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恋愛鬼ゴッカー!桃園右近!  作者: 河原ブーメラン


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6/9

へっぽこ計画

「ヤマスイめ、呑気にやっておるわ」

『最後の時は近付いているのだよ。ここで引導を渡してくれる』

 俺はヤマスイのサイン会会場である書店の端っこの棚から顔を出す。

 女子高生たち(ご高齢の方とかもいる)が群がっている中心にヤマスイはいるのだろう。

 この状態で俺とベッチの作戦を実行したら余計な被害が出る。

 女子らに罪は無い、奴の甘いマスクに誑かされているだけなのだから。

 ベッチも俺も奴とは長い付き合いだが、どういう思考を持っているか定かではない。

 何しろヘンテコ野郎だからな。

 しかし貴様も所詮は人の子、根っこは人間であることに変わりは無い。

 ならば、誰でも平均的に嫌がることをされれば、その甘美な仮面も剥がれて苦しむに違いない。

 俺たちは待っているのだよ?

 お前の終焉を・・・・・・。

『罪を払拭するのは容易ではないぞ、ヤマスイ!』

「そう、お前がアイドルである限り、ライトを浴びる貴様の陰には俺たちが潜んでいると思え!」

『俺たちの怒りの業火に焼かれ!』

「灰塵と化し!」

『風に攫われ!』

「輪廻し!」

『新たな大地で!』

「生を受け!」

『生命の循環をを繰り返し!』

「真にゼロに戻った時!」

『初めて!』

「貴様の罪は浄化されるのだ!」

『これ楽しいよ』

「ちょっとな」

『・・・・・・』

「・・・・・・・・・・」

『お前の野望は!』

「俺たちが砕く!」

「『ふははははは!』」

「お客さん、お静かに!」

 ゴツンヌ!

 知らぬ間に接近してきたメガネの店員さんにグーで殴られた。

「一人で妙な大きな声で何を言ってるんです? またやったら通報しますよ!」

「・・・・・・すいません、静かにします」

 周りの人にはベッチの声は聞こえてないんだった。

 傍から見たら一人で中二病的セリフを叫んでるただのヤバい人だった。

『楽しいのに・・・・・・』

「今度はあんま迷惑にならない場所でやろう」

『とりあえず今の店員はブラックリストに追加しとく』

「お、おう」

 当たり前のように職権乱用するな!

 店員さん、悼まれない。

 にしてもこんだけ奇行かましてる俺の方を見てる人があんまりいない。

 みんなヤマスイの方見ちゃってるんだよね。

 だからって挙動不審な姿勢じゃみっともないな、普通に立っててもヤマスイの目に俺は入らなそうな感じだし。

 忙しそうだがせっせとサインを書いて握手してるヤマスイ。

「サイン色紙じゃなくて、婚姻届とか渡されてもサインしちゃいそうな勢いだな」

『ヤマスイ抜けてるから、なに渡されてもロクに確認せずに書いちゃいそうだね』

 未だ天職を見つけていない俺には、その姿がやたら眩しくて直視したくない。

「・・・・・・」

『・・・・・・・・・・』

「・・・・・・ロープっていくらすんの?」

『何に使う気⁉』

「ちょっと・・・・・・森の中でキュッとなりたくなった」

『逃げちゃダメ―!』

「そう言ってくれなかったら、ほんとにキュッとするつもりだった」

『何があっても森の中でキュッとしちゃダメだから!』

「ソダネ、アリガト」

『絶対すんなよ!』

「シナイ」

 なんか、ダビデ像みたいなポーズしてると楽だった。


『さー、野山さん! 大勢の方にサインしてあと6人でラストです! 今並んでる6人の方は絶対順番を変えないでください! 実は最後の一人には特別プレゼント! イベント終了後、野山さんこと野山水鏡さんとディナーをご一緒できる権利を差し上げます!』

