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転生魔法学園記2期

掲載日:2026/02/27

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【転生魔法学園記】第二期

~前世の封印と守るべきもの~

   全24話 完全版


■新登場ヒロイン8人(2期追加)


・ノア・セレスティア(16歳)

 星読み魔法の使い手。白い長髪と銀色に輝く瞳。学園の天文台に住み着いている。

 夜しか魔法が使えないという特殊体質で、昼間はぼうっとしていることが多い。

 星の動きで未来を”少しだけ”読むことができる。口数が少なく詩的な言葉を好む。

 「あなたが来ることは、星が教えてくれていた」が初対面の台詞。


・クレア・ハンマースミス(16歳)

 発明魔法の使い手。黒縁眼鏡をかけた栗色のショートボブ。

 魔法と機械を融合した”魔道具”の製作に熱中しており、

 学園中に謎の実験爆発音を響かせている張本人。

 天才だが実験に没頭すると周りが見えなくなり、よく事故を起こす。

 ライトの前世知識に「それ理論化できます!!」と目を輝かせて飛びかかってきた。


・イリス・ムーンウォーカー(15歳)

 夢魔法の使い手。薄紫の髪と眠そうな紫の瞳。いつもふわふわしている。

 人の夢に入って夢を見せたり、現実に幻覚を起こしたりする珍しい魔法を持つ。

 本人は「夢の世界の方が好き」と言い、しばしば授業中に本当に眠る。

 現実と夢の区別が曖昧で、ライトに「あなたは夢じゃないの?」と何度も確認する。


・テス・ウィンドウェイ(15歳)

 風魔法と速さに特化した使い手。緑の目と短い金髪、日焼けした肌。

 学園最速を誇り、授業の遅刻常習犯でもある(走れば間に合うと思っている)。

 前向きで明るいムードメーカーだが、実は家族との確執を抱えている。

 ライトに「一緒に走りましょう! 追いつけないでしょうけど!」と挑発してきた。


・レナ・クリムゾン(17歳)・三年生の先輩

 血の魔法(生命魔法)の使い手。深紅の長い髪と落ち着いた赤い瞳。

 血液の中の魔力を操る珍しい系統で、治癒と攻撃の両方に使える。

 普段は物静かで落ち着いているが、実は相当な食いしん坊で

 リナの料理を狙ってよく食堂に出没する。ライトとは食事でよく会う。


・マリア・サンクトゥス(15歳)

 聖魔法の使い手。プラチナブロンドの巻き髪と澄んだ青い瞳。

 教会の出身で礼儀正しく清楚だが、実はかなりの天然。

 悪意がまったくなく、無自覚に際どい発言をすることがある。

 「男性と二人きりになるのは教会の教えで禁じられているはずなのに、

 あなたといると罪悪感が湧きません。これは神の御心でしょうか?」と言った。


・ベル・グランフォート(16歳)

 重力魔法の使い手。黒い縦ロールの髪と気品ある紫の瞳。

 旧貴族グランフォート家の令嬢で高飛車なお嬢様キャラ……のはずが、

 初対面でライトに重力魔法を使ったら重力が暴発して自分が浮かんで

 逆さまになってしまい、以来なぜかライトには素直になれない。

 「わたくしが頭を下げるのはお父様だけですわ……でも、あなたは別で……」


・ツキ・シライ(15歳)

 月影魔法の使い手。日本的な黒髪おかっぱに切れ長の黒い瞳。

 ユイとは別の東方の国・月白国の出身。

 影を操る魔法で、ユイの魔刀術とは異なる武術系魔法の使い手。

 無口で表情が読めないが、食事だけは本当に好きで、

 リナの料理を「……おいしい(小声)」と言うために毎日食堂に来る。

 ライトには「あなたは影の中でも光っている」と言った(本人は詩的なつもりはない)。


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     第一章 二年生の幕開け

     (第1話~第4話)


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◆第1話「二年生、始まります」


 新学期の朝。


 ライトは去年と同じ正門を、今度は二年生として歩いた。


《ご主人様、今年もお騒がせな一年になりそうでございますな》


「……頼むから静かな一年にさせてくれ」


《期待薄でございます》


 フロストの言葉通り、ホームルームが始まった瞬間から事態は動いた。


-----


 担任の先生が開口一番言った。


「今年は転入生が多い年です。順番に自己紹介してもらいます」


 最初に立ち上がったのは、深紅の髪の少女だった。


「レナ・クリムゾン。三年生から編入しました。血の魔法を使います。よろしく」


 短い自己紹介。静かに座る。隣のライトをちらっと見て、また前を向いた。


 次に立ったのは、黒縁眼鏡の少女だった。


「クレア・ハンマースミスです! 魔道具研究が専門で、昨日も実験してたら爆発しちゃって。あ、死にませんでした。でも眉毛が少し」


 クレアが眉毛のあたりを指さした。確かに少し焦げていた。


「……」


「あなたがライト・アシュトンさんですね! 噂は聞いています! 前世の記憶があるって! ぜひ古代魔法理論を教えてください! 私の研究に絶対必要なんです!」


「落ち着け」


「落ち着いてます! これが私の平常運転です!」


 次に立ったのは、薄紫の髪の少女だった。


「……イリス・ムーンウォーカー。夢魔法、使います……。今、夢を見てるのかな……」


「寝るな」


「……起きてます……たぶん……」


 それからプラチナブロンドの巻き髪の少女が立ち上がった。


「マリア・サンクトゥスと申します。教会の出身ですが、神のお導きでこちらの学園に参りました。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 深々とお辞儀。完璧な礼儀作法。清楚な微笑み。


