第六話
それは、彼女が全く予想していなかった不意打ちだった。
一鬼に対して、愛梨は心臓発作にでもあったかのように、胸を押さえつけ、頬を紅潮させる。
彼女は彼の不意打ちに思わず興奮してしまい、急激に早まった鼓動を必死に整えていた。
一鬼は、彼女にとって唯一生存している同類であり、同時に己を救ってくれた憧れの人だ。
ただのウインク一つでここまで興奮してしまう己を、彼女は恥じ、しかし同時に誇りに思う。
柿坂愛梨の人生は、その殆どが他者の思考によって埋め尽くされていた。
発狂しそうな程の情報量にもがき苦しみ、それでも生きてこられたのは彼女の両親の協力があってこそだ。
しかし、それでも高校生になった頃には最早限界だった……能力の増大に、彼女の精神は壊れてしまいそうだった。
常にあらゆる思考を感じ取り続け、彼女はある日遂に倒れた
そして、その時現れたのが神谷一鬼という男であった。
彼の傍に居るだけで彼女は思考が聞こえなくなり、その代わりに静かな子守唄が聞こえる。
その子守唄は彼女にしか聞こえないのか、他の者達は誰一人それに気付くことはなかった。
だからこそ、良かった……己は選ばれた者なのだと、彼女は思うことができた。
今まで苦しみながら生きてきたのは、この男に会う為だったのだと思うことができた。
そこから、二人の物語は始まった。
そこから、彼女は彼をどんどん好きになっていった。
「どうやら、協力を得られるようだ。これで情報が手に入る」
暫く電話で話していた一鬼は漸く通話を終えると、開口一番そう言った。
警視の協力が得られる……それはつまり、藍色の妖の足を掴むのに一番早い方法を得たということだ。
藍色の妖も『虹色の肋骨』である已上は宿主が存在し、活動可能な距離も限られている。
これから先も、きっと藍色の妖は食らい続ける。そこから行動パターンを読み取り、総攻撃を行い、殲滅すれば良い。
愛梨はそのことを良く分かっているし、一鬼は必ずそうするだろうという予感もある。
彼は身内以外に対しては無関心で、身内を守る為ならば犠牲にすることも厭わないだろう。
だが、彼も一応それなりの良心を残しているようで、被害は最小限に抑えるつもりのようだ。
放っておけば、大事な者達も巻き込まれる可能性があるのだから、その判断は間違っていない。
「しかし、藍色の妖はすぐに次の捕食を行うだろう。選ばれし子よ、数百人単位の犠牲は覚悟した方が良いぞ」
「分かっている。狩りは情報を集めてからだ。それまでは防衛に徹する。柿坂も、それで良いな?」
「はい。私は『虹色の肋骨』を利用してまでしたいことはありませんから、大人しくしています。下手に動いて家族を巻き込むのも嫌ですし」
「そうか……柿坂は両親しか身寄りが居ないんだったな」
「はい。先輩と似たような家庭環境です」
愛梨の両親の肉親は既に皆死去しており、現在残っているのは彼女達三人だけだ。
それは一鬼達も同じであり、基本的に親戚は皆死去している……しかも、その死に方は皆心臓麻痺という点に非常に恣意を感じる。
彼女は内心何かが裏で動いていることに気付いている……彼女とブルー・シャーマンは悪意に敏感だ。
この町に潜んでいる何かが、動き出そうとしているのを感じている。
愛梨は、一鬼もまたそれを感じ取っていると考えているが、彼はその素振りを見せない。
もしかしたら、気付いていないのかもしれない。彼は気付けないのかもしれない。気付けないようにされているのかもしれない。
そもそも、全ては一年前の事故から変わった……その日から、彼女達の運命は変わった。
大量の死と、怨念が入り混じったあの場で、全ては狂い始めた。
一鬼は知らないが、愛梨もまた一年前の事故に巻き込まれた被害者の一人なのだ。
「柿坂も大変だな」
「先輩、その……その柿坂という呼び方、そろそろ止めませんか? もう三年以上の付き合いになるんですから、名前で呼んでください」
「……そうだな。そろそろ、良いかもしれないな。俺達も、次の段階に進むか?」
「!? つ、次の段階って……もしかして……」
「これは流石に俺から言わせて貰おう。愛梨―――俺と付き合ってくれないか?」
「……っ」
微笑んでそう告げる一鬼から放たれる妖気に、愛梨は背筋がぞくりとするのを感じた。
彼の笑顔は彼女にとって美しかった。余りにも美しいが故に、遠くの存在のように感じてしまう。
その存在に手が届くばかりか、向こう側から手を差し伸べてくれたのだ……求めてくれたのだ。
彼女が嬉しくない筈がない。喜ばずにはいられない程に、素晴らしいことだ。
しかし、同時に、愛梨は一鬼を恐れる。
彼女は彼の本心を見ることができない……彼女の能力でも、彼の思考を読めないのだ。
いくら彼女が能力を限界まで使おうとも、ただ彼女を癒す子守唄のみが、そこにはある。
彼女も最初は心を読まないで良いことを喜んでいたが、同時に好きな男の心を読めないことを悔しく思った。
どうでも良い有象無象の心を読めるのに、最愛の男の心は少しも見えない……それが不安で仕方ない。
そして、その思いはブルー・シャーマンの訓練で能力を制御できるようになってから、余計に強くなった。
神谷一鬼の全てを知りたい、手に入れたい―――そんな欲望が、いつの間にか彼女の心の奥底に潜んでいたのだ。
「何、返事は今でなくとも良い。ゆっくり考えて、自分が後悔しない答えを出してくれ」
「……そんなこと、言われずとも決まっています。先輩、こちらこそよろしくお願いします。ずっと、好きでした」
「その言葉は嬉しいが、結論は急がなくても良いと言った筈だ。後悔はさせたくない」
「ご心配ありがとうございます。でも、私の答えは変わりませんので」
「……そうか。なら、これからよろしく頼む」
「はい!」
笑顔を浮かべて一鬼が差し出した手を握り返して、愛梨もまた微笑む。
一鬼の手は大きく、ごつごつしているが、それが妙な安心感を生むのを彼女は自覚した。
初めて出会った時から、彼女は彼に惹かれていた……彼の傍ならば生きていける気がする。
その感覚は、彼女だけが感じているものではないだろう。もしかしたら彼と出会った全ての妖が内心それを感じているかもしれない。
だからこそ、ブルー・シャーマンは彼を『選ばれし子』と呼ぶのだ。
神谷一鬼が無意識に生み出す子守唄は、彼に近づく全ての妖に聞こえる。
その唄の正体をブルー・シャーマンは知っていているであろうに、彼女に教えてくれはしない。
ただそれだけで分かってしまう……いかにその唄が凄まじいものであるかが。大切なものであるかが。
ブルー・シャーマンが口を閉ざすのは、彼の言っていた友人関係しかあり得ない……超越者と、その唄は関係があるのだ。
「ああ、そうだ。今更だが、その服似合っているぞ」
「ありがとうございます。ちなみに、先輩の好みの服装はどんなのですか? 私が着られるものだったら着ますよ?」
「……特に好みは無いな。他人様に見せられる服では」
「他人に見せられる?……って、先輩! セクハラですよ!?」
「まぁ、そういうことだ。余り気にしないで良いぞ」
