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月虹の舞姫  作者: 徒然花
Mai
6/22

庭園にて

「本当に珍しいお花がたくさん咲いていますね」


広々とした庭園を見渡し、美事な花々に目を奪われるクリステル。


「ほんとほんと」「これは何という花ですの?」


マノンやアリエルもあちこちを好奇心いっぱいの瞳できょろきょろとしています。


「これはナデシコといいまして、ヒイヅル国からいただいたものです」


そんな令嬢たちの傍近く、濃いはちみつ色の瞳を細めて、穏やかな笑み浮かべたまま庭園を案内しているのは、トパーズ家の次男オーギュストです。実年齢よりも大分と落ち着いてはいますが、まだ成人していない彼は13歳。今日は母の公爵夫人からホスト役を仰せつかっていました。

年上の従姉妹やその友人たちに従い、公爵家自慢の庭園で過ごしていました。


「ヒイヅル国の花とは、なんと珍しいのでしょう」

「おじい様がかの国へ行かれた時にいただいてきたそうです」

「そんな遠くまで行っていらっしゃったのですか!」

「らしいですよ。僕がおじい様から聞いたところによりますと、陛下と王妃様に付き添って『サクラ』という花で『お花見』というものをしに行ったそうです」

「まあ!」

「『サクラ』などという花は聞いたことございませんね」

「わざわざ見に行く価値のある花なのでしょう? とっても美しい花なのでしょうねぇ……」


令嬢たちはうっとりとした表情で口々に言い募っています。

それをほほえましく見ていたオーギュストは、そのほかの種類の花を指し示しながら言いました。


「他にも何種類か、かの国の花がございますよ?」


その後は『お花見』の話やその他の花について話が盛り上がっていました。


クリステルは、先程話に出てきたヒイヅル国の花が気に入ったようで、その場に屈みこんで熱心に見つめいていました。かの国の花は総じて小ぶりで『可憐・清楚』といった趣でした。アンバー王国の花は大きく華麗なものが多いので、対照的です。

手に触れてみても、羽のように軽く儚げ。

手折るのも無粋と思いつつも、どうしても一輪欲しくなり、


「ひとつ、いただいてもよろしいですか?」

「ええ、構いませんよ」


隣にいるオーギュストに断りを入れてから、クリステルはそっと屈みこむと一輪手折りました。

それは『レンゲ』という花だそうです。濃い桃色の、花弁が幾重にも重なってコロンとした愛らしい花でした。

そっと鼻にそれを近づけて匂いを嗅ぐと、ほのかに甘い香りがするようです。

その淡い甘さに、ふっと微笑みがこぼれたら、


「クリステル様はそれがお気に召しましたか? レンゲは蜜もとれるそうです。あいにく、この庭にあるくらいの花では覚束ない量しか採れないのですが」


という声が聞こえたのでハッと我に返ると、すぐ傍でくすくすと笑いながらオーギュストがクリステルを見ていました。


「まあ、そうなのですか」


自分の行為が見られていたことに恥じらいを感じて、赤くなる頬を手で覆って誤魔化しながら、自分の横に立つオーギュストを見上げると。


「はい。ですから残念ながら蜜は採れませんが、こちらをどうぞ」

「わっ……」


そう言うとオーギュストが、屈みこんだままのクリステルの頭の上に何かをそっと載せました。

クリステルが何かと思い手に取ると、それはレンゲをとても器用に編み込んだ花冠でした。


「なかなか上手に編めたでしょう?」


いたずらっぽく笑うオーギュストに、


「ええ、とても」


クリステルは嬉しくなって微笑みました。

それを見てオーギュストはますます満足げに微笑みました。


「それは貴女へのプレゼントです」

「まあうれしい!! ありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして。そうそう、皆様にもありますよ? 僕、頑張りましたからね!」


マノンやアリエルに向かって茶目っ気たっぷりに笑うオーギュスト。そのように自分の力作を褒められて喜んでいる様を見ると、年相応の少年です。

思いがけない贈り物に、クリステルはここしばらくの憂鬱をすっかり忘れてしまっていました。




もう一度頭の上に花冠を載せてもらい、向こうでお茶をする母たちの元へ戻ろうと立ち上がりかけた時でした。


ザザザザザ……!!

「きゃっ?!」


急にクリステルの背後の頭上から花が降ってきました。

ぶちまけられた、というのが正しいのかもしれませんが。


「ステラ!!」

「アレクシス様?!」

「あ、兄上?!」


その場にいた皆が、驚き、口々に声を上げました。

自分の身に降りかかったことがまだ理解できていないクリステルは、呆然としたままじっとしています。

いち早く動いたマノンがステラの身体に残った花を払ってくれました。

そして、クリステルに花をぶちまけたた元凶を認めると、その名を呼んだのです。『アレクシス様』と。

オーギュストの焦った声も聞こえましたが、ステラは緩慢な動作でその人物に振り返りました。


そこには、あの夜会で冷たい視線をステラに浴びせていた貴公子が立っていたのでした。





今日もありがとうございました(^^)


女の子をいぢめてはイケマセンw

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