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死戦



――――――大騒ぎののち、朝姫の方が先に一旦落ち着いて冷静になる。

最初から俺が一人パニクってただけとか、そういうキツいツッコミはいらない。

「どうする?」

「…逃げ回ってもしょうがないけど、休んでる場合じゃないな」

いつ敵と遭遇するか分からないし。

そんなときにゆっくり休んでいるのはどうかと思う。

「いっそこっちから攻めに・・・」

言いかけた言葉を遮るように、遠くから地響きを伴う爆発音が響く。

窓から外を見ると少し離れたところにあった特別教室棟が、まるでダイナマイトで発破したかのように崩れていた。

建物が全て崩れ、瓦礫の山になっている。

同時に、黒板の名簿から名前が一組分消える。

「じょ、冗談だろ・・・」

今度はしばらくして、その瓦礫の山が青く光り少し近いところからまた爆発音。

校舎が大きく揺れ、軋む。

そしてもう、残り2組。つまり俺たちと…もう一組。

「って、さっさと逃げるぞ!」

俺は朝姫の手を引いて逃げようとして扉に手をかける前に、窓の外から強烈な違和感を覚える。さっきの伏見の雷のような、そんな感覚。

咄嗟に朝姫を背に隠し、剣を召喚して防御を・・・


爆発的な力の奔流が、教室を蒼く染め上げた。



―――崩れた瓦礫に埋もれる。

「全く、やったのはこっちなのになんで僕らまでダメージ受けなきゃいけないのさ」

「仕方ないでしょ?崩れちゃったんだし」

のんきなことを言いながら瓦礫の隙間からひょっこりと少女が顔を出す。

頬まで煤にまみれている彼女は東雲藍莉。僕、高瀬深義のパートナーである。

「もっとスマートにできないものかな…?」

「いいじゃん、済んだことだし」

いやいやいや?

ツッコミきる前に彼女は瓦礫から脱出し、右手を宙に翳す。

「8つ目の刻印確認っと」

楽しそうな声ではしゃぐ間に、僕も瓦礫を掻き分けて這い出す。

「全く、下手したらこっちまで死んでたよ…」

と呟く目の前で、強力な光が集まっていく。

それは藍莉の右手に集約し、渦を巻く。

「ルクシオン・カノンインパクト!」

凄まじい音を立てて光が爆ぜ、まっすぐに貫いていく。

ま、全く反省していない!

その一撃はまた、離れた校舎棟の半分を吹き飛ばし、崩壊させた。

「ほーら9つ目」

刻印は、もう右手を埋め尽くすほどに刻まれている。

ここまで集まればなんとなく、刻印の表す全体像が、鍵に絡む蛇のようなモノだということがわかってきた。

それが何を意味するのかまではわからないけれど。

「そろそろ決着かなぁ。残念だけど」

「…最後はもう少し骨があるのがお望みかい?」

僕らは最初、わけのわからないままにある人物の罠にかかり、危機に瀕した。その時、僕と彼女はそれぞれ凄まじい力に目覚めてその危機を脱した。

彼女の攻撃の威力をみれば、それがどれだけのモノかわかるだろう。

それだけの威力のおかげで、僕らはあっという間に刻印を回収していた。

しかし、校庭で派手にやっていたのに触発されてか彼女もかなり派手に、破壊を始めたのが少し困りモノである。

「そんな、ゲームじゃあるまいしそんなことないでしょ。もうそろそろ終わるんじゃない?そこらへんふっとばせば」

いや、このシチュエーション自体がが十分ゲームっぽい気がするのですが。

「問題はどこにいるかがわからない、と」

なんとなく気配はあるがはっきりとどこにいるかは分からない。

おそらくは、校庭を一瞬で凍土に変えたほどのモノが。

「じゃあ、この辺一帯叩き潰して炙り出そうか」

彼女は右腕に漆黒のガントレットを召喚、装備する。

これが彼女の力の源。漆黒の甲を蒼い閃光が紋様を描き、駆け巡る。

「いや、それで特別教室棟が崩落してさっき自爆しそうになったのはどこの誰だったっけ」

「スリリングだったねー」

「いやいや、絶対そんな生易しいもんじゃなかった」

特別教室棟がもう少し大きかったらさっきので自爆していたような…。

「男のくせにあんまりぐじぐじいうのよくない」

「命かかってるのに君がさっぱりしすぎなんじゃないかな!」

「ま、いいや。伏せないと巻き添えになるよ?」

藍莉がガントレットを振り上げると、甲が変形して魔法陣を正面に展開。その中心に魔力を集束させる。

チャージだけで、空間がビリビリと振動している。

「ってさっきより強烈・・・」

「ルクシオン・ソリッドカノンッ!!」

魔法陣の中心に集中した魔力を殴り抜き、全解放。

狙うは正面、校舎の残りを消し飛ばす!!