付き合う已上、双方ともに互いの服装には注意するものだ。
だからこそ愛梨は一鬼の好みに合わせた服を着ようと思ったのだが、思わぬ返答に顔を真っ赤にした。
彼が意味するのは、他人様に見せない時に着る服、つまりそういう用途のものである。
勿論彼がそれを本気で言っている訳ではないことは分かる……彼女はからかわれたのだ。
一鬼は確かに優しいが、時々酷く意地悪であることを愛梨は知っている。
おそらく、彼の妖の血肉がそうさせているのだろうが、それにしても、意地悪にも程がある。
彼はSかMかで言えば、間違いなく極端なSだと言えると彼女は考えている。
日頃は優しさでそれが覆い隠されているが、時たまその本性が見え隠れするのだ。
SはサービスのSと言うくらいなのだから、ある意味彼の性格には合っているのかもしれない。
「まったく、先輩は真面目そうな顔して変態さんなんですね」
「男は皆そういうものだ。紳士ぶって近づいてきても、内心は欲望まみれな時も多々ある。とは言っても、言うまでもなく知っているか」
「……そうですね。ただ、先輩の心を読めないのは惜しいですけど」
「俺の心を読めてしまったら、多分絶望するだろうな。こんな何も考えていない男が、自分の彼氏だなんて、と。それで、即刻別れることになるだろう」
「いや、どれだけ自分に自信ないんですか。もっと自信を持ってください。先輩は私の自慢の先輩です!」
「……ありがとう。そう言って貰えると嬉しい」
愛梨も、実際は一鬼が変態などとは思っていない。
それを言ってしまえば、男は皆そうだし、そもそもそういう気がなければ、子孫ができない。
彼女はただからかわれたので、お返しにからかっただけだ……彼がどのようなことを望んでも、応えられる範囲ならば彼女は応える。
それがいかに変態的であっても、残酷なものであっても、彼女は応えたい。
今まで彼女は彼から貰ってばかりだった……平穏も、静寂も、暖かさも、彼女は与えられてばかりだった。
だからこそ、彼女はそれに応えたい……ただ与えられてばかりでは、依存するだけだ。
依存するのは簡単だし、彼もきっと受け入れてくれるだろう。
だが、依存しきって何一つ返せなければ、彼女は本当に彼にとって価値がなくなる。
己の存在価値を求めている一鬼だからこそ、愛梨もまた存在価値を示さねばならない。
彼の前で自ら存在価値を放棄するのは、それこそ彼の怒りを買い、悲しみを積もらせるだけだ。
彼女が彼に応える最良の方法は、彼女がその存在理由を強く示し、彼を安心させることである。
だから、彼女は彼を支え、受け入れるという存在理由を強く示す。
いかに、それが他者に依存している存在理由だと分かっていても、彼女にはそれしかないのだから。
「先輩……キス、しません?」
「……俺達は、今この瞬間に付き合い始めたばかりだ。そういうのはもっと間を開けるものだぞ」
「良いじゃありませんか。私達、もう三年間もこうしているんですから、三年間付き合っていたも同然です」
「いや、しかしな……それだと、それ以上も―――」
「良いんですよ? 先輩が望むのなら、もっと踏み込んだ関係になっても……」
不安げに見下ろす一鬼を内心可愛いと思いながらも、愛梨はしなをつくる。
服によって元々強調されている胸を更に強調し、彼に顔を近づけながら、彼女は内心酷く緊張していた。
ファーストキスすらまだで、誰かと付き合った経験などない彼女にとって、この状況は聊か段階を飛ばし過ぎている。
だからであろうか?……彼女は己の中にある熱を抑えきれないでいた。
一鬼の頬に触れた瞬間、彼の赤い眼を見た瞬間、燃え上がる欲望に、彼女は涎が垂れそうになるのを堪える。
目の前にある果実を貪り食らいたい、そして己も貪り食われたい……そんな獣欲が、彼女の全身を駆け巡るのだ。
きっと今彼女は途轍もなくだらしない表情をしている……そう彼女自身も分かっていながらも、止められない。
愛梨は、欲望を抑えている一鬼に、その欲望を解き放っても良いのだと眼で伝える。
彼とて男であるし、そういう欲望がない訳ではない……相手が同類ならば猶更だ。
このまま押せば、彼は流されながらも、彼女を求めてくれる……そんな確信が彼女にあった。
だから、彼女はそのまま頬に触れていた手を少しずつ下げていき、彼の服に手をかけようとし―――吹き飛ばされた。
「きゃっ!?」
「……碧」
「殺戮者よ……我々が止めなければ、この一撃は愛梨を殺していたぞ」
「……他人様のものに手を出した罰よ。半妖如きが、妖狐のものに手を出して無事で済む筈がないでしょう」
訳が分からず、痛む体に異常がないことを確認して立ち上がった愛梨が見たのは、一鬼に後ろから押さえられながらも、ブルー・シャーマンの胴体を腕で貫いている碧の姿だった。
その新緑の眼が色濃く嫉妬と殺意を映し出すのが、彼女には分かる。
愛梨には妖の心を読むことはできないが、それでも今の碧が何を考えているのかは凡そ分る。
その眼の色と同じ緑色の炎が、奥底で燃え盛っているのが理解できた。
だから、愛梨は碧を醜く思う。傲慢で、貪欲で、嫉妬深いと感じる。
一鬼の様子からして、彼女達の間にそういった関係がないのは明らかで、嫉妬し、殺意を抱くのは筋違いだ。
何がしたいのかがまるで分からない。ブレ過ぎている癖に、その怒りと嫉妬は本物である。
愛梨も確かに精神的な問題を抱えているし、一鬼と家族の為ならばそれ以外を排除するのは躊躇わない。
それでも、筋は通す……己がこういう存在だと、一本道を他者に示せる。
そして、目の前で怒る妖狐に―――それは無かった。
「……ゲホッ」
「愛梨、大丈夫か?」
「はい……なんとか。多分、異常はないと思います」
「碧、俺達は協力関係にある筈だ。俺が守るべきものを傷つけるようならば、俺はお前と敵対するぞ」
「……一鬼。貴方は、そうやって優しくするから大切なものを失うのよ。あの時もそうだった……貴方が私に情けをかけたせいで奴は―――」
「……何を言っている?」
愛梨に対しては嫉妬と殺意を向けている筈なのに、一鬼に向いた途端にそれは諭すようなものに変わる。
彼女が必死なのは愛梨にも分かるが、その必死になる理由を話さなければ、事態は進まない。
それを分からない程愚かではない筈なのに、碧は彼に言い聞かせようとする。
碧のそんな姿が、愛梨には酷く醜いものに見えて仕方ない。
彼女だけでなく、ブルー・シャーマンも既に気が付いている。
鋭い眼を向ける一鬼を見る碧の眼の奥に、怯えと甘えが潜んでいることも、彼女の耳と尾が不安で萎縮していることも。
何故そこまで一鬼を恐れる必要があるのか分からない愛梨には、その光景は非常に滑稽なものだ。
力では一鬼の実に十万倍近くある碧が、彼を恐れ、怯える理由が何処にあるというのだろうか。
もしも、一鬼が碧を超える力を持つのならば、彼らが愛梨達に協力を求める必要は無かっただろう。
今の碧の一撃だって、未然に防げていてもおかしくなはない。少なくとも愛梨が吹っ飛ぶようなことはなかった筈だ。
