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【完結済み】 ヤンキー GO 異世界  作者: 鳥居忍
第一章 始まりと出会いと
6/17

#6 キャンブル

「うっし、またオレの勝ちだな」

「くっそ! また負けか!」


 ジンは酒場のテーブルに座っている。目の前には先ほどジンに声をかけた大男が座っていた。テーブルの上、リオンの側には銀貨と銅貨が積まれている。


「おいおい、もうやめたらどうだ? これ以上、ゲームをしても賭けるもんなんかないだろ?」

「いや、だが……」


 この大男は無類のギャンブル好きでジンにカードゲームを挑んできた。ジンも最初は乗り気でなかった。だが、あんまりにもしつこいので1ゲームだけ遊ぶことにしたのだ。

 しかし、ジンがこの手の賭け事が得意だったため、ずるずると遊んでしまい、大勝ちをしてしまったのだ。


「いや、ここで引き下がれねぇ! 最後の大勝負だ!」


 大男の目は血走っていた。かなり不味い状態に見える。

 ジンは嫌な予感がした。


「オレも男だ! オレはこの命をかけてやる!」


 大男はナイフを抜くと、テーブルに突き刺す。騒然としていた酒場が一瞬で静まりかえった。


「おっしゃ! 乗った! 」


 ジンは銅貨を数枚残して、勝った分の全額をテーブルの真ん中の方に置いた。

 二人は交互にカードを一枚づつ、合計二枚引いた。

 ゲームのルールは、ブラックジャックとほぼ同じ――二十一を超えないようにカードを引く。ただそれだけのいたってシンプルなゲームだった。

 これも過去の勇者が残したゲームらしいが、使うカードの枚数は一から十までの四枚組だったり、細かいところで多少の違いはあった。


 ジンと大男は同時にカードをオープンする。


「よっしゃ! これで勝ちだな!」


 男の数字は[二十]……ジンの数字は[十七]だった。


「じゃあ、もう一枚ひかせてもらうぜ……」


 ジンはゆっくりとカードの山に手を伸ばす。まわりの視線もジンの動きに集中する。


 ゆっくりとカードを手元に持ってくる。ジンはその数字を確認。目を閉じる。


「あーあ、幸運の女神さまはオレのことが嫌いみたいだな。こんな大事なとこで負けるなんてよ」


 ジンは引いたカードをそのまま素早くカードの山に差し込む。そして、賭けなかった数枚の銅貨を持って立ちあがり、エルザのいるカウンターに向かった。それと同時に、周囲から歓声が上がる。

