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15話 資金集め

 冒険者ギルドの受付に行き、ギルドマスターに冒険者養成学校の入学費などを質問すると、「確か……」と言って、引き出しから一枚の紙を取り出して見せてくれる。



「これによると、今年の入学試験は来月の15日だな。場所はここから馬車で5日かかる町、<アルティア>だ。費用は……試験に1万クポン、その後に掛かる入学費が5万クポンで月謝が5千クポンだな」


『つまり最初に掛かる費用は65000クポンか。向こうでの宿泊費など考えると、余裕を見て7万クポンは用意しておきたいところだな』



 この世界でも1年は12カ月だったが、1か月は30日で固定されている。そして今日が4月15日だから、お金を稼げるのは後20日間ぐらいだった。


 しかしその金額を知って、アミルは固まっている。ファイアフォックスを20匹倒した時でも2000クポンしか得られなかった。つまりFランクの依頼を受けていては、期日までにお金を貯める事は不可能。


 それが意味するのは、Eランクの依頼、もしかしたらランクアップしてDランクの依頼を狙いに行くと、雪兎が言いだすという事だ。


 アミルの予感は当たった。当然のようにEランクの依頼を受けるぞと言って来たのだ。



 依頼書の前に立つ。モンスターの討伐依頼以外を見てみると、



北の森の調査 ・・・ 北の森でオークの目撃情報がある。その数と住処を調査を頼む。成功報酬、5千クポン


幽霊屋敷の解放 ・・・ 町の西側、その端にある屋敷を改築しようとしたら幽霊が住み着いていた。このままではせっかく買った屋敷に住めない。どうか幽霊の討伐をお願いしたい。成功報酬、1万クポン



『おいおい、町中なのに高額の仕事があるぞ。誰かにとられる前に、これを受けろ』


「え!? ……ユキトさん、相手は幽霊ですよ。どうやって幽霊を倒すって言うんですか」


『そんなのはギルドマスターに聞けば分かるだろ。駄目なら他の依頼を受ければいい、さっさと行け!』


「は、はいーー!!!」



 アミルは雪兎に背中を押されて受付の前に戻ってきた。



「あ、あの……これなんですけど」


「なんだお嬢ちゃん、また依頼を受けるのか? だがそれを受ける前に、登録しているブルーウルフの討伐依頼の精算を済まさないといかんぞ」


「あ!? ……忘れていました」



 ジャイアントバットやキルアリゲーターを倒しに行くついでに受けた依頼だったので、アミルはもちろん雪兎もすっかり記憶から抜けていた。しかし気楽に渡したギルドカードを読み取ると、ギルドマスターの動きが固まってしまう。



「……お嬢ちゃん、このキルアリゲーターとジャイアントバットの討伐履歴はなんなんだ?」


「え? あ、それは……リニアさんと一緒になったので……」


「ああ、リニア達が言っていた索敵能力の優れた若い冒険者ってのは、お嬢ちゃんの事だったのか。だが、お嬢ちゃんのレベルでそこまで行くのは危険だぞ。あまり無茶はするなよ」



 結局怒られてしまった。もちろん依頼を受けてはいなかったので、それらの報酬はない。受けていたブルーウルフの討伐の依頼、合計30匹分で3000クポンだけを受け取った。



「それでこれを受けるんだな。………お嬢ちゃん…この依頼が何なのか、分かっているのか?」


「幽霊、退治です」


「ならどうやって倒すつもりだったんだ?」


「そ、それは……教えてもらおうと……」


「はぁーーー。いいか、幽霊ってのは実体がないんだ。だから普通の武器では攻撃が効かないし、建物の中だから攻撃魔法も使えない。つまり聖魔法の使い手限定の依頼ってわけだ。この町の神父は除霊は出来ないから、アルティアの神官を呼ばないといけない。そうすると費用が10倍は掛かるからな、流れの冒険者に聖魔法の使い手が来るのを待っているってわけさ」


「聖魔法って、<ヒール>などの回復魔法の事ですか?」


「ああそうだな。凶悪な幽霊だと、ちゃんとした攻撃聖魔法でないといけないがな。今回は<ヒール>でも使えれば、その聖なる光で倒せるはずだ」


「なら……」



 そう言いだして、アミルの視線が雪兎に移る。



『ああ、問題ない。引き受けろ』


「あ、あの……ユキトさんは<ヒール>が使えるので、この依頼を受けます」


「は?」


「で、ですから、ユキトさんが<ヒール>を使えるので、依頼を受けます」



 ギルドマスターは額に手を当てて何も言わなくなった。アミルは何か拙い事を言ったのか、不安そうな顔をしてオロオロと雪兎とギルドマスターを交互に見ている。



「あーつまり、そのスノーラビットは魔法を使えると?」



 アミルは首だけを縦に振って応える。



「にわかには信じらんな。普通モンスターは、火などは吐けるが魔法は使えん。使えるとすると、それは魔族になるんだが……魔族は聖魔法を使えないし、いったいお嬢ちゃんのモンスターは何なんだ?」