だからこそ、分かる。碧が恐れているのは彼女だけが知っている何かで、それは一鬼本人でさえ知らないものだということが。
だからこそ、愛梨は一鬼の心を、そしてその奥に潜む何かを見ることができないことが、益々悔しくなるのだ。
「殺戮者よ、お前はそこまでして選ばれし子を縛るか。真実が明らかになった時、苦しいのはお前の方だぞ」
「……貴方、やっぱり知っているのね。奴の知り合いが海の向こうに居たなんて、思いもしなかったわ。やはり、ここで消しておくべきかしら」
「碧、いい加減にしろ。これ以上問題を起こすようならば、約束は無しになるぞ」
「っ……分かったわ」
一鬼の鋭い眼光に、碧は怯んで渋々引き下がった。
悲しげに垂れ下がる耳と尻尾からは哀愁が漂うが、愛梨としては同情する余地は無い。
協力関係を結んだその日に攻撃などされては堪ったものではないし、そもそも宿主の意思に反しているのもダメだ。
ブルー・シャーマンも愛梨の指示に従わないことは多々あるが、そこには理由があるし、それをしっかりと説明してくれる。
だが、碧はそれを一鬼にしないし、彼が求めても気まずそうに目を逸らすだけだ。
確かに彼女は強いかもしれない。純粋な戦闘力ではブルー・シャーマンを圧倒するだけの力があるだろう。
しかし、それだけだ。その不安定な精神は非常に危険で、近づくことすら躊躇われる。
最初から不安定だと分かっていれば良いが、生憎平時の彼女はポーカーフェイスだ。
いざという時しか、彼女の不安定さは実感できない。
「愛梨、ブルー・シャーマン、済まなかった。協力関係を結ぼうとこちらから言っておいて、いきなりこんなことになってしまったのは、こちらに責任がある。信用できないとは思うが、ここは俺の腕一本で我慢して欲しい」
「なっ!? 一鬼、駄目よ!!」
「お前は黙っていろ。話がややこしくなるだけだ。ブルー・シャーマン、どうだ?」
「認めん。私達に謝罪したいのならば、別のものを提供して貰う」
「別のもの? ブルー・シャーマン、何を?」
「愛梨よ、我々に必要なのは力だ。そして、その力がこの子にはある」
愛梨は、腕一本を引き換えにしようとする一鬼と、意味深なことを告げるブルー・シャーマンの双方に驚かされる。
何の躊躇いもなく片腕を引き換えにこの場を治めようとする一鬼には、もっと自分を大事にして欲しいと思うし、ブルー・シャーマンはいちいち含みを持たせ過ぎだ。
彼女からすれば、どちらも問題があるが、やはり一番の問題は一鬼の隣で不安を隠せないでいる碧である。
彼女は不安手過ぎる……一鬼の前では猫を被っているとしか思えない不安定さだ。
特に、彼に近づこうとする者に対する敵意は半端なものではない。
あんなことを続けていれば、一鬼はいずれ一人になってしまうだろう……それを狙っているのかどうかは、愛梨には分からないが、そうなることは容易に想像できる。
そもそも、碧は怪し過ぎる。一鬼を不要に縛る癖に、自分は肝心の情報を明かそうとしない。
碧は信用できない―――そう、愛梨の本能が告げていた。
「っ……一鬼、良いの?」
「良く分からないが、その力とやらで皆を守れるのならば、喜んで手放そう」
「勘違いしているようだが、私は力を奪う訳ではない。寧ろ、目覚めさせるのだ。記憶と共にな。選ばれし子よ、私達はお前を完全なる妖にするつもりだ」
「完全な妖?……ブルー・シャーマン、そんなことができるの?」
「ああ、この子は愛梨とは違って、妖から生まれた純然なる妖だ。できないことはない」
「……それが本当ならば、是非とも頼みたい。俺は皆を守りたい。その為ならば―――人間だって止めてやるさ。いや、この言い方は違うな。化け物に戻るのも怖くはない」
一鬼を完全な妖にするという眉唾物の話を始めるブルー・シャーマンに驚いた愛梨だったが、一鬼の決意に満ちた表情に、そんなものは吹き飛んだ。
決意をした時の彼はいつにも増して美しく、怪しげな魅力を見せつけてくれる。
彼は壊れていて、愛梨とは違い、人間であることを最初から止めていた。
だから、彼は化け物だと言われても揺るがないし、寧ろ誇らしくあるのだろう。
力に溺れることはないが、力を求めることは忘れない……高みを目指して彼は進む。
半妖である彼女には分かる……彼は人間など最初から眼中にないのだ。
本当はこの弱弱しくも様々な色を見せる人間達を捨てて、ただひたすらに最強を目指したいと、彼は考えている。
家族こそがその枷であり、彼がまだ人間を止めていない証拠だ。
一鬼は家族の為に人間であることを止める覚悟があるが、その家族こそが人間を止めることを阻害している。
それが分っていながらも、進もうともがく彼はもどかしく、しかし美しい。
「分かった。一週間程待ってくれ。その時には愛梨にも手伝って貰う」
「えっ、私が? でも、私はそんな力……」
「私だけでも良いが、愛梨が居た方が効率は格段に上がる。あまり時間をかけるのは良くない」
「愛梨、俺からも頼む。力が手に入れば、家族もお前も守れるんだ」
「……分かりました。そこまで期待されたら、受けざるを得ません!」
「助かる」
ブルー・シャーマンの突然の言葉に驚いたものの、愛梨は一鬼の頼みもあってそれを承諾する。
それに満足したのか、微笑みながら頭を撫でてくれる一鬼に、彼女は己の頬が緩むのを感じた。
彼から聞こえてくる子守唄は、やはり彼女を癒してくれる。
神谷一鬼と一緒に居れば、守られていると実感することができる。
「ちっ……」
「殺戮者よ。気に入らないのならば、力ではなく言葉で結果を変えるのだな。力で解決するにも、まず互いに言葉を交わして、それを了承してからだ。それをしないから、無駄な死者が出る」
「分かっているわよ。私は……そんなことはしない」
「……なら良いのだがな」
対峙するブルー・シャーマンと碧の放つ空気は鋭く、乾いている。
そこから分かる、今まで面識がなかった筈の彼らの間にある、何かしらの因縁のようなものに、愛梨は冷や汗が出るのを感じた。
この距離ならば、碧が先に愛梨を殺して全てが終わる。せめて五メートル離れていれば、ブルー・シャーマンが彼女を幽閉して終わる。
純粋な戦闘力では比べるまでもないが、総合力ならばブルー・シャーマンの方が何万倍も強い。
「色々と脱線してしまったな。取りあえず、今日の夕方俺は知り合いの警視と接触する。その結果はすぐに知らせるつもりだ」
「分かった。情報が入り次第、場所を絞っていこう。今決めるべきことは、それで良いか?」
「ああ」
「なら、愛梨の相手をしてやってはくれないか? ご両親は暫く帰ってこないようでな」
「えっ?」
「別に構わないぞ。愛梨、何かリクエストはあるか?」
「ありがとうございます! それじゃあ、いっぱいお話しましょう!」
凡その方針も決まった処で、ブルー・シャーマンの思わぬ言葉に愛梨は驚いたが、一鬼の返事に直ぐに微笑んだ。
もっと彼のことを知りたいが、彼の心を、過去を読むことは彼女にはできない。
だが、それがどうした?……そんなことは、人間ならば当たり前のことであり、それでも誰かと寄り添っているのだ。