・・・はずだった。

しばらくの魔力の奔流ののち、煙っている向こうをみて藍莉はニヤリと笑う。


煙が晴れた向こうでは、削れた校舎を氷の壁が覆い、藍莉の攻撃を完全に防ぎきっていた。




―――防御って言ってもバリアみたいなものが作れるほど器用ではないので。

剣を床に突き立て、力を開放。巨大な氷を発生させた。分厚い氷の壁の向こうでは蒼い魔力が吹き荒れている。

とっさに込められる全力、校庭を全て凍らせた時と同等の力を込めたため、この剣より先は全て氷の壁だ。

しかしその氷の壁も、正面からの波動で軋んでいる。

攻撃が止んだのは、氷の壁にいくつも深い亀裂が入って崩壊する一歩手前だった。

あと少し攻撃が長かったら危なかっただろう。

安心したのも束の間、氷の向こうから何者かがやってくる。いや、飛んできた!

「やっと骨のある奴なんじゃない?」

その声と同時に、氷の壁がガラスのように粉々に砕けた。右手に巨大な籠手を装備した少女が、深くひび割れた氷を殴り、打ち砕いたようだ。

ヤバい気配を感じる。さっきの伏見の何倍も…いや、比べ物にならないほどのプレッシャーだ。

でも、逃げるにしたって校舎内を走ったところで建物ごと潰されるだろうし、窓から飛び降りるとしてもその窓側にあいつがいる。

俺は剣に力を込めてオーラで後ろの壁をブチ抜いた。

「れ、蓮!?」

そして朝姫を抱え、何のためらいもなくそこから飛び降りる。ちなみにここ、4階。

「いやああああぁぁぁぁぁあああああああ!?」

パニくる朝姫を引き寄せ、魔法を発動。

空中から氷の道を作り出して一気に滑り降り、目指す校庭まで一気に滑る。

しかし背後では少女が教室から飛んできていた。

驚異的なジャンプ力に加え、一瞬だけ足元が蒼く輝き、魔力が足場となって空中で踏み込み、ゲームの多段ジャンプのように追いかけてくる。

幸いなことに滑ってる俺たちの方が速い。

だが、中距離攻撃でこの道を割られるとマズイ。

俺は朝姫を抱えていて両手が塞がっているのでどうしようもない。

「蓮、適当に私を放り投げて。多分、大丈夫だから」

多分って。さっきあんなに大騒ぎしてたくせに。

しかし、朝姫からさっきまでとは違う気配を感じた。追いかけてくる奴や、伏見とは違う何か…もっと禍々しい気配を。

「ミスすんなよ!」

「あんたじゃあるまいし平気よ!」

朝姫は氷の道から俺とは別の方向に落ちる。

が、少し落ちたところで赤い翼を広げ、うまく着地したようだ。

俺は剣を召喚しなおし、朝姫と一緒だった時よりも角度をつけて一気に滑り降りる。

が、それと同時に蒼い光が氷を砕き、俺は宙に放り出される。

そして無防備になった俺に、少女は躊躇いなく突っ込んでくる。

それをかわしつつカウンターで切りつけたが、手甲で弾かれる。空中で踏み込めない分攻撃も浅かった…!

滑走と弾かれた勢いでかなりのスピードで俺は校庭を滑って行く。

凍ってはいるが、フリーズドライ状態な地面は言うほど摩擦係数は低くない。半ば転がるようにしてようやく止まる。

かなり間合いはとれたと思っていたが、すぐさま懐に飛んできた相手の猛攻が始まる。

受け身をとって立ち上がった瞬間にはガントレットの右手と魔力を纏った左手で凄まじい威力と速度の拳打を連続で打ち込まれる。

それをなんとか剣で受け流すが、反撃の隙はない。

終わらない連打が襲い、その魔力の波動で地面が削られていく。

反面、こうして近くにいるうちはさっきみたいな魔法は使えないのだろうか。

おそらくは反撃不能、一時でも行動停止させてからのトドメを狙っているのだろう。

…つまり、ダメージを受けて足を止めてしまったら負け。

しかしそうでなくてもこの少女は半端なく強い。

ギリギリかわせるが結構危ないところだ。

「ちょこまか動くなっ!エーテルエッジ!」

手甲を振りかぶり、彼女の腕の甲が展開、鋭い深蒼の刃が現れる。

「斬ッ!」

鋭い一閃。

辛うじて刃本体を受け止めたが、オーラの刃で左腕に深い裂傷が刻まれた。

「ってぇ…!」

かなり傷は深い。何てったって、左腕、動かないぜ…?

