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恋愛鬼ゴッカー!桃園右近!  作者: 河原ブーメラン


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4/9

おっさんの盟友

 友達と集まれる場所って良いよね。

 家族には話せないこと色々暴露して一緒に笑い合えるもん。

 おっさんこと桃園右近も、今もだけど思春期は学校の男子全員で猥談とかしてたからね。

 で、女子も男子も一緒にいる教室でそんな話できないじゃん。

 基本階段が途切れる一番上の行き止まりで集まるんだよ。

 学校の最上階――屋上ってなんでテレビとかと違って鍵が掛かってるんだろう?

 明らかに鍵とか鎖で厳重に閉じられてるんだよね。

 まあ大体察しはつくよね?

 テンションの高い学生はなにするか分かんないじゃん?

 ノリで飛び降りたりするかもって先生たち思ってんだよ。

 ドラマ見てて屋上で告白するシーンとか見ると『うわ、嘘クセエ!』って思わない?

 そういう反応する奴に限って屋上に憧れが強かったりするんだと思うんだよね。

 理科の授業で日食とか見るために屋上に行ける時のみんなの反応を俺はすごく覚えてる。

 一生懸命つるはしで掘ったトンネルが開通した時って多分あんな感じになるんだろうさ。

 要するにどんな奴も屋上が好きなんだって思った。

 みんな大体集まるところは似通ってるもんだなあともね。

 人間ってみんな中二病な時期って絶対あると思う。

 今否定しようと思った人、多分中二病だったと思うよ、高確率で・・・・・・。


「久しぶりだな、ベッチ!」

「うん、久しぶり! 桃の字!」

 こいつは越坂部梨央、耳では覚えやすいのに字では画数が多くて覚えづらいから俺は簡単にベッチって呼んでる。

 今もこいつのフルネームを漢字で書けない。本気で覚えようとしたことが無いから。

 俺は桃園右近って変わった名前で覚えやすいけど人によって『ももちゃん』『ウコング』とか呼ばれ方は統一されてない。

 ベッチは俺を『桃の字』と呼ぶことが多い。

 とにかく長い付き合いで俺と似た思考を持ってるベッチは、中学校の卒業アルバムのプロフィールの超必殺技欄に『横断歩道を手を上げて渡ること』って書いてた。ちなみに俺は超必殺技欄に『Bダッシュ』って書いた。

