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第七話

 一方その頃……。


 啓輔の予想通り、優達の姿は卓球場にあった。


「ゆ、優ちゃん……やっぱり戻らない?勝手に離れたら、怒られちゃうよ?」


「大丈夫だって! どうせ気付かれてないよ」


 おずおずと問い掛ける海とは対照的に、迷子騒動(そうどう)の原因となった張本人――優の態度は楽天的だ。楽しげに鼻歌まで口ずさみ始める親友の様子を、海は不安げに見つめていた。


 ――と、そんな時。


「……ねぇ、君達。ちょっといいかな?」


「ひゃっ!?」


 聞き慣れない声音が突然耳元に響き、海は反射的に飛び退く。


 チラ――とそちらを見やると、困ったように眉根を寄せる、年若い青年が目に映った。手には、浴衣(ゆかた)らしきものとタオルを持っている。


「――すみません、どちらさまですか?」


 ふざけてラケットを振り回していた優が、先ほどとは打って変わった訝しげな声を上げる。


 怪しまれているのだ――と察したらしく、青年は慌ててにっこりと笑顔を浮かべた。


「ああ、急に驚かせちゃってゴメン。君達、ここの旅館の子? 僕等、今日ここに泊まる者なんだけど――温泉の場所って分かるかな?」


“僕等”という言葉に反応し、海が青年の後ろを見やると、確かにそこには青年と同じ年頃の男女が一人ずついるのが見えた。


色素の薄い髪を肩にかかるまで伸ばした男と、胸まである茶髪の髪を巻いている女――どちらかといえば、地味なタイプの青年とは、あまり関わりが薄そうな種族の者だ。


 男は煙草(たばこ)を口にくわえ、女は彼に身体を寄せている。どうやら、二人はカップルらしい。


 海の視線の先に気付いたのか、青年が厳しい声を上げる。


「おい、慎司。こんな所で煙草はよせ。小さい子もいるんだぞ?」


「はいはい。わーったよ」


 慎司と呼ばれた男は肩を(すく)め、ポケットから携帯用灰皿を取り出す。


 銀色のそれにまだ長かった煙草が押し当てられたのを確認すると、青年は再び笑みを浮かべ、優達を見やった。


「……ゴメンね。あいつ、いつもあの調子なんだ」


「いえ……(けむり)には慣れてますので」


 ヘビースモーカーを父に持つ優が、苦笑混じりの声を上げる。


「私達も今日からここに泊まるんです。皆さんは、ご友人で?」


「ああ。僕等、同じ大学の友人でね。春休みを利用して、学生旅行ってワケさ」


「へえ……仲がよろしいんですね」


 そう言いながら、優は年相応の明るい笑顔を浮かべる。彼女曰く、大抵の者はこの明るい笑顔に(だま)されて、様々な情報を喋ってくれるとか……。


「僕、千葉(ちば)智也(ともや)。短い間だけど、宜しくね」


 青年――智也は笑顔を(くず)さぬままそう告げ、後ろに佇んでいる二人にも声を掛ける。


「折角知り合ったんだから、お前達も挨拶(あいさつ)したらどうだ?」


「ああ? 俺達もかよ!?」


 慎司の出した大声に驚き、海がびくっと肩を震わせる。薄らと目尻に涙を浮かべる彼女を見て、彼はばつが悪そうに目を反らした。


「……東城(とうじょう)慎司(しんじ)。悪かったな、急に大声出して」


「あたしは伊吹(いぶき)(れい)よ。宜しくね」


 慎司が紹介を終えると、隣で寄り添っていた女が甘ったるい声を出す。どこか男に()びるようなその態度は、海の得意としないタイプだ。


 この人達とはあまり仲良くできない――海は笑顔を浮かべながら、(ひそ)かにそう思った。


「沢内優です。こっちは、親友の桜庭海ちゃん。今日は、海ちゃんのパパのお仕事の都合で来ました」


「ゆ、優ちゃん……よく知らない人に、あんまりそういう事を教えない方が良いと思うんだけど――」


「大丈夫だよ。住所とか電話番号とか教えてるわけじゃないんだから……」


 海の困ったような囁き声にも、優は明るい声を返す。……本当に大丈夫かな? ――と海が不安に思っていると、案の定智也は不思議そうな顔をする。


「沢内……って、珍しい苗字だよね? どこかで聞いた事あるような……」


 その時、今まで黙っていた玲が声を上げる。


「智也。それって、あれじゃない? ほら、今話題の名探偵……沢内啓輔」


「あ、それ私のパパです」


「ゆ、優ちゃん……!」


 惜しげもなく三人に伝える優を見て、海は今度こそ本気で困った声を上げる。一応、身分を隠して宿泊している身――こうもぺらぺらと喋って、万が一仕事に差し支えたら、困るのは他でもない彼女自身なのだ。


 そんな海の思いなどいざしらず。優の言葉を聞いた智也は、軽く目を見張る。


「へえ……そりゃあ(すご)いね。沢内探偵――って、あれだろ? 幾つもの難事件を解決に導いてきたっていう……僕も、名前くらいは聞いたことあるよ」


「あん? そいつ、有名なのか? 聞いた事ねぇ……」


「慎司は雑誌とか読まないからでしょ? (たま)に取り上げられてるわよ」


「はん……興味ねぇな」


「し、慎司……」


 失礼な友人の言動を聞き、智也が再び眉根を寄せる。


 その探偵の実の娘の前でいう台詞ではないと思うのだが、特に優が気にしている様子はない。


 そんな四人を、海は複雑気な表情で見つめていた――。




 この時、二人は気が付かなかった。三人の中の一人が、恐ろしいほど冷たい目をしていた事に……。


 運命のルーレットは、ゆっくりと(まわ)り始めている――。


久々の更新です(汗) すみません、諸事情で少し滞ってしまいました^^;


この辺りは、先にもかなり影響を表す部分で、何度も何度も書き直してしまい、結局更新できない日が続くという……orz


こんな糞駄文ですが、お暇な時にでも覗いて下さると、凄く励みになります!

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