12話 ライラの門出
動き出してしまっている国のうねりは止められない。シャノンは相変わらずスヴェインの婚約者であるし、結婚式は刻一刻と迫ってきていた。
シャノンは今日もイアンに貰ったシトリンのピアスを眺める。
コロコロと小さいそれは目を離せば無くなってしまうかと思ってしまうくらい儚く思えた。じいっと眺めて、手に取り、くるくると回してそっと右耳に触れる。今日も彼の耳にはこのピアスがおさまっているのだろうか。
大切なそれを専用のケースに戻すといつもの場所にしまい込む。
「私はスヴェイン様の王妃になるの」
鏡に向かってそうつぶやく。
シャノンは唯一のスヴェインの王妃として存在する覚悟を決めるのだった。
―――
その頃、ライラは隣国ザイファルト帝国の貴族との政略結婚が決まっていた。
最初はシャノンも驚いたが、ライラが嫁ぐなら国外がいいと希望を出してまとまった縁談だという。
最後の挨拶に来たライラはどこか満足そうにスヴェインとシャノンを祝福していた。
「スヴェイン、シャノン様。まだ早いけれどご結婚おめでとう」
そんな言葉を微笑みながら言われてシャノンはまた泣いてしまいそうだった。行かないで欲しいとスヴェインの元にいて欲しいと懇願すればライラを困らせてしまうだろうか。
シャノンは本心を隠し嫌味にならないよう気をつけながら笑った。
ずっとシャノンが頑張れたのはライラがとても懐深く、そして穏やかにシャノンと接してくれたおかげでもあった。
本当の姉妹のようだと周囲からはよく言われたものだし、シャノンもライラを姉のように想っていた。
「長い間君の時間を奪ってしまう形になって悪かったね、ライラ」
「いえ、素敵な時間でした、スヴェイン」
穏やかに微笑みあうかつての恋人たちの間にはわだかまりなどない。二人の間で関係は精算されている物のように思えた。
お互いへの信頼がそうさせるのだとシャノンは思う。
(どうして、ライラじゃなかったのかしら)
シャノンを選んだスヴェインの気持ちを、貰った言葉たちを噛み砕こうと努力はするけれど、シャノンはどこかまだその意味の全てを理解出来ずにいた。
「シャノン様」
「は、はい!」
「どうかお幸せに」
にっこりと微笑みながらの祝福を残して、ライラは隣国へと向かうのだった。