覚醒
「ええい! 口先だけは達者なようだな! サムバディキック!」
コオロギ人間の放つ蹴りが空を切るが風圧で頬に小さな裂傷が出来た。
「く・・・・・・なんつうパワーだ」
どうやら流石改造人間なだけはある、旬じゃなくても結構な攻撃力だ、電信柱程度ならあっさり砕け散ると窺える。
モノレールを一撃で止めたというのは嘘ではなさそうだ。
そもそもこいつ以外そういうことしそうな奴がいないって時点でこいつにケンカを売るのは間違っていた。
泣き止んだかと思うといきなり格闘を仕掛けてきたコオロギ人間なわけだが、もう時計を見なくてもわかるが清香嬢と俺の鬼ごっこはタイムアップで終わったわけで、今更俺がこいつと戦ったところでプラスになることは無いのだが。
「フウタ、命令よ! 五分、五分で良いから時間を稼いで!」
「承知! 五分と言わずなんなら24時間稼いで見せよう! とう! ムーンポジトロンナックル!」
俺は瞬きすら許されない速度の拳をギリギリで躱す。
「ちっくしょ・・・・・・」
空を切った拳が背後のフェンスに突き刺さる。
鉄網を容易に貫通する威力とか聞いてないんですけど。
「フム、普通の人間にしては良い反応速度だ、それに身のこなし。貴様、改造人間の良い素材かもしれぬぞ!」
小躍りするように俺は姿勢を必死で保とうとするがモノレールの線路上は凹凸が多くて予想以上に足場が悪い。
なんとかバランスをとって体勢を安定させる。
「はん、絶対ごめんだ馬鹿野郎!」
「残念、モテるのに・・・・・・」ふと、清香さんが呟くのが耳に入る。
「そうなの!」
一瞬、一人だけ足場の良い避難通路で観戦を決め込んでいる清香嬢を見る。
「かっこいいですよ! 細い路地にカサカサと逃げ込んでどこにいるか分からなくなるところとか!」
拳を振って言ってる割には内容がカッコ悪いっていうか、俺が対峙してるこいつほんとにコ・オ・ロ・ギ・と人間の混成動物か?
コオロギさんは夜だし暗色なのもあって解りづらいが、おそらくドヤ顔なのだろう。
軽快に言葉と連撃を放ってくる。
「モテるのだよ! 見給えこの身体のテカリ具合! 街を行くすべての女子が拙者を見て黄色い声でキャーと叫ぶのだ! 愉快で堪らん! 若干下半身の方も元気をもらえるのだ!」
それは勘違い激し過ぎじゃないか?
多分良い意味でキャーって叫んでるわけではないと思うぞ!
下半身が元気とか言うな。
「まったくおめでたい奴だ、よ」
追撃を避けてジャブを一撃防御の上から試しに打ってみるが、見た目通り結構装甲が厚そうだ。
俺の攻撃など避ける必要もないと言いたげに直立してわざとくらってやがる。
なんせモノレールを一撃で停止させて反動もあっただろう、それでもこれだけ活発に動いて支障はないところを見ると、普通の人間の破壊力ではダメージはほぼゼロに等しいと思って間違いない。
となれば、
「くははははッ! 防戦どころか逃げ惑うのがやっとのようだな?」
「追いついてみろ、バーカ!」
背を向け八割のスピードで俺はある方向へ逃げる。
「はははっ! 拙者を誰だと思っている? 改造を施された新生物! 貴様程度のスピードで逃げおおせられるとでも?」
そう、策はある。
お前にダメージを加える力は俺には無い、そう俺・には!
俺の行く手にはどこか嬉しそうな顔の清香嬢が待ち構えている。
7メートル・・・・・・6メートル・・・・・・。
「あ、あの、右近さん?」
一直線に接近する俺に狼狽え気味に視線を送る清香ちゃん。
「無様だな! 女性の前で愚かに逃げることしかできんとは、我がことの様に恥ずかしい!」
「なにを言ってるんだ? 俺は勝負を棄てたわけじゃないぜ! ほら、もっと早く追いついてみろ!」
4,3メートル。
「ちょっと、マジですか? そっちから急接近なんて、まさかあたしのこと、やっと・・・・・・」娘が少し顔を紅葉させおへそのあたりで手を組みもじもじとしだすが。
「わからんな、貴様に万が一でも勝ち目があると? フン!」
さらに加速したフウタは留めと一気に俺に飛び掛かる。
「ある!」
同時に俺は減速せずに真横に跳ねる。
真横から透明人間にドロップキックをくらったような跳び様でだ。
「後は頼んだぞ! マスターミス清香!」
「えええええええええええ――――――!」
「うおおおおおおお――――――――!」
一瞬前に俺がいた位置を思い切り跳躍したフウタが勢い余って通り越し、直線上にいた清香に方に突っ込んで行く。
ジャブだが一度こいつの体を殴って気付いた、こいつ結構体重あるんだよ。
足の踏み場が狭いモノレールのレール上なのでフルスピードとはいかないが、ある程度の勢いが付けば――
「近寄らないでこのヘンター――――――――イ!」
「パグロ!」
――プラチナのバットを容易に振り回す腕力の清香さんの拳と合わされば貫けるのではないだろうか?