「とりあえずこいつを見てくれ」

 スマホにパスワードを打ち、先日送られてきた石上清香の例の写真をベッチにこっそりと見せる。

「うわ! こっれはエロいね~、これがどうしたの?」

 大納言ジェネレーションシティー裏海馬の経営者を親に持ち、少し――かなりの勝ち組。

 俺たちはそのジェネレーションシティーのバックヤードにいた。

 繁盛してるテナントばかりで裏方に回るはずの従業員たちもほとんど店先で接客に臨んでいるようだ。

 ベッチは顎に手を当てらんらんと写真を眺めた。

「こいつに追われてて困ってる」

「何そのシチュエーション、羨まし~い!」

「羨ましくないんだ、これが・・・・・・ごにょごにょ」

 俺は今までの経緯を大まかに説明した。

「ヤバいぜ桃の字! それってストーカーっていうんじゃ――ふぐ!」

「大きい声で言うなベッチ。奴は耳が良い」

 ベッチの口に適当に置いてあった梱包材の発泡スチロールを突っ込んで黙らす。

「ホンハハヘイホヒヒホホヒハイヒ」

「大声を出さないと約束できるか?」

 ベッチと目を合わせて一回頷き合うと発泡スチロールを外す。

「そんな野生の生き物みたいに耳良いの?」

「奴を侮るな、俺だってこの写真を見たときはちょっと胸が高鳴った。だがな、奴は見てくれは良いが中身はとんでもなく残念な痴女だ」

「オレちょっとそういうの好きだけど、残念系女子ってなんか良いじゃん」

「多少の異常さを無視したくなるのはわかる。俺もそうだった。でもな、こいつはそんな可愛いもんじゃないんだ。説明しだしたらきりがないぞ」

「例えば?」

「そうだな――っシ」

 再び発泡スチロールをベッチの口に押し込む。

「ハヒ?」

「気配がする。黙れ」

 バックヤードの入り口――普通は『関係者以外立ち入り禁止』となっている場所から微かに獣の呼吸を感じた。

「こっちだ」

 と、ホームセンターの商品の木材の陰にベッチを連れて隠れる。

「どこにいるの! あ・な・た! このプラチナバットで超近距離ボール無し千本ノックを奏でましょう!」

 白金の妙に芯のあたりがぶっといバットを手に、バックヤードの入り口で匂いを嗅ぐ荒い呼吸音を立てる石上清香が、存在感を放つ。

 そしてバットを何度も振る風切り音。

 ボール無し千本ノックってなんだよ? ただの素振りじゃねえか、一人でやってろ。

 数秒、鼻呼吸のスンスンという音が近づいてきてまた遠ざかる。

 俺もベッチも緊張で額が汗でびっしょりになる。

 ベッチが音を立てないように手を振り会話を求める。

 俺は木材の陰から少し顔を出し、周りの様子を確認してベッチの口から慎重に発泡スチロールを抜く。

「桃の字、あいつキモいぜ。ありゃ化け物だ。あの白金のバット、100%白金製の展示品で人間一人の腕力じゃ扱えないものだよ? 今朝、大人三人でやっと運んだんだ」

「どれだけヤバいかわかってくれたか?」

 ベッチは静かに首を縦に振る。

「俺はここまで二十キロ近くあいつから逃げつづけている」

「桃の字を二十キロ? 本当に女子なの? 女子高生なの?」

「基本スペックは平凡な女子高生だ。スピードは大したことないし素足での闘争は簡単だ。だが精神が肉体を凌駕している。体力は無尽蔵と言って良い。その上常識とかぶっ飛んでるからかなりフリーダムだ。あらゆる手を使ってくる。正直容赦ない。怖い、逃げたい」

 ベッチは俺の一番長い付き合いの鬼ごっこ仲間だ。鬼ごっこ四天王だ。

 実を言うと俺のことを『エイリアンみたいだ』と言い出した連中のルーツはもとを糺せばこいつにある。

 それだけ俺の鬼ごっこの腕をよく把握している貴重な人物だってことだから、まあいい。

 あいつ――石上清香の最近の習性を考えると同じ道を二度通る傾向は無い。

 少し安心してベッチと一緒に長い深呼吸をする。

「涙流すほど怖かったんだね。で、どうすんの? これから一時間近く逃げるんでしょ?」

 その言葉を待っていた、と俺はベッチの肩をグワシとつかむ。

「考えがあるんだ。協力してほしい。そして俺をここでやと――」

「やだ!」

「・・・・・・協力してほしい」

「うん! いいよ!」

「・・・・・・そして俺をここでやと――」

「やだ! 絶対やだ!」

「・・・・・・」

 言っとくが友よ、自分の身内が経営してる職場で、友人であれ鬼ごっこなんて遊び勝負されるのに抵抗は無いのか?

  

「あなた! あの物陰なんてスリルのあるプレイに向いてるんじゃないですか?」

「闇に引き摺られていく感が半端ないな! あとその白金のバットは元の場所に戻しなさい!」

 バックヤードを出たら待ち構えてやがった。

 テナントの間のちょっとした隙間に挟まってた。

 ・・・・・・なんで挟まってたんだ?

 現在ショッピングモールの一階を逃走中。

 モールは三階建てで1フロアの広さは平均的な野球スタジアム約6個分とかなり広い。

 モノレールの駅と馬鹿でかい病院も兼ねてるから当然か・・・・・・。

 モールに来るまで走っていた大通りは二次元だが、ここは各所に設けられた階段にエスカレータやエレベーターで区切られた三次元のフィールドだ。平面で見たら同じ位置だが、立体的に見るとフロアが違えば全然違う場所になる。

「このバット気に入っちゃいました。この持ち上げると脱臼しそうなのが何とも・・・・・・」

「しっくりくるってか?」

 さっきベッチは100%白金製で大人三人でやっと運んだって言ってたよ?

 なんでそんなもん作ったんだ? ってのは無視しようと思うけど・・・・・・。

 それをこんな華奢に見える女子高生(オーバードライブ中)が片手でぶんぶんと軽々振り回している。

 しかも笑顔で。

 制服引ん剥いたらバッキバキのグラップラーだったりしないだろうな?

