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恋愛鬼ゴッカー!桃園右近!  作者: 河原ブーメラン


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8/9

戦いの果てに

モノレールとか電車は不思議だよね。

 別に大した用事とかない時に乗っても何故か心が躍る、ワクワクする。

 路線図とか見ずに適当に乗っちゃって、終着駅まで景色を眺めているってのも良いもんだ。

 地元じゃない場所に妙に親近感を感じたり、思わず降りて散策したくなる見知らぬ街で出会う人達や食べ物。

 ある意味、遊園地のアトラクションみたいですごく好きなんだよ。

 でもさ、混雑してる時は乗りたくないんだ、ギュウギュウ詰めとかマジ勘弁。

 情緒っていうか、そういうのを感じる余裕ある空間で、じっとしているのが楽しいっていうか落ち着くっていうか、悲しかったりさ、それら全部味があるんだよ。

 バスや歩いてだとそれほど意識しないで越えちゃってる、都道府県、市町村、って区分けを実感するってところ、遠くに来たなって感じるところが良い。

 そんな乗り物に乗れる始まりの場所、『駅』、俺にとっては大きな存在なんだわ。


「やっぱり奴らのスペックは大将以下だったか・・・・・・」

 大将こと石上清香とその愉快な仲間たち――清香ちゃんイレブンたちとの差が出来、俺はモノレールの駅『裏海馬ターミナル』の階段を上り、植木の中に隠されていたカプセルを回収した。

 さっきベッチが言っていたあ・れ・である。

 一度回りの様子を窺って、カプセルを開ける。

 中には小さい紙切れ――モノレールの切符だ。

 切符これが切り札だった。

 裏海馬市から射桐峠市の駅までの片道切符、である。

 清香ちゃんイレブンは34人いるらしい、ここに来るまでに確認した人数は15人、まだ半分以上がどこかで俺を狙っているかわからないから油断はできない。

 どの辺がイレブンなんだ?

 女子高生=制服姿とは限らないので、女性は全員疑って行動する方が良い。

 このモノレールの切符は巧く使わねばならない。

 何しろモノレールに奴とタイミング悪く同乗ってしまったら、逃げ場のない密室袋小路に追いつめられるのと同意だからだ。

 同時に唯一タッチ権のある、あいつさえ何とかして同乗せずやり過ごせば、俺の勝ちは決まったようなもの。

 日本はすごい速度で発展しているが、まだまだ田舎町の裏海馬市。

 このモノレール乗り場は俺が生まれる前――モールの構想もない頃からあって、結構旧式な駅であり、現在、切符から電子マネー実装へ本格移行するため、設備的改装中である。

 よって券売機は撤去され、電子マネーのチャージと切符の両用の精算機が数台のみ稼働中で、追加敷設までのここ数日間に一時的混雑を招いている。

 電子マネー専用の改札もまだ少ないしちょっと端っこにあったりするので、切符改札より時間が掛かる。

 俺がベッチに切符を買っておいてもらった理由はここにあった。

 市外へ仕事を探しに行ってた頃も結構あった俺は、このモノレール乗り場をよく利用していたからわかるんだ。

 電子マネー限定でこの駅には最近ポイント制というものが取り入れられた。

 一回の乗車の度2ポイント還元。

 学校に通ってれば登下校で4ポイント。

 4ポイントぽっちってバカにしちゃいけない、長い目で見れば結構な還元率なのだ。

 よってモノレールを毎日利用する裏海馬高校の生徒は、一部のアナログな例外を除けば電子マネー中心で、若干の時間の不自由は当たり前――慣れっこなのだ。

 スムーズに改札を通過できるのなら切符の方が断然有利。

 さて、時刻表を見て次の便が何時か――

 ドスッ。

 時刻表の前で隣に人に肩が当たったようだ。

「ぶつかってしまい誠に申し訳ありません」

 いやいや、駅にいれば隣にいる人にぶつかることだっていくらでもある。

 それにしてもこんなに丁寧に謝られるのは初めてだ、ここは笑顔で、

「こちらこそすいませ――――ほーーう!」

 黒い帽子に黒いコートのまつ毛お化け、メー〇ルがそこにいた。

 その隣には顔が落花生みたいな輪郭の少年テツ〇ウ。

「あぶねーぞ、メー〇ル! ぶつかっちゃダメだろう? すまねーな兄ちゃん!」

 スリーナインな二人組!

