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21話 オーク襲撃 準備

 ブックマーク、評価、ありがとうございます。

 モンスターの集団が町に到着するまであと半日程時間があったので、ギルドを出て、アミルは町の中を歩いていた。



「それでまずは何をしましょう」


『まずはお前の飯だ。食ってすぐに戦う事は出来ないだろうから、今の内に済ませておけ』



 雪兎がそう言うと、アミルのお腹も思い出したように「クー」っと、小さな主張をしてきた。その瞬間だけ何故か周りが静かになっていたので、その音はハッキリと響き、アミルは恥ずかしくて顔を真っ赤にする。


 食事はいつも使っている宿屋でとることにした。



「お!? お嬢ちゃん、今戻ったのかい? こんな時に戻って来るなんて、間が悪い子だね」



 宿屋の食堂はガランとして、客は誰1人いなかった。



「女将さんは、逃げないんですか?」


「そう言うって事は、この町の現状は既に聞いているんだね。ま、私は死ぬまでこの宿屋を捨てる気はないよ。ここは私の城であって全てだからね」


「でも……」



 そうは言っても、命あっての宿。死んでは元も子もないのでは、とアミルは言いたかったが、笑顔で迎えてくれた女将さんを見ていると、その言葉が言えなかった。



「お嬢ちゃんもここに来たって事は、食事を取って戦いに備えるんだろ? ならこの町は大丈夫なんじゃないか。なにしろそのモンスターも戦いに参加するんだろ?」


「そう、ですけど。……どうしてユキトさんの事をそこまで評価してくれるんですか?」



 雪兎はこの女将の前で戦った事はない。それなのに町に訪れようとしている危機が、もう解消したかのように安心しているのを見て、アミルは不思議に思った。



「私が元々冒険者だって事は話しただろ。その時の経験でね、モンスターの大体の実力が分かるのさ。最初に見た時も強そうに見えたが、この短期間でまた強くなっているように思えるね。それより、食事をしに来たんだろ? さあ、座って待ってな」



 アミルは言われるままに席に着き、出された食事を美味しく食べた。食後も少しのんびりしながら女将と話をし、今後の予定など伝えた。





「それじゃあ、あまり無茶をするんじゃないよ。あんたはこの町の住人って訳じゃないんだから、命を掛けてまで守る必要はないんだからね」



 女将はそれだけを告げるとまた台所に戻っていった。アミルは女将に頭を下げ、店を出る。



 雪兎が向かうのは、裁縫屋。ここでアミルに持たせているアイテム袋を当初の予定通り、雪兎が背負えるように改造してもらう。

 今回は他の冒険者も戦いに参加するので、大ぴらに吸収する訳にはいかない。なのでアイテム袋に死体をしまうのとスキルで吸収するのを交互に行ない、誤魔化そうと考えた。全部アイテム袋に入れておいて後から順に吸収するのも考えたが、敵味方入り乱れる戦場なので少しでも力をつけておかなければ、守れるものも守れない。


 ただオークの死体ほど大きな物を複数入れるには、アミルの魔力では容量が足りな過ぎる。その事もあり、雪兎が持たないといけなかった。



 裁縫屋のお婆ちゃんは高齢だったこともあり、町を捨てて逃げようとは考えていなかった。おかげでアイテム袋の改造を快く引き受けてくれた。







「来たか……」



 冒険者ギルドに顔を出すと、ギルドマスターは悲痛の面持ちでアミルを迎えた。彼は本心ではアミルに逃げてほしかったのだ。



「やっぱり、モンスターはここに向かって来ているんですね」



 ギルドマスターの表情が全てを語っていた。すでに戦いは避けようがないもので、住民の避難も済んではいない。時間があまりにも足りな過ぎて、冒険者の防衛線を越えられたら被害は甚大なものになるのだ。



「やれるだけの事はやった。あとは勝つために全力を尽くすだけだ。俺も引退した身だが、前線で戦う。だが戦いが敗北に傾き、俺がどうしようもないと判断し合図したら全力で逃げろ。その時間ぐらいは稼いでやるからな」


(このおっさん、思った以上にこいつの事を心配していたんだな。これは、死なせる訳にいかない奴が増えたな)



