ずるい女
『あいつら怪物だ! 俺の村を焼け野原にした連中によく似てやがら―!』
と、言う人がいたり、
『教典に封印されし、瑠璃色の翼の獣、新田さんに間違いねえ!』
と、言う人や、
『力を持て余した荒ぶるゴールドクロスの人が降臨なさった、テンションブチアゲ!』
とか言っちゃう人もいる中、
「うおおおおおおおおお!」
「はあああああああああああ!」
俺、桃園右近と石上清香の鬼ごっこは、もはや聖戦の域に到達する勢いだった。
こいつちょっとさっきより速くなった気がする。
恐るべきスピードで進化しているっていうのか?
ん、ちょっとかっこいいな今の。
でも、俺だって伊達にトップアスリートだったわけじゃない。
俺のレベルにそんな易々と追いつけるなら、一朝一夕で肉薄する実力になれるなら、オリンピック選手選考会はもっと白熱するんだよ。
悔しいけど俺も男なんだな!
いくら進化したとはいえ、流石に差は少しずつ開いてゆく。
この調子だ。
「俺を鬼ごっこでここまで手こずらせたのはお前が初めてだ!」
ここまで怖い鬼ごっこも初めてだ。
正直褒めてやりたいぐらいだ。
それぐらいの頑張りはしてるんだよ? お前。
徐々に開いてく距離。
「進化したのはスピードだけだと思いますか? 先ほどまでの空白の時間で、あたしも頭というのも使ってみようと思いました。手に入れたのはお金だけじゃないのですよ! 我が仲間よ、掛かれ!」
「!」
俺はモノレールの駅に向かい走っているわけだが、二つ気になっていたことがある。
ヤマスイのイベントがあったから女子高生が多いのかと思い込んでいたが、主だったイベントは大体、結構前の時間に終わっているし、モノレールの便だって結構多いので、平日のこんな時間にこれだけ女子が大勢いるのは不自然だと考えていた。
それに妙に周りにいるそいつらが俺と石上清香を意識的に凝視しているように感じていたのだ。
娘の声が掛かるや俺の前方にいた女子たちが、急に道を塞ぐように身構え、
「「「「そーれ!」」」」
急に飛び掛かってきた。
「おう⁉」
咄嗟に横に跳んでギリギリ躱すが、その先にも女子たちが待ち構えていた。
それをスライディングからの横転で逃れる。
「「「「なにこのおっさん、スゲー避ける、ウケるんですけど」」」」
と、ケラケラ笑っている。
「お前さん?」
「はい、なんでしょう?」
少しスピードを緩め――ほぼ歩いてるのと同然な速度で訊ねる俺に、こいつは一緒にスピードを落とし平然――というより全く素知らぬ様子で首を傾げた。
「この方たちはどちらさん?」
「清香ちゃんイレブンの方たちですけど、なにか?」
「イレブン? 11人いるの?」
「いえ、34人です」
「リアルに多い!」
どこがイレブンなんだよ!
しかも物量できやがった!
ずるいぞ!
それに自分のこと清香ちゃんて言う人なの、キミ?
「卑怯ではないですよ! タッチ権はあたしにしかありません。彼女らは捕縛用で――」
「どっちにしてもずるいんだよ!」
「大勢の女子に囲まれるの、嫌なんですか?」
「・・・・・・大好き」
飛び掛かってきた娘たちみんな可愛いんだよ。
流石入学にルックスを問われる裏海馬高校、良い仕事してます。
「ほら、気持ち良いんじゃないですか・・・・・・そだ! あたしと付き合えばみんなにあなたを紹介するついでに、全員で旅行とかどうです?」
「・・・・・・男、俺一人?」
「もちです! 童心に帰ってみんなでプロレスとかして遊びましょうよ!」
グワンと目の前の景色が歪む。
夢のような話だ。
「・・・・・・・・・・すごく、ぃぃ・・・・・・」
プロレスってぶっとい男をイメージしちゃう言葉が、やけに魅惑的だ。
「色んなコスチュームも用意して楽しくやりましょう!」
脳内を駆け巡るプロレス技の数々が、全部変な方に刷新されていく。
そこまでサービスしてくれるの! いや待て、いや、いや待て、待て待て、いや・・・・・・。
俺の頭の中で何かがプツンと弾けた。
「わかった! 俺、お前と――――」
「まあ、流石に公的裁きが下りますが」
「おおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」
おおーーーーい! もう少し夢見させてくれよ!
落とすところは落とすのね、清香嬢。
「まあ、あたし相手には公的裁きなんていらないですけど」
「・・・・・・ぐっ・・・・・・・・・・ちょっと嬉しい」
本当にちょっと嬉しい。
あんまり好きじゃないけど可愛い顔の子にそう言われるのは、なんていうかこめかみの上の辺がムズムズする。
「あたしはあなたが好きなので当然と言えば当然だとは思いますが」
「そんなに好きなの?」
「ええ」
平然としているこの娘の愛が不思議。
「お前を保険にして良いですか? どうしても俺に恋人が出来なかった時の・・・・・・」
『言いやがったよ! なにあの人クソいんだけど、清香あんなの好きなの?』
『清香のセンスが謎い! あんな芋みたいなのあたし好みじゃないしー。どっかであのフェイス見たことあるー、博物館で石の斧持ってるやつー!』
『有りえなーい!』
『ねーーーー!』
間一髪というか、『死ね』とか致命的な一撃は避けてくれてる感じに口々に言う、優しい清香ちゃんイレブンの面々。※個人的な感想です。
「正直に言って良いですか?」
「どぞ」
「くそ野郎! って言いたいです」
「ですよね・・・・・・」
当たり前の反応に肩を落とす。
そりゃそうだ。
自分が女性だったら、そんなこと言ってる男は一発殴って懲らしめてやりたくなると思うもん。
「そうですね、あなたがたくさんの女性にアタックし、ことごとく失敗し、打ちひしがれて、あたしの前に現れたら、あたしは寛大な心で受け入れちゃうと思いますが」
ペカー!
め、女神ですか? 輝いてるよ、清香さん!
こんな冴えない男の俺に、保険が出来た・・・・・・のかな?
とか考えてる自分を殴ってやりたい。
トクン、トクン・・・・・・・・・・・・。
あれ? なんだろうこの気分、すごく温かくて胸がくすぐったい。
「ソ、ソンナこと言って、なんにもならないよォ・・・・・・オ・・・・・・?」
声が裏返っちゃった。
顔が熱くなって妙に恥ずかしい。
急にこの子の顔を直視できなくなっちゃった。
だって女の子にこんなこと言われたの初めてで・・・・・・。
「顔真っ赤ですよ? 汗の掻き過ぎで風邪ひいちゃいましたか?」
「ッち、違わい!」
合わせる顔が無いので俺はまた走り出す、だって恥ずかしんだもん。
「待ってーあなたー!」
あれ? 勝手に顔がにやけて、あれ? どうしたっていうんだ?
もういい! とにかく俺は最後の――この鬼ごっこの最終ステージ、モノレールの駅に向かう。
余計なことは考えない、俺は逃げるんだ!
ラストはもう決まってるのであとは書くだけなのですが、実は資格試験は合格したからいいけどあと少し勉強しなきゃいけないのでちょっとあと1.2話で投稿ペースダウンしますm(_ _)m