 アナウンスの人が言うや、会場にいる全員がざわついた。

 と、言ってもすでにサインをもらったファンは時間も時間だし帰路についた人も多く、残ったファンや取り巻きたちもさすがに最初の半数以下に減っていて、イベントの規模は徐々に縮小していた。

「え! ええっ! やだ、ほんと!」

 サインを待つ、行列の最後尾の女子大生っぽい人が、嬉しさのあまり大きな声で喜びを露わにしている。

『おめでとうございます!』

 アナウンスの人に祝福され、頬を赤くして嬉しそうに口を歪め順番を待つ、女子大生っぽい人を、なんとなーく目で追いながら。

「本当にヤマスイは歌うのか? そんな様子は無いんだけど・・・・・・」

 かなり時間を食ったんだ。これで何もなかったら、いくらベッチでもサイコクラッシャーの刑だからな。

『奴はおとなしい割りに妙に目立ちたがりなとこがあるんだよ。客がいなくても絶対歌う。オレの死海文書にも載ってる』

「死海もん・・・・・・?」

『越坂部家に古より受け継がれし秘文書だよ。世界の始まりと終わりが記されてるんだ。エッセンシャル版とかも出てる』

 エッセンシャル版とか出てんの? てか古より受け継がれし秘文書を公に量産しちゃってたりするの? なんかすごく安っぽいよ?

「変わったもん持ってんな」

 なんかカッコいいから今度読ませてもらおう。

 

 サイン会も終わる兆しが見えてきた時だった。

 最後に例の女子大生のサインを書き終え握手をし、「またあとで」とディナーの約束をしたヤマスイが、マイクを手に取り立ち上がる。

『本日は誠にありがとうございます。最後まで残ってくれた熱心なファン限定に、野山さんから一曲披露するそうです』

 アナウンスの人がそう言うのと同時に古臭い曲が流れだす。

「ホントに歌うみてえだな」

『そろそろだ』

「作戦開始だな」

『十分助走をつけるため、ポイントAへ』

「了解」

 俺は距離を測るように、歩数を数えてヤマスイとの間に障害物の無い直線上、ポイントAに移動する。

 曲の音量が上がる。

 いつの曲だか定かではないし、だいぶ古い曲だからタイトルは知らない。

 でも、やけに懐かしく感じるのはなぜだろう。

 なんて、今はそんなことはどうでもいい。

 ヤマスイがマイクを口の前で構える。

『では聞いてもらいましょう、野山水鏡さんで「ポンポネラハイウェイ」!』

 クラウチングスタートの体勢をとり、

『桃の字、発射!』

 キラーンと俺の目が光った。

 俺は地面を蹴り、ヤマスイ目がけ急加速する。

 周りの風景が歪曲し、俺とヤマスイの距離が一気に縮まる。

 ヤマスイの口が開くと同時に俺は前方斜め上に跳躍、

『我ら至高の一撃!』

「喰らえ必殺!」

『パ』

「『ザ・ウコンストライク!』」

 歌いだしたヤマスイの横っ面に、思いっきり全力のライダーキックを叩き込んだ。

 そう、ヤマスイへ一番ダメージを与える嫌がらせとは、アイドルの本分『歌うとき』に一撃を加え、台無しにする。

 それが俺とベッチの選んだ計画だった。

 椅子やテーブルを蹴散らし、俺の渾身の一撃に抵抗する術もなく錐もみ回転してぶっ飛ぶヤマスイ。

 呆気にとられた大勢の人が絶句する中心で、

「見たか正義の鉄槌!」

 俺が一言叫ぶ。

 倒れ伏すヤマスイがピクリともしない。

 ・・・・・・。

 数秒の静寂の後。

「お」

「おお」

「おおおおー」

「「「「お前が悪だぁーー!」」」」

 大衆の本気の罵声を浴び、俺は颯爽とその場を後にした。


      ◆ホント嫌になっちゃうよねー◆

 