 ……が、着席の際に椅子に裾が引っかかってバランスを崩し、隣のライトに思い切り倒れ込んだ。


「きゃっ!」


「…………」


「あ、あの……」


「大丈夫か」


「……神よ、これは試練でございましょうか……」


 マリアが顔を赤くして、それでも丁寧にお辞儀をしてから自分の席に正座した。


-----


 廊下でクレアがライトに走り寄ってきた。


「ライトさん! さっそくですが、お話があります!」


「なんだ」


「あなたの前世で使っていた魔力圧縮理論を、機械と組み合わせることができると思うんです! 見てください、この設計図!」


 クレアが巨大な設計図を広げた。廊下幅いっぱいに広がった。


「……これは」


「魔力を圧縮して小型の魔道具に封じ込める仕組みです! でも理論の核心部分が解明できなくて……ライトさんの前世知識を使えば絶対完成します!」


「……面白い発想だ」


「本当ですか!!」


「ただし設計の第三段階に根本的な欠陥がある。ここの魔力流が逆転している」


「どこですか!! 教えてください!!」


「今は無理だ。後で時間を作る」


「約束ですよ!! ライトさん、大好きです!!」


「……突然すぎる」


「褒められると素直に言っちゃうんです、私!」


 クレアが走り去った。《ご主人様、また変わった方が》とフロストが言った。


「黙ってろ」


-----


◆第2話「天文台の星読み少女」


 二学期の初日の夜、ライトは学園の天文台を訪れた。資料を探すためだ。


 天文台の螺旋階段を上ると、丸い天窓から星が見える部屋に出た。


 部屋の中央に、白い長髪の少女が座っていた。目を閉じて、ただ星の光の中にいた。


「……来ると思っていた」


 ライトが声をかける前に、少女が静かに言った。


「なぜ」


「星が、教えてくれていた」


 少女がゆっくりと目を開けた。銀色の瞳がライトをまっすぐに見た。


「ノア・セレスティア。星読み魔法を使う。……あなたはライト・アシュトン」


「そうだ。ここは天文台の資料室だと聞いたが」


「そう。でも私の部屋でもある。資料はあちらの棚に」


「部屋?」


「夜しか魔法が使えないから、昼は寝ている。ここが一番静かで星が近いから」


 ライトは棚の資料を探しながら、ノアを観察した。


 白髪に銀の瞳。特殊体質の魔法使いは珍しい。


「星が未来を教えるというのは本当か」


「少しだけ。ぼんやりとした輪郭だけ。確実なものは何もない」


「俺のことも読めるか」


「……読もうとした。でもあなたは特別で——星がざわめく。前世の魔力が強すぎて、ノイズが多い」


「そうか」


「一つだけ、はっきり見えたことがある」


「なんだ」


「あなたの周りには、たくさんの光がある。それが守られるか失われるかは——あなた次第」


 ノアが静かに星を見上げた。


「……私もその光の一つなのかもしれない。星がそう言っていた」


「お前自身はどう思う」


「……私は星の言葉を信じる。だから、あなたのそばにいることにした」


「勝手に決めたのか」


「星が決めた」


 ライトはしばらく考えた。


「……夜の練習に付き合ってくれるか。昼間は動けないんだろう」


「喜んで」


 それからノアは毎晩、天文台の下で魔法の練習を見守るようになった。


-----


◆第3話「重力お嬢様の大失態」


 二年生になって最初の合同授業の日。


 廊下で、黒い縦ロールの髪の少女と鉢合わせた。


「あなたが……ライト・アシュトットね」


「アシュトン」


「……アシュトン。わたくしはベル・グランフォート。グランフォート家の娘よ。あなたのことは噂で聞いているわ。男のくせに魔法使いとは、なかなか珍しい存在ね」


「そうだな」


「わたくしの重力魔法の前では、どんな魔法使いも跪くことになるわ。覚えておくことね」


「わかった」


「そ、素直ね……? 普通もっと反論するものじゃないの……」


「お前が強いのは本当だろう。認める事実は認める」


 ベルが少し動揺した。それを誤魔化すように「ふん!」と言って重力魔法を発動した。


 ライトに圧力をかけるつもりだったのだろうが——


 魔力が暴発した。


 ベル自身が宙に浮いた。逆さまに。


「……っ!?!? な、なんで!?」


「重力魔法は自分にも影響する。暴発すると本人が飛ぶ」


「おろしなさい!! 早く!!」


「お前の魔法だ。自分で直せ」


「直せないから言ってるの!!」


 ライトは重力操作で静かにベルを下ろした。


 ベルが着地した瞬間、スカートが完全に重力に逆らえておらず……


「……っ!!!!!」


「見てない」


「嘘!! 絶対見た!!」


「本当に見ていない。目を逸らした」


「……本当に!?」


「本当だ」


 ベルが真っ赤になってそっぽを向いた。


「……こ、このことは誰にも言わないで。グランフォートの名折れだから」


「言わない」


「……ありがとう。って言ってないわよ!? 言いそうになっただけ!」


「そうか」


「……なんでそんなに飄々としているの!?」


「慣れた」


「何に慣れたの!!?」


 ライトは答えなかった。


 ベルはその日から、「わたくしはあなたに興味がないわ!」と言いながら毎日ライトの近くをうろつくようになった。


-----


◆第4話「風使いの秘密と家族の傷」


 体育の授業中、ライトは圧倒的な速さで駆け回る少女を見た。


 緑の目と短い金髪、日焼けした肌。テス・ウィンドウェイ。


「見ててください!」


 テスが風魔法で加速して校庭を三周した。誰も追いつかない速さだった。


「……速い」


「でしょ! 私、学園最速なんです! ライトさんは? 追いつけますか?」


「走力は普通だが、魔法で補えば追いつける」


「やってみてください!」


 ライトが空間移動魔法で瞬時にテスの前に現れた。


「……ずるい! 瞬間移動は走ることじゃない!」


「速ければいいんだろう」


「走ることに意味があるんです!」


「なぜ走ることに意味がある」


 テスが少し止まった。


「……走っていれば、考えなくていいから」


「何を考えたくない」


「……」


 テスは少し黙ってから、また笑顔になった。


「なんでもないです! 今度は本気で走りますよ!」


-----


 その夜、ライトが廊下を歩いていると、暗い窓の外を見ているテスを見つけた。


「どうした」


「……家から手紙が来ました」


「実家か」


「うん。騎士家なんですけど、私、魔法使いになりたいって言ったら父が大反対で……。“騎士家の娘が魔法使いなど恥だ”って。でも、走ることと魔法が一緒になれば最強の騎士魔法使いになれると思って……学園に来たんです。でも父は今でも納得してなくて」


「手紙の内容は」


「“いつになったら帰ってくる”って……。認めてもらえてないんです、まだ」


 ライトは少し考えた。


「お前の風魔法と速度の組み合わせを見た。あれは確かに戦闘に特化した才能だ。騎士としての素質がある」


「本当に?」


「本当だ。手紙に何と書くかは自分で決めろ。だが、お前の選択は間違っていない」


 テスがゆっくりと笑った。


「……ライトさん、あなたって不思議な人ですね」


「なぜ」


「普通、そういうことはもっと優しい言い方をするじゃないですか。でもあなたは事実だけ言う。なのに、ちゃんと温かい」


「そうか」


「……ありがとうございます」


 テスが走り出した。今度は逃げるためじゃなく、前に向かうように。


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     第二章 新ヒロインの波乱

     (第5話~第8話)


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◆第5話「夢魔法と現実の境界線」


 イリスが問題を起こした。


 授業中に眠ってしまい、夢魔法が暴走して教室全体が幻覚に包まれた。


「――な、なんですかこれ!?」


「水の中にいる!?」


「空が逆さまになった!?」


 生徒たちがパニックになる中、ライトだけが冷静に立っていた。


 (これは幻覚だ。魔力の構造を見れば……イリスの魔法が暴走している)


 ライトはイリスに近づいて、眠っている肩を軽く叩いた。


「起きろ」


「……んあ……夢……?」


「現実だ。魔法が暴走している。止めろ」


「……夢の中で止めれば……?」


「夢じゃない。目を開けろ」


 イリスがゆっくりと目を開けた。幻覚が消えた。


 教室が元に戻り、全員がへたり込んだ。


「……ごめんなさい……また寝ちゃった……」


「どうやったら寝ないでいられる」


「……夢の中に面白いものがあると、起きたくなくなるの。逆に、現実に面白いものがあると……起きていられる」


「現実の何が面白い」


「……それを探してる。ずっと」


 イリスが夢うつつの目でライトを見た。


「あなたは……面白いと思う。前世の記憶があって、普通じゃなくて……夢の中の人みたい」


「俺は現実の人間だ」


「……本当に?」


「確かめるか」


「どうやって」


 ライトはイリスの手を取って、窓の外を指さした。


「外に出れば現実だと分かる」


 外に出ると、春の風が吹いた。イリスが目をぱちくりさせた。


「……風が、ある」


「夢に風はないか?」


「……夢の風は、こんなにあったかくない」


 イリスが初めて、はっきりした目でライトを見た。


「……現実、悪くないかもしれない」


「そうか」


「あなたがいる現実は……少し、好きかもしれない」


「そうか」


「もっと強い言葉で反応してほしい」


「……嬉しい」


「それくらいで十分です」


 イリスがふわっと微笑んだ。夢の中の花みたいな笑顔だった。


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◆第6話「聖魔法の天然と教会の教え」


 礼拝堂でマリアが一人お祈りをしていた。


 ライトが通りかかると、マリアが顔を上げた。


「ライトさん。少しよろしいですか」


「何だ」


「一つ、神学的な質問があります」


「俺は神学者じゃないが」


「でも前世の記憶があるでしょう。三百年生きた方のお知恵を借りたくて」


「……聞いてみろ」


 マリアが真剣な顔で言った。


「教会の教えでは、男女が二人きりになることは慎むべきとされています。しかし、あなたといると……不思議と罪悪感が湧きません。これは神が許可しているのでしょうか、それとも私が間違っているのでしょうか」


