表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第2話 自分

目の前に立ち並ぶ“自分”。

十体の泰弘が、まったく同じ構えで、同じ呼吸で動いていた。

わずかな風の乱れまで、寸分違わない。

まるで、鏡の中に閉じ込められたようだった。


「……自分の癖って、こんなにバレバレだったんだな。」


泰弘は笑った。

笑いながら、心臓の鼓動を数える。

一拍、二拍──

自分の影たちの呼吸と、ずれていない。完全に同調している。


“無”の能力は、ただ姿を消すだけじゃない。

「存在」を写し取る。

だから、相手の感情や意志さえも、ある程度は再現できる。


「ビーストモードの、俺をコピーするってか……洒落てるな。」


「お前の力が強いほど、俺の勝ちが確実になる。」

“無”の声が四方八方から響く。

「自分自身を、どうやって倒す?」


泰弘は口を開きかけ──やめた。

代わりに、笑った。


「倒す必要は、ねぇよ。」


ビーストモードの赤い瞳が光る。

次の瞬間、影たちが一斉に動いた。

全員が泰弘と同じタイミングで飛び込み、拳を突き出す。

衝撃が走り、地面が陥没する。

破壊の嵐の中、泰弘は自分の足を止めずに跳び上がった。


拳と拳がぶつかる。

骨が軋み、皮膚が裂ける。

影の泰弘の拳が、正確に本体を狙う。

痛みも本物。

だが、泰弘は笑っていた。


「やっぱり……自分が一番、やりづらいな。」


空中で身をひねり、蹴りを放つ。

一体の影が吹き飛ぶ。

だが、すぐに新しい影が地面から生まれた。


「数が減らねぇ……っ!」


“無”の笑い声が響く。

「影は、闇がある限り増える。お前が戦えば戦うほど、夜が深まる。」


泰弘の肩に血が流れる。

体は限界を越えかけていた。

けれど、その眼だけは濁らない。


満月が、雲に隠れた。

闇が濃くなる。

影たちの動きが速くなった。


──まずい。ビーストモードの力が下がっていく。


「月が……!」


泰弘は周囲を見渡す。

丸いもの、何か、何でもいい。

“魔力を感じる丸いもの”が視界に入れば、再び発動できる。


そのとき。

瓦礫の中に転がる、砕けた街灯のガラス。

その破片の中に映る、ぼんやりとした自分の瞳。

ガラス片の輪郭が、光の加減で丸く見えた。


「……よし。」


その瞬間、胸の奥が再び熱くなった。

魔力が沸き上がり、全身に獣の紋様が浮かぶ。

ビーストモード、再発動。

爪が輝き、足元が砕ける。


「第二段階、全開。」


泰弘は跳んだ。

風が爆ぜ、音が遅れて追いかける。

影たちが同時に迎撃に動いたが──

泰弘はその軌道を読み切っていた。


拳と拳がぶつかる。

光と闇の波動が炸裂する。

衝撃が広場を吹き飛ばす。


「無駄だ。」

“無”の声が再び響く。

「影は影、本体を超えられない。」


「そうだな。だから──」


泰弘は、地面を蹴りながら吠えた。

「影に“月”はない!」


その言葉と同時に、瓦礫の隙間から差し込んだ光が、広場を照らした。

一瞬だけ雲が切れ、満月が顔を出す。

光を受けた影たちが、一斉に揺らめいた。


「影ってのは、光があって初めてできる。

 でも、月の光を浴びた影は……“反転”する。」


泰弘の目が光った。

拳を握る。

魔力が、月光を吸い込むように増幅する。

ビーストモード・第三段階──“月光解放”。


空気が震える。

影たちの輪郭が崩れ、形を保てなくなった。

“無”が叫ぶ。


「そんな……!」


「悪いな。お前の能力、“光”に弱いって、今ので確信した。」


泰弘は走り出す。

影の海を突き抜け、音速を超える一撃を叩き込む。

光と闇が衝突する。

衝撃波が夜空を裂き、雲を吹き飛ばした。


満月が、すべてを照らす。

影が、消える。


だが、まだ“無”の気配は残っていた。

空気の奥。

瓦礫の下。

声が低く響く。


「……お前、面白い奴だな。

 俺をここまで追い詰めたのは、王以来だ。」


「だったら──」


泰弘は拳を構える。

「“無”の名に恥じない最期を、見せてみろ。」


“無”が立ち上がる。

その体から、黒い霧のような魔力が噴き上がった。

空気がねじれ、重力が歪む。

世界が、暗転する。


泰弘の足元が再び沈み、影が蠢く。

今度は、影ではない。

現実そのものが“無”に侵食されていく。


「この世界ごと、消してやる。」


空間が崩壊する。

建物が溶けるように消える。

光が吸い込まれ、声も届かなくなる。


泰弘は歯を食いしばり、拳を固めた。

──ここからが本番だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