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月虹の舞姫  作者: 徒然花
Mai
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トパーズ家の茶会

「夜会って、あんなに疲れるものなの?」


アウイン侯爵邸に戻る馬車の中で、クリステルは母に尋ねました。


「そうね。たくさんの方とお話したり踊ったりしないといけないから、疲れるわね。しかもステラは今日初めてでしょう? だから余計よ」

「慣れるものなのですか?」

「人によるわ。ね? ディー?」


頬に手を当て、少し困った表情をしながら、母は自分の隣に座る父に話を振ります。


「なぜそこでシシィが僕に話を振るのか、甚だ疑問だけど。ま、それはさておき。確かに人によるね。楽しめる人とそうでない人と。夜会は一見華やかだけど、そうでないこともあるからね」

「何ですか?」

「ステラはまだ知らなくていいことだよ。でも今日はよく頑張ったね、ステラ。デビューにしちゃ上出来だ」


ニッコリと笑う父。その横で母も微笑みながら同意をしています。

クリステルの夜会デビューは、周りの眼から見れば上々なものでしたが、しかし、肝心のクリステル本人はあまりいいように思っていませんでした。


「そう……ですか」


伏し目になりながら答えます。

今宵の夜会で、クリステルは冷たい視線の貴公子の、無言の圧力を感じたとでもいいましょうか。クリステルが場違いであると言いたげなその視線に、すっかり落ち込んでしまっていたのです。


静かに馬車はアウイン侯爵邸に着きました。


クリステルは自室に戻るとすぐさま湯を使い、寝支度を整えると布団に潜り込んでしまいました。




デビュー以来、軽く夜会がトラウマになってしまったクリステルでしたが、


「アウイン侯爵様! お嬢様はお元気でいらっしゃいますか?」


父が王城で勤務中も、すれ違う騎士や執務官――あの日の夜会に顔を出していたものもそうでないものも――に聞かれることが多くなりました。


「ええ、元気にしていますよ。ただ、私に似て夜会などの華やかな場所が苦手のようです」


苦笑するアウイン侯爵。目の前の若者はそれを気にせず、


「あの日のお嬢様は何ともお美しかったです! ぜひもう一度お会いしたいものです」


熱心に言い募ってきますが、侯爵は微苦笑し、


「まあ、彼女の気が向けば」


それだけ言うと、さっさと執務室に消えていきました。


若い貴族の間では、さっそく美しいクリステルの話題でもちきりになっていたのですが、クリステル本人は夜会はおろか、お茶会にもあまり顔を出したがらなくなっていました。




「今日はトパーズ公爵夫人のお茶会にお呼ばれしているの。一緒に来てくれる?」


朝食で顔を合わせた母から、この後の予定を聞かされたクリステル。断りたいのは山々なのですが、さすがに筆頭貴族のご招待を断ることは憚られます。

ここしばらくのクリステルの様子を見守っていた母でしたので、遠慮がちに聞いてきました。成人した二人の子の母とも思えぬかわいらしい様で、ちょこんと首を傾げています。


――ああ、わたしくしもお母様のようにかわいらしかったならば、あのように冷たい目で見られることもなかっただろうに……。


母の翳りないアクアマリンの瞳を見つめながら、そっとため息をつきました。クリステルの瞳は、母のアクアマリンと父のアメジストを足して二で割ったような淡い紫です。それはあまり見かけない繊細な色合いなのですが、クリステル本人は『灰色の様』と内心蔑んでいました。


「トパーズ家でありますの?」

「ええ、そうよ。ブルーレース侯爵夫人やクォーツ伯爵夫人など、数人のごく親しい人しか来ないからステラも気兼ねなくいらっしゃい、とおっしゃっていたわ」

「……わかりました。支度してきます」


優しい微笑みを浮かべる母。


――数人ならば、大丈夫。今まで通りにすれば平気。


正式に社交デビューする前も貴族のお茶会などには、母に連れられて参加はしていました。その時は何の憂いもなく、無邪気にいれたのですが。

その頃と同じだ、と何度も自分に言い聞かせているクリステルがいました。




クリステルの憂いとは裏腹に、トパーズ家でのお茶会は以前と同じく楽しい時間でした。

シシィ・クリステル母子以外に招待されていた貴婦人たちやその子女たちは、これまでも仲良くしていた方ばかりで、クリステルはホッとしました。美味しいお茶やお菓子を堪能した後は、仲の良いマノン――ブルーレース侯爵令嬢――と、アリエル――クォーツ伯爵令嬢――と共に、美しくて有名なトパーズ家の庭園で話をしたり、花を摘んだりして過ごしていました。


「ここのお庭は本当に綺麗ね」


うっとりと周りを眺めながらアリエルが言いました。


「いろんな国からいろんなお花を集めている、おじい様のご自慢のお庭ですもの」

「マノンのおじい様自らがお庭の手入れをなさっているって、本当なの?」

「そうよ。おじい様、庭いじりが生きがいになっていらっしゃるもの。クスクス」


クリステルの問いにマノンがかわいらしく笑いました。マノンは前トパーズ卿の長女ミリーニアの娘ですので、トパーズ家にとっては外孫にあたるのです。


気安い友達との他愛のない話と綺麗な花たちに囲まれて、クリステルの顔にもここしばらくは忘れられていた笑顔が戻っていました。


今日もありがとうございました(^^)

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