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月虹の舞姫  作者: 徒然花
Aaût
20/22

エピローグ

最終話です(^^)

アレクシスの移動魔法で部屋に帰るも、別れがたい二人でした。

お互いを抱きしめ合ってしばらく穏やかな時間を過ごしていたのですが、


「ずっとこうしていたいけど、そろそろ離れなくちゃ。やることがいっぱいあるからね。ああ、でも君を手に入れるためにはここで頑張らないと。ステラも覚悟しておいてね?」


残念そうに柳眉を下げて、クリステルの頬をなでるアレクシス。


「とうに覚悟はできておりますわ」

「それは隣国に行く、でしょう?」

「ええ」

「それはもう必要ないから。そうじゃなくて、私と共に在る覚悟、だよ」

「そうですね。……はい。アレク」


はにかみながらも、花が綻ぶように微笑んだクリステルに、ますます離れ難くなったアレクシスでしたが、これからのためにもここが頑張り時なので、精一杯の理性を振り絞って移動魔法を展開しました。




アレクシスが移動魔法で消えた後も、しばらくぼんやりと彼の消えた場所を見つめていたクリステル。


――これは本当に現実?


自分の柔らかな唇を人差し指でなぞると、先程のアレクシスの感触が蘇りまた頬が赤くなってしまいました。


――大丈夫、総て本当に起こったこと。『信じて』とおっしゃっていたもの……


徐々に穏やかな鼓動を取り戻したステラは、ゆっくりと眠りの淵に沈んでゆきました。


――明日は明日の風が吹く……




「隣国王子の花嫁候補はブルーレース侯爵家のマノン様に決まったよ」


次の日の夕方。

珍しくクロードと一緒に帰宅した父は、玄関で出迎えた妻と娘に今日の発表のことを伝えました。


「まあ! マノン様と言えば、王妃様の姉君ミリーニア様のお嬢様の?」

「ああ、そうだよ。ミリィ様に似て妖艶なる美少女だ」


驚く妻にニッコリと肯く父。


マノンは先代トパーズ公爵の長女ミリーニアの娘ですから、血筋から言っても何の不足もありません。


「ということは、ステラが隣国へ嫁ぐことはなくなったのですね!」

「ああ……。それはそうなんだが」


ホッとした笑みを浮かべながら母は言いましたが、反対に父は歯切れ悪く答えました。


「あら、ディー? どうしましたの?」


そんな夫の様子に小首を傾げて尋ねる母。


「いやね、花嫁候補の発表と同時に、ステラにはトパーズ公爵家から縁談が来たんだよ」

「まあ! トパーズ家から?」

「そう。アレクシス殿の嫁にいただきたい、と」


ひらり、と白い封筒を胸の内ポケットから取り出すと、妻とクリステルに見せました。

それまで黙って父と母の話を聞いていたクリステルでしたが、その封書を受け取り、中身を確認しました。


そこには、トパーズ家からアウイン家への正式な縁談の申し込みが記されていました。


「でも、他国にかれるよりは自国に居てくれる方がいいわ。アレクシス様ならばきっとステラを幸せにしてくれるでしょうし」


クリステルの横から内容を見た母が、ふぅ、とため息をついてから言いました。


「なぜそう思うの?」


言い切る妻に不思議そうな眼を向ける父。クリステルもキョトンとしています。

昨日のアレクシスとの逢瀬を知る由もない母が、そんなことを言い出す理由が判りません。


「だって、アレクシス様のステラを見つめる目が熱かったのですもの」


ほほほ、と朗らかに笑う母。その言葉に目を見開き、真っ赤になるクリステルです。


「お、お母様?!」

「パーティーや何かで何度かお会いしたけど、熱い熱い。私、微笑ましく見てましたのよ? どの殿方よりもご執心に見えましたけど」

「へえ! 僕はちっとも気づかなかったなあ。シシィはすごいよ」


変わらずにこやかに続ける母と、感心しきりの父。もはやこれ以上真っ赤になれないクリステル。


「これってもう確定なんだろうね。オレ、今日、城で『お前の妹、アレクシス様と結婚するんだって?』って聞かれたよ?『王子殿下よりも執務官を選んだんだって?』とも。みんな情報速いねえ」


トパーズ家からの封書を手に弄びながらクロードが言いました。


「まあ、そうなんだろうね」


苦笑いの父です。そして、


「いいんだね? ステラ?」


優しい笑みでクリステルに尋ねてきました。


「はい」


父の眼をしっかりと見ながら、クリステルははっきりと返事をしたのでした。




― 一週間後 -


「またこんなところにいたのか」

「……アレク?」


今宵は満月。

月はさやかに夜の庭園を照らしています。

隣国王子とブルーレース侯爵令嬢マノンの婚約発表の夜会が、王城の大広間で行われていました。

その宴に招待されていたクリステルは、また広間を抜け出して庭園にいました。

しかもエスコートのアレクシスの一瞬の隙をついて。

しかしクリステルの居場所の見当がついているアレクシスは、迷わず庭園に出てきて、そこで月を見上げるクリステルを見つけたのでした。


「またダンスの練習?」

「まだ踊ってませんわ。貴方が早く来すぎたから」


足早にクリステルの元へやってきて、呆れたように言いながらも目は優しく笑っているアレクシスに、苦笑しながら答えるクリステル。

とうとうクリステルを捕まえると、その淡紫の瞳をみつめながら、


「もう練習なんてしなくていいんだよ? 私とだけ踊るんだし。今宵は私たちの婚約披露も兼ねているんだから」

「まあ、ふふふ。では他の方はお断りしなくてはなりませんのね?」

「当然」

「ではますます練習しなくては。貴方とだけ踊るのならば、なおさら完璧にしなくちゃ」


独占欲を隠そうともしないアレクシスにうれしさがこみ上げます。


――わたくし、幸せですわね……


重ねられた手のひらから伝わるぬくもりに、じんわりと瞳が潤うクリステルでした。


「ああ、もう戻りたくなくなったな。こんなに美しいステラをみなに見せたくないからね。ここで踊っていようか」


いたずらっぽく笑いながらアレクシスが言います。


「それも素敵ですわね」


クリステルも微笑み返します。


「では、改めて。クリステル嬢、私と踊ってくださいますか?」

「喜んで」


お互い見つめあったまま、二人静かに踊り始めました。


幸せそうな二人を、月だけが見守っています。

最後までお付き合い、ありがとうございました!! m( _ _ )m


あと数話、番外編の用意がございますのでそちらも読んでいただければ幸いです♪

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