この程度で挫けていては、寄り添うことなどできない。
愛梨は妖であり、人間でもあるが、そのどちらも捨てるつもりはなかった。
人間を捨てれば、今まで彼女を支えてくれた両親を裏切ることになるし、妖を捨てれば、彼女の心を救ってくれた恩人である一鬼を裏切ることになる。
彼女はどちらも捨てるつもりはないし、どちらも守るつもりだ。
それしかない……それしか彼女には選べない。
一人では到底守り切れないだろうが、今はブルー・シャーマンが居る。
二つの手では零れ落ちてしまっても、四つの手ならば、掬いきれる……零さずにいられる。
今まで散々守って貰ったのだ……それに応え、今度は彼女が守る番だ。
今の彼女には力がある……ブルー・シャーマンという、ある意味では最強の力を持つ超越者が。
その力の使い方さえ間違えなければ、彼女は大切なものを守り切れる筈だ。
だからこそ、彼女は誓うのだ―――自分の力から逃げない、と。
佐村敬吾は、今まで散々修羅場を掻い潜ってきた……死を感じさせる程の殺気を感じたことはいくらでもある。
重傷を負って死にかけたことも幾度かあり、死を身近に感じたのは一度や二度ではない。
彼はあと数年で五十台に突入するような年齢だが、それなりに鍛えてあるので半端な輩に負けることはないだろう。
彼は銃撃と格闘においては非常に優秀な成績を収めていたし、修羅場を経験したことで、精神的にも頑丈だ。
しかし、そんな彼が以前から恐れている存在が一人だけ居る。
それは十九年前、彼の目の前に親友の息子として突然現れた……余りにも不自然なタイミングで。
親友はマメな男で、もしも子どもができていたのならば、すぐに彼に知らせていた筈だ。
だというのに、その時だけは生まれた後の報告という、異常な状況だった。
事実、その後に生まれた第二子に関しては、妊娠が発覚した段階で報告があったのを彼は覚えている。
その不気味な何かは、それ以来ずっと彼の視界の端で蠢いていた。
人間の皮を被りながらも、その異常性を遺憾なく発揮し、彼の娘を助けるということもあった。
彼はそれに感謝し、ただ恐れるしかなかったが……いつしか、それが利用できる存在だと気付く。
だから、今まで散々利用してきたのだ……より多くの人間を守る為に、化け物の力を借りてきたのだ。
そして、その化け物は―――今、彼の目の前に居た。
「まぁ、座れや」
「失礼します。佐村さん、相変わらず元気そうですね」
「そういうお前は、随分と血色が良くなったな。最近良いことでもあったか?」
「はい、最近同類と会えまして。楽しくやっています」
「……そうか」
娘と妻が用事で外出しているのを良いことに、自宅の台所でコンビニ弁当を食べながら、敬吾はそれに座るように促す。
相対するそれは、苦笑しながら座り、同じく用意されたコンビニ弁当を食べ始める。
その血色の良さに、彼は違和感を抱いて質問をすると、恐ろしい返答が返ってきた。
それは同類と言った……つまり、異質な化け物がこの町に他にも居るのだ。
まだ実害はないが、危険であることは違いない……だから、彼は警戒する。
一人でさえも、恐ろしい何かを感じさせるのに、これ以上増えられては堪ったものではない。
今起きている事件に関しても、目の前に居るそれがどうにも怪しいのは確かだ。
油断すれば、次に死ぬのは自分かもしれない……それを感じているからこそ、常に保険はかけておく。
既に、この部屋にはいくつかの盗聴器が設置してある。
「それで、お前はどうやって件の事件のことを知った? 俺達も知ったのは今日の午前中だぞ?」
「それに関しては確かな情報筋から聞きました」
「……情報を漏らしたバカが居るのか」
「いいえ、それに関してはご安心を。警察から情報は漏れていません。漏らしたのは、犯人の方です」
「!? 犯人と接触したのか!?」
「いいえ、残念ながら。接触があれば、既に潰していますよ」
犯行現場が発見されたのは昼前であり、敬吾もすぐに現場に向かった。
その時点で電話があったのだから、午前中に情報を得たか、はたまた犯人なのか……そのどちらかの可能性しかない。
勿論、ファンタジーにありがちな、読心能力だの何やらならば可能なのかもしれないが、そんなものは存在しないのだ。
存在するのならば、是非とも彼は欲しかった……犯人を見つけるのに、確実に役に立つのだから。
しかし、その結果目の前のそれのようになるのは、彼としては微妙な気分だ。
「で、お前が言っていた情報提供とやらはどういうことだ?」
「ええ、実は俺達もその犯人を追っているんです。その為にも、警察の持つ情報を参考にしようと思っていて、佐村さんに話をしたんです。今まで協力した見返りを、そろそろ有効活用しようかと思いまして」
「……そう上手くことが運ぶと思うな、ガキ。お前に情報を与えた処で、何も変わらん。ただの情報漏洩でしかない」
「そう思っているのなら、それでも構いません。その場合は、俺は家族だけを守ることに専念して、確実に犯人を捕捉できるまでは引っ込みます」
「一鬼……まさか今回に限って協力しないつもりか? ここまで強大且つ得体の知れない獲物を前にして、猟犬無しで狩りをしろと?」
神谷一鬼……それが今、佐村敬吾の前に居る化け物の名前だ。
彼の娘である佐村優希の幼馴染にして、彼女を成長させた大きな要因……それが彼だ。
その圧倒的な暴力は、今ここで戦えば敬吾を圧倒する程のもので、実際に戦えば負けるのは彼の方に違いない。
いかに彼が警察官として鍛えていても、圧倒的な身体能力の差というものは埋められないのだ。
真正面からぶつかれば、勝率は限りなく低い……それ程の差が二人の間にはある。
一鬼は敬吾にとって非常に奇妙な存在だ。
娘の幼馴染としての評価は高いし、捜査への協力に関しても高い評価をしている。
しかし、それでも彼はその人の形をした化け物を完全に認めることができないでいた。
能力は認めながらも、いつ変質するのか分からないそれに、警戒し続けるしかないのだ。
いつ化けの皮が剥がれるのか分からない……それが、彼にはどうしようもなく不安だった。
「いいえ、協力はします。ただ、犯人に辿り着けるかは分りません」
「手を抜くつもりか? そのお前の我儘で、より多くの犠牲者が出るのかもしれないんだぞ?」
「佐村さんは知っている筈です。俺は、家族さえ無事ならば他はどうでも良い男だと」
「……だったら、何故今まで俺の協力をしてきた? 他がどうでも良いのなら、協力する必要はなかった筈だ」
「今までは家族へ害が行かない為の予防でした。警察に任せておけば、問題ありませんでしたから。ですが、今回は違います」
「警察には任せられない、と?」
己の言葉に静かに頷く一鬼に、敬吾は頭が痛くなってきた。
確かに警察はこの町で起きた一連の事件の犯人の足取りを少しも掴めていないが、この男はそれを無能扱いしたのだ。
彼もそれに反論できないのが悔しいが、元々警察の力はそんなものだと考えることにした。
