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閉幕

------?


蒼い世界。


深海のように、何処までも深い蒼に染まった世界に溺れる。

何処が上か何処が下か、それすらわからない。

「まあ、及第点ですね」

目の前に、不敵に笑う黒髪に瑠璃の目の少女があらわれた。

それはあの場所にいた---


お前は、誰だ。


「おおよそ貴方の思う通りのモノですよ」

見透かすような言葉。

瑠璃の瞳が不気味に深い色を湛えている。

「xxxは時に、悪魔とも言われますしね」

言葉にノイズが走る。

俺は言質を取るような取引を仕掛けたこいつを、悪魔だと思った。

朝姫を助けたいとしか言わなかった俺は俺自身の命を払うことでしか彼女を助けられなかった。

力を与え、利用し、対価に魂を。

「人聞きが悪いことを言わないで欲しいものです。私はきちんと貴方の願いを叶えましたし。別に貴方の魂取った所でメリットも何もないし」

とはいえ、だ。

俺は死んだのだろう?

んで、悪魔であるお前のいるここ《地獄》に…

途端、バカを見るような目で彼女は俺を見る。

ああ、そうですか地獄じゃないんですね。

っていうか世界の設定とか知らない俺にそういう非難するのは非常にアンフェアだと思うのだが。

「無理矢理こじ開けた世界の狭間ですよ。あの戦場になった学校と通常の世界の間のズレの部分」

と言われても、イマイチピンと来ない。

「あの場所は厳密に現実世界のものではないのです。紅霊晶の欠片が作り出した、アレに都合のいいルールを適用させる世界とでもいえばいいでしょうか」

…イマイチよくわからないが、要は華蓮が作った並行世界の学校だったということだろうか。

「ただ、世界を通常の流れに戻す時、このまま戻すとあの惨状がそのまま現実世界に反映されてしまう。死体が転がり瓦礫の山となった校舎が。しかし、結界のおかげでまだ壊れた世界とそうでない世界は断絶して同居している」

つまり、何が言いたいんだか。要領を得ないやつだな。

「ズレたものを修正します。壊れたモノを元通りに。死んだ者を元通りに」

…そんな。

そんなことができるのか。

いや、そんなことができるなら何故あの戦いに干渉してこなかったんだ?

それだけの力があるなら華蓮も封じられたんじゃあ…

「ルールですよ。私はバランスを保つだけ。基本的に手を出してはいけない。今回は修復のみ、許されたということ」

というか、そんな風に簡単に戻されてしまうなら俺らが苦しんで殺しあった意味って…なんだったんだ。

「その場にいたモノでどうにかさせるのがルールですし。そんなにいうなら、貴方が命懸けで世界を救ったご褒美だとでも思っておけばいいです」

…まあ、いいや。

どっちしろ戻るなら万々歳じゃないか。

寄り道したとはいえ結果朝姫と帰ることができるんだしな。

「そういうわけなので、いきなりふっと生き返らせるよりは理解されなくとも説明する責任はあるだろうと思い、ここに呼び出したわけです」

いうだけ言って満足げである。

…えっ、話は終わりなのだろうか。

「まあ、今後のことはあとで私が《眷属》を送るのでそちらに。一度世界を救ったのだから、おそらく今後もまたそのような状況におかれるようになるかもしれませんが、その時はまた会うことになるかもしれませんね」

今後…ねぇ。

え?

