3話 オークエース
もうブックマークをしてくれた方がいて、とても嬉しいです。
ブルーウルフとの戦いは楽なものだった。わざと目の前に顔を出すと、ヨダレを垂らして喜んで襲って来てくれるので、全てカウンターの蹴りで終わった。
神社 雪兎 レベル 4
HP 43 / 43
MP 24 / 24
力 32
耐久力 20
素早さ 27
魔力 12
スペル
スキル アブソープション ・ 鑑定眼 ・ 念話 ・ 嗅覚強化(LV1)
やはりスライムと比べて効率が良い。だが徹夜をして次の日も連戦を続けたので、流石に集中力が切れ始め、反応が遅れ気味になっていた事から疲れが出ていると分かった。嗅覚強化のおかげで周囲にモンスターがいない事が確認出来多ので、念の為に木の上に登って仮眠をとる。
少し仮眠をとるだけのつもりが、気がつくと朝になっていた。
(やはり緊張していて疲れが溜まっていたんだな。こんな危険な場所で深い眠りにつくなんて、今後は小まめに仮眠をとるとしよう)
反省はした。今後の対策も決めた。なのでステータスの強化の続きをしようとする。少し歩くと今までに嗅いだ事のない匂いに気付いた。明らかに人の物ではない匂いに、すぐにモンスターのものだと分かったので様子を見に行く。
森を歩き続けると、ひらけた所に洞窟を見付けた。その入口の周囲には体は小さいが力はありそうな棍棒を持ったモンスターが数匹うろついている。
《ゴブリン レベル 3》
どうやらここはゴブリンの巣のようだ。しかしそれだけではない匂いが、洞窟の奥から流れて来る。
(ゴブリンか……レベルは俺の方が高いし、やるか)
そう決めたからには、すぐに行動に出る。木の陰から俺が顔を出すと、1匹のゴブリンが捕まえようとこちらに向かって来た。俺はとりあえず逃げるようにその場から離れ、孤立させる。
1対1の戦いにし、今の実力で倒せるかを検証する。棍棒での攻撃は武器に振り回される事無く、正確に俺を狙ってきた。
しかしブルーウルフを吸収し続けた事による素早さの上昇で、ゴブリンの攻撃を簡単に避けれるようになっていた。
隙を見て蹴りを入れる。ゴブリンは悲鳴を上げて吹き飛び、一撃で立ち上がれない程のダメージを与えた。自分のピンチを仲間に知らせようと声を上げるが、これは想定の内で既に声が届かない場所まで連れてきている。
俺はそのままトドメをさし、吸収する。
ゴブリンは知恵がかなり低いようで、同じ事を繰り返したら同じように誘いに乗ってきた。最後の一匹はこちらから乗り込んで蹴り倒した。だが、その悲鳴を聞きつけて、洞窟の中から続々とゴブリンが出て来る。
既にゴブリンを何匹か吸収しており、その全てが俺の糧としてステータスの一部になっている。レベルは上がらなかったが、もはやゴブリンは敵ではなかった。
外に出て来たゴブリンを一匹づつ確実に倒しては吸収していく。実力の差はドンドン広がっていくが、お腹も膨らんでいくのでそっちの方がキツかった。
もしかしたら吸収し過ぎてお腹が破裂するかも、と、心配しながら戦っていたが、そうなる前にゴブリンの出現が終わる。
だが、最後に大物が現れた。
《オークエース レベル 13》
豚顔の縦にも横にも大きなモンスター、オーク。名前にエースとつくに相応しい体つきは、ゴブリンの攻撃ぐらいならいくら受けても平気そうなほど力強いものだった。なぜゴブリンの集団の中にオーク? と、疑問に思ったが、すでに敵として見なされ、持っている錆びた槍を俺に向けているので戦いに集中する。
相手のレベルは13。対面しただけで今までのモンスターが可愛く思える程の威圧感を感じる。繰り出される槍による攻撃。その一発でも直撃を受ければ命はないだろう。巨体な割に今の俺より素早さが高かったが、人の形をしたモンスターだったせいか動きの先読みが出来た。
それでも避けるのが精一杯で攻撃に回れない。
このままでは勝ち目がなさそうなので、一度撤退するかと考えた。しかしオークエースには俺の考えが分かっていたようで、攻撃を避ける方向を誘導し、洞窟の方に追いやられてしまった。
(こいつ……豚顔のくせに頭が切れる)
行動をコントロールされているのは分かったが、実力の違いからそうせざるをえなかった。後ろは薄暗い洞窟、影からの不意打ちを仕掛けた方が勝機があると考え、一度暗闇に姿を消す。
洞窟の中は単純な作りで、一本道で横道などはなかった。せめて小部屋でもあれば身を隠して通り過ぎたところで逃げようと考えたのだが、その策も使えない。