警察は証拠さえ見つければ、そこから一気に猟犬の如く犯人を捕捉できるが、それが無ければ、確かに無能なのだ。
そもそも、今回の一連の事件は明らかに異常だ。
人間のものとは思えない犯罪ばかりが起こり、証拠も少しも掴めていない。
証拠らしい証拠があったのは、先日見つかった指名手配中だった連続殺人犯が肉片で見つかった時くらいだ。
その時に見つかった証拠は足跡だが、そこから判別できたものは殆ど関係者を絞り込めなかった。
「今回の一連の事件に関しては、犯人を捕まえようとは思わない方が良いでしょう。俺も、そんなことができるとは思っていません」
「なら、どうすれば良い?……いつかの言葉通り、殺しでもするのか? いかな大量殺人犯人であろうとも、法で以て裁かれるべきだ。そうしなければ、法の存在価値がない」
「その法が縛れるのは人間だけです。佐村さん、俺のような化け物は、そんなもの気にしません。それに……貴方達では捕まえられないでしょうね」
「随分と言ってくれるな。それで、お前ならば捕まえられるのか?」
敬吾は、一鬼の歯に衣着せぬ言葉に対して、怒りを抑えながらも続ける。
ここで激昂して彼に殴りかかっても、そのまま返り討ちに会い、最悪殺されることを、彼の直観が伝えているのだ。
それ程までの力の差が二人の間にはある……例え敬吾が銃を所持していても、それは変わらないだろう。
野生のグリズリーが目の前に居る程度に思っていなければ、咽元を噛み千切られる。
「捕まえることはできませんが、この一連の事件を終わらせることはできると思っています」
「その自信は何処から来る? いかに身体能力が高かろうが、お前はただの人間なんだぞ?」
「嘘つきですね、佐村さんは。貴方が俺を人間だと思ったことなど、一度もない筈だ」
「……化け物にでもなったつもりか?」
「そんな処です。歯には歯を、と言いますから」
敬吾は、一鬼の言葉に頭を強打したようなショックを受けたものの、すぐに立ち直った。
己の本心を呆気なく見抜かれたことへの恐怖を抱きながらも、彼は目の前に居る怪物を止められないことを悟る。
既に彼は覚悟を終えてしまっている……その覚悟を別の方面に活かせたならば、どれだけ良かっただろうか。
そうはならなかったことが、彼としては非常に惜しい。
彼には、この怪物が確実に何かしらの形で歴史に名を刻むという確信があった。それだけの能力が確かにあった。
「お前は……いや、もはや何も言うまい。良いだろう……やってみろ。俺からも、可能な限り情報を回そう」
「ありがとうございます。こちらが望むのは、犯行時間と犯行場所の情報が主です」
「それだけか?……他に、何か欲しい情報は無いのか?」
「はい。犯人から何かしらのメッセージがあったのならば、それを見るのもありですが」
「……メッセージかは分からないが、今日の現場では、被害者の血で鳥のような顔が描かれていた。それは何か関係しているのか?」
「! 鳥のような顔ですね……ありがとうございます。非常に参考になります」
迷った末に、敬吾は一鬼の好きにさせることにした。
一鬼を抑えた処で犯人が見つかる訳でもないし、寧ろ彼を猟犬のように野に解き放った方が可能性はある。
何よりも、今までの実績がある為、下手に疑う必要も心配もなくて良い。
寧ろ、犯人が複数犯ではなく単独犯だった場合は、彼はご愁傷様と言ってあげたくなるくらいである。
早速何かに感づいたらしい一鬼に、敬吾は何故警官を目指してくれなかったのかと、少しばかり悲しくなる。
日本ではなくもっと犯罪が多い場所に行った方が役には立つだろうが、彼としては日本、特にこの町に来てくれると有難い。
現場において獲物を探す猟犬としては、確実に彼は大物であることが分かっているからだ。
それと同じくらい人殺しなどでも活躍しそうなことが、恐ろしい点ではあるが。
「それで、これからどう動くつもりだ?」
「まず、犯行現場から犯人の居場所を絞ります。今回の犯人も、前の連続バラバラ殺人犯と同じで行動範囲が決まっている筈ですから。その為にも、次の犯行が起こった場合、直ぐに知らせてください」
「……そうか。次の犯行が起こるまで、お前は待つつもりなのか」
「一回だけでは絞り込めません。他に何か情報があれば、状況は別ですが」
「犯行現場は北の廃工場、時間は昨夜の十時頃だそうだ。今はそれくらいしか情報がない」
敬吾は一鬼の言葉に怒りを覚えながらも、先程の言葉を思い出し、それを振り払った。
一鬼は守りたいものさえ守れたならば、それ以外はどうでも良いと言っていたし、実際そうだろう。
そんな彼に対して何かを言った処で、効果があるとは敬吾には思えない。
それに、彼の言葉で敬吾はとあることに気付けた……そちらの方が、今は重要だ。
被害者には確かに共通点など殆どないが、全員が住んでいる場所はそう離れていない。
一番遠い場所でも、精々1km程度の距離しかない……つまり、範囲は限られていることになる。
しかし、それが本当に犯人の居場所と関係あるのかと言われてしまえば、敬吾は肯定できない。
それ程までに、曖昧な情報なのだ。
地図を広げて実際に範囲をおおまかに示してみても、そこから重大な情報は見つからない。
「一応、被害者達の住所はそれなりに近い。それに、聞き込みから割り出した、襲われたであろう場所を考えれば、もっと狭まるな。大雑把だが、円で表せばこのくらいか」
「成程。住所も確かに重要ですが、こちらとしては、やはり当日の夜に何処に居たかが大きいですね。今回も犯人は無造作に、手当たり次第に襲っている筈ですから」
「確かにそうだな。取りあえず、この地図は持っていけ。もうすぐゴールデンウィークだが、その時に動くのか?」
「ええ、そうなると思います。犯人に辿り着いたら、連絡します」
「ああ、その時は迷わず連絡を寄越せ」
たった一晩で二十人以上を攫い、一ヶ所に運び、それでも気付かれないような犯人だ。
これ程のことは単独犯では不可能に近いが、もしも単独犯だったとしたならば、その力は半端なものではない。
いかに一鬼が規格外だとしても、まともにぶつかるのはキツいだろう。
今回ばかりは、流石の化け物も相当苦戦するであろうことは、間違いない。
「そういえば、あいつは元気にしていますか?」
「ん? 優希のことなら、元気だぞ。今頃女房と一緒に外食してる頃だ。それに引き換え、俺はコンビニ弁当……悲しいねぇ」
「はぁ……それでは、そろそろ失礼します」
「ああ、気を付けて帰れよ……というのも、お前には不要か」
コンビニ弁当を食べ終わり、玄関へと向かう一鬼を見送りながら、敬吾は内心その背中に圧倒されていた。
身長で言えば差は殆どないが、その背中から溢れ出す覇気がまるで比べ物にならない。
本当に鬼にでもなったのか、今までの彼とは思えない程の力強さがそこにはある。
異常なまでの能力の持ち主ではあったものの、何処かずれていた筈が、何かがカッチリとはまったようだ
まるで迷いがない……恐ろしい程に、真っ直ぐで、力強い。
こんなにも力強いというのに、彼はまだ己が彷徨っていると思っているのだろうか?