ちょっ、ちょっと待て、なんかさらっと嫌な予感がすることを言われた気がするんだが。

「おいちょっと待…」

しかし、抗議の声をあげる間もなく、俺の意識は闇に落ちて行った。






「ああ、人間というものはどうしてこんなに業深い生き物なのでしょうね」

手のひらには赤い石。先ほど少年が貫いた物だ。尤も、貫いた程度では止めることはできても破壊することはできないのだが。

「彼の思いは、『彼女』に追いついたのでしょうかね」

少女はそれを手のひらで弄びながらひとりごちる。

それは欲と罪と愛と憎しみと、人を人として成すモノを濃縮したモノ。

現在の術式で作ることは不可能。ある意味ではオーパーツ、ロストテクノロジーとでも言えるだろうか。

それを可能にしたのが、狂気にも似た、純粋な感情。

石を顔に近づけると、赤い煌めきがその蒼い瞳に映り込む。

人を弄ぶ神のように、蒼い瞳には感情などはなく。

「次のゲームも私が貰いますよ、xxx」

少女は冷たく無機質に、石に唇を当てた。







目が覚めると、白い空だった。


いや、違う。人工物だ。

真っ白な天井。

変な一色の世界を渡り歩きすぎて空間の感覚がつかめない。

「生きてる…のか」

正確には生き返ったんじゃないのか、というのは怖いので考えないようにする。

「ん…蓮…?」

ベッドの端から聞き覚えのある声がする。

右手の方に突っ伏していたのは、朝姫。

「なんでそんなとこで寝てんだよお前」

「…幼馴染が三日も目を覚まさないから流石に心配になったのよ。他意は、ないわ」

……。

「それにしても、ヨダレすごいぞ」

「心配して損した。部屋に戻るわ」

立ち上がって本当に帰ろうとする朝姫をどうにかなだめすかしてまた座らせる。

「…死んだかと思ってた」

「ああ、俺も」

実際死ぬつもりで刺したわけだし。

しかしご都合主義のような展開のおかげでこうして生きている。

「流石にそのまま死なれたらいくら私でも寝覚めが悪いわよ。一応私のせいでもあるわけだし」

「ま、でも俺は別にお前のためなら…」

ささっ、と朝姫が俺から距離を置いた。

「…引くなよ。冗談なのに」

「無理。無理無理」

命どころか世界まで救っても攻略できないとかハードルたけぇ。さすが朝姫。

「…お前も入院してるのか」

「まあね。学校の校庭で怪我した連中と一緒に倒れてたから、検査とか」

生き返らせることはできるのに怪我やらは何事もなかったようには出来なかったのだろうか…。不思議だ。

「アレは、夢じゃないわよね」

「ああ、まあ、お前はさておき俺はなんかミイラチックに包帯で巻かれてるからな」

「…華蓮は、もういないのね」

一筋、朝姫の頬を涙が伝った。

俺も一瞬とはいえ彼女に取り憑かれた。

だから、彼女の涙の理由はなんとなくわかった。

「…不器用なだけだったんだな」

彼女の行動原理。

それはただの憧れ。そしてそれを得られないがゆえの嫉妬。

本当は全てを壊したかったんじゃない。人間として生きたかったんだ。

けれど、だからこそ、そう出来ないこの世界を恨み、壊そうとした。

「…他に、無かったのかしら」

「少なくとも、俺たちにはどうしようもなくて、あいつにもどうすることもできなかったんだ」

きっと、俺があいつを止められたのも、本当は止めて欲しかったからなんじゃないだろうか。

好きだった世界を壊さないために…。






あれから俺はさらに二週間俺は入院していた。

同じ境遇の奴らがみんなさっさと退院していくのに自分だけなかなか退院出来なくて多少不安だったりしたが…。

そういえば、他の奴らと話してみたが、俺と朝姫以外は誰もあのことを覚えていなかった。

多分、あの蒼い悪魔のせいだろうと思う。


それより、だ。


久々に制服に袖を通した。

二週間授業出てなかったし、この騒ぎで教室についた途端囲まれたりしそうだと気が重くなるが、行けなかったら行けなかったでなんとなく行きたくなるのが学校であり。


入り口の前で深呼吸する。

まるで気分は転校生だ。

ドアを開き、賑やかな教室に踏み入れる。

そしてそのまま、誰に話しかけられるでもなくそのまま自分の席へ。

「あ、蓮。おはよ」


……えぇー。


隣の席の朝姫を除いて、全員スルーである。

え、ひどくない?逆に、逆にひどくない?

「あー、あんたより話題性がある事件がね…」

みんな口々に同じ話題を交わしている。

「…転校生?」

「そう、この時期に」

嫌な予感しない?と朝姫が首を傾げる。

まさか…な。


脳裏に、蒼が過る。


「みんな静かに。これから転校生を紹介する」

ぴたっと会話が止まり、ひとときの静寂が生まれる。

扉を開けて入ってきたのは…

「嘘だろ…?」

「なんで…」

白銀。

長い白い髪が後を引くようにふわっとなびき、その双眸は紅く妖しく煌めく。


「紅羽華蓮です。皆さん、よろしくお願いします」



…どうやら、俺らはこいつから逃れられないようだ。

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