 まさかこんな場所で会えるとは・・・・・・。

「そうですねテツ〇ウ。改めまして誠に申し訳ありません、お怪我はありませんか?」

「イエ、お構いなく、あの、お二人のファンです。あの握手してもらってもいいですか?」

「?」

 ちょっと困惑してる様子のメー〇ルさん。

「握手ぐらいしてやれよ!」

 テツ〇ウの一言にメー〇ルは、

「銀河の旅で私達も少し有名になったのでしょうか? では」

 と、手を差し出してくれた。

 有り難く手を握って拝む。

「ありがとうございます! テツ〇ウさんもお願いします!」

「機械の腕じゃなくてすまねーけどこんなもんで良けりゃ―!」

 テツ〇ウの手は温かい。

「感動です! 差出がましくなければ今日はなぜこの駅に?」

「銀河鉄道の乗継でよ! これからちょっとアル〇ディア号の〇ーロックのとこ行くんだ! 機械の身体が手に入るらしくてよ!」

 あんたたちだけじゃなく、あの強面の宇宙海賊も実在するのか・・・・・・。

「テツ〇ウ、喋り過ぎてはいけません、この方を巻き込むのはよろしくありません」

「そうだったな! 兄ちゃん今言ったことは忘れてくれ、じゃあな!」

「さようなら!」

 去って行く二人――かと思ったが、改札の前でちょっと顔を見合わせると、Uターンして俺の方に帰ってくる。

「よー! 兄ちゃん、ちょっと教えてくれねえか! 切符切る人がいねえんだけどよ。みんなあの箱みたいな機械に切符入れて進んじゃってるけど、オレもあんな感じにすりゃいいのか?」

「問題ないっすよ! 大体周りの人の真似してればOKです!」

「おお! そうか! アリガトな兄ちゃん!」

「いえいえ」

 テツ〇ウはそう言って改札に大股でズカズカ歩き出そうとしたが今度は、メー〇ルの方が、

「あの一つお尋ねしたいことが・・・・・・」

「はい、なんでしょう?」

『あ! 見つけた! 清香! あいつあんなとこにいたよ!』

 クソっ! 清香ちゃんイレブンの包囲網か。

「・・・・・・ちっ、もう来たか。メー〇ルさん早く!」

「あなたは追われているのですか? 理由は聞きません。では手短に・・・・・・」

 その間と丁寧な喋り方が手短じゃないんだけど・・・・・・早く言って!

『清香! 速く!』

「この駅ではとても美味しい物が食べられると聞きました、それは何でしょう?」

 俺の数十メートル後ろには34人の清香ちゃんイレブンが集結しようとしている。

「わさび醤油チヂミ丼っす! 一口目からハマる味ですよ!」

「チヂミ・・・・・・ですね? テツ〇ウ食べに行きましょう。私腹ペコです」

「テーブルに置いてあるみそダレつけてもうまいっす! じゃね!」

 と、叫び俺は、迫りくる追跡者たちを後方に、メー〇ルとテツ〇ウにに軽く頭を下げ改札に向かう。

「あ・な・た~!」

 鈴の音のようだが、どこか違う声。

 ちっ、本命がきやがった。

 切符を改札機に通し、突破する。

『清香! あいつ切符持ってた!』

「いつの間に切符買ってたんですか!」

 石上清香を先頭に、案の定、電子マネー用の改札に向かっていく一味。

 一応ベッチに感謝。

「よし! やはりもたついてるな! これでモノレールに乗っておさらばだ!」

 と、思ったら混雑してた電子マネー用の改札に並んでた人たちが、只ならぬ様子の奴に順番を譲ってやがる。

「ずるいんだよ!」

 お構いなく!