「……それは俺に聞くことじゃない」


「でも三百年生きた方ならご存知では?」


「宗教の内規については分からない。ただ——」


「ただ?」


「人と人が話すのに、性別の制限は本来おかしい。教会の教えの意図は不純な関係を防ぐことだろうが、俺との会話に不純な意図はない」


「では、神はお許しになっている、ということ……ですか?」


「俺が神の代弁はできない」


「……そうですね」


 マリアがしばらく考えて、それから顔を赤くした。


「あの……一つ、ご相談があるのですが」


「何だ」


「聖魔法の詠唱の練習をしたいのですが、一人では声が出なくて……聞いていただけますか?」


「詠唱を聞くだけでいいか?」


「はい。あと……手を繋いでいただけると、魔力が安定するのですが……」


「……なぜ」


「聖魔法は”繋がり”から力を引き出す系統で、孤独では力が出にくいんです」


「……わかった」


 ライトがマリアの手を取ると、マリアの顔が瞬時に真っ赤になった。


「これは……神の御加護として解釈してよいでしょうか……」


「好きに解釈しろ」


「……はい。神よ、ありがとうございます……(小声)」


 詠唱練習は三十分続いた。


 マリアの聖魔法は、繋がりの中でみるみる強くなった。


-----


◆第7話「月影の刺客と影の中の光」


 ある夜、ライトが廊下を一人歩いていると、影から手が伸びてきた。


「……っ!」


 瞬時に防御魔法を張ったが、攻撃ではなかった。影の中から、小さな手がそっとライトの袖を引いた。


「……おいしいものが食べたい」


「……」


 影から出てきたのは、黒髪おかっぱの小柄な少女だった。切れ長の黒い瞳が、静かにライトを見ている。


「……ツキ・シライか」


「……よく知ってる」


「ユイから聞いた。月白国から来た留学生がいると」


「……そう」


 ツキが黙った。また黙った。


「……食堂、もう閉まってた」


「そうか」


「……おなかがすいた」


 ライトはしばらく考えた。


「リナに頼める。来い」


「……ついていく」


 リナは二学期になってから夜遅くまで実験的なレシピを研究していた。ライトが事情を説明するとリナが「もちろん! 何が食べたいですか?」と聞いた。


 ツキが少し考えた。


「……月白国の汁物が……食べたかった」


「作り方教えてもらえますか!?」


 ツキが珍しく少し表情を動かして、材料と作り方を説明し始めた。


 三十分後、リナが作ったツキの故郷の汁物が完成した。


 ツキが一口飲んだ。


「……おいしい」


 それだけ言って、また黙った。


 でも、その目が少しだけ潤んでいた。


「……ありがとう」


「また食べに来い」とリナが言った。


「……(こくり)」


 ライトがツキを寮に送っていくと、別れ際にツキが振り向いた。


「……あなたは、影の中でも光っている」


「どういう意味だ」


「……そのまま。詩じゃない」


「そうか」


「……また来ていいか」


「いつでも」


 ツキが影の中に消えた。月影魔法で影の中を移動する特技らしかった。


《また増えましたな》とフロストが言った。


「黙ってろ」


-----


◆第8話「血の魔法と食いしん坊な先輩」


 食堂でライトが昼食を食べていると、向かいに深紅の髪の少女が座った。


「……ここ、いい?」


「どうぞ」


「レナ・クリムゾン。三年生。血の魔法の使い手」


「知ってる。自己紹介してただろう」


「……そう」


 レナが食堂のトレーを三枚並べた。


「……多いな」


「食べる量が多い。血の魔法は消耗が激しいから、カロリーが要る」


「なるほど」


「あなたの魔法も消耗大きいんじゃない? あれだけの術式を使ったら」


「それなりに」


「なら食べた方がいい。一緒に食べる?」


「……俺はもう一品頼んできた方がいいかもしれない」


「ここのミートパイがおいしいよ。もう二個食べた」


「今のが二個目か」


「三個目。あ、あそこのスープも頼もう」


 ライトはレナが次々と追加注文する様子を見ながら、食事を続けた。


「……三年生なのになぜこの学年のホームルームに」


「血の魔法の研究で必要な科目が一年生のカリキュラムにあるから。特別許可で受けてる。あとリナちゃんの料理を食べるために食堂でよく会う」


「そういう理由も入ってるか」


「入ってる。隠さない。あの子の料理は本物だから、一番近い食堂にいたい」


「正直な人だな」


「嘘をついてもしょうがない。……あなたも正直そう」


「そうかもしれない」


 レナが四枚目のトレーを持ってきた。


「……食べながら話せる? 血の魔法の術式で気になることがあって」


「食べながらでいい」


「よかった。……口の中でしゃべるの、お行儀悪いのはわかってるんだけど、食事を止めたくない」


「俺も気にしない」


「……あなた、いい人だな」


「そうか」


「……また食べに来ていい?」


「来たいなら来い」


 その日からレナはライトの昼食に毎日合流するようになった。食堂のおばさんが「いつもの二人分ね」と言うようになるまで時間はかからなかった。


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     第三章 ラッキースケベ大戦争

     (第9話~第12話)


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◆第9話「魔道具研究室の大爆発と複数同時被害」


 クレアが研究室でついに「魔力圧縮装置」の試作品を完成させた。


「ライトさん! 完成しました! 見てください!」


「どこで実験する」


「研究室の中で! 安全は確認してあります!」


「本当か」


「七割方!」


「七割方は安全じゃない」


「大丈夫です! 爆発しても威力は小さいです!」


 ライトがため息をついて研究室に入ると、そこには偶然ノア、メル、イリスも本を読んでいた(みんな図書館が満員で流れてきたらしい)。


「クレアさん、また実験?」とメルが本から目を上げた。


「完成版です! 絶対大丈夫!」


「……夢の中でこういう言葉を聞いた後は必ず爆発する」とイリスが言った。


「縁起でもないこと言わないでください! では、起動します! カウントダウン! 三、二、一——」


 ドゴォォォオン!!!


