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13話 エンペラーペンギン

 鉱山内のジャイアントバットは、最初に倒した3匹と逃げた奴を合わせて全部で5匹だけだ。もちろんほかっておく理由はないので、逃げたのも追いかけてしっかり退治する。


 だが5匹だけではステータスは上がったが、新たなスキルを会得出来なかったのは残念がった。鉱山を出る時に採掘者と護衛の冒険者に声を掛けられたが、雪兎は無視して進んで行く。アミルは声を掛けられた事と無視する雪兎に挟まれてオロオロしながらどうすれば分からず、頭を下げるだけで逃げるように立ち去った。

 炭鉱夫と冒険者の暑苦しい組み合わせに、対人恐怖症気味のアミルがまともな会話が出来るわけがなかった。





 もはやジャイアントバットのいない鉱山に用はない。雪兎はアミルを連れて更に南に向かって歩き始めた。 



 途中で出会うモンスターは全てアミルの担当で、複数に襲われた時だけ雪兎が手を出す。




 半日ほど歩き続け、ようやく湖が見え始めた時には日が沈む時刻になってしまった。なので少し早いが今日の寝床を探し始める。


 すると同じように寝床を探していた冒険者のチームを見つけた。



「貴女、ここは危険なモンスターが現れる危険な場所なんだから、すぐに帰った方が良いわよ」



 向こうもこちらに気づいたようで、警告するために近寄って来た。アミルの装備や姿から普通の子供だと思ったようだ。


 そんな冒険者のチームは女性ばかりの5人組で、装備は見た感じ剣が2人、槍が3人、声をかけて来たリーダーぽい人のレベルが9で、その他は平均レベル5ってところだ。



「私は……ここに現れるモンスターを、見に……」 



 出会った冒険者は全員が女性だったが、アミルより身長が高く、体格も良いので気押され気味になっている。



「もしかして貴女も冒険者? それも……モンスタートレーナー、のようね」



 オドオドしていて、とてもモンスターと戦えるようには見えないが、アミルの足元にいる雪兎を見付けて冒険者だと気付いた。



「は、はい。ランクFの冒険者、アミルです。エルシーから来ました」


「やっぱり冒険者だったのね。なら私達がとやかく言う必要はないわ。あ、私もエルシーから来たの。このチームのリーダーで<リニア>よ。ランクはEよ」



 リニアに続き、後ろの4人も順番に名乗っていく。雪兎はとくに興味がないようで、周囲のモンスターの位置を把握するのに意識を集中している。



「でも1つ言わせてもらえれば、いくら後衛で指示を出すだけでも、もう少し防具をしっかりした方が良いわよ。その服ではブルーウルフの牙も防げないでしょ?」


「そ、それは、その……あまりお金がなくって……」


「なら余計にこんな所にこないで、町の周りでお金を稼いでからにしなさい。こんな所に、しかもソロで来るなんて命を無駄にしているとしか思えないわよ」


『お節介な女だな。この辺りにいるモンスター程度が相手で、俺がこいつに怪我などさせるほど近づかせる訳がないだろ』


「前線で戦えとは言わないけど、身を守れる程度の武器は持った方がいいわ」



 リニアの忠告はまだ続く。彼女の仲間とのレベルの差から考えて、一人前になるまで世話をしているようなものなんだろう。女性の冒険者を守ろうとしている彼女は高評価に値するが、もう少し周囲の索敵能力を磨いた方が良さそうだと雪兎は感じた。



『おい、ここにゴブリンが3匹ほど向かって来ている。あと10秒ほどで視界に入って来るはずだから、警戒しとけ』


「え? は、はい!」



 アミルは雪兎が指差した方に振り向く。



「……どうしたの急に?」


「あ、あの……こっちに方から、ゴブリンが3匹向かって来ているようなので」


「うそ、何も見えないわよ?」



 突然そんな事を言われても、リニアの目には何も見えていない。仲間達も顔を見つめ合って疑った表情をしていたが、しばらくすると本当にゴブリンが現れたので、慌てて戦闘態勢に入る。



「本当に現れるとはね。アミルちゃんはここにいて、ゴブリンとは私達が戦うから」


「は、はい」


『別にあいつ等の力に頼る必要はないんだがな。まあ、Eランクの実力とやらを見せてもらうとするか』



 リニアのチームは武器を構えて待ち構える。3人が槍を向けているのでゴブリンは動きを一度止める事になる。それを確認すると3人が道を開け、リニアともう1人が剣を持って突撃をかけた。すれ違いざまに腕や足などを斬りつけ、その後に集中力が散漫になったゴブリンを3本の槍が襲う。


