17話 ゴブリンの巣
ファントムロードへの最後の攻撃でMPを使い果たした雪兎は、その場で倒れ込んでしまった。
「ユキトさん大丈夫ですか!?」
その様子に慌ててアミルが駆け寄って来る。
『ああ大丈夫だ。ただ別に体に異常があるわけではないのだが、強烈なだるさで体が動かせん』
「た、大変です!? だ、誰に見てもらえば、どうすれば???」
『少し落ち着け。これはたぶん魔法の使い過ぎが原因だ。今までも魔法を使うと少しだるさを感じていた。最後の攻撃に全MPを込めたつもりだったが、限界以上のMPを込めてしまったようだ』
「な、なら、少し休めば回復するんですか?」
『おそらくな。まあ、新たな攻撃手段を得た代償と考えれば安いもんだ』
倒れた雪兎の心配をしてアミルはオロオロと激しく動揺していたが、余裕のありそうな声を聞いて落ち着きを取り戻す。
「さっきの攻撃は凄かったですね。あれはどういうスキルなんです?」
『ん? ああ、あれはスキルじゃないぞ。ただ攻撃と魔法を同時に使ったに過ぎない。もし名前を付けるなら……<聖光脚>、だな』
聖光脚、輝く足とは少し大袈裟な名前とも思ったが、それを聞いたアミルは先程の戦いを思い出し、憧れと尊敬を込めた笑顔で答える。
「凄く格好良かったし、いい名前です!」
『とりあえず名前を付けて見たが、俺達は基本的な事を知らな過ぎるからな。もしかしたらこういう技術は、世間では定着しているのかもしれん。そう考えるとやはり冒険者養成学校とやらに行って、知識を得た方が良さそうだな』
「そうですね。私も一緒に戦える方法を知っていれば、ユキトさんだけに負担をかけないで済んだかもしれませんし……」
『そう言う事だ。こうなったら、何が何でも金を集めて知識を学びに行くぞ!』
「はい!」
2人は目標に向けて意思を固めあったのであった。
神社 雪兎 レベル 12
HP 112 / 182
MP 0 / 155
力 156
耐久力 128
素早さ 141
魔力 139
スペル ヒール(LV2)
スキル アブソープション ・ 鑑定眼 ・ 念話 ・ 嗅覚強化(LV1) ・ 耐火防御(LV1) ・ 耐水防御(Lv1) ・ 憑依 ・ 魔力操作(LV1)
魔力操作 ・・・ 自分の魔力を操る事が出来る。レベルに応じて操作出来る割合が増えていく。
アミル レベル 3
冒険者ランク F
HP 13 / 13
MP 16 / 16
力 6
耐久力 5
素早さ 7
魔力 9
ギルドマスターの話ではレベルが5以上離れていると経験値が得られないと言っていたが、ミズチの攻撃がダメージを与えたのか、アミルとミズチのレベルが1上がっていた。今回の事から考察するなら、レベルが離れ過ぎると低い者が貰える経験値が、かなり少なくなるのだろう。だがファントムロードのレベルが高かったのと、アミル達のレベルが低すぎた為に、少しの経験値でもレベルが上がったのだ。
雪兎が動けるまで回復したので、依頼の報告をしに冒険者ギルドに顔を出した。
「あ、あの……依頼を終わらせてきました」
屋敷での力強い返事からさほど時間が経っていないのに、ギルドマスターの前に立つアミルはいつも通り、気弱なアミルだった。
「そうか、やはり聖魔法が使えると楽な仕事だな」
「そんなに楽な依頼でも……」
事情を知らずに気楽な事を言いだすギルドマスターに、アミルは小さな声で否定したが、その声は届く事はなかった。
「とりあえずギルドカードを出してくれ。モンスターの討伐履歴が確認出来たら、職員を確認に向かわせるからな」
アミルは自分の声が届かなかった事を、とくに気にした様子もなくギルドカードを提出する。それを見て、最初は笑っていたギルドマスターも、表情がドンドン険しいものになっていく。
「……おいおい、これはどういう事なんだ。なんで討伐履歴の中にファントムロードの名前があるんだ……」
