19話 ガイア
仕事の都合で更新できませんでした。すみません。
休憩中に何故か仲良くなったモンスター、ウォーキングロックスライムの<ガイア>。その姿はスライムと呼んで良いのか分からない微妙な形をしていた。
本体は50センチほどの丸い石にクリっとした大きな目とたえずニンマリした口がついており、10センチ程の石の手足が生えている。ただでさえ重量があるのに、更に短い手足だから移動速度はかなり遅く、転がった方が早いのではないかと思える程だった。
最初は後ろから着いて来るように指示をしていたが、あまりの遅さにアミルの腕輪に一度入ってもらう事にした。
先程聞こえた物音の所ら辺に着いたが、パッと見、それらしいモンスターの影は見当たらなかった。
「何もいませんね。もう、どこかへ移動しちゃったんでしょうか?」
『普通はそう見えるだろうな。確かに上手く擬態して姿を隠している』
「え!? ユキトさんには、どこに隠れているか分かるんですか?」
『ああ、俺は鑑定眼を持っているからな。あそこの壁にモンスター名とレベルが見えている』
《ロックゴーレム レベル 14》
周囲の確認と威嚇を込めて、タマモに火を吐いてもらったが、ロックゴーレムは動じる事無く、少しも微動たりしなかった。
石のモンスターだけあり、火の攻撃に強いのもあるかもしれないが、自分の擬態に自信を持っているのだろう。だがそれは見破った者からすれば、ただ単に滑稽な姿にしか見えなかった。
アミルには待機してもらい、雪兎は気付かないフリをしながら歩いて近づいていく。そして雪兎は攻撃範囲に入ると同時に跳び付き、魔力を込めた攻撃をロックゴーレムに蹴り込む。
大体の場所は分かっているが細かい輪郭までは鑑定眼で読みとれないので、初撃は大きな破壊音と共にロックゴーレムの肩を砕くだけで終わってしまう。
『ちっ、顔や腹にでも当たれば、今の一撃でケリが着いたものを』
バレると思っていなかったロックゴーレムは、突然の攻撃を受けた事で慌てて動き出し、雪兎に向かって残った左手で殴りつけてきた。
全長約2メートルの全身石で出来たモンスター。しかし重量からの威圧感は感じるものの、雪兎からすれば動きは非常にゆっくりと感じるものだったので、楽に避け、繰り出された左腕に魔力を込めずに蹴りつける。
『試しに魔力なしで攻撃してみたが、やはり防御力は大したものだな』
雪兎のケリを受けた腕は、壁に叩きつけられるほど激しく弾かれたが、大きな欠損部は見当たらず再び攻撃を再開した来た。
このまま何度も蹴りつければ、徐々にだが削り取って倒す事も可能だろ。だが今回試したかったのは普通の蹴りと魔力込みの蹴りの威力の違いであって、その確認が済んだ以上、チマチマ戦う必要はなかった。
雪兎は次に振り下ろされた攻撃に合わせて懐に入り込み、無防備になった胴体部分を、今操作出来る魔力を込めて蹴りつける。イメージは無駄に広範囲に広がる爆発ではなく、指向性のある爆発。前方に、それもロックゴーレムの胴体の大きさよりやや小さい範囲に限定する。
それにより激しい爆発の後に残ったモンスターの胴体は、ポッカリと大穴が空き、動きが止まり、今にも崩れそうな状態になっていた。
戦いの音が止み、雪兎がアブソープションで吸収した事を確認したら、アミルはタマモ達を連れて合流してくる。
「これで依頼は完了ですね」
『ん? 依頼はこれで完了かもしれないが、そこらにまだロックゴーレムが隠れているぞ』
「え?」
雪兎の言葉を聞き、アミルはキョロキョロと周囲を確認するが、それらしいのは何も発見できなかった。
『ま、そう言う事だから、お前はもう少し待っていろ』
そうアミルに伝えて雪兎は駆け出していく。1体目で鑑定眼によって見える名前でどの位置に隠れているか分かったので、動き出す前に倒す事が可能となった。
余裕を持って戦っているように見えるが、一撃一撃に魔力を込めているのでMPが凄い勢いで減少していき、最後の1体を倒した時にはほとんど残っていなかった。
帰りにジャイアントバットを1匹発見したので倒し、鉱山をあとにした。
神代 雪兎 レベル 13
HP 225 / 225
MP 13 / 167
力 192
耐久力 155
素早さ 163
魔力 151
スペル ヒール(LV2)
スキル アブソープション ・ 鑑定眼 ・ 念話 ・ 嗅覚強化(LV1) ・ 耐火防御(LV1) ・ 耐水防御(LV1) ・ 憑依 ・ 魔力操作(LV1) ・ 肉体強化(LV1) ・ 超音波探知(LV1)
