#9 ジン
「あたしは……あたしはエルザ! まだ、友達とお別れする気なんかない!」
叫ぶと同時にエルザは火の柱となった。ジンは必死で立ちながらそれを見る。
火柱は不規則に揺れ、暴れている。
だが、ジンに心配も恐怖心もない。エルザは戻ってくる。そう確信していた。
火柱が急激には燃えたかと思うと、徐々に小さくなっていく。
そして、地面には一糸まとわぬ長い茶髪の女――エルザが立っていた。炎はエルザの右手に吸い込まれるように消えてしまった。
「よう、おかえり」
ジンはエルザに聞く。エルザはゆっくりとジンを見ると笑う。
「ただいま……」
言いながらエルザは右手で顔の右上、目のあたりを隠す。
黒いつやのある肌にルビーのような目。
右手とその部分だけは戻らなかった。
「なに恥ずかしがってるんだよ。かっこいいじゃねぇか」
「ジン……」
「つーか、それよりも下の方を隠してくれた方がいいと思うぜ?」
「え……きゃーっ!」
ジンは小さく笑う。エルザは自分の姿に気付き、悲鳴を上げてその体を隠す。
「まったく……最後の、最後で締まら……ねぇよ……な」
ジンは急激に意識が遠くなるのを感じる。立っているのはもう無理だった。
空が見える。後ろに倒れ込んだ。
セラが一瞬で近づきジンを抱きかかえる。アンジュとエルザも近寄ってくる。
ジンは倒れたまま三人を見る。何か言っているが聞こえない。
「ああ、よかった……」
そうつぶやくと、ジンの目が自然と閉じる。そして、その意識は闇の中に吸い込まれていった。