「屋敷の一番奥にいて、黒い煙を出す幽霊に襲われたので」
「……それは間違いなくファントムロードだな。だが、よくヒールだけで倒す事が出来たな。それとも他に聖魔法を使えるのか?」
「いえ、ユキトさんが使える魔法はヒールだけですよ」
「なら、……いや、これ以上詮索するのは非常識だな。とりあえず職員に確認に向かわせる。悪いが報酬はそれが済んでからだ」
冒険者は自分の実力とスキル、スペルなどを駆使して戦い、生活している。その冒険者に手の内を明らかにさせるのはルール違反だと思いだし、ギルドマスターは話を切り上げた。
「確認を行っている間に他の依頼も受けれるから、もし何か受ける依頼があるなら選んでくれ」
待ち時間に何をしようか悩んでいたが、ギルドマスターが他の仕事を受けて良いと言ってくれたので、次は<ゴブリンの巣の排除>依頼を受けようと情報を貰う。
この町から少し離れたところにゴブリンが巣を作り、その数を増やしているらしい。ゴブリンは繁殖力が非常に高く、ほかっておくとすぐに大群になってしまうので、定期的な排除と巣を発見したら早期に潰さないといけないのだ。
「お嬢ちゃんに前にも言ったが、いくら連れているモンスターが強くても、数の前ではどうしようもなくなる時があるんだぞ。せめてゴブリンを倒せる程度の実力者3人ぐらいは仲間にしないと、命がいくつあっても足りないぞ」
「一応……他にも2人仲間がいます」
「なんだ。もうチームを作っていたのか。ならそいつ等も連れてこい。同じ依頼を受けるんだから、ギルドカードに登録をしとかないといけないからな」
「え? ……私の仲間は冒険者じゃなくて、モンスターなんですが」
「は? 何を言っているんだ。モンスタートレーナーが仲間に出来るモンスターは、基本は1人につき1匹なんだぞ?」
「え? そうなんですか?」
アミルは雪兎の方を見て、そんな事実があった事を驚きあった。
「……その様子から見て、本当に複数のモンスターを仲間に出来ているようだな。確かに聖魔法を使うようなモンスターを連れているんだから、少しぐらい非常識な事があってもおかしくないか」
『非常識とは失礼な奴だな。おい、一発殴ってやれ』
だがアミルは、雪兎の存在に関してはギルドマスターと同意見なので、苦笑いをする事しか出来なかった。
「そう言う事なら依頼を受ける事に反対する理由はないな。報告ではゴブリンの数は30匹ぐらいとなっているが、あいつ等は繁殖力が高いから、少し増えていると考えて挑めよ」
この依頼は討伐報酬が1匹につき100クポンに加え、巣の排除報酬で3000クポンが手に入る。相手の数が多く、複数の冒険者で挑まないといけないのに、報酬はさほど高くないので不人気の依頼。だが1人で受ける事が出来れば、なかなか美味しいものになる。
お金が必要な雪兎達にとって、数を稼がないといけない討伐依頼をこなすより、指定依頼を受けた方が効率が良い。なので他の冒険者に取られる前に、受けれるものは全て受けるつもりだった。
昼食を済ませ、話に聞いていた場所に近づくにつれ、ゴブリンと遭遇する回数が増えてきた。雪兎にとっては雑魚なので、アミル達の経験値を少しでも稼ぐ為に、危険な時にだけ手を出すスタイルで進んで行く。結果としては、1匹ならタマモとミズチの2匹がかりで挑めば勝つ事が可能だった。
ゴブリンの巣は山の削れた所に出来た洞窟で、ここに着いたところでフォーメーションを変えた。アミル達を後ろに下げ、雪兎が前にでて暴れる。打ち漏らしが出た時にだけ、アミル達が戦う形になった。
だが通路が限られている洞窟での戦闘。一撃必殺で倒していく雪兎の攻撃をすり抜ける事が出来たゴブリンはおらず、アミル達の手を借りる事はなかった。
巣に入ってからおよそ10分。雪兎達は無傷の状態で依頼を完遂した。