この一週間少しで彼は大きく変わった……何があったのかは分からないが、このように自発的に動くのは非常に珍しいのだ。
明日は雪でも降るのではないかと思ってしまう程である。
高橋一矢の死がそれを引き起こした可能性を考慮すると、酷く思い気分になるが。
「ああ、それと……今度からは盗聴器は無しで頼みます。弁償はできませんので」
「はっ?……―――!?」
してやったりとでも言いたげな横顔を見せたまま、一鬼が去っていくのを、敬吾は暫く固まって見送る。
そうして、暫くしてすぐさま台所に戻って盗聴器の置いてある場所を確認すると、そこには見るも無残な形になった盗聴器が転がっていた。
一鬼が気付けないような場所に置いておいた筈が、気付かれていただけでなく、破壊されていたことに、彼は思わず溜息をつく。
敬吾の本音としては、弁償しろと言いたい処だが、それを言うのは筋違いだ。
盗聴していたことを棚に上げてそれを弁償しろと言うのは、余りにも大人げない。
しかし、一鬼がどうやってこの盗聴器の存在に気付き、尚且つ破壊したのかは彼にはまるで分からなかった。
彼は一鬼から眼を離すことは無かったし、明らかに盗聴器を潰す暇はなかったのだ。
「……本当に、化け物になっちまったのかよ」
敬吾の疑問に答えてくれる者は、そこには居なかった。
カラカラと風に合わせて回る風車を見つめながら、食人鬼である緋蓮は、生肉に齧り付いた。
闇を生み出す木々の間から見える新月が、足元に転がっている肉片を照らすが、彼女はそれに見向きもしない。
どうせ、指名手配中の殺人犯なのだ。彼女には、それがどうなっていようと敬意を払う必要は無かった。
人肉が妖にとって美味なのは、きっと嘲笑の味が酷く美味だからなのだろう……少なくとも、彼女はそう思っている。
人間は不思議なもので、ただの猿がいつの間にか妖と同じような姿になっていた。
何故彼らは妖の姿へと近づこうとするのか?……それは、妖を恐れ、しかし同時に憧れるからだ。
妖に対抗しようとし、姿を真似はしたものの、実際には少しも近づけていない。
彼女達からすれば、それは非常に滑稽で、しかし面白い喜劇だ。
最弱といえる領域の妖ですらも、人間の成人男性よりも遥かに高い身体能力と、何かしらの能力を持つ。
一流のアスリートレベルですらも、彼女に迫る程の身体能力を持つ者は居ない。
人間が勝てるのは最下位の妖……一尾程度で、中級にもなれば、その力は途方もなく、人間では手も足もでない。
近代兵器を使えば話は別だが、純粋な戦闘能力では人間は絶対に妖には勝てないのだ。
「緋蓮、下品な食い方は止めろ。見ていて気分が悪い」
「ハッ……そもそも自分と同じ同族を食っていることに突っ込めよ、羽月」
「そんなことはとっくに受け入れたさ。それよりも、一鬼から連絡があった。藍色の妖の活動範囲を凡そ掴んだようだ」
「は?……もうかよ! 後十人くらい食えたら、大分楽なんだが、こりゃ無理だ。お前の親友は手が早いな」
「女関係以外はな。取りあえず、半一キロ程度には絞ってあるそうだ」
肩を竦める佐藤羽月……彼女の宿主の言葉に対して、緋蓮は内心苦笑した。
神谷一鬼という男は確かに高い能力を持ち、あらゆる分野で彼女を上回っている。
実際に戦った時も、一瞬で決着をつけられてしまったのは、まだ彼女の記憶に新しい。
身体能力にはそこまでの差がなかった筈なので、それ以外の部分で圧倒されてしまったのだろう。
羽月は神谷一鬼を己の義母である佐藤綾子と結ばせようとしている。
彼の叔母である綾子は、今年で三十五歳になるが、その容姿は非常に若々しく、見た目だけならば二十代前半に見えると言っても良い。
そんな叔母だけが彼に残された家族であり、彼は叔母を幸せにして欲しいし、父性も求めている。
そこで白羽の矢が当たったのが神谷一鬼という男……否、化け物だ。
しかし、そんな羽月の考えが緋蓮には理解できない―――妖と自分の義母を結ばせるなど、いかれているとしか言えない。
「早かった割に、随分はっきりと絞ったな。本当に大丈夫なのか?」
「さあな……鬼が出るか蛇が出るか。行動はゴールデンウィークに本格的に行うそうだ」
「ゴールデンウィーク?……おいおい、宿主が何処かに行っちまうかもしれないだろう? 他の国にでも行かれたら、向こう側でやりたい放題だぞ?」
「確かにそうだが、そこは祈るしかないな。それに、この町だけに『虹色の肋骨』が集まっているのを考えれば、案外動かないかもしれない。何せ、生き残っていた妖も居るんだからな。偶然ではない……何かしらの恣意を感じる」
「……私達を誰かが生き返らせたのは間違いないだろうが、そこまでして、いったい何をするつもりだ?」
「知るか。俺の方が知りたい」
緋蓮は既に殆ど肉の残っていない骨を放り投げると、背伸びをした。
比較的に女性らしい体つきをしている彼女だが、碧と比べるとかなり見劣りする。
そもそも彼女はそういったものに興味は無いし、これからもそのつもりだ。
妖狐はもう滅んでしまったようだが、まだ彼女と同じ『虹色の肋骨』に碧が居る……生きる理由はそこにある。
彼女を生かす理由は、生きる力は、そこにあるのだ。
緋蓮はシェイプシフターの中では強力で、最強だったと言っても良かった。
そもそもシェイプシフターそのものが中途半端な力しか持たず、彼女の能力はその中では間違いなく最強だったと言っても良い。
そんな彼女も簡単に死んだ……シェイプシフターは弱くて、弱過ぎて、妖狐にとっては虫けら同然だったのだから。
最強の戦士だった緋蓮ですら三尾相当の力しかなく、当時既に最強の名を欲しいがままにしていた碧は、彼女の十万倍の力があった。
たった五本の尾があるかないかで、それ程の力の差が出るのはバカらしいことだが、それが妖狐なのだ。
生まれながらにして強者である妖狐にちょっかいをかけた者が居たせいで、シェイプシフターは滅んだ……しかし、緋蓮はその者を責めるつもりはない。
そのちょっかいがあろうがなかろうが、すぐに妖狐はシェイプシフターを滅ぼしていただろう。
妖狐は当時次々と妖達を滅ぼしていった……その力に驕り、他者を欲望のままに殺し続けた。
妖の大半を滅ぼしたのは、妖狐なのだ。
「しっかし、まさかこんなに早く藍色と紫の妖以外が判明するとは思わなかったな」
「それは俺も同感だ。ここまで早いと、逆に不安になる。しかも、一鬼の妹が橙色の妖の宿主で、既に協力体制になっているときた……これは、何か仕掛けてくるな。橙色の妖には注意しておくぞ」
「分かった。信用すらできない奴が多いが、大丈夫なのか?」
「ああ、一鬼とブルー・シャーマンだけは信用できる。柿坂よりも決定権は強いようだしな」