 どうも肉弾戦では勝利は難しい予感。

 この少女の背後にクレ●ジーダイ●モンドがいる気がする。

 首筋に氷を当てられてるような悪寒がはしる。

「そのバットのお値段は何年か景気のいいとこで不眠不休で働かないとなんとかできない額だから! この世の家庭のある大体の人が一生手にできないものだから! 絶対傷とかつけんなよ!」

 白金、つまりプラチナだ。

 俺の手一握りの量があれば一年は結構楽に暮らせると思う。

「錬金術師は白金を手に入れた!」

「なんかの素材に使う気なの?」

「正直バックれて売りに行きたいです! 質屋ありませんか?」

「全責任をお前が持つなら売ってこい! 捕まるから!」

 展示物を無断で持ってきて、それを公共の場で振り回してる、しかも現地で即質に入れようとしてる、絶対通報されると思う。

「億いきますよね?」

 何の悪意もない顔。

 純真無垢な表情で言う状況じゃないから。

 俺の話聞いてる?

「余裕だが、質屋ってもんは高額な物を損しない程度の価格で担保に入れるとこだから質入れはお勧めできません!」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・連帯責任って良いですよね?」

「!」

 俺とバットを交互に見るな!

 俺と金を天秤にかけるな!

「ラブソウルポイントに現金を課金・・・・・・」

「にやりと笑うな、馬鹿!」

 流通に乗ってない上にお前の脳内の架空のポイントにどうやって課金するつもりだ!

「いえいえ、最近パソコンの勉強を始めまして、同級生にはCEOと・・・・・・この前も視察に・・・・・・」

 パソコンの勉強始めて即CEOって呼ばれちゃうぐらい無駄にハイスペックなとこアピールしなくていいんだよ! 視察って何? 

 こんだけ怖い思いさせたんだからしばらくその能力で俺を養ってくれ! ・・・・・・冗談です! あと今ちょっと心を読んだだろ?

「もうやだよう~~」

 おうちに帰って寝っ転がりたい。

 熱い風呂に入りたい。

 味噌汁とアジの干物とふりかけご飯とできれば漬物が食べたい。

人生ゼロに戻したい。

 生まれ変わりたい。

 そしてリア充になりたい。

 世界を手に入れたい。

 世界征服したい。

 神になりたい。

「良い反応です。そんなあなたを見てあたしは反応します。ハウッ!」

 ビクッとするな。

「俺たち相性悪すぎだよ~」

「あたしは最高に良いと思います。あっ、その表情いただきです!」

 いただかなくてよろしいんですが・・・・・・。

 俺の中のこいつはボンテージとか着ちゃってるよ。

「お前さっきSとM、両方だって言ってたけど、本当のとこどっちより?」

「難しい質問ですね・・・・・・ちょっと待ってください」

「悩むとこなの? 自分に素直になれば良いだけじゃん!」

「・・・・・・」

 しばらく走りながら考えると、彼女は顔を横に振った。

「どちらも最高過ぎて、答えが出ませデュフフフフ!」

 目を輝かせて涎を垂らしながら気持ち悪い笑い方をするな、と言いたい。

「じゃあ、仮に俺がお前を酷い扱いしたら、お前は嬉しいの?」

「それはそれで有りです! 大好きです! 堪りません! 感じます! ぶっ叩いてください!」

「・・・・・・逃げます」

 真性の人だった。

 御近付きになりたくない。

 俺の脚は無意識にスピードが上がり、それは彼女の最高速度を超え、差が広がってくる。

 周りの人込みに少し奴の姿を見失いそうになる。

 こうなってからが怖いのは先刻承知だ。

(そろそろ準備できたか?)

 ズボンのポケットからイヤホンを取出し耳に着ける。

 スイッチを押し五秒ほど様子を見たら、

「もしもし、ベッチ! 聞こえる?」

『はいはーい! しっかり聞こえてるよ~』

 そう、これはさっき石上清香を見失った時の教訓から、俺が考えてた作戦のキーアイテムのイヤホン型端末。

 警備室のコンピュータに繋がった無線通信端末だ。

「映ってるか?」

 走りながら大きく手を振ってみる。

 ジェネレーションシティーのセキュリティールームに入ることができるベッチに、石上清香の位置を捉えるのに一枚噛んでもらおうと頼んでみたら、あっさりOKされたのにはびっくりしたが・・・・・・。

『ばっちし! いや~、こんな使い方があったんだね~、うちの警備カメラ』

「こんな使い方は間違ってると思うがな」

 鬼ごっこに警備カメラ使うな!

