始まりの夢
私は最近、不意に自分が死んでしまった世界を想像する。
それはおそらく、私は今が幸せで、この時間が永遠でないことを自覚するためであると思う。そして、自分が死んだ後、有希には有希の人生を謳歌してほしいと願うからだと思う。
☆
優しい物語が好きだ。楽しい小説が好き。
そして、声に出して読むことが好き。この気持ちに嘘はない。
小学生のときの宿題で、音読があった。幼い私はひらがなだらけのそのお話を一生懸命に読んでいた。今思えば、あの頃から言葉や文章を声に出して読むことが好きだった。
だから私の夢は漠然と決まっていたのかもしれない。
それでも、有希がいなかったら、私は今の世界に対応しきれなかっただろう。
高校での初めての夏休みが終わり、私が昼休みに図書室に通うようになった頃、彼のことを知った。
いつでも彼は、昼休みのはじめから終わりまで、ずっと窓際の席に座っていた。何かを書いているようで、時折窓をボーッと見ては突然思い付いたようにシャーペンを走らせていた。
ある日彼は、机に突っ伏していた。昼休み中ずっと。
それが3日続いた。
そして、それは突然起こった。
「ういさん、」
彼は斜め後ろの少し離れた席に座っていた私を見つめていた。
「卯衣さんだよね。 これ、」
腕を伸ばし、紙の束を私に向けた。