#1 ヤンキー転移
(第一章 あらすじ)
突如、異世界へ転移してしまった、熱血ヤンキー・神崎 仁。
美人女冒険者・エルザと共闘し、失ったと思っていた大切な相棒、アンジュと再会する。
どんどんと崖に近づいていく。
隣のバイクを見てもまだアクセルを緩め、ブレーキを掛ける気配がない。
彼もアクセルを緩めずに走り続ける。
どんどんと崖に近づいていく。
隣のバイクを見てもまだアクセルを緩め、ブレーキを掛ける気配がない。
彼もアクセルを緩めずに走り続ける。
どんどんと崖に近づいてくる。
隣のバイクがアクセルを緩めブレーキを掛けた。
彼もアクセルを緩めながらブレーキを掛ける。
間に合う
いや
間に合わない――
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「うーん……気持ちわりぃ……」
森の木漏れ日の中、彼は起き上がる。その真っ白な特攻服には「天上天下唯我独尊」「喧嘩上等」「夜露死苦」などと威圧的な漢字が黒と金の糸で刺繍が施されていた。
そして、両袖には「堕天上等 流死不壊留」「特攻隊長 神崎 仁」と同じように威圧的な漢字で刺繍されている。
ジンは頭を振った。頭にもやがかかったようにぼーっとし、気分の悪さも感じる。
目の前には川があるのを確認した。すると、ぼーっとした頭で、川まで行く。そして、顔を洗って水を飲む。
「ふぅ、冷たくてうめぇな」
冷たい川の水のおかげで彼の気分は回復し、頭もすっきりした。
「ああ、そうだ、魅禍獲留のやつらとチキンレースをしてて崖に突っ込んだんだよな……」
ジンは目を閉じぼんやりと思い出す。確かに彼は、縄張り争いでプライドとメンツを掛けた勝負をしていた。
度胸試しのチキンレース……しかし、ブレーキが間に合わずに崖から転落。ジンは落ちる感覚は確かに覚えている。
「そういや、どこだ……ここ……」
ジンは周囲を見渡す。落ちたはずの崖がない。よく考えたら、ジンが住んでいた町には、こんな澄んだきれいな川は流れてはいない。工場から垂れ流される排水が混ざった、どぶ川以外は見たことはなかった。
「ど、どうなってんだ……いや、まてまて、落ち着け、心は熱く、頭は冷静に……だろ」
ジンは自分の言い聞かせるようにつぶやく。
ケンカでもなんでも慌てた方が負ける。心は熱く、頭は冷静に――それが彼の座右の銘だ。
「とりあえず、ケガはしてないな……」
水面にジンは自分の顔を映す。頬に古い傷のある、短い黒髪の男――間違いなく自分の顔だ。
体をあちこち触る。特にケガをしてる様子もない。
「財布やスマホは……ああ、そうか、あいつらに預けたままだ……」
勝負する時に邪魔になると言うことで、余計なものは一つ残らず預けてしまったのを思い出した。
「まあ、なら仕方ないか。落ち込んでいても手元に戻ってくるわけじゃないしな。後は……」
ジンは突然、目を見開き、慌てた様子で周りをよく見渡す。
「そうだ! あいつはどこだ!」
ジンは思わず叫ぶ。彼の相棒――バイクが見当たらない。
彼は立ち上がると近くの茂みや草むらを必死にかき分け探す。だが、近くには、それらしき残骸すら見当たらなかった。
「……相棒、どこ行っちまったんだ……」
ジンは立ち止まり目を閉じる。心に大きな穴の開いたような、絶望感が襲ってきた。
そのバイクはジンが手に入れたのは二年前、十五才の時だ。
彼の家は母子家庭であり、決して裕福ではなかった。だから、必死でバイトして彼はバイクを手に入れたのだ。
いや、ただのバイクではない。ボディからエンジンまで、整備士の友人を頼りながら一生懸命に改造した。死線も修羅場も一緒にくぐり抜けてきた、最高の相棒だった。
「杏樹」という名前まで付け、ジンは大切にしていたのだ。
「いや、そうだな。こんなとこでオレが立ち止まってたら、あいつに怒られちまうよな……いや、もしかしたら、どっか別のところに来てるのかも知れねぇ……なら、迎えに行ってやらねぇとな」
ジンは思いっきり自分のほほを叩き気合を入れると頭を切り替える。
そして、前をしっかりと見つめ、歩き始めた。