 流れるような連携に、アミルの目は釘付けになる。雪兎も感嘆の声を上げるが、実力の差が激しい今のアミルとではとても出来ない連携なので、あまり参考にならないと感じていた。




 リニア達はかすり傷程度の被害で済んだ。すれ違いざまにゴブリンの棍棒がかすったようで、念の為に薬草で傷口を抑えている。



「それにしてもアミルちゃんの索敵能力は凄いわね。それはそのスノーラビットの力?」



 戦いが終わり、血で汚れた武器を綺麗にした後、リニアはアミルに話しかけてきた。



「は、はい。ユキトさんが教えてくれました……」


「なるほどね。だてにここまでソロで来ただけの実力はあるのね。どう、私達は明日、この湖に住み着いているキルアリゲーターを倒しに行くんだけど、見学でもしていかない?」


「で、でも……私が近くにいると、討伐記録が……」


「それは気にしないで良いわ。その代わりにアミルちゃんには、戦いの最中に周りからモンスターが襲って来ないかを見張っていて欲しいのよ。キルアリゲーターは危険な相手、他のモンスターに挟み打ちにされたら危険だからね」



 確かに一理ある話だった。雪兎の索敵方法は匂いによる探知、水中にいるかもしれないキルアリゲーターの位置は把握できない。なので何らかの呼び寄せる手段を持っていそうなリニア達の同行するのは、今後の事を考えるとメリットがあった。


 アミルに賛同するように伝え、明日に備えて合同で寝る事に決まったので夜は交代で見張りをする。雪兎も昨日は睡眠不足だったので、今日はアミルと一緒に寝る事にした。





 翌日、全員が朝食を済ませると、湖の一角に行き、何かの肉の塊にロープをつけて水に沈め始めた。



(……まさか……釣る、つもりなのか?)



 肉食のモンスターを呼び寄せるのに、この方法は効果的ではあるだろう。だが、いまいち締まらない光景に、雪兎は苦笑いをするしか出来なかった。



 しばらくするとロープが勢い良く湖に引っ張られていく。それに気付いたリニア達はロープを逆に引っ張りだした。アミルも手を貸すがほとんど戦力になっていない。


 まんま釣りだったが、ロープを引っ張り切った先には巨大な口のまさにワニがかかっていた。そのキルアリゲーターを地上まで引っ張り上げると、リニア達を敵として認識したのか肉を放して襲いかかって来る。



《キルアリゲーター  レベル 9》



 確かにモンスターである事は確認で来た。思った以上に動きが早く、子供ぐらいなら一飲み出来るような巨大な口が攻撃の主軸のようだ。



「やっぱり硬いです!」



 リニアの仲間の槍が鱗に遮られ、先端が少ししか刺さっていない。レベルの差もあって攻撃がなかなか通らず、泣き言を言いだしている。だが槍で間合いの外から攻撃をしているので、時間は掛かるが勝てない相手ではないだろう。





 ただしそれは相手が1匹だった場合だ。



『おい、キルアリゲーターとそれ以外にもう1匹、こっちに近づいて来てるぞ』


「リ、リニアさん。もう1匹、こっちに来ているようです」



 アミルがその事を伝えてからすぐ、目視でも分かるところまで近づいてくる。



「リーダー!? 本当にもう1匹来ちゃったよ!」


「そんな! キルアリゲーターは集団で行動しないはずなのに……」



 最初の相手はダメージを与えてはいたが、まだトドメを差せるほどには至っていない。このまま挟まれたら間違いなく被害が出てしまう。リニアはリーダーとして、この事態をどう乗り切るかを考える。



『何かを追いかけているようだな。……仕方がない、おい、あとから現れた奴の姿が見えないようにタマモの火で壁を作れ』


「は、はい。タマモちゃん、来て!」



 アミルの腕輪の宝石が1つ光り、タマモが姿を現す。まだ距離があるが雪兎の指示通り火の息で壁を作る。が、火をあまり気にしないようで無視して向かって来る。



「火を怖がらないようです」


『それならそれで構わん。やっと俺の朝食の時間だ』



 そう言って雪兎はタマモの横を通り過ぎ、放たれている火を跳び越えてキルアリゲーターの上から口を蹴りつける。激しい音とともに牙や上顎を砕き、モンスターの攻撃力を奪った。あとは逃がさないようにトドメを差すだけだ。


 もともとタマモの火を怖がるとは思っていない。ただリニア達の視界を遮れれば、雪兎が堂々と参戦して吸収出来ると考えただけだった。

 

 キルアリゲーターが痛みに苦しんで進行を止めると、追いかけられていたモンスターも逃げるのをやめて雪兎を見る。その視線には気付いていたが、攻撃してくる気配はなかったので無視してトドメを差し吸収した。


 


