られない。
「まったく、いつか痛い目を見るわよ?」
「まあ、そん時はそん時だ。オレの見る目が無かったって諦めるだけだからな」
「まったく」
エルザは呆れながら髪をかき上げる。
次の瞬間、ジンの視界が大きく揺れる。体も同様に大きく揺れた。
「ちょっと、大丈夫?」
「ああ、わりぃ、なんか急に眠気が……」
「あー……そっか、慣れない場所で色々あったから仕方ないわよね。ほら、上着くらい脱いで」
「でもな……いや、わりぃ。さすがに限界だ」
ジンはエルザにローブと特攻服の上を脱がせてもらうとそのままベッドに横になる。
だが、ジンには、言っておきたい言葉があった。
「なあ、エルザ。これだけは言っとくけど……本当にありがとな……こっちの世界で初めてできたダチがおまえでよかったと思ってる」
ジンは目を閉じる。
「実は不安もあったんだけど……こんなに楽しく……過ごせるなんて……思って……」
そこまで言うとジンは眠りに落ちてしまった。
「もう、しかたないわねぇ」
エルザはまるでは母親のような優しい声をかけながら、ジンをきちんとベッドに寝かせ布団をかける。
そして、ジンの寝ているベッドに座り、その寝顔を見つめた。
「ジン……あたしの方こそ、本当にありがとう……」
そう言うと、ジンの頬を優しくなでる。そして、立ち上がると、サイドテーブルのランプを消し、自分も布団に入った。
第一章 ヤンキー、異世界転移する 完