『現在奴は桃の字の後方五十メートルの二階につながるエスカレーターのそばでーす』

 俺は後方を見てそれを確かめる。

「よし、間違いない。なにか変化があったら教えてくれ」

『ラジャー!』

「プランではモールを四十分逃げたら、モノレールに向かおうと思う」

『で、オレはあれを指定の位置に用意しといたから』

「・・・・・・会話って良いね」

『なに? 突然気持ち悪い!』

「うん・・・・・・うん・・・・・・ずびっ」

 やっと味方が出来た。

 それが純粋にうれしいんだよ。

 救いの無かった俺の恐怖に第三者から差し伸べられた手・・・・・・本当にうれしい。

 モールの客たちは突然涙を流す俺を気味悪い風に思っていることだろう、仕方ないって。

 そんなの気にしてる場合じゃないの!

 さあ、皆の衆! 存分に我が奇行を楽しむがよい!

『桃の字、泣くのは呼吸を乱すから! 男の子でしょ?』

「へへ、ベッチの言うとおり、そこが手厳しいけど心強えーや!」

『これが終わったら仕事探して真人間になるんでしょ?』

「ああ、良い仕事探して、良い人間になる! 一応もう一回訊くけど、俺をここではたら」

『やだ! 絶対やだ! みんな言ってる!』

「・・・・・・・・」

 みんな――っか・・・・・・。

『言っとくけどあの娘、もう桃の字の死角にいるよ』

 キッと後ろに視線を這わす。娘の姿はもうない。

「早く言え、コノヤロー!」

『チョットアソビマシタ、ゴメンナサイ』

「心が籠ってねーよ!」

 急ブレーキを掛けて靴底を擦り減らす。

 数秒呼吸を整え、

「ベッチ! 奴はどこに?」

『それがなぜか桃の字とは正反対の方向に走ってる、ってあれ? なんか似た服装の子がいっぱいで、あ、そういえば今日、女子高生に人気の「野山水鏡」のステージがあったんだ! ヤマスイの野郎、いちいち目立ちやがって気に食わねえって無視してたから忘れてた』

 野山水鏡(あだ名はヤマスイ)、今この地域で大活躍中のご当地アイドルだ。

 去年のローカルチャンネルの紅白歌合戦で小林幸子のようなド派手な衣装で巷を騒がせた御仁である。

 最近はローカルチャンネルどころか全国放送に進出してきた様子の、かつての俺の同級生――鬼ごっこ四天王のひとりだった人物だ。無口でたまに口を開けば、皮肉なことばかり言ってニヒルな態度を常にとる、歌がうまくて顔と頭と運動神経が良いだけの男だ。

 ・・・・・・完璧じゃん。

「なん! ・・・・・・なるほど、娘も馬鹿ではないようだ」

『あの子、ここに一番近い高校の制服着てたしねー、混じってわからなくなっちゃったよ』

 確か五年ほど前に創立された『裏海馬高校』の制服を奴は身に着けていた。

 淡い緑色を基調にしたブレザーだ。

 あと髪の長い女子には学校指定のヘアピンの装着が義務付けられてるんだよな。

『かわいいデザインだから、制服を目的に入学する女子が多いんだよね』

「その反面、近所だから昼はここにサボりに来る素行の悪い学生が多いんだよな」

『最近はそうでもないんだけど』

「なぜか結構女子のレベルが高いみたいだし」

『知らないの? 第一期生が大量にモデルになったりしちゃったから、三年ぐらい前から受験に――特に女子の場合、一定の容姿も問われちゃうらしいよ』

「現代の高校受験は何かおかしい」

『まあ、大人でもいろいろ厳しい時代だからね』

「なんかそれ、俺に向けて言ってない?」

『キノセイキノセイ』

 明らかにわざとらしい。

 しかしまあ、無理言って協力してもらってんだから文句言えないか・・・・・・。

 ここはひとつ咳払いでもして、

「ごほん、木の葉を隠すなら――」

『――森の中』

「おうちへ帰りたい・・・・・・うう」

 あの娘が蜘蛛の子のように分身を散らした状況で奴を見つけ出さねば、俺の勝利の方程式にひびが入るのは確実だった。

 攪乱、そういう機転が回る石上清香の思考を読み取るならば、彼女もこの遊び勝負がそれなりの長期戦になるのを見越していると推察できる。

 それゆえのこの作戦なら筋が通る。

 なんか筋・が通ってるのが逆に胡散臭い気もするが、相手が全く読めない行動に出たときは思い切った逃げ方とか下手に奇をてらわず、まずは落ち着いて状況を見れる場所へ移動するべきだと思う。