刃自体を弾いた剣もヒビが入っている。

これは何度も受けたらマズイ…か。

力を解放して地面を砕き、氷の粒で煙幕を生成して離れる。

傷口を凍らせて止血し、体勢を立て直して構えると、煙幕の上空に魔法陣が展開し魔力を集束させている。

「上からは丸見えだよ!」

残念ながら下からも丸見えだ。主に純白の下着とか。

さておき、校舎を叩き潰すような威力だ。

さっきは防げたが、手負いでこの距離。

防ぎ切れるのか…?

「蓮!ボケっとしてんじゃない!」

彼女の相方と戦闘している朝姫が長い鎌を振るい、放たれた赤い閃光が蒼い魔法陣を砕く。

「きゃ・・・っ!?」

集束していた魔力が暴発し、自爆して落ちる。

俺はすかさず落下地点に飛び込み、渾身の一撃を放つ。

だが彼女は抜群の反射神経で刃を受け止めた。

ガギッ、と嫌な音がして漆黒の剣が刃こぼれした。

弾き、弾かれ。転がし、転がされ。

何度も斬りあう内に俺の剣はあちこちひび割れはじめた。

「くっそ…」

「いやー、強いねぇ。今までの奴らの何倍も強い。折角だから冥土の土産に私の名前覚えておいてもらおっかなぁ、結城くん」

こいつも俺の名前知ってんのかよ!?

本当に、誰かさんのせいで無駄に有名だ。

確かにいつもつるむ連中はみんな何かしら目立つ奴らだけど!

「東雲藍璃。貴方を倒し、桐生院を殺す者よ」

そう言った彼女の目の前に、血飛沫が撒き散らされる。

一つ遅れて、腕が、落ちてきた。

誰だ、誰の…!?

