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プロローグ

あああ


目を開けたら、そこには《無限の白》が広がっていた



「…………………………」


目の痛くなるような光景に、しかし刺激ではなく遠近感の欠如で不快感を強く感じる。気持ちが悪い

顔を横に倒すと、そこにも同じ風景が続いている……だけでなく、広げた腕の下には影も無い。鏡でも無い。でも壁を感じる

目には映らないのに接している触感だけはあり、さりとてその触感も固いのか柔らかいのか、冷たいのか熱いのかも不明瞭。でも触感はしっかりあるというこの矛盾


不思議が不快で吐き気がしそうだ。

軽く頭痛もする。気がする


ゆっくりと体を起こして振り返ったそこに、不思議な人物が立っていた


身長は目測で200cm……には届かないくらい

ゆったりとした白いローブから覗く手足はかなり細く長いので、胴体もやはり細いのだろうと推測する

なぜかローブだけがフワフワしてる。無風で

透き通った長い金髪。ではなく透き通っている金髪……というか、そう見えるだけで実は……でもなぜかそんな気が……

とにかく金髪。ヘンなキンパツ。それを腰までスッと流している


その人物が高らかに、または厳かに告げる


「さぁさぁ。新しい、希望に満ち満ちた目覚めの時間だ。今こそ前世の世界を脱し、未知なる次元の扉を開こうじゃあないか」

「……あ~………………宗教家さん?」

「酷いな。まぁ的外れでも無い、と言うべきか、全くの見当違い、と言うべきか

ともかく、ボクは神だけど、宗教は特に広めていないよ」

「……そっすか。ども。じゃ」


一瞬で興味を失い、再びゴロンと寝転がって背を向ける

背後から苦笑する気配を感じるも、無視し続ける


「ここで眠れるのは《最後の時》だけだよ。まぁ、勝手に説明させてもらおうか

ここはいわゆる《神の領域》で、キミ……つまり、運動勉強共に平々凡々で、彼女もいたりいなかったりしながら、飲みサーとやらに行ったりアルバイトに行ったりしつつ、それなりに幸せな大学生活を送っていた、21歳の日本人大学生……であるキミを、ボクが招いたんだ

ちなみに、理由はキミが死んだからだね」


「…………………………」

「なぜ死んだかと言うと、あーっと、他殺と言うべきか、事故死と言うべきか、自殺とも言えるのか、いや言えないか?

つまりーー」


そのまま話し続ける気らしい

やや間延びした語りを聞き流そうとするも、何故かすんなり耳に入ってきてしまう


曰く……


飲みサーの帰りにフラフラしつつ駅へと歩き、途中で座り込んでしまったのは、とあるビルの玄関口

そこで寝ゲロしていたオレを、訪れたビル清掃員のオッチャンが迷惑そうに突き、怒鳴り、起こす

ヘラヘラ笑いフラフラ歩くオレは、すれ違った後についオッチャンに寄りかかってしまう

オッチャンは当然オレを振り払い、よろけた先は運悪く車道の中

そして……


「キキーーッ、ドカッ、グシャッ、ってなったとさ

ニッポンの刑法とやらでいえば、どちらも過失で、責任追求とかはあるんだろうけど、原因から考えると……ねぇ?」

「…………………………」


「どう思う?」と問われても、オレは動かない。否、動けない

冷や汗だけがダラダラ垂れる


何が悪いかというと、オレが悪い。酒が悪い。いやオレのせい

気分が悪いのもオレのせい

吐き気がするのもオレのせい

頭痛がするのもオレのせい

死因は自己死でした


「…………………………

あ~、え~っと、その、つまり

カミサマだかストーカーサマだかは、その、メーワク掛けた責任でも取れとおっしゃりますか?」

「なんだい?そのへりくだったような、反抗的のような解釈は。まぁ、そういった事に興味は無いから安心しなよ」


安心、と言われて簡単にできるわけも無いが、恐る恐る振り返ってみる

先程は気付かなかったが、カミサマは常に微笑を浮かべ、常に瞳を閉じていた

それでも何故か機嫌は窺える。どうやら気分を害してはいないらしい


改めて対面して感じる事は、顔が中性的。声も中性的。全体的に中性的

声変わり前の男のような、低めの女の声のような、とにかくどっちつかずの印象

ボク、という話し方は男っぽく感じ、体型や仕草は女のようで、中途半端なハズなのに見事に調和し完成している

なるほど確かにカミサマだ


「えーっと、では、この愚かなワタクシめに、いと貴き神であらせられる貴方様は、何を言い遣いなさるおつもりで、神の御座たるこの地にお招き預かったのでございましょうか」

「また随分と卑屈な姿勢だねぇ、そんなに不安かい?

何の為に呼んだのか、という問いに答えると、キミに第二の人生を授けてあげようと思ったからさ

ボクの世界にご招待。だね」

「なんで、そんなことを?」

「ボクの仕事は、造った世界の行く末を見守る事。でも、どうせなら面白い人を見たいじゃない?キミを呼んだら、面白いかと思ったのさ」

「……なんでオレを?」

「そこは適当に、いやテキトーに、だね

強いて言うなら、とても平凡で平均的だったから、かな?悪人でもなく、聖者でもなく、特別な才能も無く、苦手な分野も無い

それがどう変わるか、楽しみにならないかい?」

「………………そスか」


やや憮然としてしまったオレと、楽しそうに語る神様

(どうやら懐だけは広そうだ)と半ばムリヤリ良い所を見出したオレは、軽く頭を振って気分を変えつつ、質問する


「あ~っと、それで?そのカミサマの世界ってのはどんな所で?」

「キミ達の言う、ファンタジーな世界ってヤツさ

魔法あり、特別な技能や才能あり、ダンジョンあり、魔王あり、勇者あり

やや殺伐としている点は否めないけれど、世界中が大混乱に陥るような、荒れ果てた事は一度も無い、ボクの自慢の世界さ」

「イヤ殺伐って時点でどうかと」

「無論、サポートはするよ。キミはボクの大事な賓客であり、大事なエンターテイナーだからね。今ならどんな願いも叶えてあげよう

大地を割る力でも、神の如き知でも、存在する全ての魔法でも、永遠の命だって構わない」


謳うように、誓うように、祝福するかのように

両腕を広げて天を仰ぎ、クルクルと回りながら言の葉を紡ぐ

ピタッと止まり、オレの顔を覗き込みながら神は問う


「さぁ、キミの願いを言うがいい」

「………………」


黙考すること、体感約3秒




「……別に要らねぇな、ナンも」




ピシッと止まった。全てが

ううう

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