 あんたたちが良い人なのはわかるが、その行いは悪の所業だぞ! ※個人の意見です。

 射桐峠行きのモノレールを一瞥で発見!

 あまり混雑してる感じではない。

 レールを一つ挟んで、距離にして約二十メートルのところに、モノレールが扉を開けて搭乗客を待っている。

 後には引けないんだ!

 この狭い駅の中で物量で来られたらイチコロなんだよ!

 こうなったらもう奴が追い付いてくるかなんて考えずに早くモノレールに乗って、とんずらするのに賭ける。

 搭乗口に続く階段を駆け上り、ホームを駆け抜けモノレールに転がり込む。

 同時にプシューッと音を立ててドアが閉まる。

 ホッ。

 腹の底から安堵の息が漏れた。

 ここまで来ればもう大丈夫。

 奴がいくらハチャメチャだろうと俺への愛がそんな深いわけないし公共機関のモノレールへの力技など破額の罰金背負うだけだ。

 ガコンッ、という音と共に、ゆっくり発進するモノレール。

 車窓を覗くと、

『待て―! クソヤロー!』

『ヘンタイ! キモメンー!』

『マジ引くんですがー!』

 とか言いながら、ホームで一般客の襟とか袖、首根っこを掴んで揺さぶってる清香ちゃんイレブンが目に入る。

 そんな奴らが横移動して視界から一人、また一人と消えていく。

「もう君たちは無力なのだよ!」

 最後にこう言ってやった。


         ◆キャ面ハリケーン◆


 本当にお仕舞い、この逃走劇にも終止符が打たれたんだ。

 腕時計を見ると、鬼ごっこの残り時間は十二分弱。

 そんなに速度の出ないモノレールが射桐峠駅に着くのが十五分後。

 二分以上おまけが付く計算。

 完全勝利だ!

 あとはこの走る密室の中でゆっくりしてれば良いんだから気楽なもんだ。

 ホゥッ。

 もう一度肺から息が搾り出る。

『車内放送です。現在、裏海馬改造動物園からコオロギ人間キャ面☆ライターフウタが逃亡中です。車内で見かけた方は、直ちにテヘぺロしてペロリストに転職し,ペロッターズポイントを稼ぐのをお勧めします。続きまして、裏海馬映画館で上映中の「ゴッドアンドヘルバウト 第二章おしゃれナポリタンの逆襲」がマジ面白くてプフォー、失礼、素が出ました。昨日のご飯は炭火焼たくあんでした、美味しかったです」

 何が言いたいのかよくわからない車内放送だな、それにしてもキャ面☆ライターフウタか・・・・・・裏海馬改造動物園は昔から変な生物実験してると思ったらとうとう人間にも改造を施してしまったか・・・・・・どうでもいいっ。

 勝利の余韻に浸りたくなり窓から外を見た。

 高層ビルとかあるが、まだまばらに畑とか水田が垣間見られる、微妙な発展具合の裏海馬市の街。

 見慣れた景色が輝いて見えて、

「意外に呆気無いもんだな・・・・・・」

 思わず低い声が出た。

 そう言った途端疲れが堰を切ったように、ドッと押し寄せてくる。

 脚全体が震えて、とても立っていられない。

 時間が帰宅ラッシュよりちょっと遅いせいか、車内に人は疎ら、席は選び放題。

 堪らず一番傍にあった席に着く。

「なんだったんだ? 今日は・・・・・・ハア・・・・・・」

 窓からゆっくり流れる風景を見ていると、

「あいつ、今何してんだろう?」

 もう終わったことなのにやけに今日一日に見たあいつの顔が次々と頭に浮かぶ。

 俺に逃げ切られ、肩でも落としているだろうか?

 清香ちゃんイレブンに『あんなのどうでもよかったじゃん!』って、励まされてるだろうか?