『あーすっきりした!』

「だな!」

 激昂したヤマスイのファンに追いやられた俺は、現場から大分離れた区画まで逃げ切り、人目に付きづらい柱の陰で一息吐いていた。

「なかなかのエキサイティング具合だ」

『ねー、ほんとにやっちゃったって感じだね。多分通報されるよね』

「なんつった?」

『通報されるよねって言った』

「――――!」

 言われて気付いた。

 ノリでやったと言えど、俺はアイドルであるヤマスイに公の場でライダーキックを見舞ったのだ。

 通報されても無理はない。

 遠くからパトカーのファンファンファンって音が聞こえる。

 無意識に肺からヒュッと息が搾り出る。

「ベッチ? 俺、捕まっちゃうの?」

『オレも桃の字がまさか本気でやっちゃうとは思ってなかったからさ、マジか? って思った』

「待て! この騒ぎにはお前も一枚噛んでいるわけで・・・・・・!」

『でもなー、実行したのは桃の字だし』

 呑気に言うんじゃない!

 こんな形で前科持ちになんかなりたくない!

「ふざけるな! ヤマスイのことに関しては言い出しっぺお前じゃん! ノリノリだったじゃん! 俺はあのイカレ娘と鬼ごっこをしてただけで・・・・・・」

『それ! そもそもね、このモールで女子高生と鬼ごっこなんてしてる、桃の字がおかしいんだよ。めっ!』

 悪びれも無くそんなことを言うベッチ。めっ、じゃねえ!

「見つけました!」

「おおう⁉」

 ベッチの急変にたじろぐ俺の目の前には石上清香。

 さっきまでの制服姿じゃなく、シンプルでいて高級感のある純白のワンピースにピンクのブラウスを羽織って麦わら帽子。

『お迎え来たじゃん! オレそろそろ仕事あがるから、あれ? 電話だ』

「ちょっと待てベッチ! ベッチ⁉」

「ベッチって誰です?」

『もしもし? うん、うん、わかった、すぐ帰る。じゃあ、桃の字、オレ家帰るから、嫁が怒って待ってるし。例の物はあそこに置いといたから』

「嫁⁉ お前結婚してたの⁉」

 初耳だぞ!

「結婚?」

『何年か前に結婚したんだよ。結婚式も上げた』

「俺呼ばれてないんだけど!」

 ちょっと待て! 事態が呑み込めない!

「結婚したいんですか?」

 こいつはこいつで勝手に誤解してやがる!

『そういや呼ぶの忘れてた』

「俺たち友達なんだよね⁉」

 忘れてた? 

 俺、お前にとってそんな存在だったの?

「あたしたちの結婚式に友達を?」

「違う!」

 収集ついてないぞ!

『なかなか面白かったよ! あとはお二人で! じゃねー、バイビー!』

「おいベッチ! ベッチ!」

『ブツン・・・・・・』

 ホントに帰りやがった。

「・・・・・・」

 凄まじい空虚感に苛まれる俺に、石上清香は、

「誰と話してたんですか?」

 と小首を傾げあからさまに気の毒そうな表情を浮かべていた。

「・・・・・・お前、今までどこに?」

「あたしですか? あたしはちょっと自分でもよくわからない場所に行ってました。あんな不思議な風景初めてです」

 その言葉に俺は、このショッピングモールの知ってる限りの場所を、あらゆる角度でイメージする。

「不思議なところなんてあるか?」

 皆目見当がつかなかった。

「ありますよ。ちょっと壁にぶつかったと思ったら、こんな暗い空じゃなく、清々しいほどに晴れ渡った青空で、遠くには山とか見えて、足の生えた顔付きキノコを数匹踏み潰して、カメもいましたね。そのまま進むと・・・・・・」

「ちょっと待て」

「土管が立てて置かれていたので興味本位で登ってみたら、どん臭いことに穴に落ちちゃったんですね・・・・・・」

「おい」

「気づいたら薄暗い部屋にいて、地下だと思うんですけど、奇妙なことに沢山のコインが宙に浮いてたんですよ。それに変な音楽が流れてたような・・・・・・。そしてコインを集めてたら1UPして・・・・・・」

「おおーーーーーーーーい! 本当にどこ行ってた!」

 みんな知ってるマ〇オランドじゃねえか!

