表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

第3話 決着

世界が沈んでいく。

地面も空も、全てが黒に溶けた。

輪郭が消え、音が死んだ。

ここは“無”の中──存在が消滅する空間。


泰弘は、拳を握ったまま立っていた。

視界がなくても、感覚は残っている。

心臓の鼓動だけが確かに響いていた。


「……これが、お前の本気か。」


“無”の声が響く。

その声は近くであり、遠くでもある。

空気の流れもなく、重力さえ揺らぐ。


「全てを“無”に還す。

 お前の力も、記憶も、名も。

 何もかも、ここで消える。」


「……消える、か。」


泰弘は笑った。

その笑いは、静かだった。

けれど、芯があった。


「いいじゃねぇか。

 消える直前まで、全力で生きてりゃ、それで十分だ。」


その瞬間、拳から赤い光が漏れた。

ビーストモードが、再び反応する。

けれど、満月はもう見えない。

“丸いもの”も、どこにもない。


──それでも、泰弘は目を閉じなかった。


「なぁ、“無”。

 俺の中の“丸いもの”を、見つけたんだ。」


静かに胸を叩く。

「心臓だよ。これも、丸いだろ。」


一拍、鼓動。

赤い光が、全身に広がる。

魔力が共鳴し、獣の紋様がさらに濃くなった。


「……馬鹿な。

 自己魔力でビーストを維持するなんて──!」


「バカって言われ慣れてんだよ。」


泰弘が吠えた。

空間が裂け、赤い獣が咆哮する。

黒の世界を貫くように、紅の光が奔った。

“無”の影が揺らぎ、形を保てなくなる。


「俺の力は“月”だけじゃねぇ。

 “俺自身”が獣を呼ぶ。」


“無”が絶叫する。

その身体が膨張し、闇の中で巨大化していく。

無数の腕、顔、影。

地獄のような姿を取って、泰弘を飲み込もうと迫る。


「終わりだ、泰弘!!」


「終わるのは──お前の方だ。」


泰弘は地面を蹴った。

影の海の中を一直線に突き進む。

赤い光の尾を引き、両腕に炎のような魔力をまとわせる。


“無”の巨大な腕が振り下ろされる。

衝撃が空間を震わせ、光が弾ける。

泰弘は拳でそれを受け止め、そのまま跳び上がった。


「ビーストモード──最終解放!」


獣の咆哮が轟く。

彼の背に、炎と光の翼が広がった。

人と獣の境界を越えた姿。

“月獣形態”。


「無を超える、存在の証明だ。」


泰弘は空を蹴り、拳を振り下ろす。

“無”の中心へ、まっすぐに。

拳が闇を貫いた瞬間、世界が白く染まった。


爆音。

空間の裂け目から、光が溢れ出す。

圧縮されていた現実が、一気に弾け返った。


瓦礫の広場。

夜空。

冷たい風。

すべてが、戻ってきた。


泰弘は膝をついた。

息が荒い。

全身が焼けるように痛い。

だが、立っていた。


その前で、“無”が崩れ落ちていた。

黒い煙となり、風に溶けていく。

最後の瞬間、かすかに声が聞こえた。


「……俺を、“見た”か。」


「見たよ。

 ちゃんと、見えた。」


“無”は微笑んだようだった。

そして、完全に消えた。


泰弘は拳を握り、夜空を見上げた。

満月が、静かに光っている。

血で濡れた頬を風が撫でた。


「……ままならないな。」


呟いて、笑った。

痛みも疲労も、全部が生きてる証だった。

勝っても、完全じゃない。

それが、いい。


「さて。四天王、あと三人か。」


風が吹く。

どこか遠くで、雷鳴が響いた。

次の敵が動き出している予感が、泰弘の胸をざわつかせる。


「次は……“林”だったな。」


赤い目が、月の光を反射した。

夜はまだ、終わらない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