なにかしら状況を好転させれる物はないかと、奥に向かって進んで行く。すると血生臭い匂いが充満している場所に辿り着いた。
(人の……死体だ)
目の前にあったのは、5人分の男達の死体だった。激しく争った跡が見て取れる鎧をつけていたが、おそらく致命傷はオークエースの槍に刺された事だろう。全員が胸のところを一突きされた跡があり、息絶えていた。武器が見当たらない事から、今はいないオークか、ゴブリンが奪って装備しているのかもしれない。
そう死体を観察していると、奥の方で何かが動く音がした。もしかして他のモンスター、と警戒したが、そこには牢屋のような部屋に閉じ込められた女性が震えていた。
「スノーラビット? なんでこんな場所に……。ああ、きっと餌として捕まっていたところを逃げて来たのね」
女性はまだ20歳にもなっていないだろう。こちらを見て、ホッとした表情をする。顔は整っており身につけている物は綺麗だったが、疲れ果てた表情と少し汚れた長いウェーブのかかった金髪と服が、過酷な状況に追い込まれていたと訴えている。死体の匂いが絶えずして、さらに徘徊するモンスターに囲まれているのに、冷静さを保っていられる彼女は凄いと賞賛した。
「まったく……人攫いに牢屋に閉じ込められたと思ったら、オークの集団に襲われるなんてね。ここにいればとりあえず命の心配はしないで良いけど、それもいつまでもつからしらね……」
誰も話相手がいなくて寂しかったのだろう。勝手に語りだした話を聞いて、何となくだが彼女の状況を理解した。
おそらく金持ちの家の娘である彼女は、身代金目当てで攫われてここに閉じ込められたのだろう。そしてオークの集団に襲われ、ここで死んでいる人攫いの男達は逃げ場のない洞窟で最後を迎えた。
そういう意味では彼女はラッキーだろう。牢屋に入っていなければ良くて同じ運命、最悪だと一生オーク達の慰み者として飼われる事になっていた。
だからと言ってこのままでは彼女は餓死し、俺も逃げ場のないこの場所でオークに殺されてしまうだろう。正直気は引けるが、この人攫い達の経験値を利用させてもらう。
「ヴォォォォ!」
「ひぃ!?」
オークエースの声に安全地帯にいる彼女も悲鳴を上げる。もはや時間の余裕はなさそうで、足音から近くまで迫っている事が分かった。俺はすぐに人攫い達を吸収する。
「ちょっとウサギさん、こっちに逃げて来なさい!」
(誰の事を言っているんだ?もしかして、今の俺は……ウサギなのか?)
そう言えば俺を見掛けた時に、<スノーラビット>と呼んでいた事を思い出し、1つ疑問が解けた。が、今はそんな話はいい。
オークエースは下品な笑い声をあげて近づいてくる。先程の少ない攻防で俺の実力では勝てないと確信して、餌として見ているのだろう。
だが、それは普通のモンスターが相手の場合であって俺には当てはまらない。それにここは壁や天井がある洞窟の中。オークエースは俺を袋小路に誘い込んだと思っているのだろう。しかし今の俺は逆の気持ちになっていた。
正直、これ以上よだれを垂らしてニヤケている豚顔は、見るに耐えない。
「え!?」
囚われている女性は俺の動きを見て驚き、オークエースは姿を見失ってしまう。薄暗い洞窟で黒くて小さい体の俺は見え難い。そんな俺が素早く横に跳び、壁や天井を蹴って移動している。そんな外ならありえない移動方法で死角に回ったらオークエースじゃなくても見失ってしまうだろう。
完全に俺を見失ったオークエースの後頭部を力一杯蹴りつける。力は元々ゴブリンを蹴り倒す事が出来るほど強くなっていたので、不意討ちの一撃で膝をつく。
その場に留まり続けるは危険なので、俺はすぐにその場を移動する。予想通りさっきまでいた場所に槍が向けられた。だが俺はもうそこにはいないし、攻撃はこれで終わらない。たえず移動し続け、相手の視界に入らないところから攻撃を繰り返す。頭を狙い判断力を低下させ、足を狙って機動力を落とす。その後、武器を持つ腕なども攻撃して攻撃力も削いだ。
(これで終わりだ! 《天地雷鳴撃》)
もはや完全に一方的な攻撃。意識が朦朧とし、ダメージから足に力が入らずうつ伏せで倒れたオーガエースに、天井を蹴って勢いをつけた蹴りを後頭部に叩きつけた。今までで一番激しい音に鈍い音を含ませたその一撃で、地面は割れ、血の水たまりが広がっていく。
戦いは雪兎の勝利で終わりを告げた。