表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】 ヤンキー GO 異世界  作者: 鳥居忍
第一章 始まりと出会いと
2/17

#2 愛車と女冒険者

 ジンはしばらく歩くと、森を抜けることができた。


「おいおい、なんだよ。ここは……」


 目の前の景色に思わずジンは言葉を失う。明らかにジンが住んでた街どころか、日本ですらない光景が広がっている。

 そこは崖沿いにある山道。はるか下の方には広大な草原が広がっていた。ところどころには森や林も見える。


「マジか……いや、そりゃそうか……」


 ジンは手にした食べかけのリンゴのような果物をみる。味も形もリンゴそっくりだ。だが、決定的に違うところがある。


「紫のリンゴなんてないよな」


 それはまるで絵の具でも塗ったような鮮やかな紫色だった。

 嫌な予感はしてた。だが、この景色と紫のリンゴを見て、間違いないとジンは確信する。


 ここは日本どころか自分のいた世界ではない


 ジンは目を閉じた。真っ先に思い浮かんだのは母親の顔だ。

 彼女はシングルマザーでジンを大切に育てた。当然、ジンがいなくなれば悲しむだろう。それは間違いない。

 だがジンは、自分と言う重荷がなくなれば、母親も再婚して幸せになれるかもしれない、と思った。

 ジンの母親は美人で若いと評判だった。実際、再婚の話もあったが、彼のためにそれを断り続けていたことも知っている。

 自分の手で幸せに出来ないのは心残りだが、再婚して幸せになってくれるのなら、それはそれで悪くはない。ジンはそう思った。


 次に、友人やチームの仲間のことも思い出した。

 別れは確かに寂しいし、突然で何も言えなかったのは心の残りだ。だが、いつまでも一緒にいられるわけではない。別れは必ず訪れる。それが少し早く訪れた、ただそれだけだ。

 ジンは自分に言い聞かせると大きく伸びをする。


「さて、行くか」


 ジンは道沿いに下山し始める。平原には村らしき建物たちが見えていた。とりあえず、そこまでたどり着ければなんとかなるだろう。いや、もしかしたら捕まったりするかもしれないが、ここで野垂れ死にするよりは何倍もましだと、彼は考えた。