 研究室が白煙に包まれた。


 白煙が晴れた後、全員が床に転がっていた。


 ライトは咄嗟に防護魔法を張っていたが間に合わず、爆発の衝撃でノアが飛んできてライトに激突した。


「……っ!」


「……ごめん」


「大丈夫か」


「……星が言ってた。今日は衝突がある、って」


「言ってたなら教えろ」


「あなたが信じると思わなかった」


 隣を見ると、メルとイリスが重なって倒れていた。


「……またこうなった」とメルが言った。


「……夢みたい」とイリスが言った。


「夢じゃない」とメルが言った。


 クレアが白煙の中から立ち上がった。眉毛がまた少し焦げていた。


「……ライトさん、第三段階の修正が必要でした」


「言っただろう」


「はい……次は絶対成功します!」


「次は屋外でやれ」


「わかりました! ありがとうございます!」


 白煙の中でクレアの笑顔だけが輝いていた。


-----


◆第10話「温泉合宿リターンズ!今年は十人」


 二年生の魔力回復合宿が始まった。


 今年は参加人数が増えた。新ヒロイン8人も合流したため、温泉が大賑わいだった。


 スケジュールは厳密に管理されているはずだった。


-----


 初日の夜。


 ライトが時間通りに男湯に向かうと、入口に貼り紙があった。


「男湯→女湯に変更」


「……また入れ替えか」


《今年は規模が大きいですぞ》とフロストが言った。


 引き返そうとしたその時、背後から声がした。


「あなたも間違えた?」


 振り向くとレナが浴衣姿で立っていた。


「……俺は間違えていない。表示が変わっていた」


「あ、それ私が誤って貼り替えたのかも。ごめん。あなた、こっちに来ないよね?」


「来ない」


「よかった。……でも少し残念かも」


「なぜ」


「あなたと露天で星を見ながら話すの、悪くなさそうだから」


「……」


「冗談。半分くらい」


 レナがにっこり笑って中に入っていった。


-----


 翌朝の露天風呂。


 ライトが早朝に入っていると(今度こそ正しい時間帯)、ぼんやりと霧の向こうから声がした。


「……夢? それとも現実?」


「現実だ」


 霧の中からイリスが現れた。湯に浸かったまま、半分眠りながら歩いてきていた。


「……時間を間違えた?」とライトが言った。


「……夢と現実の境界がわからなくなってて……気づいたらここにいた……」


「とりあえず出ろ」


「……出たくない。お湯があったかい……」


「俺がいる」


「……いいじゃない……夢みたいで……」


「夢じゃない」


「……(湯に沈む)」


「沈むな」


 ライトが目を逸らしながら魔法でイリスを引き上げ、バスタオルを渡した。


 イリスがふわりと受け取った。


「……ありがとう……現実のあなた、やさしい……」


「夢の俺もやさしいのか」


「……夢のあなたはもっとやさしい。でも……現実のあなたの方が好き……」


「どういう理由だ」


「……温かいから」


 イリスがそのまままた眠りそうになったので、ライトは魔法で彼女を脱衣所まで送り届けた。


-----


 二日目の午後。


 露天風呂の近くの岩場でノアが夜のための魔法の準備をしていた(昼は魔法が使いにくいが、準備はできる)。


 ライトが通りかかると、ノアが振り向いた。


「……さっき、あちらの露天で珍事があったと星が言っていた」


「星は何でも教えるな」


「……気になる?」


「気にしない」


「賢明ね」


 ノアが静かに笑った。夜空みたいな微笑みだった。


「……今夜、特別な星の配置がある。あなたに見せたいものがあるの」


「何だ」


「百年に一度の星の並びで、古代の魔法陣が星空に浮かぶ。前世のあなたが知っていると思って」


「……前世で一度だけ見た。確かに美しかった」


「今世でも見る?」


「ああ」


「……二人で見ようか」


「それでいい」


 ノアが夜空を見上げた。まだ昼の空に、彼女の目だけが星を探していた。


-----


 二日目の夜、クレアが誤って「改良版魔力圧縮装置」を野外で起動した。


 爆発は小さかったが衝撃波が温泉全体に届き、暖簾が全部吹き飛んだ。


「クレェェェェェァ!!!!」


 レイアの叫び声が夜の温泉地に響いた。


 ライトは遠くの岩の上でノアと星を見ていたので無事だった。


「……下が大変そうね」


「……そうだな」


《ご主人様は今回お一人だけ安全地帯にいたようでございます》


「今回は運がよかった」


-----


◆第11話「重力令嬢と逆さまの告白」


 授業の魔法実習で、ベルが重力魔法の応用を披露することになった。


「見ていなさい。グランフォート流重力魔法の極意を」


 ベルが魔力を込めた瞬間、教室全体の重力が逆転した。


 全員が天井に張り付いた。


「……ベル、直せるか」


「ちょっと待ちなさい! 制御するから!」


「急げ。本が全部落ちる」


「わかってる!」


 教室中の本と道具が宙を舞い、全員が天井でじたばたする中、ライトだけが重力操作で普通に立っていた(重力操作は前世で会得している)。


 ベルが必死に魔法を修正しようとするが、焦るほど魔力がブレる。


「……落ち着け」


「落ち着けないわよ! こんな状況で!」


「目を閉じろ。魔力の中心を探して、そこから逆順に解いていけ」


「……中心……」


「見つかったか」


「……たぶん……」


「ゆっくりでいい。急がなくていい」


 ベルが目を閉じて、静かに魔力を整えていった。


 十分後、重力が戻った。全員がドシャッと床に落ちた。


「……直した」


「よくやった」


「……褒めてくれるの?」


「事実を言った」


 ベルが顔を赤くして、それからライトから目を逸らした。


「……あなたがいたから落ち着けた」


「そうか」


「……感謝している。言いたくないけど、言わないといけないと思ったから言う」


「正直でいい」


「……うるさい。正直なのは当然のことよ」


 ベルがスカートを直して「今日はここまでにするわ」と言って出ていこうとした。


 扉の前で振り向いた。


「……また魔法を見ていてくれる?」


「いつでも来い」


「……(小声)ありがとう」


 ベルが出ていった後、残っていたシャルが言った。


「先生、あの人先生のこと好きですよ絶対」


「そうか」


「そうですよ! 気づいてください!」


「……気づいてる」


「ならちゃんとしてあげてください!!」


「今はまだその段階じゃない」


「段階!? 先生に段階なんてあるんですか!?」


「ある」


 シャルが「先生って意外とちゃんと考えてる……?」と驚いていた。


-----


◆第12話「影の少女と満月の夜」


 満月の夜、ライトが廊下を歩いていると、影からツキが現れた。


「……ついてきていい?」


「構わない。どこに行く」


「……あなたが行くところ」


「図書館だが」


「……行く」


 二人で図書館に向かった。


 ツキは終始無言だったが、ライトの隣に座って本を読み始めた。


 一時間ほど経って、ツキが口を開いた。


「……月白国では、満月の夜は大切な人と過ごす風習がある」


「そうか」


「……だからライトのそばにいたかった」


「俺が大切な人なのか」


「……そう」


「理由は」


「……最初に私の故郷の食べ物を作ってくれた。それだけで十分」


「リナが作った」


「……あなたが連れてきた」


「……そうだな」


「……満月の夜は、一つだけ正直なことを言う風習もある」


「何を言う」


 ツキが月明かりの中でライトを見た。


「……あなたが好き。影の中にいる私のそばにいてくれたから」


「……」


「返事は要らない。風習だから」


「……返事をしてもいいか」


「……(こくり)」


「お前も大切だ。それは本当だ」


 ツキがしばらく沈黙した。


 それからとても小さく微笑んだ。


「……ありがとう」


「礼を言うことじゃない」


「……うれしい。それだけ」


 二人はそのまま閉館まで本を読み続けた。並んで、静かに。


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     第四章 戦いと涙の季節

     (第13話~第16話)


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◆第13話「魔法省の第二の刺客」


 三学期。魔法省から新たな動きがあった。


 「男性魔法使いを帝立研究所で”安全管理下に置く”」という議案が正式に提出されたのだ。


 前回の審問会でライトの魔力の安全性は証明されたはずだが、魔法省の強硬派がまだ諦めていなかった。


 学園長からライトに話が伝えられた夜、全員が集まった。


「先生、また来たんですね」とシャルが言った。


「今回は前より本格的だ。議会を通る可能性がある」


「通させない」とレイアが言った。「前回で勝ったのに」


「前回は魔力の安全性の問題だった。今回は”前例のない存在をどう管理するか”という法的な問題だ。感情論では動かない」


「なら法律で戦いましょう」とアリアがにこっと言った。「私のネットワークで議会の動きを追います。サポーターも集めます」


「私は古代の法典を調べる」とメルが言った。「前例がないということは、根拠となる法もないということだ。逆手に取れる」


「サンローゼ王国として正式に抗議文を出す」とエリスが言った。


「白蓮国も声明を」とユイが言った。


「月白国も」とツキが小声で言った。


「闇魔法の件と合わせて、魔法省全体の体質を問う提案ができる」とミラが言った。


「医療記録と治癒実績で、ライトの魔力が社会的利益になる証拠を出す」とフィアが言った。


「星が……あなたを守ることを許している。今夜の配置がそう言っていた」とノアが静かに言った。


「魔道具でサポートする! 具体的には……まだ考え中だけど!」とクレアが言った。


「私の血の魔法で魔力解析の証明書が作れる。偽造不可の術式で」とレナが言った。


「……私の影で、会議室の様子を探れる」とツキが追加した。


「聖魔法で宣誓を取れる。神の証人として」とマリアが言った。


「重力魔法で……会議室を逆さまにできる」とベルが言った。


「それはやめろ」


「……冗談よ。半分くらい」


「テスは?」


「私は魔法省まで最速で文書を届ける! 速攻で!」


「速攻でやれ」


「任せてください!」


 ライトは全員の顔を見た。


(今世の俺は……本当に一人じゃない)


「……頼む」


「任せて、先生」とシャルが笑った。


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◆第14話「クレアの発明と奇跡の逆転」


 議会での審議当日。


 ライトが証言台に立つ前、クレアが走ってきた。


「ライトさん! 完成しました!!」


「何が」


「魔力測定装置の改良版! 今まで”測定不能”と出ていたライトさんの魔力を、精密に解析して数値で出せるようにしました! これを使えば——」


「魔力の安全性を客観的数値で示せる」


「そうです!! 信じてもらえますか!?」


「信じる。どこで検証した」


「昨夜一晩中! 眠ってない! でも動く! 爆発しない! たぶん!」


「“たぶん”が気になるが」


「九十九パーセント!」


「……一パーセントの余裕は持って臨め」


「はい!!」


 議会の審議室に入ったライトが証言台に立った瞬間、クレアの装置が魔力数値を空中に投影した。


 三百年分の魔力を保持しながら、完全に制御されたライトの魔力構造が、議会の全員に見えた。


 魔法省の強硬派の顧問が立ち上がった。


「これは……何という精度の測定技術だ」


「クレア・ハンマースミスが開発した魔道具です」とクレアが言った。「魔力圧縮理論を応用した精密測定装置です。特許申請中です」


「……」


「この数値から見てわかる通り、ライトさんの魔力は完全に制御されており、自他への危険性はゼロです。それどころか、この魔力構造は古代魔法の継承として魔法学的に極めて貴重な資料です。研究所に閉じ込めるより、学園で活動させる方が学術的価値が高い。以上です!」


