#6 盗賊退治
二日後、盗賊の住む廃墟がある森。
ジンはその森の中、アンジュに乗り、静かに目を閉じ神経を集中させている。
時間はあたりもまだ薄暗い早朝……奇襲にはもってこいの時間だ。
服装は真っ白な特攻服に、村で買った布で作った真っ白なハチマキをまいている。彼が本気で喧嘩をするときの正装だ。
アンジュももちろん、布を外し、そのド派手な車体をあらわにしている。
『ジンさん。大丈夫ですか?』
「なんでだ? ビビったのか?」
ジンは目を閉じたまま答える。
『いえ、ジンさんが大丈夫ならいいんです』
「……悪いな。相棒。いつも危険な目に合わせちまって」
『気にしないでください。ジンさんと一緒に無茶ができるのは私にとっては幸せなことですから』
アンジュは力強く言い切る。表情はわからないが、ジンにはアンジュが自分を信頼してくれていることを感じた。
「ありがとな、相棒……さてと! いっちょ、ぶちかますか!」
ジンは目を見開き、手のひらを拳で叩き気合を入れる。
そして、アクセルを握った。
「アンジュ! 気合入れてけよ!」
『はい。いきます』
クラクションがあたり一帯に鳴り響く。
アクセルを回す。アンジュは走り出す。
エンジンの回転数がどんどん上がっていく。アンジュはどんどん加速。
風を切り、加速、加速、加速! そして、最高速度!
森は開け、目の前に崖と建物。
「ぶっこんでいくぞ! オラァ!」
ジンはブレーキも掛けずにそのまま跳ぶ! 屋敷の窓から部屋へと突入!
窓は破壊され、ガラスが飛び散る。タイヤを滑らせながら急停車!
「流死不壊留、特攻隊長、神崎 仁だ! 覚悟しな!」
ジンは部屋の中を見渡す。廃墟には似合わない豪華家具の置かれた部屋――だが、ジンの突入により部屋の中は散乱している。
「な、なんだてめぇは!」
髭面の男がベッドから起き上がりながら叫ぶ。ジンは男を確認する。エルザから聞いていた盗賊の頭に間違いない。
「うるせぇ! こっちは名乗っただろうが!」
ジンはアンジュから飛び降りると、背中からお手製の木刀を抜く。ここに来るまでに自分で削った木刀だ。
斬撃。突然のことに動揺している盗賊の頭は防ぐことすらができない。
「ぐわぁ! い、いきなりなに、ぐわぁ!!」
「ケンカ相手が準備するのを待つ馬鹿がどこにいるんだよ!」
盗賊の頭は木刀の打撃を受け気絶。動かなくなった。ジンはそれを確認するとドアへと向かう。
「お頭!」
「ざっけんじゃねーぞ! コラァ!」
「ぐわぁ!」
入ってきた盗賊をヤクザキックで蹴り飛ばす。盗賊は壁に激突。そのまま気絶した。しかし、騒ぎを聞きつけた盗賊が新たに4人集まってくる。
ジンは扉の前で木刀を構えた。
「て、てめぇは!」
「あ、だれだてめぇ?」
「忘れたのか!」
1人の盗賊がジンに攻撃を仕掛ける。しかし、ジンはその場を動かず、木刀で突きを放った。
「ぐへぇ!」
みぞおちに一撃を受けた盗賊は倒れ込む。ジンは素早く構えなおす。
「て、てめぇ……」
「さあ、どうした? かかって来いよ! そのうちオレが疲れるかもしれねぇだろ?」
ジンは笑いながら挑発する。しかし、盗賊は動けない。
それは当然だ。ドアは決して大きくはない。そのため、一人づつしか入ることはできない。
確かにジンの言うように一人づつ攻撃をすればミスをする可能性が高い。しかし、それをすれば最初に攻撃してきた盗賊のようになる可能性がある。
他人のために自分を犠牲にするなどと言う考えは彼らにはないだろう。盗賊の頭がいればそう命令したかもしれないが、盗賊の頭は気絶している。
「くっ、だが、てめぇは一人、いつまでも――」
盗賊の一人が言いかけたが、一階から屋敷をゆるがすほどの爆音とともに野太い悲鳴が響き渡った。
「な、なんだ!」
盗賊たちに動揺が走る。ジンはその隙を見逃さない。一気に攻撃へ。残った三人を木刀と蹴りで倒していく。
盗賊たちも本来ならば、もっと抵抗ができたはずだ。しかし、狭い通路と動揺によりにより満足に戦うことができなかった。
「よっし! アンジュ! あいつらの加勢にいくぞ!」
ジンはそう言うと階段を駆け下りた。しかし――
「おいおい、なんだこりゃ……」
ジンはその光景に思わずつぶやいた。
一階のエントランス部分。そこには十数人の盗賊が横たわり、ある者は完全に意識を失い、ある者はうめき声を上げながら倒れていた。
そして、中央には一人の盗賊とセラが向き合って立っていた。
「……最後」
「ち、畜生!」
盗賊は手にした長剣を大きく振りかぶると、力任せに斬りつける。セラは右手を上げる。
すると、剣は見えない何かに防がれてしまった。
「ありゃ、一体……」
『不可視の武具……インビジブル・ウエポンですね』