という仮説を立てた俺の考えは間違ってなかった、横っ面に思いっきり怪力女子の一撃を喰らって、オレンジ色の体液を口許から垂らしながら、力なく地面に全身を伏せ沈黙する改造人間。
「・・・・・・はあはあ、どうだ?」
「・・・・・・ぷんっ」
変人の動く様子のないのを確認し、傍らで拳を緩めたお嬢さんを見ると。
「汚いじゃないですか――――! もう! それに臭い!」
と、コオロギ人間――虫人間の体液が付いた手をブンブン振って拒絶している。
「お前、さっきこいつのことカッコいいって言ってただろ?」
「カッコいいのと汚いのは別です! こんなことに利用して、あたしのドキドキを返して下さい!」
まあ、お前が俺の考え通り、この自称なんちゃらの化身を殴ってくれて良かったよ。
正直賭けだった。
流石にお前も人間の女子なのだろう、普通の人からすれば虫人間が自分に向かって飛んで来れば手で払うのが道理!
五分五分の賭けだと思ったがその様子を見ると十割だったようだな。
謎のタフさを発揮してるお前も人間なのだよ!
「まあ、こいつにはおとなしく動物園に戻ってもらうとして・・・・・・」
俺は腕時計をハードパンチャーお嬢ちゃんに見せつけるように。
「俺たちの勝負は終わった。俺のことは諦めておとなしくおうちへ帰りなさい!」
「いやです!」
即答だった。
「なに子供のようなこと言ってんの! 高校生はもう大人、聞き分けを良く・・・・・・」
「そもそも、この遊・・・・・・勝負事態子供っぽいじゃないですか!」
胸を張って言っているがこれは子供の駄々だ。
なんか今の悔しそうな顔がちょっと可愛いので丁重に説明してお帰り願おう。
「こほん、少女よ。世の中ってもんは沢山の約束で成り立っているんだ。プロミス、わかる?」
「当たり前じゃないですか何言ってんですか? でも、あたしは未成年です! 貴方は大人、正論語ってる人間が子供の遊びにショッピングモールとかモノレールを使うのは卑怯です!」
「ぐっ」
痛いところを突いてきやがる、ベッチの言ってたことに似てるし。
「でも、お前だって清香ちゃんイレブン使ってきたじゃん!」
「あたし法律上子供ですから!」
そう言って、ピューピュー、口笛を吹くこの少女が段々優勢に。
なんかさっき時間を稼いでる様子だったのはこの苦しいわがままを練ってやがったのか?
「ずるいぞ!」
「あたしはずるいですよ、子供ですから! 延長戦を望みます!」
「その提案拙者に賭けてもらえんか? マスター」
いつの間にか復活したキャ面☆ライター。
節々から変な液体垂れ流してるが、この口振りはまだ余力が残ってそうな様子。
「キャメッさん・・・・・・そうだ! こういうことにしましょう!」
「唐突になんだい? 勝負の結果はは覆らないぞ」
俺の顔をニヤリと不気味な笑みを浮かべて一瞬見ると。
「キャメッさんと右近さんが競争して右近さんが勝ったらあたしは身を退きます、キャメッさんが勝ったら延長戦のチャンスを頂いておまけにあたしが右近さんに何でもしてあげましょう!」
「・・・・・・?」
「わからないですか? 右近さんが勝ったらあたしは身を退いて、キャメッさんが勝ったら延長戦の時間をもらって、さらに右近さんに何でもご奉仕します」
「・・・・・・」
「マスター、それは条件が若干、こいつに・・・・・・」
「黙れ!」
「・・・・・・はい」
なんだこの状況は?
俺が勝った場合の条件に変わりはないようだが・・・・・・。
「奉仕?」
「ええ、何でもしてあげます!」
自分の胸をばんっと叩いて言ってる様子からは嘘を感じられない。
「その後の関係は?」
「諦めます!」
うんんん?
なんでも?
なんか美味しい話だぞ!