 クレアが深々とお辞儀をした。


 議場が静まり返った。


 議長が、ゆっくりと言った。


「……議案の再審議を提案する」


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 結果、議案は否決された。


 学園に帰ってきたライトを全員が出迎えた。


「やった!!」とシャルが飛び上がった。


「クレアが功労者だ」とライトが言った。


「えー!? 私!?」とクレアが目を丸くした。「あの装置、爆発しなくてよかった……」


「爆発する前提で作るな」


「でも心配してたんですよ! 途中で煙が出て!」


「出てたのか」


「少しだけ! でも議場の人には分からなかったみたいで!」


「……胆が太いな」


「ライトさんを守れるなら火の中にでも飛び込みます!」


「飛び込むな」


「……(少し赤くなる)比喩です!」


「そうか」


 クレアが照れながら次の発明の計画を話し始めた。ライトは少しだけ笑った。


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◆第15話「テスの父と魔法剣士の証明」(感動エピソード)


 ある週末、学園の見学日に、テスの父——騎士団長のロジャー・ウィンドウェイが訪れた。


 テスが青ざめた顔でライトに言った。


「お父さんが来た。どうしよう」


「なぜ俺に言う」


「……一緒にいてくれたら、少し落ち着く」


「わかった」


 ライトとテスが父親と会った。ロジャーは大柄な壮年の騎士で、テスにそっくりの緑の目をしていた。


「テス。帰ってくる気になったか」


「……まだです、お父さん」


「魔法使いになるなど、騎士家の恥だと言っただろう」


「でも私は——」


「お嬢さん」とライトが静かに言った。


 ロジャーがライトを見た。


「……あなたは?」


「ライト・アシュトンです。テスの先輩です」


「男が? 魔法使いに?」


「そうです。あなたはテスの風魔法と速さの組み合わせを見たことがありますか」


「……見ていない」


「見ますか」


 ロジャーが怪訝な顔で頷いた。


 テスが演技をした。風魔法で加速した疾走、空中での軌道変換、着地寸前の急加速からの急停止。


 ロジャーが目を細めた。


「……あれは、騎士の突撃術に似ている」


「テスは風魔法と速度で、騎士の戦術を魔法で再現しています。魔法剣士として戦えば、一般の騎士十人分の機動力を持つ。騎士家が誇るべき才能だと俺は思います」


 しばらくの沈黙。


「……本当にそう思うか」


「本当にそう思います。俺は嘘をつかない」


 ロジャーがテスを見た。テスが真っすぐ父を見返した。


「……お前が自分で選んだのか」


「はい」


「……風魔法は、お前の母親に似ている」


「え……?」


「テスの母は風の魔法使いだった。早くに亡くなったが……騎士の俺が惚れた、強い女だった」


 ロジャーが大きなため息をついた。


「……続けなさい。今度、試合を見に来る」


「お父さん……!」


「だからといって、簡単には認めないぞ。まだ見定める」


「はい! 絶対に見てて!」


 テスの目から涙が溢れた。


 ロジャーがライトを見た。


「……あなたが背中を押したのか」


「テスが自分で立っていました。俺はそばにいただけです」


「……騎士らしい言い方だな」


「そうですか」


「……娘を、よろしく頼む」


「承知しました」


 帰り道、テスがライトの袖を引いた。


「……ありがとう」


「俺は事実を言っただけだ」


「……でも、一緒にいてくれた。それが一番助かった」


 テスが笑った。今度は逃げるための笑顔じゃない、前に向かう笑顔だった。


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◆第16話「マリアの奇跡と聖魔法の涙」(感動エピソード)


 学園近くの孤児院で子供たちが原因不明の魔力病にかかっているという報告が届いた。


 聖魔法の使い手であるマリアが真っ先に申し出た。


「私が行きます。聖魔法で治癒を試みます」


「一人で行くな。俺も行く」


「……ありがとうございます」


 孤児院に到着すると、十数人の子供たちが発熱と魔力の乱れで苦しんでいた。


 マリアが一人一人の子供に寄り添って、聖魔法を施した。


 しかし、魔力病の原因が特殊で、通常の聖魔法では届かない部分があった。


「……ライトさん」


「何だ」


「聖魔法を増幅させる方法はありますか。前世の記憶に……」


「ある。“共鳴術式”だ。二人の魔法使いが同時に魔法を流すことで、互いの魔力を増幅させる」


「では……手を繋いでいただけますか」


「ここでか」


「はい。子供たちのために」


 ライトがマリアの手を取った。


 マリアが詠唱を始め、ライトが共鳴術式で魔力を流し込んだ。


 聖魔法の光が広がって、孤児院全体を包んだ。


 子供たちが一人ずつ、目を開けた。


「……おばちゃん、大丈夫!」


「熱が下がった!」


「わあ、きれい!」


 マリアが、手を繋いだまま泣いていた。


「……神に感謝します」


「俺の魔法も使っている」


「……あなたも神の一部かもしれません」


「俺は人間だ」


「……それでも、あなたは奇跡を起こした」


 子供の一人がライトの上着を引っ張った。


「おにいちゃん、お姉ちゃんの手を繋いでたね。好きなの?」


「……」


「マリアお姉ちゃん、顔が赤いよ!」


「神よ……(小声)」


 ライトはその日の帰り道、フロストに言われた。


《ご主人様、今日は立派でしたぞ》


「マリアが立派だった」


《でも繋いでいた手は離さなかったでしょう》


「……必要な時間は長かった」


《長かったですな。帰り道まで繋いでいましたぞ》


「……気づかなかった」


《ご主人様が赤くなるのも久しぶりでございます》


「黙ってろ」


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     第五章 それぞれの本音

     (第17話~第20話)


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◆第17話「ノアの予言と星の涙」(感動エピソード)


 ある夜、ノアが天文台でライトを待っていた。


「……星が、何かを言っている」


「何だ」


「……あなたが、またいなくなるかもしれない、と」


「いなくなる?」


「星が嘘をついたことはない。でも……私はこれが嫌だ」


 ノアが珍しく感情を表した。静かだが、確かな揺れが瞳にあった。


「何のことか分かるか」


「……前世の封印。それがほどけると、あなたは前世の記憶に引き戻されるかもしれない。強すぎる記憶が、今のあなたを侵食する」


「それは前世の記憶が暴走するということか」


「……星はそう言っている」


 ライトはしばらく考えた。


「前世の記憶に空白がある。三年分。その間に何があったか分からない。星はそれを知っているか?」


「……少しだけ。その三年間にあなたは何かを封印した。大きな何かを。そしてその代償に、記憶の一部を失った」


「封印の代償で記憶を失ったのか」


「……そう思う。星はそれ以上は教えてくれない」


 ノアが星を見上げた。


「……ライト。私はあなたに消えてほしくない。今世のあなたに」


「消えるつもりはない」


「……でも星が」


「星は可能性を見る。決定じゃない。そうだろう?」


「……そう、ね」


「なら俺が変えればいい。前世の封印が何であれ、今世の俺が向き合えばいい」


 ノアがライトを見た。


「……怖くないの? 三百年分の記憶が暴走するかもしれないのに」


「怖い。でも……ここに帰る理由がある」


「……理由?」


「お前たちがいる。それで十分だ」


 ノアが目を潤ませた。


「……星より、あなたの言葉を信じる。今世では」


「それでいい」


「……一つだけ、わがままを言っていい?」


「何だ」


「……今夜は、この星の下で、ずっと話をしていたい。朝まで」


「……付き合う」


「ありがとう」


 二人は夜明けまで、星の下にいた。


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◆第18話「ベルの告白と重力の秘密」


 ある放課後、ベルがライトに「ちょっと来なさい」と言った。


「どこだ」


「塔の上。人がいない場所がいい」


「なぜ」


「……言いたいことがあるから。人前では言えない」


 塔の最上階、誰もいない広間に二人が立った。


「それで、何だ」


 ベルが深呼吸をした。


「……わたくし、プライドが高いのは自覚している。素直になれないのも知っている。でも……一つだけ、正直に言わなければいけないと思って」


「聞いている」


「……あなたのことが、好きよ」


「そうか」


「……それだけ!? 反応が少なすぎない!?」


「どんな反応が望ましい」


「もっと驚くとか、困るとか!」


「驚かないし、困らない」


「なぜよ!」


「気づいていたから」


「……いつから!?」


「最初から」


「最初から!?!? じゃあなんで今まで何も言わなかったの!?」


「お前が自分で言うのを待っていた」


「……待っていた?」


「プライドが高い。自分で言えるようになるまで待ちたかった」


 ベルが固まった。


「……あなた、本当に変な人ね」


「そう言われる」


「……一つだけ聞いていい?」


「何だ」


「あなたは……私のことを、どう思ってる?」


「大切だ」


「……それだけ?」


「今はそれだけだ。だが本当のことだ」


「……今は、ということは……」


「将来は分からない。ただ、今は大切だと言える」


 ベルがしばらく黙っていた。


「……わたくし、それで十分だわ。今は」


「そうか」


「……でも、いつかもっとちゃんとした言葉をもらう。覚えておきなさい」


「覚えた」


「……ありがとう。言えてよかった」


 ベルが重力魔法を使って、窓の外へ静かに浮かんで出ていった。


 その背中が、いつもより少し軽そうだった。


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◆第19話「クレアの爆発と本当の涙」(感動エピソード)