 何も気にせずにあっけらかんとしているだろうか?

 はたまた、まだ諦めずに追跡を続けてたり?

「流石にそりゃあないだろう・・・・・・」

 何を馬鹿なことを、と両手で顔を覆う。

 でも、

「見てくれは、可愛かったよな・・・・・・」

 確かにときめくとことかあったけど・・・・・・。

『あたしはあなたが好きなので』

 嬉しかったけど・・・・・・。

 本当にこれで良かったのかな・・・・・・?

 いや、もう終わったんだ、振り向く必要ないじゃないか。

「でも、なんかざわざわするんだ」

 胸が――心臓がやすりで擦られてるかのようにざわついて仕方ない。

 窓の外はもう完全な黒色に近い。

 ビルの傍を通過する時に窓ガラスが鏡のように俺の顔を映す。

 あの娘とまた会うことはあるだろうか――――?

 もう、忘れよう。

 でも、最後にもう一度あいつの顔をはっきり思い出してみよう、それぐらい、良いだろう?

 顔を上げて、鏡のような車窓に石上清香の顔を、投影させる。

 丸顔で、肩まで伸ばした黒髪、まるで穢れを知らないような丸い眼に、低くも高くもないちょうど良い鼻立ち、猫みたいな口許。

 なぜか窓には逆さに映って・・・・・・って、んん!

 逆さまの石上清香の顔がやけにリアルだった。

「まさかな・・・・・・」

 再び、窓を見るとやっぱりあいつの顔。

 恐怖のあまりあいつの顔が目に焼き付いてるんだろうな。

 しかし、なぜ逆さま?

 まあ、気にしないでおこう、丁度良い、最後にもう一度拝ませてもらおうじゃないか。

 窓の石上清香の虚像と、視線を真っ直ぐに見つめ合う。

「・・・・・・」

 やっぱり可愛いんだよな、それだけは確かなんだよ。

「・・・・・・・・」

 なんてはっきりとした幻影なんだろう?

 一瞬口が笑ってるように見えた。

「・・・・・・・・・・」

 本当に本物が窓の外でこっちを見つめてるように見える。

 手まで振ってるし、

「・・・・・・・・・・・・」

 窓に顔をくっ付けて、凝視してると口の端からちょろっと舌を出し可愛い瞳がぱちくりと瞬いた。

「うええ!」

 こいつ本物だ!

 何してんのこいつ!

 こっちが狼狽えると清香嬢は、にっと笑い窓をどんどん叩く。

「OK、お前はそういう子だった、って聞こえてないか」

 まあ、差し詰めエイリアンのように車両に乗ってきたのだろう、今更目の前にこんな形で現れても、お前が車内に入れるのは次の駅についてからだ。時間的に見ても俺の勝利は揺らがない。

 パクパク何か言ってるようだが生憎よく聞こえていない。

 モノレール・・・・・・乗り物の窓ってのは結構防音対策されてんだ。それにこのモノレールは現在稼動中だからな、それに俺は疲れてるのでちょっと耳が雑で多少聞こえるはずの走行音も確かじゃない。

 俺は自分の耳の横で指でバッテンを作る。

 すると奴は頬を焼いた餅みたいにした後、首からぶら下がってる銀色の見慣れない筒を取出し、口に咥え思いっきり息を吐いた。

 ヒョロロロロンピー!

 笛らしく笛な笛の音色が窓を挟んでも響く。

 同時に遠くから、ゴゴゴ、と地鳴りが聞こえたと思うと、

『サーンシャーイン!』

 甲高い声が響いた直後、モノレールに衝撃が走る。

「おおーーーーーーっ!」

 急に襲うモノレールの急な減速による横方向への力。

 慌てて手すりを掴んでもたたらを踏んでしまう。

「地震か!」

 いや、そうじゃない。

 モノレールは次第に速度を緩め最終的には完全に停止した。

 車同士がぶつかったような、だが二つのレールをチグハグなダイアで行きも帰りするレールを走行するモノレールが衝突事故ってあるのか?