偶然だろうがこの見た目だけは良い少女が、乾いた唇をチロッと舌で舐めて潤すのがやけに淫靡に見えて・・・・・・。
頭で考えるすべてのことにモザイクが大量に貼られる。
オオ~~~~ン❤
オレの脳内のマリリン・モンローが熱い吐息を吐くのが聞こえる。
いや、待て。
それは流石に倫理というか法にも触る気が、いや、でも、俺は一応しっかりした大人で、それはさす・・・・、
「よ―――――――――――――――――――――――――――ー―――――――――――――――――っしっ!」
その叫びは、アンドロメダのなにがしに届く声量で、後にに伝説になるのであったそうな。
◆コオロギラン ランコオロギ◆
「言って置くが拙者は一切手加減はせんぞ!」
「うん、まあ頑張って、イッショウケンメイヤリナヨ~」
腑抜けた声で俺は返す。
停止したモノレール線路上から避難通路で公道に降りた俺たちは、クラウチングスタートの構えで時を待つ。
「じゃあ、地球を一周して先にここに戻ってきたほうが勝ちで良いですね?」
そう、俺はこのどうかしてる少女の提案に乗った、すんなり乗った、あっさり乗った、容易に乗った。
何せ勝っても負けても俺に損は無い、何せ負けても絶対勝てるこの娘との鬼ごっこが延長して、その後たっぷりご奉仕してもらって、縁が切れる。
そんな約束の発案者があまりに危機感を感じていないのが、奇妙だが。
つまり勝っても負けても俺の勝ち、条件からするとむしろ負けたい。
元から地球一周なんて馬鹿げた勝負に乗るつもりなんてないのであった。
この負けを確実にするために、俺はベッチから得た知識を使おうと思う。
「おい、コオロギ人間、お前がどれだけ優れた生き物か、俺は知りたい。というわけで、こいつを耳に着けて、お前の勝利の声をはっきり聴かせてくれると嬉しい」
徐に俺はベッチのホームセンターから勝手に拝借した耳に装着する通信機を手渡した。
「やっと拙者の偉大さが解ったか、愚か者の貴様がなかなかどうして急に成長したものだ。良かろう! 我が勝利の声を逐一報告し殺してやるわ!」
快く受け取る改造人間のおめでたい性格を利用させてもらおう。
そう、俺は負けたいのだから!
思わずニヤリと笑わないように口調に心が籠らないよう軽く通信機の使い方を教えてやった。
俺たちがスタートを今かと待つ道は、まっすぐ一キロほど進むと貨物などが船から荷揚げされる埠頭に繋がっている。
まっすぐ進むってことは埠頭を越えたら泳いで大海原にザブンして海外一直線である。
「勝ち目のない貴様だが少し見直したぞ! 男は時には負けると分かっていても戦わなければならぬ時は必ず来る! 拙者と勝負する男として抜かりないと判断した!」
「アリガトウゴザイマス」
「じゃあスタートしますよ! よ――――い!」
清香さんは淡々とスタートを切る気満々だった。
「・・・・・・ドン!」
全力で加速する俺と改造スプリンター。
やっぱり一瞬で引き離されていく。
「お前、速すぎるぜ! いったいマックスはどんなに速いんだ!」
『さっそく通信機の出番だな! 拙者の走る速度は時速百キロを超える! 貴様はすでに視界に無い!」
「そうだな、でも、男として、引くわけにはいかない! だってオレには、オレには!」
『ふははは! 存分にもがけ! 貴様の涙、拙者には一雫の宝玉に等しー』
加速していく改造人間。
しかし、オレは、
「早過ぎる! まるでオレは走っていないも同然!」
オレは耳から通信機を外し。
「ま、はなから走ってないもんね」
「海は広い! 貴様の様な勇敢な小物は一度大海原にその身を投げ、世界の広さを肌で感じてみるが良い! とーうっ!」
そんな感じで埠頭から奴が海に飛び込むのを俺は見届けると、後をてこてこついてきた清香が追いついて来るのを待ち、
「はい、良い感じに負けましたぁーあ」
「それは負けをみとめたとみてよろしいんですか? にしても憎たらしい言い方ですね」
勝った様なもんだからな、なんとでも言え。
キンコンカーン!
警鐘が鳴る。
『只今、改造動物園から、新生物コオロギ人間大好き食い倒れビッグラージ鮫を飼育員が海で遊ばせようとして誤って逃しました。人にとっては普通に鮫ですがコオロギ人間は絶対逃げられません、どこまででも追いかける習性があります。まあ、飼育員は私に後でビッグカツいっぱい買ってくれる様なので許してあげてください』
「だってよ」
て事はあのコオロギ生物は陸に上らない限りどこまでも鮫ちゃんと仲良く鬼ごっこというわけだ。
『陸も泳げます、泳ぐというよりヒレを器用に使い走ります』付け足した。
「なんでピンポイントなアンチコオロギ生物を創ったんですかあの動物園は!?」
「そういうとこだあそこは」
「ところでこの展開は延長戦決定ってことで?」
「その前に、約束は覚えてるだろうな?」
ホントに原典のコピペですが分けて読むと読みやすいですね。




