表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月虹の舞姫  作者: 徒然花
Aaût
15/22

断ち切るために

隣国第一王子の花嫁候補に名乗りを上げてからというもの、今までより一層熱心にレディ教育に取り組むようになりました。レディ教育というより、むしろお妃教育、ファーストレディたるための勉強です。周囲から押し付けられたのではなく、クリステル自らが『あれとこれを勉強したい』と指示をして。

この国のことはほとんどマスターしていたので、隣国の歴史・政治・経済・地理……。

集められるだけの資料を集めてもらい、勉強していきます。

父も、時間があれば勉強に付き合ったりもしています。


父も母も『なぜそこまで?』と首を傾げるくらいに一心不乱に勉強するクリステル。

勉強以外のことを考えている暇もないくらいです。


それは、見ようによっては、まるで何かを考えることから逃げているようでもありました。




机上の勉強の合間に、息抜きがてらにダンスをすることが増えてきました。

元々得意なダンスでしたが、それをさらに精度を上げるよう、練習しています。

勉強してはダンスの練習をし、休憩がてらに昼食を摂り、また勉強、ダンス、勉強。休む暇も作りません。


「お帰りなさいませ、お父様! 夕飯までの間、わたくしのダンスをみてくださいな」

「ああ、わかったよ」

「お疲れのところごめんなさいね、ディー。ステラがどうしてもって聞かないの」

「ははは、仕方ないさ。ステラはシシィに似て頑固なところがあるからね」

「まあ!」


仕事から帰ってくる時間を見計らい、玄関で父を待ち伏せし、ダンスの稽古に使っている部屋に引っ張っていくクリステルです。同じく、出迎えに出てきた母と共に、苦笑いをしながらクリステルに手を引かれてついて行く父。

いつも習っているダンスの先生よりも、数段父の方が上手なのでした。




「ステップはもう言うことないよ。後はリードだね」


数曲練習した後、父の講評を聞きます。父はいつの間にか、娘と夫の練習をソファに座ってニコニコと見守っていた母の隣にちゃっかりと陣取っています。

クリステルは二人の対面の椅子に腰かけました。


「リード?」

「そう。自分よりも上手い相手ならばそのままゆだねていればいい。上手くない相手ならば、さりげなくリードする。あくまでもさりげなくだよ? あからさまだとプライドを傷つけちゃうからね」

「はい」


技術面では、もはや指導しなくてもいいくらいの域に達しているクリステルです。後は相手との間合いです。


「強引な相手ならば、初めは振り回されているようにしておいて、徐々に主導権を握っていけばいい」

「はい。そのあたりの加減、難しいですね」

「そうだよ。そして総てはさりげなく、だ」

「はい、わかりました。でも王子殿下は、なかなかにお上手な方でしたわ」

「そうだね。見ていてわかったよ。彼ならばゆだねて踊るのがいいね」

「そうですね」


この間の夜会での王子殿下のダンスは、父には及びませんがそれでもかなり上手で、かといって強引でもなく、とてもパートナーを思いやったリードでした。

クリステルですら感心するほどのダンスだったのです。


少し休憩したところで、


「ただいまー」


と、言う声と共に稽古場のドアが開かれました。


「おかえりなさい、クロード」

「お兄様! 今日は帰っていらしたのですね!!」

「ちょうどいいところに来た」


三者三様、思い思いに声をかけます。

普段は王城内にある騎士宿舎で寝泊まりしているクロードが、非番で侯爵邸に帰宅したのです。

パッと立ち上がり、扉のところまでクリステルは駆けて行きました。大好きな兄に会うのは10日ぶりだからです。

クロードの、細く見えるけれどもしっかりと鍛え上げられた胸に飛びつきました。


「ハハハ、ステラ、犬みたい。ただいま。で、父上。なぜ『ちょうどいいところに来た』なんです?」


抱き付いてきた妹を受け止め、父親譲りのアメジストの瞳を細めながら妹の頭を撫でるクロードが、父に向かって聞きました。


「ステラのダンスの相手をしてやってくれ」

「えええ?! 今からですか?」


突然の父の命令に瞠目するクロードです。そんな息子にお構いなしに、


「ああ、今から」


ニッコリ笑って答える父。


「オレ、お腹すいた……」


仕事を終え、その足でどこにも寄らずに帰ってきていたクロードはたまらず本音を吐きましたが、腕の中の何よりもかわいい妹が目を潤ませこちらを見上げています。


「お兄様ぁ~~~」

「わかった! やるよ!!」


かわいい妹のお願いには勝てない兄でした。




クロードは、決して下手ではありませんが職業柄か『ちょっとリードが強引だ』と、常々父から指導されていました。


「じゃ、ステラ。さっき教えたことをよく考えて」

「はい」


ダンスの態勢に入る前に、父はクリステルに言いました。しかし、それまでの会話を知らないクロードは首を傾げています。


「なにそれ?」

「お前はいつも通りに踊ればいいんだよ」

「ふうん?」


ま、いいか、と、ダンスの態勢に入るクロードでした。

ソファでは、母が目を輝かせて、


「ふふ、楽しみですわ」


子供たちのダンスにワクワクしています。


静かに曲が流れてきます。

それに合わせて踊り出す二人。


そして――


「うん、ステラ、よくできたね」


一曲踊り終えたクリステルに、父が満足そうに声をかけました。


「できていましたか?」

「ああ、十分!! その証拠に気付いてすらいないだろう」

「ええ、まあ……」


ちらりと隣に立つ兄を見上げるクリステル。クリステルよりも頭一つ以上高いところにあるクロードのアメジスト。


「ん? 何?」


ふんわりとクリステルに微笑んでいます。でも、途中からひそかにクリステルが主導権を奪っていたなどとは露ほども気付いていないようです。


「いいえ! 楽しかったですわ! ありがとう、お兄様」

「どういたしまして、我が姫。……で、やっと夕食か!」


クリステルの手を引き、両親の元に戻ってくるクロードです。


「ああ、僕たちもまだだ」

「ええっ?」

「ステラのダンスの練習に付き合わされていたのよ。ふふ、ディーなんて帰ってきて早々に摑まってしまってね」

「僕もお腹へったよ。さ、執事たちが待ってるよ、行こう」


父と母はソファから立ち上がると、子供たちを促し、扉の方に歩いて行きました。




こんな家族水入らずで楽しい時間を過ごすことができるのもあと少しかもしれないと思うと、ちょっぴり感傷的になるクリステルでした。




それから数日後。

2週間後に王城で夜会が開かれるという招待状が来ました。


今日もありがとうございました(*^-^*)


アウイン侯爵家、水入らずw

ダンス云々に関してはスルーの方向でお願いします!! m( _ _ )m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