 そんなギルドマスターの言葉に、アミルはどう答えて良いか分からずオロオロしてしまう。それを見て雪兎はため息を1つ吐き……



「安心しろおっさん。たかがオークの20や30ぐらい俺一人で片付けてやる。だからそんなに悲観的な顔をするな」


「な!? ……どうしたんだ急に。恐怖でおかしくなったのか?」


『ちょっとユキトさん! また<憑依>のスキルを使って!』


「俺は正常だ、おっさん。……そうだな、お前のこの戦いでの役割はこいつを守る事だ」


「どういう事なんだ。まるで今のお嬢ちゃんはお嬢ちゃんじゃないような言い回しだな」



 ギルドマスターは豹変したアミルに警戒を抱きだしていた。



「その事はお前が知る必要はない。現役から離れていた奴が戦場で張り切ると、ハッキリ言って邪魔だからな。お前はこいつと一緒に後方で指示を出すのがちょうど良いだろう」


『ユキトさん、ギルドマスターは私の事を心配してくれたんですよ。それなのに……』


「お前は黙っていろ、もう終わる。……それじゃあ、伝える事は伝えたからな。お前等は無茶な事をするなよ」


「おい! いったいお前は誰なんだ!」



 しかしその質問に答えるつもりがない雪兎は、さっさとスキルと解き、自分の体に戻っていった。



「……あ、あの……今のは、私じゃなくて……その………」



 完全に疑いの眼差しで睨んで来るギルドマスターを目の前にして、アミルは雪兎を恨みながら説明できない事で困っていた。しかしアミルの戸惑いながらの言葉使いに、いつものアミルに戻ったと気付いてすぐに警戒を解いてくれる。



「いつものお嬢ちゃん……のようだな。さっきのはいったい誰だったんだ? 知っているんだろ」


「それは……」



 アミルはこの質問に答えれないで困ってしまう。だがそんな問答につき合うつもりがない雪兎は、さっさと冒険者ギルドから出ていこうと歩き始める。



「あ、待ってくださいユキトさん」


「お、おい。まだ説明を聞いていないぞ!」



 だがアミルは止まらずギルドから出ていった。どうせ説明が出来ないし、信じてもらえるとも思えないので、雪兎に乗じて逃げる事を選んだのだ。


 ギルドマスターも何時までもこの問題ばかり気にしていられないので、他の冒険者が待っている東門に向かいはじめた。






 アミルが東の門の外に出ると、大勢の武器を構えた冒険者が待ち構えていた。最前線で戦う冒険者がどこに集まっているか聞いていなかったが、雪兎が冒険者のレベルを調べ、一番高いレベルの集団がいる場所にこっそり合流した。



「みんな、逃げずに集まってくれて感謝する。敵の数はオークが30匹、ゴブリンが200匹以上だが、その数に恐れる必要はない。ゴブリンは所詮オークにつきまとっているだけだ。だから今回の作戦は中央突破からのオークの殲滅を目指す。罠は原始的だが落とし穴を一定区間だけ用意している。敵がそこを抜けたらEランクの冒険者を先頭として突っ込み、左右から押し寄せるゴブリンをFランクの冒険者が倒し、戦場の確保をするんだ!」



 そう言えば作戦の事は何も聞いていなかったな、と、今更ながら雪兎は思った。しかしこの作戦は雪兎にとっては厄介なものだった。大人の冒険者しかいないこの場で、子供でしかもステータスも低いアミルが一緒に突っ込むとなると、仲間の冒険者に弾かれ、転び、踏まれる。そんな最悪のイメージしか想像できない。

 しかもEランクの冒険者が先頭走るとなると、その危険性はかなり上がってしまう。


 どうしたものかと悩んでいると、作戦の説明を終えたギルドマスターが近寄ってきて



「さっきの奴の説明はまだだが、お嬢ちゃんは俺が守ってやるから安心しろ」



 どうやら雪兎の話を信じてくれたのか、それとも元々そのつもりだったかは分からないが、アミルを守ってくれるなら安心して戦いに集中出来る。


 雪兎は声には出さないが、ギルドマスターに感謝していた。






 しばらくすると、森の奥の方でゴブリン達の悲鳴が聞こえ始める。



「よし、どうやら敵は罠にハマったようだ。お前達、突撃するぞ!!!」



 こうしてこの町を守るための戦いが始まった。



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