 完全にギルドマスターは混乱していた。モンスターの枠にも魔族の枠にも当てはまらない存在を始めて見たのだから仕方がない。ただそれも、アミルの話が本当なら━━となるが。



「さっきから聞いていりゃ、何を訳の分からん事をほざいている!」


「キャッ!?」



 目立つ受付の前での話。当然他の冒険者の耳にも話は聞こえているので、信じられず文句を言って来る輩が出て来るのは当然だった。


 雪兎はこの展開を予想していたが、アミルにとって想定外の事だったので、小さな悲鳴を上げて腰が引けてしまった。



「だいたい俺は、お前みたいなガキが冒険者をやっている事自体、納得いかねえんだ。そんなハッタリを言うような奴は、さっさと辞めちまえ!」


「で、でも、ユキトさんが魔法を使えるのは、本当の事ですし……」


「まだ言うか!」



 冒険者は子供のアミルが口応えしたと感じ、苛立ちから拳を振り下ろして来る。アミルは目を閉じて腕を顔の前に置いて耐えようと構えた。




 が、そんな暴挙をアミルの近くにいる存在が許すはずがなかった。雪兎は振り下ろされた拳を正面から蹴りつけ、冒険者の拳や腕が鈍い音を立てて跳ね上がる。



「ガッ!? アァァァァァァ!!!!!」



 冒険者の腕がブラブラと揺れており、誰が見ても骨が砕けているのが分かる。その言葉にならない痛みの悲鳴を聞きながら、雪兎は冷めた目のまま更に追撃を腹に打ち込む。



「グッ!?」



 腹を抱えてうずくまる冒険者。頭が雪兎の目の前に下りて来たので顔を蹴り飛ばすと、糸が切れた人形のように崩れて気を失ってしまった。



『ガキに理不尽な暴力を振るう奴を、俺が許すと思っているのか? ……チッ、もう気を失いやがったか。手加減を間違えたようだな』


「ユキトさんやり過ぎですよ」


『黙れ! 殺されなかっただけでも感謝して欲しいぐらいだ。俺はこういう奴等が許せないんだよ』



 無残な返り討ちにあった冒険者を見て、他の冒険者は呆気にとられて時が止まったように固まっている。



「おいおい、ギルド内での争いは禁止にしているんだぞ。まったく……お嬢ちゃん、本当にそのモンスターが<ヒール>を使えるなら、そいつを治してやってくれ」


「え!? でも……」


『なんで俺がこいつを治してやらんといかんのだ。むしろトドメを差したい気分なんだぞ』


「……ユキトさんが、あの人を治したくないと」


「そいつはお嬢ちゃんのモンスターだろ? まあ確かに襲ってきた奴を治すのは嫌だわな。ならそいつに<ヒール>を使って見せて、聖魔法を使えると証明してくれ。そうすれば俺もさっきの依頼を安心して任せる事が出来るしな」


『ったく、上手い事条件をつけて来たな』



 お金が必要な雪兎にとって、好条件の依頼は受けておきたい。一度の<ヒール>で1万クポンの仕事が貰えるなら安いものだ。今は気持ちより金の方に天秤が傾いた。



『今は俺の怒りより、こいつの学費を稼ぐのが最優先だからな。治してやるよ』



 雪兎は諦めて寝ている冒険者の近くに歩いて行き、<ヒール>を使う。その光を見て、ギルドマスターは「マジかよ……」と、驚いて見入っていた。

 ただ完全に治療はしてやらなかった。顔と腹、そして腕の骨は治したが、砕けた拳はあえてほかっておいた。

 魔法を使える証明なら、腕の骨を治すだけで十分と考えたのと、少しぐらいは行なった行動の責任をとらせるためだ。



「確かに聖魔法を見せてもらったが、まさか無詠唱で魔法を使うとは思っていなかったぞ」


『無詠唱? もしかしてこの世界での魔法は詠唱するのが普通なのか?』



 その雪兎の疑問をアミルが代わりに質問する。



「そりゃそうだろ。魔法の詠唱は力の方向を決める大事な行為だ。何もしないで魔法を使おうとしても、曖昧な効果しか出ずにMPの無駄使いになるからな」


『説明を読む限りでは詠唱が必要とは思えないのだが……魔法で起こる現象を明確にイメージ出来ないと効果が薄くなるって事か。なるほどな。魔物が魔法を使えない理由は、知識不足によるイメージ力の低さと、それをカバーする詠唱文を唱えれないのが原因という訳か』


「なるほど。そうなると魔物が魔法を使えない理由にも納得がいきますね」



 アミルも雪兎話を聞いて納得したように頷く。やはりと言うか、この世界に来たばかりの雪兎と視力を失っていたアミルとでは、この世界での常識力に差はないと再確認出来た。



「まあ、いろいろ分からない事が出来たが、約束通り聖魔法を見せてくれたからこの依頼はお嬢ちゃんに任せるとしよう」



 こうしてアミルは幽霊屋敷に向かう事になった。



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