 そして、酒場はいつものにぎやかさを取り戻した。


「や、やった! やったぞ! よし! マスター、みんなに酒だ! 酒をふるまってくれ!」


 ジンの後ろでは大男が上機嫌でマスターに注文し、客たちは口々に大男に感謝の声をかける。


「ありがとな。これ、返すぜ」

「あ、それ位は持ってなさいよ。大の男が無一文ってわけにもいかないでしょ?」

「……そうか、なら取っておくぜ。ありがとな」


 そう言いながらジンはポケットに銅貨を入れる。そして、ジュースを一口飲んだ。


「ほんとならメシ代とか返せるくらいは稼ぎたかったんだけどな」

「なーに言ってんの。自分からわざと負けたくせに」

「ははは、冗談。オレはいつでも真剣だぜ?」

「じゃあ、カードを相手に見せなかったのはなんでなの?」


 マスターは大忙しで、酒を配るために動き回っていた。大男を見ると、とても楽しそうに他の客たちと話をしている。笑い声も聞こえてきた。

 ジンはそれを楽しそうに見ている。


「まあ、ゲームは楽しくやるのが一番だろ? それに、これならだれも損してないしな」

「なによ、優しいじゃない」

「まあ、実は、前にチームのやつらと同じようなことやって、大喧嘩したからなんだけどな」


 少し気まずそうにジンは笑いながらジュースを飲み干す。


「さてと、じゃあ、そろそろ休みましょうか。これからのことは明日にでも相談しましょ」

「え? もうか? まだ食い足りないんだけど……」

「大丈夫よ」


 立ち上がったエルザはさっさと会計を済ませた。そして、店員からカゴを受け取る。


「はい」

「なんだこれ?」

「夜食のサンドイッチよ。どうせ足りないと思って頼んでおいたの」


 ジンはカゴを受け取る。ずっしりと重い。


「マジか! ありがとな!」

「まあ、これが大人の女の気配りってやつね。感謝しなさいよ」

「はいはい、感謝してるぜ」

「ええ、思いっきり感謝していいわよ?」


 二人は楽しそうに笑いあう。酒場では相変わらず客たちが楽しそうに騒いでいた。


「じゃあ、宿屋はこっちよ」


 エルザはそう言うと、入口とは別のドアに入って行った。

 ジンもそれについて行こうと思ったが、後ろで何やらマスターと女の声がする。


「お客さん、申し訳ないんですけど、これじゃあちょっと足りませんね……」

「……そう」

「ええ、その金額ではちょっと……」


 カウンターのところでマスターと女性が話しているのが見えた。小柄な、子供と見間違うような女性だ。真っ白な短い髪に褐色の肌、マントで口元までしっかり隠している。


「どうしたんだ?」

「ああ、お客さん。この人がお金が足りないって言うもので」


 マスターは小柄な女性を見る。


「……困った。財布を落とした」

「うーん、でも、お金がないのに食べさせるわけにもいかないんですよねぇ」

「……わかった。帰る」


 小柄な女性はそのまま小柄な女性は出ていこうとする。


「ちょい、待った!」


 ジンは小柄な女性を呼び止め、手に持ったカゴを差し出す。


「……なにこれ」

「えっと、サンドイッチなんだけど、夜食で食べようと思ったら実は腹がいっぱいなんでな。やるよ」


 小柄な褐色の少女はカゴを見つめている。


「なあ、捨てるのはもったいないし、助けると思って貰ってくれねぇか?」


 ジンは小さく笑う。褐色の少女は無言でそれを受け取った。


「……ありがとう。名前は?」

「なぁに、名乗るほどでもないさ」


 ジンはそう言いながら振り返ると、片手を振りながら隣の宿屋へと入り、ドアを閉めた。


「いやー、一度はやってみたかったんだよな。なかなかこういう機会もないからな」


 ジンはついにやにやと笑ってしまった。正直、こんなところで「名乗るほどでもない」などと言うセリフを言うなんて、念願がかなうとは思っていなかったからだ。

 ジンは上機嫌でカウンターのところを見るとエルザが不機嫌そうな顔で立っていた。


「へぇ、女の子には優しいのね」

「な、なんだよ。別に女だからって助けたわけじゃないぞ?」

「……わかってるわよ」


 ドアの先はカウンターがあり、廊下には等間隔で5つのドアが並んでいた。

 奥には二階へと上がるための階段が見える。

 エルザは不機嫌そうな様子のままカウンターの女将さんに話しかけた。


「部屋が二つ欲しいんだけど、空いてる?」

「二部屋ですか……えーと……すいません。三人用の1部屋しか空いてませんね。先ほどの方が泊まられてしまいましたから」

「あー……そうなの? まいったわねぇ……じゃあ、そこでいいわ。はい、代金」

「はい、確かに。お部屋は三階の一番奥ですね。お風呂は突き当りの左です」

「ありがとう。じゃあ、ジン、先に行ってて、あたしはお風呂に入ってから行くから」


 そう言うとエルザはさっさと歩いて行ってしまおうとする。ジンは慌ててエルザの腕を掴み呼び止めた。


「お、おい、どういうことだよ!」

「ちょっと、大きい声は出さないでよ。もう夜も遅いんだから」

「あ、それは悪かった……って、そう言う事じゃないだろ」


 ジンは小さめの声でエルザに抗議する。エルザは悪戯っぽく小さく笑った。


「だって、部屋がないんだから仕方ないじゃない。あんたがさっきの女を助けないで早く来てれば、もう1部屋とれたんだけどね」


 いたずらっぽくエルザは笑う。


「いや、なら、オレが外で寝ればいいだろ?」

「あのね? あたしが恩人を外で眠らせるような薄情な女だと思うの?」

「いや、そう言う話じゃなくってだな」

「すいません。お客さん。喧嘩なら外かお部屋でお願いできますか?」


 女将さんがたまらず二人の間に割って入る。確かにこの場所で言い争うのは宿屋に迷惑なことは間違いない。


「まあ、ここで議論してても仕方ないし、とりあえず部屋で話しましょ」

「おい、ちょっと……」

「あ、外に逃げたらあたしも外で野宿するから。お風呂上がりで野宿だと風邪をひいちゃうかもしれないけど、まあ、あんたは女の子にやさしいからそんなことはさせないわよね」


 最後に意地わるそうな笑顔を残して、エルザは風呂場へと消えていった。

 ジンはその姿を見つめていたが、宿屋の女将さんの視線を感じとりあえず部屋へと向かった。

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