 1UPってなんだ?

「そのコインを質屋に持ってったらお金いっぱいくれて、ウン千万くらいですかね。それでこの服と帽子を買えました。お釣りもこんなに・・・・・・」

 と、どこに持ってたのか両手に溢れる万札を見せびらかせてくる。

「ちょっとそれよこしなさい!」

「いやです。あたしもそういうギラギラした目で見られたい、それより、どうですかこの服?」

 と、ひらりと一度可愛らしく回って意見を求めてくる。

「似合ってるよ」

 気付けば札束を手に持っていない、どこに仕舞った?

 なんかいちいち驚くのが面倒臭い。

 でも本当に制服姿も良かったけど、純白のワンピースもかなり良いな。

 麦わら帽子でちょっと顔が隠れてて、それもまた清楚な感じで・・・・・・。

「ありがとうございます」

 と、言った後、急に顔を赤くしモジモジしだす小娘。

「右近さんはこういう格好好きかな~って思って、あの、その・・・・・・」

 お? なんか可愛いぞ!

「良いね!」

 さらに頬を紅潮させる少女は、

「それはもうあたしたち相当な中なのでは?」

「今のままず~っとその感じだったら考えなくもない」

 娘はそう言い放つ俺の顔をじーっと見つめると、

「選べる側じゃないと思います」

「うっせ―!」

「選べる側じゃないと思います」

「なんで二度いうんだよ!」

 この一瞬で顔の様子が元に戻っている。

 相変わらず見てくれだけは良いんだよ。

「・・・・・・?」

「どうしました?」

「バットは?」

 白金のバットが見当たらない。

 相当な値打ちの物ってことは流石にこいつもわかってると思うんだけど、

「居酒屋の入り口で飲んだくれてるおじいさんにあげました。すごく喜んでました。『これで40年ぶりに家に帰れる』って」

「あげるな! 残念なおじいさんを巻き込むな! 束の間の夢になっちゃうぞ!」

「あのおじいさんの正義を信じます」

 物が物、人生を狂わす代物なだけに、親切心でどうこうしちゃダメだ。

 嬉々としてバットを売りに行ってるであろうおじいさんの姿が鮮明に想像できてしまう。

 まあ、気にするだけ無駄だ。

 合掌して無事を祈らせてもらおう。

「コホン・・・・・、貴様を待っていた! 久しぶり!」

 と、仕切り直す。

「会いたかったわ。宿敵のあ・な・た!」

 対峙するレスラーのような構えをお互いとって、どう出るか探り合う。

 只ならぬ様子の俺たちの周りには、ちょっとした観覧者の群れが出来ている。

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 ただ見つめ合う。

 このままタイムアップになればラッキーだとは思うけど、流石にあと四十分近くこの緊張感を保つような相手ではないだろうな。

 精神が肉体を凌駕しているこいつは、自在にゾーンに入れる化け物並みの集中力の持ち主。

 ならばこちらからアクションを起こすべきだろう。

「ちょっとたんま!」

「どうしました?」

「トイレ! ッシッ!」

「!」

 そう、ちょっとした変化、切欠は何でも良い、ただ少しでも動ける理由、それがあれば良い。

 半歩動き、一歩動く、その変化を一気に爆発的に飛躍させる。

 一目散に逃げ道を塞ぐほどに出来上がりかけた、人垣の隙間にダッシュする。

 知覚できないほどの一瞬の攻防。

 背中に触れてしまうかと思うほどの距離を、少女はピッタリ追ってきた。

 頭の中で三度ゴングが鳴った。

なんか今のワイより昔のワイの方が書き方上手い気が…

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