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8話 忌み子

 愛玩モンスターであるはずのスノーラビットに話しかけられ、アミルは驚いて声を荒げ目を大きく見開く。



『騒ぐな黙れ。近くで大声を出されると、うるさくてたまらん』


「あ、すみません。……それでユキトさんは本当に貴方なのですか?」


『そう言っているだろ。まあいい。ここにはもう用がないから出るぞ。ついてこい』



 そう言って雪兎は出口に向かってさっさと歩いていく。



「待ってください!?」



 アミルは急いで雪兎の後を追いかける。そして呆気にとられていたローラ達も我に返り、慌てて着いていった。残された奴隷商達も重い病と折れたはずの両足で元気に走っていくアミルに驚愕し、しばらく呆然と立ち尽くしていた。






「それでユキトさんはこれからどうするつもりですか?」



 奴隷市場から表通りに出た時、ローラは問いかける。



『そうだな、とりあえずこいつの生活費を稼がんといかんから、冒険者登録でもさせるつもりだ』



 雪兎は食事には困らないが、アミルはそうはいかない。食べる為にはお金がいる。つまり働かないといけないのだ。


 そしてローザの話では、子供でも実力があればやれる仕事の1つに冒険者がある。冒険者とは冒険者ギルドと呼ばれる大概どこの町にもある組織に属する者達の事で、そこにさまざまな理由で集まる依頼をこなす事で、報酬を得るシステムになっている。


 だがもちろんモンスターの討伐依頼もあるので、命の危険が伴う。



「え!? この子を冒険者にするって言うんですか?」


「わ、私が冒険者に!? む、無理です! 死んでしまいますよ」


『別に問題はないだろ。俺はモンスターと戦う理由があるし、こいつは金を稼げる。一石二鳥の仕事だ』


「……ユキトさんはお強いんですか?」


「それは保証します。オークぐらいなら余裕で倒せてしまいますし……でもそう考えると、これ以外の仕事はありませんね。んー、アミルちゃんをメインに見せるとなると……まずは服装をどうにかした方が良いですね」



 確かにローラの言う通り、今のアミルは汚れた布の服に裸足だ。死を待つだけの奴隷だったので、お風呂などにも当然入っていないのであろう。髪や顔も汚れている。



「私は奴隷なので、このままでも……」


「駄目です。女の子ならオシャレに気を使わないといけません」



 自分の立場を分かっているから、絶えず一歩下がった位置を歩いていたアミルは遠慮がちにしていた。だがローラは立場を気にする様子も見せず、普通の女の子として扱い、話しかけている。



「ローラ。あまりその娘と仲良くするな。その娘は忌み子だぞ」



 しかしローラの父親はアミルの事を毛嫌いしているようだ。そしてその言葉を聞いてアミルは顔を下に向けて「すみません」と謝る。



『さっきの奴も言っていたが、忌み子とは何の事なんだ?』


「ハヤテさんは知らなかったんですね。忌み子とは災いを呼び込むと言われる瞳を持つ者の総称です。大概の子は生まれてすぐに殺されるか、この娘のように目を潰されて奴隷として売られます」



 父親の話をアミルは暗い表情のまま、黙って聞いている。



『だが、お前の娘は気にしていないようだな?』


「私はそんな迷信なんて信じていませんから」


『潰される程の瞳か。さっき見たときには変に感じなかったが……おい、顔をこっちに向けてみろ』



 ずっと下を見ていたアミルだったが、主である雪兎の言葉には逆らうわけにはいかないので、少しビクビクしながら膝を曲げて視線を低くして前髪を上げて向かい合う。


 アミルの瞳は左右で色が違っていた。まるで空のような青い瞳と綺麗な宝石のような金色の瞳、雪兎はその瞳を気にいった。



『何か変なところがあるのか? 俺には宝石のような綺麗な瞳にしか見えないんだが?』


「え!? き、綺麗な……瞳……」


『そうだろ? 潰されるぐらい気持ちの悪い瞳だと思ったんだが、これなら逆に好かれるんじゃないのか?』



 確かにオットアイは珍しいが、忌み嫌われる理由には思えなかった。だがその言葉はアミルにとって予想外で始めて言われた褒め言葉だった為、ボーとしながら小声で何度も繰り返して確認している。