 クレアが珍しく元気がなかった。


 実験室に入ってきたライトに、クレアが背を向けたまま言った。


「……ライトさん、発明って意味があると思いますか」


「なぜそんなことを聞く」


「……魔法省の人に言われました。“魔道具など魔法の代替品に過ぎない。本物の魔法使いの劣化版を作っているだけだ”って」


「誰が言った」


「今日の審議の観覧に来ていた委員の人です。あなたの件が終わった後で、私に向かって。“あんな装置より本物の魔法使いの方がよほど役に立つ”って」


「……そうか」


「私……本当に意味があることをしてるのかな、って。魔法使いじゃない私が魔道具を作ることに、価値はあるのかな」


「ある」


 クレアが振り向いた。


「根拠は?」


「お前の装置がなければ今日の審議は勝てなかった。魔法使いの俺の魔力を、魔法使いじゃない装置が証明した。それは魔法使いにはできないことだ」


「……でも」


「魔法で測れないものを、機械が測れる。魔法で届かないところに、機械が届く。それは代替品じゃない。別の力だ」


「……別の力」


「お前の発明は俺の魔法と違う。だから価値がある。どちらが上でもない」


 クレアが眼鏡を外して、目を押さえた。


「……泣きそう」


「泣いていい」


「泣いたら眼鏡が曇る」


「外してるから問題ない」


「……(涙)」


「泣いても次の発明を考えるんだろう」


「……そうです。もう次のアイデアが頭の中にある」


「それがお前だ」


 クレアがわーっと泣いた。大きな声で。


 しばらく泣いた後に、顔を上げて言った。


「ライトさん、私、あなたのことが好きです」


「知ってる」


「……知ってたんですか!!?」


「気づかない方が難しい」


「そんな!! 私、もう少し秘密にしておきたかったのに!!」


「隠すのが下手だ」


「もう!!」


 クレアが眼鏡をかけ直して設計図を取り出した。


「……次の発明の話をします! 感情を仕切り直します!」


「そうしろ」


「……でも、今日のこと、覚えておいてください」


「覚えた」


「約束ですよ」


「約束だ」


 クレアが笑った。涙の後の、一番明るい笑顔で。


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◆第20話「血の先輩と静かな夜」


 深夜の食堂で、レナが一人でスープを飲んでいた。


 ライトが通りかかって、向かいに座った。


「こんな時間に」


「眠れなくて。血の魔法は夜に活性化するから、こういう夜は眠れない」


「そうか」


「あなたこそなんで起きてる」


「考え事があった」


「前世の封印のこと?」


「……知っているか」


「ノアが星で見えたって言ってた。心配してる」


「俺も気になっている」


 レナがスープを一口飲んだ。


「……血の魔法で、魔力の核を解析できる。前世の封印の痕跡が残っているなら、私が調べられるかもしれない」


「やってくれるか」


「その前に一つ聞いていい?」


「何だ」


「……封印を解いたら、危険になる可能性があるんでしょう。でも封印を解かないと前世に引き戻されるかもしれない。どっちを選ぶ?」


「向き合う方を選ぶ」


「怖くない?」


「前世でも今世でも、怖いから逃げるという選択をしたことがない」


「……かっこいいこと言う」


「事実だ」


「事実でもかっこいい」


 レナがスープのおかわりを注いだ。


「……私、あなたのことが好きだよ」


「そうか」


「反応薄い」


「みんなに言われる」


「みんな言ってるの?」


「言ってる」


「……ライトは誰が好きなの」


「みんな大切だ」


「それは答えじゃない」


「今の答えはそれだ」


「……そっか。まあ、今はそれでいい」


 レナがスープを飲み終えた。


「……また食べに来ていい?」


「いつでも来い」


「……ありがとう。あなたと食べるご飯は、なんか落ち着く」


「俺もだ」


 レナが少し驚いた顔をして、それからふわっと笑った。


「……おやすみ、ライト」


「おやすみ」


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     第六章 封印の真実と帰る場所

     (第21話~第24話)


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◆第21話「前世の空白・三年間の真実」


 レナの血の魔法によるライトの魔力核解析が行われた。


 保健室にライト、レナ、フィアが集まった。


「……始めていい?」とレナが言った。


「ああ」


「痛みはないけど、前世の記憶が少し揺れるかもしれない。覚悟して」


「している」


 レナが両手をライトの手に重ねた。血の魔法の赤い光が、静かに広がった。


 ライトの意識の中に、霧が立ち込めた。


(これが……前世の空白の三年間……)


-----


 映像が見えた。


 百年前の帝国。老人になった前世の自分が、膨大な魔力を込めた儀式をしていた。


 対象は——巨大な”穴”だった。


 世界の深部に開いた穴から、何かが溢れようとしていた。形のない、圧倒的な力。


「……封印する。代償は記憶だ。構わない。どうせ俺の記憶など——」


 老人が封印を完成させた。


 そして三年後、老衰で死んだ。


-----


 現実に戻ってきた。


「……何が見えた?」とレナが静かに言った。


「前世の俺が封印したもの。世界の深部にある”穴”だ。そこから溢れかけていた力を——前世の記憶の一部と引き換えに封じた」


「記憶を代償に?」


「封印を維持するための”鍵”として、記憶を使った。記憶が存在し続ける限り、封印も維持される」


「……それが今、ほどけかけているの?」


「俺が転生した。魂が別の体に入ったことで、封印の構造が変化した。前世の記憶が今世の俺に移ってきたことで……封印が不安定になっている」


 フィアが静かに言った。


「アルバートが封印したものが何か、私は知っている」


「フィア」


「百年前、彼が封印する前夜に教えてくれた。“これで最後だ”と言って」


「……何を封印した」


「古代に暴走した、世界規模の魔力の奔流よ。“魔力の暴れ”と呼ばれていた。十万人を巻き込んだ災害が起きかけたのを、アルバート一人で封印した。記憶を対価にして」


「……そうか」


「ライト。その封印をどうするつもり?」


「前世の俺がやり残したことを、今世の俺が完成させる。代償なしで封印を完全なものにする方法があるはずだ」


「根拠は?」


「三百年分の知識と……今世で出会った全員の力がある。一人でやらなくていい、今は」


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◆第22話「全員集合・封印完成作戦」


 翌日、全員が集まった。


 ライトが説明した。封印の真実、前世の代償、今世での完全封印の計画を。


「……つまり、世界の深部に行って封印を完成させるわけ?」とエリスが確認した。


「そうだ。場所は古代の遺跡の下、地下深くにある」


「危険は?」


「高い。前世の俺が記憶を捨てて封印したくらいには」


「なら全員で行く」


「危険だと言った」


「全員で行けば危険が分散する」とレイアが言った。


「論理的に正しいとは言えないが」


「でも行く」


「……星の配置が、全員で向かうことを示している」とノアが言った。


「私の装置を改良した。封印の強化に使える」とクレアが言った。


「血の魔法で封印の術式を読める。サポートする」とレナが言った。


「聖魔法で場を清める。神がお許しになると信じる」とマリアが言った。


「重力魔法で地下への道を作れる」とベルが言った。


「影で索敵をする」とツキが言った。


「最速で連絡を取り合う。拠点間の伝達は私が」とテスが言った。


「夢で地下の構造を探れる。古い場所は夢の残滓がある」とイリスが言った。


「料理を持っていく。みんなの腹が減ったら困る」とリナが言った。


「前世の俺の記録が残っているなら、私が読める」とフィアが言った。


「闇魔法で光が届かない場所を照らせる」とミラが言った。


「魔力強化でサポートする」とルナが言った。


「古代文献と術式解読は私が担当」とメルが言った。


「資金と情報は手配する」とアリアが言った。


「刀で道を切り拓く」とユイが言った。


「ライト先生の前を歩く。先生だけ前には行かせない」とシャルが言った。


 ライトは全員の顔を見た。


(前世では一人でやった。今世では……こんなに大人数で)