肉体強化 ・・・ このスキルを使おうと意識すると発動し、攻撃力、防御力、素早さがレベルの応じて上乗せされる。消費MP5。約3分間効果が続く。
超音波探知 ・・・ 超音波を全身から放ち、その反響によって周囲の状況を理解する事が可能。レベルに応じて範囲が広がっていく。
(……この超音波探知がもっと早く得る事が出来ていれば……いや、そんな話をしても意味はないか)
足でロックゴーレムを探していたさっきまでの事を思い出し、雪兎は間の悪さに愚痴をこぼしたくなっていた。このスキルがあれば、匂いでは分からなかったモンスターの存在を知る事が出来たはずだからだ。
帰り道、新たに仲間になったガイアの実力を見る為に、ブルーウルフと戦かわせてみる。
モンスターと対峙するガイア。その表情はまったく変わらず、緊張感の欠片も感じさせない。相手が向かって来るスピードにまったく着いて行く事が出来ないガイアは、前に進む事をせず、左右に移動する事でアミルへの攻撃を防ごうと道を遮る。
食欲をそそらない石の塊ではなく、最初から柔らかそうな肉を狙っていたブルーウルフは苛立ち始め、ようやくガイアに攻撃を始める。
その爪や牙がガイアに向けられたが、傷一つつける事ができず、逆に攻撃したブルーウルフが痛がっていた。しかしそれ以上の事をガイアは出来なかった。
一応、その短い手で攻撃をしようとしていたが、あまりのリーチの短さに相手に届かない……。
『完全に防御主体のモンスターだな。更にスキルも防御力アップのものだし、よくてブルースライムを転がって倒すのが精一杯だろうな』
「でも私を守ろうとしてくれるし、優しい子ですよ」
『こいつがお前を守るなら、少しはビビらないで指示が出せるかもしれないな』
「……頑張ります」
ブルーウルフは後から呼んだタマモの火を受けて倒された。モンスタートレーナーの仲間になったのは、ガイアにとっては良かったかもしれない。攻撃手段が少ないガイアが、これ以上レベルが上がるとは思えない。つまりその内強いモンスターや冒険者に攻撃されて、死ぬ未来しか見えなかった。
それにアミルやタマモ達も気にいっているようで、休憩のたびに呼んでもたれたりしている。これも何かの縁だと思い、雪兎も仲間として受け入れた。
エルシーの町に帰って来た雪兎達は、すでに日が暮れていたので食事をして宿に泊まる事にする。
翌日は朝から冒険者ギルドに顔を出した。
「どうやら無事に依頼を達成出来たようだな」
「は、はい。昨日帰ってきました」
「……見たところ、怪我らしい怪我はしていないようだな」
どうやら依頼を頼んだは良いが心配してくれていたようで、元気そうなアミルを見てホッとしていた。しかしギルドマスターの顔をしっかり見る事が出来ないアミルは、その気持ちに気付く事はなかった。
そんなアミルはそっとギルドカードを提出して、依頼の確認をしてもらう。
「おう、確かにロックゴーレムを………おいおい、数がえらく多くないか? 本当にこんなにいたのか?」
「え? は、はい。8体ほどいました」
「……想像以上だな。これほどの戦果を出したなら、誰も文句は言わんだろ。お嬢ちゃんは今日からEランクに昇格だ」
「で、でも、私はまだ既定の依頼を受けては……」
「確かにそうだが、お嬢ちゃんが討伐履歴から考えて、十分Eランクの実力があると俺が判断した。だが、Dランクのモンスターとも戦える実力は持っているだろうが、天狗になって無茶な事はするなよ」
「はい、私の実力はまだまだですから……」
アミルのランクはハッキリ言って雪兎の実力によるものなので、自分が強くなったとは勘違いする事はなかった。それどころかアミル1人で冒険者をやっていたら、何時まで経ってもFランクの依頼以外は受けなかっただろう。
それほどアミルは自分に自信を持てないでいた。
アミルはEランクに上がった事で、周囲の視線に居心地が悪そうにしていたが、雪兎は気にする事無く依頼ボードの前に移動していく。
Dランク依頼
・オークの討伐
・サラマンダーの鱗の採取
・エアコンドルの卵を取ってきてほしい
・キングアナコンダの牙の採取
・王都までの護衛
『……お前、モンスターの解体って出来るか?』
「……やった事がありません。それどころか、刃物も持った事がありませんよ」
『俺もこの手じゃナイフも持てないだろうからな……』
せっかくDランクの依頼を受けれると思ったのだが、その中にモンスターの部位を持ってくるものが目についた。指定のモンスターを倒すのは可能だろう。だがその後の採取作業が出来そうになく、ボー然と依頼ボードを見つめる事しか出来なかった。