「そうですか。モンスターにはその左右の瞳の色が違う気持ち悪さを感じないようですね。私は早めに奴隷を買い変える事をお勧めしますよ」


『馬鹿か。確かに左右の瞳の色が違う人は少ないが、そんなの生まれたときからだから、こいつに責任はないだろ』

 

「ですが!」


『黙れ! これ以上口を開くな』



 さらに忠告しようとした父親の態度に、雪兎は睨みつけて黙らせる。



『さっきも言ったが、お前との契約はこいつを買った段階で終了している。これ以上俺の機嫌が悪くなる前に、さっさと視界から消えろ』


「……分かりました。確かに出過ぎたまねでしたね。ローラ、もう帰ろう。お前も疲れただろう」


「いいえ、私はもう少しユキトさんに付き合います」


「ローラ?」


「安心してください。アミルちゃんの服を選んで、冒険者ギルドの場所を説明したら帰ります」


「……あまり深入りするなよ」



 ローラの父親は諦めたようにため息を吐き、自分の家に向かって帰って行った。



『フン、まあいい。確かに服装のせいで低く見られるのも面倒だしな。おい、いつまでボーとしている。さっさとお前の服を買いに行くぞ』


「は、はい!」



 いまだ綺麗と言われた事でボーと呆けていたアミルに声をかけ、服屋に向かった。






 服屋に入ると元気良く店員が声をかけてきたが、いかにも奴隷ですよという恰好のアミルは目立ったので瞳の色にすぐに気付かれ、微妙そうな態度に変わる。


 しかしローラはとくに気にした様子を見せずに、勝手に服を選び始めた。



 この店には靴も売っていたので一緒に選び、今後の事も考えて何着か見繕った。もちろん代金は雪兎が払う。元々人攫いの金だし、とくに使う予定もないので気にしていなかったが、アミルには何度もお礼を言われた。


 服も買ったので次は冒険者ギルドに向かうと思ったのだが、何故か宿屋に案内される。



『……どうして宿屋に来るんだ? 冒険者ギルドはどうした』


「冒険者ギルドにも案内しますけど、暫くこの町に滞在するのだから宿屋は決めとかないといけないでしょ? それにこの宿はお風呂がついているんですよ。私もサッパリしたいし、アミルちゃんも綺麗にしてからギルドに向かった方が良いでしょ」



 ローラの言うとおり2人共汚れていたのし、安全に休める場所は欲しいと思っていたので納得する。宿屋の女将は忌み子の話を気にしていないし、ローラと顔見知りのようで気さくに話をしていた。



「ローラから聞いたよ。あんたまだ子供なのに、冒険者になるなんて凄いじゃないか。でも無茶をするんじゃないよ」


「はい。頑張ります」



 宿屋の女将、名前を<エリンダ>という。体格は熟年の女性にしては規格外にしっかりしており、普通の男なら殴り倒せそうな雰囲気を醸し出している。


 そんなエリンダと話をつけて、10日分の宿泊代を先払いした。そして2人はお風呂に入って良いと言われたので向かう。雪兎は受付の前で待つ事になった。



「あの子、アミルと言ったっけ。パッと見、普通の子供と変わらないようにしか見えないが、あんたみたいな強そうな雰囲気を出すモンスターを連れているなんて、凄いモンスタートレーナーなのかもしれないね」



 客がこないで暇そうにしていたエリンダは、雪兎を値踏みするように見て呟いた。



(この女将、俺のステータスが見えるのか? ……いや、おそらく経験からモンスターの実力を見極めれるのだろうな。なるほど、見た目通りの実力者というわけか)



 そんな2人が腹の探り合いをしていると、いつの間にかに時間が経っていたようでアミル達が戻って来た。

 

 お風呂に入って綺麗になったアミルは、栗色の髪に艶が戻り綺麗に整っている。ただ前髪は瞳の色を隠そうと長いままだった。服もさっきの店で買った物を着ており、緑色のノンスリーブの服に膝まであるスカートだ。生地が厚手のようなので、冒険者としてモンスターと戦う事を想定しているのだろう。


 その後、雪兎はこの世界に来てから体を洗っていなかったので、風呂に入る事にする。本人は淡々と風呂に向かっているつもりでいたが、アミル達から見るとその足取りは軽く、少し楽しみにしているように見えた。



 そして全員がサッパリしたところで、ようやく冒険者ギルドに向かう事になった。






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