「……ありがとう。信じてもいいか、全員を」


「当然」と全員が答えた。


-----


 古代遺跡の地下深部への到達は、全員の力を組み合わせることで可能になった。


 ベルが地盤を動かし、ツキが影の中を索敵し、イリスが夢で構造を把握し、テスが情報を各所に伝達した。


 そして最深部、封印の核心に全員が辿り着いた。


 そこには、前世のアルバートが設置した封印の術式が、百年間静かに輝いていた。


 ライトが触れると、前世の記憶が全て溢れてきた。


「……これが、前世の俺が守ったものか」


「美しい術式ね」とレイアが呟いた。


「前世のあなたが三百年かけて作った最高傑作だから」とフィアが静かに言った。


 ライトが術式に手を添えた。


「……今世の俺の記憶は対価にしない。別の方法で完全封印する。みんなの力を借りる」


「いつでも」とシャルが言った。


「やるわよ」とエリスが言った。


「始めましょう」とレイアが言った。


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◆第23話「封印完成と前世との決別」(感動エピソード)


 全員で術式を強化する作業が始まった。


 クレアの装置が魔力を安定させ、聖魔法が場を清め、闇魔法が光の届かない箇所を補い、血の魔法が術式の読み取りをし、重力魔法が構造を維持し——全員の力が一点に集まった。


 十時間かけて、封印の術式が完成に近づいた。


 最後の一手が残った。


 ライトが核心に全魔力を注ぎ込もうとした時——


 前世の記憶が激しく揺れた。


(……アルバート。俺だ。お前がやり残したことを終わらせる)


 前世の自分の声が聞こえた気がした。老いた声で、静かで。


(……すまなかったな、ライト。お前に重いものを押し付けた)


(重くない。お前が守ったものを、俺も守りたかった)


(……お前は、幸せか)


(……ああ。前世のお前が持てなかったものを、全部持てた)


(そうか。それなら……もう心配はいらない。後は頼んだ)


 前世の声が消えた。


 ライトが全魔力を注ぎ込んだ。


 封印が、完成した。


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 光が消えた後、全員が地下深部に倒れていた。


 疲労困憊。でも全員無事。


「……終わった?」とシャルが呟いた。


「終わった」とライトが答えた。


「本当に?」


「本当だ」


 シャルがその場で泣き崩れた。


「よかった……先生が消えなくて……ほんとうによかった……!」


「消えると思っていたか」


「思ってた! 封印の完成に前世の記憶が必要なら、先生の記憶が全部持っていかれると思って……!」


「記憶は残った。全部」


「全部!?」


「みんなの力で代替できた。俺一人の記憶を対価にしなくてすんだ」


 シャルが泣きながら笑った。


「……前世のライト先生は一人だったから記憶を捨てたけど、今世のライト先生は一人じゃなかったから……!」


「そうだ」


「……先生が一人じゃなかったのは、私たちがいたから!」


「ああ」


「先生がいたから私たちが来た。私たちがいたから先生が守られた。……それって」


「……循環してるな」


 シャルがさらに泣いた。ライトは珍しく、シャルの頭に手を置いた。


「……ありがとう、先生」


「こちらこそ」


-----


 全員が地上に戻ってきた。


 夜明けの光の中で、疲れ果てた全員が草原に横になっていた。


 レナが言った。「……お腹空いた」


「言うと思ってた」とリナが言った。「持ってきてある」


「リナ最高」


「ありがとうございます!」


 クレアが眼鏡を外して空を見上げていた。「装置、壊れなかった。次はもっと改良する」


「まず休め」とライトが言った。


「休みながら考えます!」


 ノアが静かに言った。「……星が言ってる。これからは静かな時が続くって」


「信じる」とライトが言った。


「……初めて星の言葉を信じてくれた」


「前世から信じていた。前世の記憶が全部戻ったから分かった」


「……ありがとう」


 ツキがライトの隣に座った。「……影も、静かになった。何かが消えた」


「封印が完成したからだ」


「……よかった」


「よかった」


 ベルが土に汚れた自分の服を見て「……わたくし、こんなになってしまって」と言った。


「気にするな」


「……あなたの前でこんな姿は……」


「それくらいでちょうどいい」


「え?」


「完璧すぎるより、少し崩れている方が、よほど近く感じる」


 ベルが固まった。


「……それは……どういう意味……?」


「言葉通りだ」


「……(顔が赤い)」


「おはようございます! 朝ごはんできました!」とリナが言った。


 全員が起き上がって、草原の上で朝食を食べた。


-----


◆第24話「春の光と十一人の答え」(最終話)