確かに、羽月の言う通り、ブルー・シャーマンと一鬼は間違いなく信用できる。
問題はその相方である柿坂愛梨と碧であり、この二人がどうにかならなければ、足並みは乱れてしまう。
もしも、碧と愛梨がパートナーだったならば、すぐさま無力化していたかもしれない。
そう判断をせざるを得ない程に、あの二人は羽月に対して非協力的だ。
緋蓮も碧のことは憎いし、愛梨は己にすら劣る出来損ないでありながらも、反抗してくる鬱陶しい小娘だ。
プロポーションなどの女の魅力では負けているかもしれないが、彼女は愛梨にそれ以外では負けるつもりはない。
半妖相手に負けるような妖は居ないのだ。
ふと、そこまで考えた時、彼女はとあることに気付いた。
「ん? あの根暗の妹は違うのか? 私は信じて良いと思うんだが」
「それについてだが……俺は嫌われているからな。俺を排除しようとする可能性は否めない」
「……おいおい」
羽月の言葉に、緋蓮は一瞬訳が分からず固まったが、すぐにその意味を理解した。
神谷美空は裏切る可能性があるということなのだろうが、それは彼女には理解し難い。
あそこまで素直で、優しいなのだ……少なくとも、一鬼を裏切ることはないだろう。
彼女には、美空はそんな残酷なことができる程冷酷な人間には見えなかった。
何故そのようなことを羽月が言うのかは彼女には分からないが、何かしらの不安要素があるのかもしれない。
回る風車を見つめながら、緋蓮は真っ赤な眼を細める。
羽月には悪いと思っているが、彼女はバカ正直に一鬼達に協力するつもりはない。
シェイプシフターを滅ぼした妖狐の一員である碧は憎いし、その宿主である一鬼は不気味で、気持ちが悪い男だ。
生き残った妖ではあるようだが、その思考回路は妖と人間のそれが複雑に混ざり合っており、ブレていて先が読めない。
確かに倒すべき共通の敵が居る今は一貫しているかもしれないが、それが終われば、すぐにブレるだろう。
緋蓮は神谷一鬼という男の危険性を既に肌で感じ始めている……未だに痛む腹部が、それを文字通り痛感させる。
鎧を傷つけることなく、衝撃のみを貫通させた一撃を、彼女は良く覚えていたし、次の一撃を貰いたくはなかった。
次に貰えば、それこそ死んでしまうかもしれない。
「しかし……この町はどうして、こうも殺人鬼が集まるんだ? こちらとしては、力の補給ができて良いが」
「それはただの偶然だ。寧ろ、この町の状況を知れば逃げていくさ……一晩で二十人以上食い殺されたんだ。流石に、警察もここに人員を大量に回すからな」
「確かにそうか。でも、それで捕まえられる筈がないんだよなぁ……私達が見えるのは、同じ妖か宿主だけなんだ。証拠は私達へと繋がらない……お前達宿主には繋がり得るが」
「だが、俺達がそれをしたという証拠はない。残念ながら、な」
肩を竦めておどけて見せる羽月は、その実少しもふざけてはいない。
この男はいつも軽いノリをしているが、その実非常に真面目で、ある意味つまらない人間だ。
能力は人間の中ではかなり高い方だが、それでも妖と比べれば劣るのは否めない。
能力で劣る者と仲良くなる理由は、その人柄くらいのものだが……しかし、この男はそれすらも歪だ。。
異常ではあるものの、傍から見ていて何かをやらかしそうな一鬼の方が、宿主としては面白かっただろう。
だが、そういうことを考慮しても、緋蓮は羽月が己の宿主で良かったと思う。
彼は彼女と同じく、上にあるものを目指して進んでいる……目指すものは違うが、その態度は同志と言えなくもない。
彼女は碧という最強と呼ばれた妖狐を殺す為に、彼は一鬼を己の父親にする為に、もがいている。
どちらも叶いはしないだろう―――しかし、それでも追い求めなければならない。
そうしなければ、彼女達は生きる意味をなくし、ただの生ける屍となる。
「ふぅ……食った。しかし、人間も随分と美味くなったな。栄養状態が良いのか」
「そうだな。先進国なら、余程のことがなければ栄養状態は良い。しかし、そんなに味が違うのか?」
「ああ、朝食った食パンと昼間のフレンチトーストくらい違うな……あっ」
「やっぱり、昼間のフレンチトーストを食ったのはお前だったのか」
「しまった……」
緋蓮は手癖が悪く、今日も羽月の家で昼に出たフレンチトーストを勝手に食べていた。
羽月にしか見えないとはいえ、彼もその気配を一鬼のように感じられるわけではなく、気付かれないように出ておくのも可能だ。
パートナーが勝手に動いているのに気付ける宿主は、妖である一鬼と半妖の愛梨くらいであろう。
それ以外の者は、このようにその行動の大部分を把握できていない。
これこそが、宿主と『虹色の肋骨』の間に信頼関係を築くのが難しい最大の原因だ。
宿主はほぼ全ての行動を見られているのに、その逆は非常に難しく、その上妖は宿主よりも強い。
宿主は己が死んだ時、妖を道連れにできることくらいしか特徴がないし、そもそも、それは利点とは言えない。
妖を見て、触ることができたところで、何一つ人間には妖を倒せる力は無いのだ。
人間は妖にとって食糧であり、反撃する術は無い。
退魔だのお札だの十字架だのに妖を倒す力は無く、弱めることすらもできないものだ。
妖の力は妖にしかどうにかできないし、人間は妖の力なくしては妖から身を守れない。
そして、人間に力を貸す妖など居ない……妖は妖の為だけに、己の家族の為だけに動く。
人間が低級の妖を数で圧倒することで倒すことは可能だが、上級の妖になればあらゆる兵器が無意味になるだろう。
特に、超越者と呼ばれた者達は世界を一人で変えるとまで言われていた。
「まぁ、そのことは見逃してやろう。それよりも、一鬼は超越者という言葉を使っていた。お前、この言葉の意味は知っているか?」
「ああ、妖の中でもこの世の理を完全に無視した連中のことだ。私は会ったことはないが、二百年前に最初の一人が現れたそうだ。そいつが誰かは、まるで情報がなかったが」
「超越者ってのはどんなことができる?」
「そうだな……聞いた限りでは、空を歩けるみたいだ。これは、上級の妖なら皆できるそうだが、そもそも上級の妖そのものが妖狐くらいにしか居なかったから、本当かは知らん。それ以外には、不死だとか、地獄の業火で焼くとかだな」
「おいおい……まさか藍色の妖と紫の妖がそれだなんてことはないだろうな? 一鬼の話が正しければ、ブルー・シャーマンは間違いなくその一人だ。それも、不死のな。それ以上となれば、可能性は高いぞ?」
「……まじかよ。クソゲー確定だな」
既に緋蓮がブルー・シャーマンと碧には勝てないことは、実戦で確定している。
