プロローグ
誤字脱字があると思いますが、温かい目で見てくれると助かります。
ここは人間と魔族が争っている世界。
魔法やスキルを駆使し、世界中で現れるモンスターとも戦っている世界。
この世界に地球から転生してきた1人の男がいる。その名を<神社 雪兎>。
人ではない何者かに強力なスキルを貰い、異世界で力をつけていった。
そう聞くと魔王を倒す為に異世界から来た勇者を想像するかもしれない。だが本人に人類を救おうとする気は少しもなく、魔王と戦おうとも米粒ほども考えてはいなかった。ただやりたい事、面白いと感じた事をして、気にいらない奴をぶちのめすのに少しも躊躇しない。
目新しい異世界ライフを満喫するつもりだった。
『まったく……こんな相手を倒すのに、いつまでかかっているんだ』
「そんな事言ったって、こんなに沢山いたら……」
ここは森の中にある町と町をつなぐ広い道。そこに1人の女の子が10匹はいるであろう青一色の毛色の狼達に囲まれていた。
『言い訳いらない。さっさとこいつ等を蹴散らせ!』
そんな女の子の名前は<アミル>。目に涙を貯め、恐怖で腰が完全に引けている。
そんな彼女を守るように3匹の生物が戦い、その横で1匹の黒いウサギがやる気なさそうに寝転がってそれを眺めている。
戦っているのは赤と白の毛色のキツネ、青いペンギン、目と口がついた丸い石の生物だが、3匹共丸っこく、青い狼と比べてまったく強そうには見えない。黒いウサギを含め、誰が見ても可愛いペットにしか思えないだろう。
「みんな、が、頑張って!」
『そんな曖昧な指示を出すモンスタートレーナーがいるか! ちゃんと全体の流れを見て、1匹1匹に細かい指示を出せ!』
モンスタートレーナー……それはモンスターを仲間にでき、そのモンスターを鍛えて戦かわす事が出来る生まれながらの才能がないとなれない職業だ。その才能があったアミルだったが、戦う姿勢は絶えずビクビクして背中を丸め、指示も応援する事しか出来ない、臆病な女の子だった。
そんなアミルは戦い方を見ていた者に怒鳴り声を浴びせられるが、彼女を守る3匹は自分達で考え、アミルに近づけさせないように狼を一生懸命攻撃している。
だが敵の数が多いせいでもあるが、連携も何もない単発的な攻撃なので、とても効率が悪く、ダメージを受けた狼も暫くすると何事もなかったように戦線に復帰する。3匹も頑張って戦っているのだが、強いとは言えなかった。
『だいたい<ブルーウルフ>なんて、初心者冒険者でも倒せるような雑魚だぞ。お前も一応は冒険者なんだから、ビビっていないで敵をしっかり見ろ!』
「私が冒険者になったのは<ユキト>さんのせいじゃ……」
『はあ! 何か言ったか』
「何でもありません!? 頑張ります!」
脅しとも言える声にアミルは背筋をピンと張り、慌てて言い直す。そんな中、アミルを守っていたモンスターの防衛線を抜け、ブルーウルフが噛みつこうと口を開けて襲って来た。
「キャッ!?」
噛みつかれそうになった恐怖から目を閉じ、悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまうアミル。しかし何時まで経っても魔物の牙が届く事はない。
『たく……いちいち魔物が近くに来たぐらいで丸まるな!』
アミルが恐る恐る目を開けてみると、先程まで寝転がっていた黒いウサギが目の前に立ち、その先にブルーウルフが上空から落ちて、首が変な方向に曲がって息絶えている。
「ユキトさん! ありがとうございます!」
『そんな事を言う暇があったら、さっさと立ちあがって戦え!』
「す、すみません、腰が抜けちゃって……でも、ユキトさんはやっぱり強いんですね……」
『今は人の事はいいだろ!』
「……人じゃないのに」
