7話 変化
その日から、会う度会う度にイアンは右耳に片耳だけのシトリンのピアスをしてくるようになった。
パーティで会う時や、たまたま会った時などもその姿は変わらなかった。
(まるで何時でも迎えに行くと言っているかのようだわ)
ぎゅうっと片耳だけ貰ったシトリンのピアスを握りしめシャノンは涙を流す。
シャノンも毎朝シトリンのピアスを眺めることから一日をはじめるようになっていた。無くさないように、大切にできるように、専用の入れ物まで購入したほどだ。
このピアスを見る度にシャノンはイアンを思い、胸が暖かい想いでいっぱいになるのだ。
ふと最近はライラの隠れ蓑役も全然苦しくないことに思い当たる。
いやもうずっと昔からそうだった。スヴェインとライラがデートする日はイアンに会える。その事がシャノンを充分に満足させてしまっていたのだ。
もはや婚約者役は本格的なものとなり、シャノンはただスヴェインの忠臣としてその役をこなすのになんの苦痛も感じ無くなっていた。
ライラに対して内心複雑な心境だったシャノンも、イアンとの出来事をきっかけに本当に幸せを願うようになっていた。何せ彼女は敬愛するスヴェインの愛する人であり、シャノンの愛する人の妹であるためだ。
イアンを愛することをやめなくなったシャノンは、事業も王妃としての教育にも気分がのり、何事にも前向きに取り組むようになった。
もしもスヴェインの思惑通りシャノンが王妃に、ライラが側室になったとして、ライラが跡取りの王子を先に産んでさえしまえば誰もライラの血筋などにもう文句は言えないのだ。
そうすれば王妃の立場も入れ替わる可能性もあるし、イアンの元に降嫁される可能性すらある。
スヴェインはライラにゾッコンであるので、自分の夜の通りの前にライラが妊娠する可能性は大いにあった。
今のまま行けば全ての問題が丸く収まるかもしれないと思いながらシャノンは日々を過ごしていた。
もし上手く行かなくても、自分が我慢すればスヴェインとライラはとりあえず幸せになれるとそう思って。
少し気がかりなのがイアンが全く婚約者のようなものを作らず女遊びのようなことに興じている事だった。
シャノンはイアンがそんな軽い人ではないと充分にしっていた。
(まさか、私のため?)
もしもシャノンがイアンを求めるような事があれば、シャノンにはそれはそれは批判が集まるだろうが、イアンの女性関係の評判が悪ければそれはイアンへの批判に繋がり、シャノンは庇われる形となるだろう。
イアンはどんなときもピアスを外さないから。シャノンはそう思えて仕方がなかった。