 とにかく並みの衝撃ではない、よな?

 揺れが収まると自動ドアが勝手に開いた。

『異常事態発生、お客様はレール外の避難用通路から非常用階段で高架下の様な安全地帯の様なところに集まって頑張ってください』

 下手くそなアナウンス、頑張るってどういうことだ?

 ざっくりし過ぎだよ?

 お粗末な案内でも理解した乗客はいそいそと下車して行く。

 俺も例に倣って列の最後尾に並んで車外に出たところで、

「そーーーーーーいっ!」

 予想外の事態に忘れていたよ、お前さん。

 下車して避難用通路に向かおうとした俺の背中にどこからか加速した状態で遅いくる、清香嬢。

 咄嗟の攻撃を身を翻して避ける。

 勢い余って清香は車両前のレールの上に立ってこっちを振り返った。

「よく避けられましたね!」

 お前、今のは黙って近づいてりゃタッチ出来てたと思う。

「お前もしつこいな! まあ、もう時間はあまりないが」

 俺は腕時計を清香への警戒を解かずにチラ見して口の端を上げた。

「残念だがあと一分でタイムアップだ」

「そんなの時計見ればわかりますよ、馬鹿ですか?」

 どういうわけか高圧的な清香嬢。

 なっ、なんだこの余裕は?

 娘は一瞬一切動く気配のない車両の方を一瞥すると、

「それよりちょっとこっちに来て見てください。面白いですよ」

「罠・・・・・・では、ないよな・・・・・・?」

 俺は奇襲が来ても対処できるよう安全な距離を保ち車両の前に出ると、

「な、なんだこりゃ?」

 先頭車両のフレームが大きく歪んで原形を留めていない。

 車両のフロントガラスが広範囲に散らばってしまっていた

 まるで同じモノレールが逆走してきて衝突したかのような惨状。

「これ、誰・がやったと思います?」

 俺は周りを確認してから、

「なににぶつかったんだ?」

 かなりの衝撃だったのは身を持って理解しているが、重要な原因が不明。

 まったくもって事故の理由が謎だった。

 ん? 

 今こいつ誰・がやったって言った?

 乗り物と乗り物がぶつかったなら納得いくが、誰ってどういう・・・・・・

「私の使い魔の力です」

「はっ?」

「いえ、この笛を吹くと彼が来ます」

「なんだって?」

 この子が何言ってるのか、普段から変なこと考え慣れてるはずの俺の脳が疑問としか捉えない。

「コオロギ人間キャ面☆ライターフウタを呼んだんですよ」

「なるほど、全然わかんない・・・・・・キャ面・・・・・・なんかさっき聞いたような」

「裏海馬改造動物園の新作です」

 確か車内アナウンスで『キャ面☆ライターフウタが逃亡中です・・・・・・』とか言ってたな・・・・・・。

「ああ、思い出した! あの傍迷惑な動物園の新作、キャ・・・・・・」

「拙者の名は太陽の化身コオロギ人間キャ面☆ライターフウタだ! 我を改造した地獄の秘密機関「改造動物園」の89人の虫族が最後の力を振り絞り、ついには撲滅保育マシンTX-Ω改の身動きを88人の仲間で抑え、最後の一撃を任された我が渾身の一撃を叩き込む――という時にマスターに呼ばれたのだ!」