階段を器用に降りてきたアンジュは言う。ジンはアンジュを見る。
「あー……なんだっけ? 確か、村で聞いたな……」
『はい、かつてこの世界を救った勇者の仲間と言われる人物が使っていた魔法……いや、魔法かすらわからない、代々受け継がれる不思議な技です』
「へぇ、おまえでも知らないのか?」
『はい、なぜか』
ジンがアンジュと話すために目を離した隙に、セラと対峙していた盗賊はうめき声をあげる。そして、倒れるとピクリとも動かなくなっていた。
「すげぇな。おまえら……っと、おとなしく寝てやがれ!」
ジンとアンジュは倒れた盗賊たちをよけながらはセラに近づく。
途中、起き上がろうとする盗賊を思い切り蹴飛ばし、気絶させた。
入り口のところにいたエルザも倒れた盗賊たちをよけながらセラに近づく。
「……ジンの作戦のおかげ」
「ああ、前にもやったが、上と下からの同時突入作戦ってやつだ。さすがにその時はアンジュには乗ってなかったけどな」
「……エルザもナイスアシスト」
「なに言ってるの、あたしは突入する時に爆発を起こした程度で、ほとんどの敵はセラが倒しちゃったわよ」
「ああ、もしかしたら作戦もいらなかったかもしれないな」
「……そんな事はない。作戦は大事……でも、もっとほめてもいい」
セラはその小さな胸を張りながら言う。その姿にジンとエルザは笑いあう。
『ジンさん』
「あん? なんだ?」
ジンは振り向く。階段のところに血走った目の男――盗賊の頭が立っていた。
「貴様ら、よくもやりやがった……」
その殺気にジンとセラは思わず身構える。エルザは驚いたような顔で盗賊の頭を見つめていた。
「おい、エルザ! 大丈夫か!」
「うそ、そんな……この感覚は……」
盗賊の頭は懐から黒ずんだ水色の宝石を取り出す。そしてそれを額に押し付けた。すると、宝石は額に吸い込まれその額と一体化した。
「……ジン、はやく逃げる」
セラが緊張した声で言う。
首領の頭の宝石から黒い水のようなものがあふれ出てくる。
「エルザ! ちっ!」
ジンは動けなくなったエルザを抱きかかえると屋敷の外へと走り出した。セラとアンジュも後に続く。
「エルザ! 大丈夫――」
「――危ない!」
屋敷の中から高速で何かが飛びし、ジンを襲う。しかし、セラが不可視の盾でそれを防いだ。
「な、なんだこいつは!」
ジンたちを襲ったもの、それは真っ黒な魚のような、人間のような、まさしく魚人と呼ぶべきような姿だった。額には濁った水色の宝石が埋め込まれている。
セラは盾ごと魚人を投げ飛ばす。
「……あれは魔雫・アクエースの眷属。下級だけど立派な魔神」
セラは一言だけ言うと魚人との戦闘を開始する。
急接近からの横へ薙ぐような手刀の一撃。魚人はは回避。しかし、ギリギリのところで回避したはずの魔神の体に大きな傷ができる。
魚人とセラは距離をとり、セラはジンたちの近くに立つ。
己の体についた傷を不思議そうに魚人は見ていたが、その傷はすぐに治ってしまった。
「セラ!」
「……計算違い。この戦力で魔神と戦うとは」
セラの声は明らかに緊張している。一方の魔神は表情を変えず、不思議そうにジンたちを見る。
「セラ……」
「……大丈夫。こう見えても強いから。でも、逃げて」
セラは言うと同時に魔神との戦闘を再開する。魔神は、セラとの戦闘に集中し、ジンたちに気にすることはない。
「相棒、こっちだ!」
ジンはアンジュとともに急いで茂みの中に身を隠す。
「おい、相棒! あいつは一体なんなんだ」
『あれは魔澪・アクエースの眷属……欲望を司る魔神の一人です』
「マジかよ……」
『はい、そして、国立冒険者ギルドの冒険者は魔神を倒すことが任務になっています』
「……なあ、相棒。セラは勝てると思うか?」
『わかりません』
「そうか……」
ジンは一瞬だけ目を閉じる。そして、しっかりと目を開く。
「なら、やるしかないよな」
ジンは素早く決断する。セラを、友達のピンチを素見過ごすわけにはいかなかった。
「相棒! なんかあったら頼むぜ」
そう言うとジンはアンジュのタンクを軽くたたき、茂みから飛び出そうとする。しかし、エルザがジンの胸をつかんだ。
「ちょ、ちょっと! どこ行くのよ!」
「ダチのピンチなんだ。助けに行くに決まってるだろ?」
「でも、下手したら――」
「エルザ、聞いてくれ」
ジンはエルザの目をしっかりと見つめる。エルザの目は不安に満ち、その体は小さく震えている。
「わりぃが、ダチを見捨てることなんかできないだ」
ジンはほほの傷を触りながらそう言うと、無理やりエルザを引き離す。そして、茂みから飛び出した。
エルザは何か言っていたが、あえて振り返らず振り切って走り出す。