『くだらない事を言ってないでいいから、立て! 次は助けたりしないぞ!』
もう一度言うが、この場に人間はアミル1人しかいない。そんな彼女に話しかけていたユキトとは、たった今ピンチを救ったやる気の見せなかった黒いウサギだ。もちろんウサギなので言葉は喋れない。今はアミルの頭の中にスキルを使って直接語りかけていた。
そして何時まで経っても座り込んでいるアミルに、黒いウサギは近寄り頭を叩く。
「痛っ!?」
叩かれた時の音は「ポコ」っと、可愛いものだったが、アミルは痛みで目に涙を浮かべている。
『泣き虫でビビりなお前にもう一度だけ立場を教えておく。お前は俺の奴隷なんだ! だから俺はいつでもお前を見捨てる事が出来るんだぞ!』
「……わ、分かっています。でも、ユキトさんは優しいですね。こんな私をいつも助けてくれますから」
ウサギがアミルの前に立って手を向けて怒っている為、ますます小さく丸まってしまう。それでも黒いウサギが立ち上がった事で安心したのか、いまだ戦闘中なのにモンスターに対する恐怖心は完全に消え去り、上目遣いで嬉しさと感謝を込めて見つめている。
ユキトとアミルの関係は主と奴隷。魔物使いが魔物に使われるという奇妙な関係だが、2人はとくに気にせず生活をしている。主にユキトがアミルを連れまわしているのだが、行動やキツい言葉の影に隠れている優しさを知っているので、彼女は困った顔をしてもついて行く事を止める気は少しもなかった。
『黙れ、もういい! 俺は暴れて来る。……言っとくがこれはお前のためじゃないぞ。俺のストレス解消のためだからな!』
そんなアミルの視線に負け、照れ隠しを言って黒いウサギは魔物の群れの中に跳び込んで行く。狼の集団の中に1匹のウサギ……まさに誰が見ても捕食者と餌にしか見えない構図だろうが、常識に反してブルーウルフは鈍い音と共に次々と宙を舞い動かなくなる。
「みんな、守ってくれてありがとう。そこにいるとユキトさんの邪魔になるから、戻っておいで」
アミルは自分を守ってくれている魔物たちを下げさせ、ユキトと呼ばれた黒いウサギの戦いを見守る。
「この世界も、ユキトさんがいた世界みたいに平和だったら良いのにね」
丸いキツネを抱き上げ、他のモンスターを7つの宝石が付いた腕輪の中に戻す。アミルは圧倒的な力の差を感じさせながら次々と蹴り倒していくユキトを見てそう呟く。
1分も経たない内に、モンスターとの戦闘は終了した。戦いを終わらせたユキトがアミルのところに戻って来たとき、倒したはずのブルーウルフの死体は消え去っている。
「お疲れ様です。相変わらずユキトさんの〈アブソープション〉は、不思議な現象ですよね」
『それについては俺も同じ意見だ。確かに奇妙なスキルだが、助かっているのも事実。これをくれた奴には感謝しないといかんな。ま、それよりさっさと町に向かうぞ。もう4日も野宿をしているから、いい加減風呂に入りたいしな』
「ユキトさんは本当にお風呂が好きですね。でもまだまだ町まではかかりますよ。……それより今の話は私と出会う前の事ですよね? ユキトさん、もしよければこの世界に来たときの話を聞かせてもらえませんか?」
『ん? お前と会ったのはこっちに来てすぐだったから、そんなに長い話にはならんぞ。それに俺にも曖昧なところがあるからな、信憑性には期待するなよ。……そういえば、お前の事も聞いてなかったな。先にお前の事を聞かせてくれ』
こうして旅の暇つぶしがてら、2人はお互いの過去を語り始める。
この世界は人と魔族が戦争をしている。数多くの冒険者が数々の職種を名乗り、己の生活を守る為に戦っている。
そんな世界とは違う世界から来た常識外れの人外ユキトと、モンスタートレーナーだが人見知りで対人恐怖症気味のアミルは旅をしていた。