 封印の完成から一週間後。


 学園に戻ったライトたちは、少し遅い進級式を迎えた。


 去年と同じ桜の木の下。でも今年は人数が倍近くいる。


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 シャルが光の蝶々を百羽飛ばした。


「先生! 今年はもっとうまくなりましたよ!」


「ああ。本当に」


「来年はもっと上手くなります! ずっと教えてください!」


「ずっとは長いぞ」


「それでいいです!」


-----


 レイアが右手を差し出した。


「……握手」


「珍しい」


「素直になる練習中だから。……今年もよろしく」


「こちらこそ」


 レイアが少し赤くなって、素早く手を引いた。


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 メルが論文の原稿を持ってきた。


「共著論文、第一稿できました。確認してください」


「後で見る」


「……ライトさんの名前、一番最初に入れました」


「俺が最初か」


「当然です。あなたがいなければ書けない内容だから」


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 アリアが書類を持ってきた。


「来年の生徒会の活動計画よ♪ もちろんライトくんも入ってるから♪」


「確認もせず入れるな」


「あなたが断らないのを知ってるから♪」


「……本当に腹黒いな」


「褒め言葉として受け取るわ♪」


-----


 エリスが真っすぐライトを見た。


「今年こそ絶対勝つ」


「来い」


「絶対に勝って……それから、ちゃんと言う」


「何を」


「……その時になったら言う。今はまだ負けてるから」


「楽しみにしている」


-----


 ユイが深くお辞儀をした。


「ライト。今年もよろしくお願いします」


「こちらこそ」


「……延長申請が通りました。もう二年、ここにいられます」


「そうか。よかった」


「……はい。とても」


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 ミラが黒猫を抱いて来た。


「闇魔法の正式認定、来月出る予定よ」


「本当か」


「本当。あなたが動いてくれたから。……ありがとう」


「お前が諦めなかったからだ」


「……二人でやったから」


-----


 フィアが微笑んだ。


「体調は?」


「問題ない」


「前世の記憶が全部戻って、重くない?」


「……重い。でも全部、俺の一部だ。重くて当然だ」


「そうね。……ちゃんと抱えて、ちゃんとここにいる。よかった」


-----


 ソフィアが氷の薔薇を持ってきた。新しいもの。


「……今年は、百輪作りました。去年より練習したから」


「百輪か」


「……全部、ライトにあげます。居場所をくれた人に」


「ありがとう」


「……どういたしまして」


 ソフィアが声を上げて笑った。もう慣れてきた。


-----


 リナが大きなバスケットを持ってきた。


「みんなに特製ランチです! 今年は百人分作れるようになりました!」


「百人か」


「来年は学園中に振る舞えるくらいになりたいです! 料理魔法で世界を豊かにするのが夢なので!」


「大きな夢だ」


「先生が言ってくれたから。魔法に優劣はないって。料理魔法だって可能性は無限だって」


「言った」


「だから夢を大きくしました! ありがとうございます!」


-----


 新しい仲間たちも。


 ノアが夜空を昼間に映す魔法を展開した。桜の木の上に、星が浮かんだ。


「……今日の星の配置は、新しい始まりを示している」


「どんな始まりだ」


「……あなたがここにいる、続きよ。星はそれを”最善”と言っている」


-----


 クレアが新しい発明図を広げた。風に飛ばされた。


「あーーー!!」


「追いかけるか?」


「追いかけます!! テスさん!!」


「任せて!!」とテスが風のように走り出した。


-----


 ベルが少し離れた場所からライトを見ていた。


「……なぜそこにいる」


「……素直になるのは少しずつよ。今日はここまで」


「そうか」


「……でも、来年は、もう少し近くにいる」


「待っている」


「……(少し笑う)」


-----


 マリアが両手を組んで祈っていた。


「神よ、今年も皆を見守ってください」


「祈り終わったか」


「はい。……ライトさんのことも、祈りに入れました」


「俺も入れてくれたか」


「もちろんです。あなたは神の御加護を受けているはずですから」


「……根拠は」


「こんなに多くの人に慕われているから」


「……それは神の加護じゃない」


「では何ですか?」


「……人の力だ」


 マリアがにっこりと笑った。


「それも神の御業だと思います」


-----


 レナが三枚のトレーを持ってきた。


「食べながら話そう」


「また三枚か」


「増えた。四枚になりそう」


「増やすな」


「……食べれば増えるのよ、仕方ない」


「そういうものか」


「……一緒に食べてくれる人がいると、もっと食べたくなるの。あなたのせいよ」


「俺のせいか」


「……うん。責任取って、ずっと一緒に食べて」


「……わかった」


「……本当に?」


「本当だ」


 レナがぱっと笑った。


-----


 ツキが影から出てきた。


「……ライト」


「何だ」


「……今年は、もっと早く影から出てこられるようになる」


「それでいい」


「……あなたのそばにいる時間を、増やしたい」


「増やしていい」


「……(小さくうなずく)ありがとう」


-----


 イリスがふわふわと近づいてきた。


「……今日は夢を見ていない」


「珍しい」


「……ライトの隣にいると、現実の方が夢より面白いから、見ない」


「そうか」


「……来年も、現実を面白くして」


「……努力する」


「……(かすかに笑う)ありがとう」


-----


 ルナが木剣を担いで来た。


「今年こそ十秒以上もたせる。それが目標」


「来い」


「……もう一個目標がある」


「何だ」


「……あなたに、ちゃんと気持ちを伝える練習をする。来年までに」


「……急がなくていい」


「急ぎたいんだよ! なんでそんなに落ち着いてるの!」


「落ち着いてはいない」


「え?」


「ただ、お前のペースに合わせると言っている」


「……(真っ赤)」


「今日はそこまでか?」


「……そ、そこまで!!」


-----


 全員が桜の木の下に集まった。


 光の蝶々が舞い、夢の星が昼に浮かび、影が揺れ、風が吹き、氷の薔薇が散り、聖なる光が差し、重力が優しくなり、炎が暖かく揺れ、刀が光を弾き、料理の香りが広がり、発明の魔道具が輝き、血の魔法が命を証明し、月影が静かに踊り、闇魔法が場を彩り、星読みの銀が夜空を映した。


 十六人と一羽が、そこにいた。


「……ライト先生」とシャルが言った。「来年も一緒にいてくれますよね?」


「いる」


「約束ですよ」


「約束だ」


 フロストがライトの肩に止まった。


《ご主人様。今世は幸せでございますか》


 ライトはしばらく考えた。


 三百年の前世で持てなかったものを、今世で全部手に入れた。研究仲間、ライバル、弟子、友人、古い友、新しい仲間——そして、誰かのそばにいる時間。


「……前世の俺に伝えたい」


《何と?》


「こうなるから、もう少し待てと」


《……それだけですか》


「……幸せだ。それだけ」


《充分でございます》


 春の光が降り注いだ。


 桜が舞い、全員が笑い、ライトは珍しく笑い返した。


 前世では三百年かけて気づけなかったことを、今世ではまだ一年で分かった。


 世界最強の魔法使いが、三百年かけて学んだことは、魔法ではなかった。


 誰かのそばにいること。


 誰かに守られること。


 そして——それを、幸せと呼ぶこと。


-----


         了


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     次巻(3期)予告


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三年生になったライトたちに、大陸規模の脅威が迫る。


前世の封印の完成により、世界の深部に眠っていた”別の何か”が目覚め始めた。


封印の外側にあったもの、アルバートが封印しきれなかった”残滓”。


それは意思を持ち、ライトの前世の記憶を持ち、ライトに語りかけてくる。


「お前が封印したものの続きを、教えてやろうか」


同時に、各国から精鋭の魔法使いが集まる「世界魔法会議」が開かれ、ライトは各国代表として出席することを求められる。


エリスの故郷・サンローゼ王国での戦乱、ユイの故郷・白蓮国での政変、ツキの故郷・月白国からの伝言——三国が揺れる中、ライトは何を守るために動くのか。


 ★第三巻「転生魔法学園記 ~三年生と世界の端で~」近日刊行!★


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     登場人物一覧(2期完全版)


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【主人公】

・ライト・アシュトン(16→17歳)

 前世は三百年生きた世界最強の魔法使いアルバート・クロノス。

 金髪金瞳。前世の封印を今世で完全に完成させ、前世と今世が統合された。

 「一人じゃなくていい」を今世で学び続けている。


【第一期ヒロイン(既存)】

・シャルロット・エルヴィア…光の蝶々を百羽飛ばせるようになった。婚約問題も前向きに動き出している。

・レイア・ヴァルテ…右手の魔力症が完治。実力がさらに伸びており、ライトに本気で迫れる唯一の存在。

・メル・フォーゲル…共著論文第一稿を完成。本棚との戦いは継続中。

・アリア・クロード…本物の笑顔が増えてきた。腹黒さは健在。

・ルナ・ベルフォート…気持ちを伝える練習を宣言。魔法剣士として着実に成長。


【第二期ヒロイン(既存)】

・エリス・サンローゼ…「勝ったら言う」を目標に修行継続。炎の精度が別格になった。

・フィア・ルナリア…百年の重みを少し下ろせた。ライトとの友情を大切にしている。

・ソフィア・グレイシア…表情が豊かになってきた。氷の薔薇が百輪作れるようになった。

・リナ・マーシュ…夢が「世界に料理魔法を広める」に拡大。腕前は学園一に。

・ミラ・シェイド…闇魔法の正式認定が来月出る予定。猫が五頭になった。

・ユイ・ハクレン…延長申請が通り、さらに二年在学。刀の腕と魔法の融合が深まった。


【2期新登場ヒロイン】

・ノア・セレスティア(16→17歳)…星読み魔法の使い手。夜しか魔法が使えない。

 天文台に住み着いており、星の言葉を信じてライトのそばに居続ける。


・クレア・ハンマースミス(16→17歳)…発明魔法の使い手。黒縁眼鏡。

 魔力圧縮装置を完成させて審議を勝利に導いた功労者。眉毛は今も時々焦げる。


・イリス・ムーンウォーカー(15→16歳)…夢魔法の使い手。薄紫の髪。

 現実と夢の区別が曖昧だったが、ライトの隣では現実の方が好きになった。


・テス・ウィンドウェイ(15→16歳)…風魔法の使い手。日焼けした金髪。

 父に魔法使いとしての道を認められ、走る理由が「前へ」に変わった。


・レナ・クリムゾン(17→18歳)…血の魔法の使い手。三年生。

 食いしん坊な先輩ヒロイン。ライトとの昼食が日課。


・マリア・サンクトゥス(15→16歳)…聖魔法の使い手。教会出身。

 天然無自覚キャラ。孤児院での奇跡の治癒で聖魔法の可能性を広げた。


・ベル・グランフォート(16→17歳)…重力魔法の使い手。縦ロール令嬢。

 ライトへの気持ちを自分から告白した。素直になる練習中。


・ツキ・シライ(15→16歳)…月影魔法の使い手。月白国出身。

 無口で影の中に住む少女。満月の夜の告白が月白国の風習。


【使い魔】

・フロスト…白フクロウ。百年生きる使い魔の貫録でコメントが一段と鋭くなった。


# =====================================

       END

 【転生魔法学園記】第二期 全24話 完全版

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