それと同等以上の力を持つ妖など、もはや彼女では手も足も出ないどころか、口を出すことすらできないかもしれない。
それ程までに絶望的な戦力差があるのだ……いくら憎いとはいえ、碧の協力は不可欠だ。
幸い、緋蓮、碧、ブルー・シャーマン、橙色の妖の四人ならば、藍色の妖はどうにかできるだろう。
超越者が一人居るだけで大分心強いのは間違いないし、それに追随する八尾の妖狐は万人力だ。
相手が超越者でなければ、この二人は明らかに過剰な戦力であり、もしも『虹色の肋骨』でなければ、その二次災害は半端なものではなかっただろう。
緋蓮達は自分が触れたいものだけに触れることができるので、空気抵抗などを受けない。
つまり、その速度が音速を超えたとしても、ソニックブームが発生することはない訳だ。
『虹色の肋骨』がもしも空気抵抗などを無視できなければ、上位陣の戦いは宿主もただでは済まなかっただろう。
ブルー・シャーマンは不明だが、碧は単純な戦闘能力においては確実にその領域に居る筈だ。
緋蓮としては、その領域に居る筈の碧が超越者ではないことが不思議だが、しかし同時に納得もできる。
妖狐における超越者は恐らく九尾を指している……八尾である碧が、超越者ではないのは、ある意味当然なのだ。
「俺にとっては、お前が相方な時点でクソゲーだっつうの」
「はっ? 私の能力のことは話しただろう? 暗殺には向いているぞ」
「バカか、お前は。その能力で自滅しかねないからクソゲーなんだよ。本当にシェイプシフターは化けるしか能がないんだな」
「ぐぬぬ……」
緋蓮としては認めたくないが、羽月の言っていることは実に的を射ている。
シェイプシフターは人間に化けて生きていくのが基本で、化けた人間は食ってしまう。
そうやって少しずつ力を増していきながらも、妖の世界にも人間の世界にも深く関わらない中間に居るのが基本だ。
シェイプシフターは妖の世界ではすぐに殺されてしまうし、人間の世界では強過ぎる。
そもそも、シェイプシフターが人間に化けるのは、人間を騙す為だけではない。
他の妖から身を守るという目的もそこにはあり、人間に深く関わらない妖に対しては、非常に有効な手段だ。
妖は基本的に人間の居ない山奥などに住むので、人間に紛れていれば襲われる可能性は非常に少ない。
シェイプシフターは弱いからこそ、知恵を使って生きてきたのだ。
その知恵も、呆気なく粉砕し彼らを皆殺しにしたのが、妖狐である。
妖は近くに居る妖の居場所が分かる……つまり、人間に紛れても、同じく紛れ込んだ妖にはバレバレなのだ。
妖狐は態々海を越えてやって来て、シェイプシフターを一人残らず殺した。
それは緋蓮も例外ではなく、その日彼女は死んだ……想像を絶する痛みを与えられて。
妖狐は残忍で、冷酷で、不快極まりない―――殺す為に生きている種族だ。
「とっ……石ころか」
「……そういえば、見えないんだったか? そんなのでこれから大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。もう一年になる……この程度で、挫けるつもりはないさ」
佐藤羽月―――彼は一年前の大事故の生存者の一人だ。
不可解な複数のトラックの暴走によって引き起こされた、この町では最も被害が出た事故に巻き込まれながらも、彼は生き残った。
だが、その引き換えとして、彼は光を半分失うことになったのだ。
彼の右目はもう二度と光を感じることはないし、暗闇に反応することもない。
そんなボロボロな姿になっても諦めない羽月を、緋蓮は素直に賞賛に値すると評している。
少なくとも緋蓮は彼を笑うつもりは無いし、慰めの言葉をかけるつもりもない。
そんなものなどなくとも、彼は強く生きていける。欲しいものがあるから、守りたいものがあるから、諦めない。
人間としては驚くべき心の強さであり、だからこそ彼女は応援したくなる。
最初は枯れ果てた人間だと思っていただけに、その奥に秘められた渇望を知った時、緋蓮は喜んだ。
佐藤羽月は歪んでいる。父親の面影を同い年の親友……しかも妖に求め、義母とくっつけようとしている。
父性が欲しいのならば、他にも男は居るだろうに、何故神谷一鬼という化け物を選んだのか?
そこに答えがある……何故彼がここまで踏ん張れるのかという答えが。
「息子は父親を超える為に踏ん張るもんだ……俺はまだ、それができていないからな」
「はぁ……お前みたいな悪ガキを持った親は苦労するだろうな」
「はは! 違いない! だが、その恩は後で返すさ……一度受けた恩は忘れない性質でね」
「へー」
「おい、何どうでも良さそうな顔してやがる」
緋蓮にとって、佐藤羽月という人間は、碧に立ち向かおうとしている己の同じ、強者に挑む弱者の象徴だ。
彼もまた、神谷一鬼という壁を超える為に抗い、もがき、今もこうして暗躍している。
一鬼と碧には既に十分過ぎる力があるが、緋蓮と羽月にはそのようなものはない。
それでも立ち向かうのならば、ひたすらにもがき、苦しみながらも上り詰めるしかないだろう。
彼女達は同志だ……敵わない強敵に挑むことを諦めない、仲間だ。
だから、緋蓮は可能な限り羽月と協力するつもりだし、格下に見るつもりはない。
「まぁ、気にするな。それよりも、そろそろ一回挑むか?」
「……そうだな。そろそろ一度試してみて良いかもしれない」
「それじゃ、明日にでも行くか?」
「……ああ」
緋蓮は回る風車を手に取ると、それが刺さっていた服を放り投げた。
この風車は先程彼女が食った殺人犯の持っていた物だが、実に丁寧に作られていた。
このような、明らかに特注品と分かるそれを持ち歩く迂闊さを嘲笑いながらも、彼女はその完成度に微笑む。
彼女はアメリカで生まれ育った妖なので、こういった工芸品を見たことは余りない。
だからこそ、いくら特注品とはいえ、ただの風車にここまで興味を示すのだ。
しかし、このようなものを所持していては、大きな証拠となってしまう。
緋蓮はそれが分らない程バカではないし、この風車は警察の交番にでも置いておくつもりだ。
そうしておけば、犯罪者を殺して回っている存在のアピールにもなる。
警察の体制もより一層強化され、他の宿主も迂闊に動けなくなる……その筈だ。
イエロー・レディーのように半径百メートル以内で活動可能というバカげた広さの活動範囲の持ち主でなければ、宿主が動けなければほぼ何もできない。
「さて、そろそろ帰るぞ。明日に備えて、今日は早く寝よう」
「ああ、そうだな―――明日は挑戦の日だからな」
緋蓮は、その真っ赤な眼を光らせながら、羽月の後に続いて、闇の中に消えた。