「高瀬!?」

「平気だ!君は構わずそっちの…くっ!」

朝姫が圧倒している相手は腕のなくなった肩口を押さえている。

男の方は少し見覚えがある。高瀬深義。高校生にして有名な画家とか。

画家の右腕を斬るとか朝姫えげつねぇ。

それでも引かず、恐れず、高瀬は朝姫に向かって行く。

朝姫はそれを無慈悲に、無表情にその手の鎌で狩り取ろうとする。

いや、無表情は無感動ではないだろう。

朝姫の心の奥の葛藤は、なんとなく透けて見えていた。

その迷いを押し殺す為に、表情を殺し、ひたすらに鎌を振るう。

そして、むしろ腕を斬り落とされた高瀬自身よりも、目の前の東雲ってやつの方がそれにショックを受けていた。

「高瀬…腕が」

「気にするな!君は早くそいつを倒してくれ!僕は時間稼ぎはできても多分無理だ、もたない!」

「…たかせ」

彼女は知っているのだろう。

彼の努力や、才能を。

それを、朝姫が奪った。

そしておそらく、朝姫はこのまま彼の命も奪うであろう。

「…かえして」

彼女をオーラが、変わる。

雰囲気などではなく、色からして鮮烈な蒼から毒々しい真紅に、一気に変わった。

ガチャガチャと音を立てて籠手もより大きく、禍々しい形状に姿を変える。

それは振り上げる挙動だけで地面が砕けるほどの凄まじい波動を放ちながら、ターゲットを朝姫に絞る。

「高瀬の腕を、高瀬の夢を返してよ桐生院朝姫!!!」

吹き荒れる真紅が彼女の腕ごと巨大な剣となり、引き絞られる。

「アイツを喰らえ!ヴァナルガンド!!」

放たれる真紅。それは蒼の暴風を遥かに上回る威力を持つ圧縮された光の刃となり、朝姫に迫る。

…が、それは朝姫を捉える寸前でめちゃくちゃな方向に逸れ、辺りを破壊し尽くした。

「…お前の相手は、俺だ。それに俺も、朝姫を失うわけにはいかないんでね」

漆黒の剣は東雲の胸を、深く刺し貫いた。

「藍璃!!」

ああ、こいつらはどっちも、相手のことしか考えてないんだな。

高瀬は自分が斬られた時よりもよほど悲痛な叫びをあげる。

血飛沫が赤く咲く花のように広がって凍てつき、東雲は凍りついて行く。

しかしなかなか一気には凍らせられない、彼女の力が俺の干渉を妨げる。

それは、最期の意地。

真っ赤に輝く瞳が俺を捉える。

「死なば諸共、道連れにしてやる!!」

彼女は口から血の泡を飛ばしながら叫ぶ。

突き立てていた剣も俺の手も、彼女の力で縛り付けられたかのように離れない。

真紅の剣が危なっかしく輝きながら崩壊を始める。

「終末の獣よ。太陽を呑み、月を喰らい、天穹を食い荒らす、神喰らいし大いなる牙よ。常闇の最果てに戦の終焉を導け…」

呪いのように低く、唱える。

それに反応して崩壊する真紅の塊が巨大な獣の顎と化す。

「CODE/Break……ッ!!」

巨大な牙は俺を、東雲諸共喰い殺すためにと破裂するように巨大化し、振り上げた腕はまさに空に輝く月を喰らうマーナガルムのように天に伸びていた。

俺の折れかけの剣と、既に押し返され始めている氷の力。

そんなモノじゃ叶うはずのないほどに歴然とした力の差だ。逃げるとか、かわすとか、防ぐなんて次元じゃない。

それはまさに天災の如き…もはや人間の域なんてとうに超えていた。

おい。結城蓮。

お前は今まで散々朝姫に迷惑かけられたって言ってたよな?

だけどどうなんだ?

お前は彼女に辛い役割を押し付けて、泣かせて、挙句の果てに道連れにしようとしてる。

迷惑かけてんのはどっちだよ。

血塗れで泣いてたあいつを、お前は守るって決めたんじゃないのか!

甘ったれてんじゃねえ!

ここで守りきった後ならどうなったってかまわない。

だから。


俺は…


しかし、それは突然に、動きを止めた。


真紅の獣は崩壊を始め、止まらずにどんどん零れて行く。まるで砂の城のように、崩れて行く。

そして東雲自身も獣の顎と同様に、断末魔をあげることすら許されず、崩れ去った。

何が起きた…何故?

「遅いのよ、蓮」

目を伏せたまま、朝姫が鎌を横に振り払う。ねっとりと絡みつくようにその刃を血が滴る。

彼女の足元には血塗れで倒れた高瀬。その胸には大きな穴が口を開けていた。


…結局、守れなかった。


思えば俺は、肝心な所でいつだってそうだ。


どうしたって俺には救えない。俺は主人公じゃないから。どれだけ望んでも、願っても届かない。



でもこれで…戦いは終わった。

こんな悪夢みたいなゲームが終わったのに、達成感というものは、まるでない。

ただただ自分の無力さと、目の前で大切な親友が傷つくのを見せつけられただけ。

それになんだか・・・嫌な予感がする。

「朝姫?」

朝姫の様子がおかしい。

「…やめて」

手に握ったままの鎌を落とし、震える体を抑えるように抱きしめる。

「…やめなさい。お願い、やめて華蓮…」

何かに怯えるようにやめて、やめてと繰り返す朝姫。

一体何が…?

「…朝姫」

「来ないで!蓮!私から離れなさい!」

叫びと同時、真っ赤な焔が朝姫の周りを囲むように燃え上がる。

それはあの、屋上で見た…赤。

「朝・・・姫?」

答えはなく、轟炎が辺りを取り囲み、彼女の黒かった髪が銀色に染め上げられる。

「ふふふっ、あはははははははははははははははっ!」

顔を上げた彼女の双眸は、真紅。

俺を道連れにしようとした東雲と同じ、禍々しい血の紅。

「ふふっ、これで準備は揃ったわ。お疲れ様、結城蓮。これでやっとあたしが《あたし》として表に出られる」

邪悪に笑う彼女の顔は、既に朝姫のものではなくなっていた。

「さあ」

狂気じみた笑みを浮かべて朝姫だったモノは手を差し伸べてくる。

「あたしと踊りましょう?最後の夜の舞踏会よ」



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