 雪兎が吸収を終えたのでアミルに合図を送って火を止めてもらう。すると追いかけられていたモンスター、青くて丸いペンギンのような生き物は感謝するように雪兎に近づいてくる。



《エンペラーペンギン亜種   レベル 1   スキル ウォータレー(LV1)》



(また亜種か……確かにスキル持ちのモンスターはタマモとこいつ以外はいなかったな。つまり亜種は突然変異のようなもので、スキル持ちなのかもしれないか。ならこいつを吸収すれば……)



 そんな事を少し考えたが、今も両手を上げて喜んでいるような動きを見せるペンギンに、雪兎はゴッソリ毒気を抜かれて戦う気力が湧かなかった。「もういいさっさとどっか行け」と、意味を込めて手を払ったら、ペンギンは動きを止めてジッと雪兎を見つめ始める。




 エンペラーペンギンが仲間になりたそうな目でこちらを見ている。まさにそんな感じだった。




「ユキトさん、先程の子は大丈夫でしたか?」



 いつまで経っても戻ってこない雪兎を心配して、アミルが声をかけて来た。雪兎はこれ以上構ってやるつもりがないので、『何でもない』と返事をし、ペンギンを無視するように戻っていく。


 その後を慌てて追いかけてきたが、疲れからか足がもつれて転んでしまった。



「だ、大丈夫? 怪我はない?」



 アミルは相手がモンスターなのに転んだ事を心配して駆け寄る。



(こいつはまた……その内、襲われて怪我でもしても知らないぞ)



 雪兎はそんなアミルに呆れていたが、このペンギンに攻撃の意思がないのは先程までの行動で分かっているので、あまり心配していない。


 

「ク~」



 泣きだしたペンギンは転んだ時にでも擦ったのか、胸のところから少し血が滲んでいた。それを見て、アミルは慌てて薬草を取り出して患部に当ててあげる。

 雪兎は『それはお前用の薬草だぞ』、と呆れて見ていたが、タマモの時もそうだったので文句を言う気も湧かなかった。



「このまま薬草を当てておけば、すぐに良くなるからね」


「ク~……クックッ!」



 アミルは優しく微笑んで上げると、泣いていたペンギンは涙を拭きとって手を伸ばす。



『今度はお前の仲間になりたがっているようだな』


「そうなんですか? ……でも、私は上手く指示が出来ないよ。それでもいいの?」



 アミルは不安そうな表情をする。いまでもモンスターを目の前にすると怖くて緊張する自分だから、着いて来てくれても苦労をかけてしまうと感じているのだ。だがペンギンはそんなアミルを見続けて更に手を伸ばしてくる。


 その真剣な目に負けたアミルも、ゆっくりと手を出してお互いに触れ合う。するとタマモの時と同じように淡い光に包まれた。



「ユキトさん、この子の名前もお願いします。あ、男の子ですからね」


『またかよ。……<ミズチ>そいつの名前はミズチでいいだろ』


「フフ、お父さんが名前を決めてくれましたよ。貴方の名前は、ミズチです」


「ク~!」



 どうやら喜んでくれたようで、また手を上げて小踊りしだす。


 そんなミズチを見ていると、リニア達の戦闘も終了したようでキルアリゲーターの死体が転がっていた。



「アミルちゃん、貴女がもう一匹を引きつけてくれて助かったわ。それでモンスターは?」


「あ、あれは……湖に逃げてしまいました」


「そうなんだ。確かに水のモンスターに火は効き難いからね。逃げてくれただけでも御の字よ」



 本当は雪兎があっさり倒して吸収しました、とは説明出来るはずもないので誤魔化す。リニア達もアミルに倒せるとは思っていないので、素直に信じてくれた。



「それでそのモンスターは何?」


「この子は、ミズチちゃんです。さっき仲間になりました」


「さっきって……あれ? ねえねえ、確かモンスタートレーナーって……」


「ええ、確かそのはずだけど……勘違いだったかしら?」



 アミルが小声でミズチを紹介すると、リニア達は何か引っかかった事があるようで、仲間たちに確認し合っている。雪兎もアミルも、何が疑問になっているか分からないで首を傾げていた。



「何か、変ですか?」


「あ、ごめんごめん。不安にさせちゃったね。ただね、私達の記憶ではモンスタートレーナーが使役出来るのは、1人につき1体だった気がしたのよ。でもアミルちゃんが3体も連れていけるって事は、私達の勘違いだったみたい」


(そう言えばモンスタートレーナーってスキルについて、詳しい情報はないからな。アミルも今まで目が見えなかったから周囲の情報は持っていないし……これはちゃんと調べた方が良さそうだな)



 今後は情報収集にも力を入れようと決め、今はリニア達の手伝いを続ける雪兎達だった。 



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