ウィリア
今日も、あんまり会えなかったな。
薄ぼんやりと明かりをともした室内でウィリアは小さくため息を吐いた。
最近、恋人のセイが忙しい。
冬に壊れた橋の修理を進めているらしく、プライベートな時間どころか休憩すらまともに取れていないようで、会ってもまともにお喋りもできないまま仕事へ戻ってしまう。
しかし、そうやって橋の修理に勤しむセイだが、実は彼、元々大工ではない。
大工ではなく畑で野菜を作るのが仕事な農民なのだが、彼は力が強く真面目で黙々と仕事をこなすため、村人たちからの頼みごとが集中しやすい。
特に建物の修理や建築などの依頼が集中しやすく、本人も暇になると大工の所へ行って仕事はないかと尋ねるようになったため、本来、ただの農民であるはずの彼は実質的に大工となっていた。
そうするとセイに待っているのは酷く多忙な日々だが、真面目で責任感の強い彼は大工の仕事も農民としての仕事も、どちらも決して放棄したりなどしない。
そういった行動の結果、箸の修理と畑仕事、それに花祭りの重なった今年の春などは連日、目の回るような忙しさに見舞われていた。
倒れてしまいそうになるが、セイは頑丈だから倒れることはない。
誰よりも皆のために働いているのだから、畑のことくらい暇そうな村人に任せても良いのだが、頼らない。
というより、幼少期から頼られてばかりで、おまけに毎回、自分の力だけでなんとかなってしまっていたので、人への頼り方を知らない。
ウィリアだけは畑仕事を手伝ってくれたりするのだが、彼女一人の力では焼け石に水だ。
しかも、重い鍬を振るったり、常に中腰になって作業したりすることで、腰を中心に体中を痛めてしまっているのを見ると、どうにも可哀想になってしまって、セイはウィリアを自分の畑から締め出してしまった。
彼女にとっては、多少仕事があろうとセイに会うことができ、彼のために頑張ることができる大切な時間だったのだが。
既に夕食を食べきったウィリアだが、彼女は食器をテーブルに置いたまま椅子に座ってボーッと一日を振り返っていた。
能天気で軽いと思われがちなウィリアの頭だが、実際には目まぐるしく変わる表情や動作と同様に脳もクルクルと動いて様々な事を考えている。
ウィリアがお喋りでポンポンと話題を出すことができるのも、会話を弾ませられるのも、彼女がグルグルと思考を回す性格をしているからに他ならない。
そんな彼女は基本的に楽しい事に楽しいことを重ねて考え、宝石のような瞳をキラキラとさせているのだが、最悪なのが負のループにはまった時だ。
暗い事に暗い事を重ねて考え、何度も何度も脳内で掻き回す。
まるで、ヘドロの塊を素手でかき混ぜ続けているようだった。
『セイ、あたしに興味ないんだろうな~。会ってもいつも~、あたしが声をかけるばっかだったし~。最近は顔も見せてくれないな~。大工さんの所には行くくせにさ~。もう、もう、あたしのことなんて嫌いなんだろうな。あたしだって……』
少し前まではセイが自分のことを好きではなくなってしまったの「かも」だったのが、今では嫌われてしまったことがほぼ確定してしまっている。
これは良くない傾向だろう。
ウィリアは何をする気にもなれなくて、視界に入り込んだ網掛けの暖房具やバスケットに入った大量の毛糸玉を無視する。
ドツボにはまったままウィリアは重い体を引きずって自室に戻り、コテンとベッドに寝転がるといつものように少しだけ涙を流しながら眠った。




