4話 事業をしようよ
今日のスヴェインとライラの予定はオペラデートだ。オペラデートは良い。2、3時間で終わるオペラはシャノンの拘束時間が短くすむからいつも暇を持て余すシャノンにとっては有難かった。
頻繁に行われているこの偽りのデートでスヴェインとシャノンの仲はとても良好であると世の人々は思っている。
その実態など知らずに。
今日もいつものカフェで本を読む。このカフェは貴き立場の者の為に個室を借りられるようになっていた。チリンと取り付けられているベルを鳴らせばお茶やケーキを出してくれる素敵な仕様付きだ。
予約をしないと個室は取れないのだがあまり有名ではないカフェの個室は空いていることが多く、シャノンはこのカフェが気に入って、隠れ蓑になる日はよくここで過ごしていた。
静かなこの時間は頭を空っぽにして読書に熱中できる。でも持ってくる本の量を間違えるとシャノンは暇を持て余し退屈な時間を過ごすことになるのだ。
シャノンは読書に熱中していたが、コンコンという控えめなノックの音で本の世界から呼び戻される。
ドアを開けてみると、カフェの店員が申し訳なさそうに立っていた。
「お客様申し訳ありません。ただ今お客様のお連れ様だと言う方がいらしていまして」
「連れ……?」
店員は後ろを見やる。シャノンも彼の後ろに立っている人物に目を止めると驚きを隠せなかった。そこにはゆったりと笑うイアンが立っていたのだ。
「兄が妹と約束して居てなんの不思議がある?」
「は、はい。そうですねお兄様。でも来るなら事前に言ってもらわないと困ってしまうでしょう?」
シャノンは店員に不思議に思われないようイアンの演技に合わせた。店員にお礼を言ってイアンを個室に招き入れる。
イアンはライラとスヴェインの予定を知る数少ない人物の1人だった。だからライラとシャノンが入れ替わっていることは勿論知っている。なんの用事でシャノンを訪ねて来たのだろうかと頭を捻る。
「なに、構えることは無い。どうせ暇なんだろう?私と話でもしないか?」
イアンはそんな事をいいながらシャノンの向かいに座るのだった。
イアンはどうやらシャノンの話し相手?のような役をやりに来たようだった。世間話から、ちょっとニッチな噂話まで本当に取り留めのない事を話していると、シャノンの緊張もとけてきた。
「何故ここに来たかまでは言及しないでおいてあげるけど、話し相手ができて助かったわ。いつも待ってるだけなんて暇で暇で仕方なかったんだもの」
「そうだろうと思って来てあげたんだよ」
くすくすと笑うイアンを見やる。ライラと同じ金髪にスヴェインとは違った色味の蒼い瞳はやはり彼の従兄弟なのだなと血の近さを感じ取れた。
「そうだシャノン嬢。暇なら事業でも始めてみてはどうだい?」
「事業……ですか?」
「そう。例えば物流だったり、鍛冶屋を経営してみるのもいい。最近の流行りは魔術開発とかもあるね。君は聡い人だから暇な時間を作るなんてもったいないよ」
イアンはそんな提案をしてきた。暇つぶしに事業を始めるだなんて思っても見ていなかったシャノンは吹き出していた。
「ふ、ふふ!おかしなことを言うのね。でも、そうね、事業か……とても楽しそうだわ。ね、ね、どんな事業なら今の私でも出来ると思う?」
「そうだなぁ、やっぱり1番は君の興味のあることがいいんじゃないかな?」
「興味のある事かぁ……お化粧品やアクセサリーに関する事ならとても興味があるかもしれないわ」
「だったらそこら辺から計画を練っていこう」
それからシャノンはイアンと事業の計画書を考えた。まだ真っ白なそれはシャノンの暇を潰してくれるいい題材だった。