 俺は突然の説明臭い声のする方――沈黙した車両の上に眼をやった。

 そこには褐色の外皮に包まれた謎の生命体が。

「貴様! 我がマスターミス清香の思い人か! とうっ!」

 俺の目の前に飛び降りてきて、びっと指さしてくる。

 一見気持ちの悪いでっかいコオロギを人型に無理やり変形させたような生物。

 頭にV字の触覚に黄金に輝くでっかいガラス玉を二つ埋め込んだ双眸、ジグザグシャキンとした口を覆うマスク。

 鍛えられた強靭な体はチョコレートをさらに油テカりさせたようなところがちょっとゴキさんに見えてしまう。

「我が太陽の一撃の威力を見たか? 技名はサンシャインデストロイキック、なかなかのものだろう!」

「なあ・・・・・・マスターの清香ちゃん、このヘンタイは? 意味不明でなんだか物騒なことを言ってる気がするんだけど」

 撲滅保育マシンとか最後の一撃の大事な時に呼んじゃってるっぽいぞ。

「ヘンタイとは失敬な! 渋い顔して指を指すんじゃない! 拙者は誇り高き太陽の化身! キャ面☆ライ・・・・・・」

「せいっ!」

 思いっきり脛を蹴っ飛ばしてやった。

「あふん」

 突然のことに屈強そうな体のキャ面さんのバランスが一瞬崩れる。

「なにをする! 拙者に不意打ちとは飛んだ度胸の持ち主だ!」

「このヘンタイは?」

「そんなすんなり無視するな! 我が日輪の輝きに照らされ死ぬがいい!」

「あたしの使い魔です」

「だから無視するな! マスターまで! あとできな粉棒を褒美としてもらってくれる!」

「いつから?」

「ふっ、愚問だな、マスターと拙者の出会いは、大いなる時代の流れに生まれた特異点……その始まりは古の遺跡に描かれた旧先史の・・・・英雄・・・・園・・・・・・ブツブツ・・・・・・」

 一人語り出したコオロギを背に隠すように清香嬢は一歩前に出る。

「ついさっきです、自動販売機に間違えて一万円札を入れたらジュースと一緒にこの笛が出てきまして」

 と、清香は首に下げてる銀色の笛をきらりと光らし続ける。

「なんでも、英雄の園から大いなる指名により使わされた・・・・・・」

「だから無視するなと言っているだろう! そうだ拙者は太陽の化身! 日輪の光が差す限り拙者の勝利は揺るがない!」

「なるほど、比較的購入しやすいサーヴァントのようなものか」

「いえ、お得なおまけです」

「違う! 拙者は太陽の化身にして象徴の組織ユグドラシルの幹部!」

「太陽の太陽ってうるさいけどもう日が沈んでるんだけど・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「ムーンライト! エナジー! それは、月光の力により通常の三万倍の・・・・・・!」

「オラッ!」

 ゲシッ。

 言ってることが安っぽいんだよ。

 太陽の化身とか言っちゃてるけど、お前はコオロギだろう? どっちかっていうと夜がメインの生き物だから! でもムーンライトってのは間違ってないと思うが、あっさり能力を変更するな!  

 どういう目的で造られたか知らないけど、今は夏でお前の本領発揮はまだ旬じゃない。

「貴様、マスターの思い人だからと調子に乗るのではない!」

「おまけ風情が何を言う。そもそもお前そんな大層な奴なのか? 改造動物園の新人だろ」

「・・・・・・・・・・・・いじめないで・・・・・・」

 認めやがった。

 レールの上に膝をつき控えめな嗚咽を漏らす。

 そんなヘンタイを指さして清香さんは、

「ね、かっこいいでしょう?」

「どこがだ!」

 謎な感性をお持ちのようだがさらりと難しい個人的感想に同意を求めるな!

 どう見たら今のこのメソメソ泣いてるコオロギ人間がカッコ良く見えるんだ?

「・・・・・・月の光に誘われ、巡り会う」

 顔を両手で覆いながら鼻声でなんか聞いたことのある様なことを呟く改造人間。

「あめ・・・・・・飴あるよ・・・・・・ハバネロ飴・・・・・・甘くて美味しいよ・・・・・・ねっ・・・・・・」

 なにしてんだ清香嬢!

 お前はお前で優しい声で罰ゲームにしかならないもんを残念な人にさり気無く食わそうとすんな!

「嗚呼・・・・・・」

 日が完全に沈んだ裏海馬と射桐峠の狭間で何をしてるんだ俺は?


なんでもありだなホント

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