「ベッチ、女子高生の居ない場所は絞り込めないか?」

 まずは女子高生の群れには近寄らない方が良い、体力面でも精神面でもそれが無難だ。

『飲食店とかアパレルショップには結構女の子たちいるね、んー、一階中央の大型玩具店ジョイザラスの前とか?』

「中央か・・・・・・どこに奴が紛れてるかわからないし似たような格好の奴らに挟まれるのは・・・・・・」

『じゃあ、とりあえず中央棟二階に上がって、すぐ傍のエスカレーターで』

「考えがあるんだな?」

『まあね』

 とりあえず指示通りエスカレーターで二階に上がった。

 モールは三階建て、その中央の支柱兼中央棟を二階に上ると、この施設のだだっ広さが半分一望できる。

 建物のただの二階にやって来ただけなのに、見晴らしが良すぎてちょっとした山に登った時に頂上で遠くを見た感じに似た、グワンとした錯覚を覚える。

 もう夕食の時間には遅めだが、食事をしている人々も相当いるのがよくわかるし、夜の映画館にも多くの人が出入りしている。

 というより全体的にまだまだ人の波は後を引かない。

 もうここがあれば他には何屋さんもいらないのでは? と思ってしまう。

 ここまで毎日混雑してるなら逆に遠のいて行く人もいる気がするが、このモールの経営者――越坂部正(ベッチのお父さん)の所有する店舗はここだけではなく、町中至る所にあるコンビニやスーパーとかも実は越坂部家の手が加えられていたりする。

「強烈な影響力だな・・・・・・」

『なんか言った?』

「いや、この街ってさ――・・・・・・」

 お前んち無きゃ回らない街なんだな――と言おうと思ったが、なんかムカつくからここは精神衛生を保つため濁しておこう。

『ありがとう。今度隣りの射桐峠市に新店舗開店するんだ~』

「畜生、なんでこっちの考え読まれてんだよ!」

『付き合い長いからね~』

 悪意が感じ取れないから憎めないんだよ。

 それにしても、こんな馬鹿でかいのまた開店するのか。財力だな。

 本当、金ってやつは・・・・・・。

「・・・・・・ったく、で、これからどうする?」

『とりあえず周りをよく見てよ。オレは桃の字より鬼ごっこは強くないから一応危険じゃなくて視界の広がる場所をってさ。桃の字の意見も聞くべきでしょ?』

「そうだな頼り切りは良くないな」

 顔を両手で挟むように叩き気合を入れる。

 まず、視界に入る情報を整理する。

 モールは東西南北に正確に面している、北側から西側、南側に視線を向ける、中央棟の西側だからここから東は見えない。

 イベントホールは南側の一階、あの娘は女子高生に紛れるためそちらに向かった。

 そして、女子の群れは少しずつ北上している。

 確かに制服を着た娘らが南に大勢いるな。

 その姿を追うと一階に多い飲食店は女子高生でいっぱい。

 時間も時間だし帰宅するためモノレールの駅がある北に行進するのも結構いると予測する。

 ここから西中央の様子は目視できるが、そんなに制服姿は見当たらない。

 こうなると当然。

 東は? 東が気になる。

「ベッチ、東はどうなってる?」

『はいはい、東では・・・・・・んん!』

「どうした?」

『いやー、見落としてたっていうか、勝手にヤマスイが東の書店でサイン会だってさ。本当あいつは勝手だ! あの野郎!』

 ベッチは(俺もだけど)野山水鏡が嫌いだった。

 理由は後程。

 とにかく普段頭に蝶がとまってたりすごくポケ~っとしてて『だいじょうぶか?』って思っちゃうほど怒りの感情とかと全く縁が無いベッチなのに、こんなにイラついているのは珍しい。

 一応理由は知っているのだが下らな過ぎるので今は曖昧にしか覚えてない。

 確か・・・・・・。

サイコホラーラブコメ出来てる!多分出来てる!

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