「しっかし、腹が減ったなぁ……」


 リンゴをかじる。もちろん、この色のリンゴを食べるのは抵抗感しかなかったが、空腹で倒れる位なら、食べて倒れる方が、ジンにとってはましだった。

 ただ、腹の足しになるかと言うと微妙ではある。


「でも、動物なんか捕まえたこともねぇしな……」


 うさぎや鹿に似た動物も見かけたが、残念ながらジンに動物をし止める技術も、さばいて調理する技術もない。


「……ったく、街にたどり着く前に倒れるとかシャレになんねぇぞ」


 ジンはリンゴをかじりながらつぶやくと、ひたすら山道を下りて行った。


 ――――――


 どれくらい歩いたか、あたりはすっかり夕日に染まっている。ジンは、なんとか日のあるうちに山から下りられることに安心した。

 空腹感はある。だが、途中で紫のリンゴの木を見つけられたのは運がよかった。まだなんとかなりそうだ。


「ん? なんだ?」


 不意になにかジンの耳に聞こえてくる。足下からだ。ジンは山道の淵のところから、下をのぞきこむ。2、3メートル下、4人の男が1人の女を取り囲んでいた。

 女はジンの方向、崖を背に身構えている。


「あの服……なんか、ケンジのやってるゲームみたいな服だな……」


 ジンはつぶやく。最近は遊ばなくなったが、子どもの頃には幼馴染みのケンジが遊んでいたファンタジーRPGを横で見たり、自分でも遊ぶことはあった。

 彼らはそのゲームに出てくるような、服を着ていた。

 女の顔はよくわからないが、茶色の長い髪に、茶色のマントを身に着けているのだけはわかった。


「こいつは一体……」


 彼らの声がまた聞こえてくる。

 だが、何を言ってるかはまったくわからない。聞いたことすらない言語だ。

 男たちはナイフをチラつかせながら女冒険者に迫る。女はなにかを言うと、突然うずくまってしまった。


「おいおい、マジかよ……」


 男たちは徐々に女に迫る。頬の古傷がうずいた。


「どうする? 厄介ごとに巻き込まれるのは――」


 言いかけてジンは目を閉じる。そして、思いっきり自分の頬を叩いた。


「おいおい、なに寝ぼけたこと言ってんだよ。ここがどこかはわからねぇけど、数が少ない方を助けるのがおとこってもんだろうが!」


 ジンは自分自身に気合を入れる。心は熱く、頭は冷静に……そして、心の中でつぶやいた。


「よっしゃー! ぶっこんでいくぞ、オラァ!」


 助走。崖から淵からの跳躍。跳び蹴り。

男の一人、その顔面に跳び蹴りが叩き込まれる。そのまま男は派手に倒れこんだ。


流死不壊留ルシフェルの特攻隊長! 神崎 仁だ! この喧嘩、俺も買わせてもらうぜ!」


 男たちは驚いてる。奇襲成功。こうなればジンのものだ。


「ざっけんじゃねーぞ、コラァ!」


 ジンは近くにいた別の男にケンカキックを叩き込む。男は吹っ飛び転倒した。

 後ろから別の男の叫び声、ナイフで斬りかかってくる。

 ギリギリでかわしながら、顔面にひじの一撃。男は顔を抑えながら倒れ込む。

 ジンは女をちらっと見る。女は立ち上がっていた。そして、何が起こったのかわからないといった、驚きの表情でジンを見ている。

 ジンは最後の男に視線を定めた。


「おっし、てめぇで最後だな」


 だが、男はナイフを構えながら、余裕の表情でジンを見た。

 ジンは嫌な予感がした。何度も修羅場を潜り抜けて来たからこそ感じる直感――それはすぐに現実のものとなった。

 近くの茂みから中から十人ほどの盗賊が次々と現れる。

 男たちはじりじりと近づいてくる。ジンは後ずさり、女を守るように立った。


「ちっ、まずいな」


 ジンの住んでた街は荒れていた。刃物や武器を使った喧嘩は珍しくもない。ジンもそう言う喧嘩もいくらでもやってきた。だが、今回は相手が悪い。

 男たちの構えなどは明らかにその辺の不良とは違う。この人数と正面からまともにやりあえば、負けるのは間違いない。


 女が立ち上がり、ジンに何か言う。言っている意味は分からないが、たぶん逃げろと言ってるんだろうとジンは思った。


「わりぃな。おとこが一度は買った喧嘩を放り出せねぇし、女を見捨てるなんて死んでもごめんだ」


 ジンはこぶしを握り、構えなおす。

 女にはジンの言葉はわからないはずだ。

 しかし、包帯の巻かれた右手を前に出し、手のひらを男たちに突き出す。すると、その手に炎が現れた。


「へぇ、そんなのも使えるのか。すげぇな」


 ジンはニヤッと笑いながら女を見る。女も笑い返してくる。

 普通だったら、ジンは驚いたかもしれない。だが、ケンカの最中に、余計なことを考えてる暇はない。その辺のことはここを切り抜けてから聞けば十分だ。

 そう考えながらジンは男たちを見る。


 男がじりじりと寄ってくる。そして、二人に襲い掛かろうとした。


 その瞬間――


 突然の警笛――クラクションの音があたりに鳴り響く。

 ジンは思わず、音のする方を見る。


 《《彼がそれを聞き間違えるはずはなかった》》


 地平線の先、夕日を背にエンジン音と響かせながら、それはゆっくりと近づいてきた。


「相棒!」


 ジンは叫ぶ。

 風防の付いた流線型のロケットカウル。二人乗りに改造された三段シート。美しい真っ白な車体に光る七色のLED……そうだ。ジンのバイクにして最高の相棒「杏樹アンジュ」だ!


 男たちは初めて見たのか、アンジュに驚き、身動きができなくなる。

 アンジュはヘッドライトを光らせ、エンジンを思いっきりふかすと男たちの集団に突っ込んだ!

 何人かの盗賊が跳ね飛ばされる。中には混乱し逃げ出すものさえ現れた。

 しかし、アンジュはそれらを追撃はせずに砂ぼこりを上げながらターンするとジンの前に停止した。


『早く乗ってください』


 アンジュからは女性のような機械的な音声が発せられる。


「アンジュ……お前、しゃべれるのか!」

『すみません。今は説明を――』

「こいつは最高じゃねぇか!」


 ジンはアンジュにまたがる。細かい説明を聞いている暇はない。今はとにかく逃げることが先決だ。

 シートの座り心地とハンドルの感触を確かめる。二度と味わえないと思っていた感触に、ジンはテンションが上がっているのをはっきりと感じた。


「はやく乗れ!」


 ジンは後ろのシートを親指で指さしながら女に言う。彼女は一瞬だけためらったが、素早く乗り込み、ジンの体をしっかりとつかむ。


「いくぜ!」


 フルスロットル。急発進。急激なG。

 女はさらにしっかりとジンの体をつかむ。

 ジンはその場から走り去る。あっという間に、男たちの姿は見えなくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