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10話 すれ違い

「スヴェイン様!」

「……?シャノン?」


数人の従者を連れて難しい顔で立っているスヴェインを見つけてシャノンは駆け寄った。


「お話ししたいことがあります」


―――


スヴェインはシャノンを自身の執務室へと案内する。仕事でよく来る彼の執務室は、きっちりと片付けられ、花や観葉植物も置かれた過ごしやすい空間となっている。


「珍しいね、君から声をかけてくるだなんて」


お茶を用意してくれた使用人が立ち去るとシャノンはスヴェインに詰め寄った。


「ライラと別れたって、本当ですか?」

「………あぁ、今日はクレイヴァン伯爵家に行ってきたんだね」


シャノンはこくりと頷く。

スヴェインはライラと別れたというのにとても穏やかだった。


「どうしてそんな事……あんなに仲が良かったのに……」


スヴェインは1口お茶を飲むとコトリと机に置いた。


「シャノン。私はね、君には本当にとても感謝しているんだ」


スヴェインは本当の事だよとにっこり笑った。


「君のおかげで私とライラは幸せな時間を手に入れていたけれど、そこには君という犠牲があった。その事が気がかりでね。

君は私に充分だと言って何も求めないだろう?だから僕のこれからの愛情全部君にお返ししようって思ったんだ」


はくはくと、シャノンは空いた口が塞がらなかった。かつての自分だったら飛び上がって喜んだだろう言葉の数々だったが、今のシャノンにとっては甘くそれでいて解けないようにきつく真綿で締め付けられているのと同じことだった。


「それに、君に向き合わねば私は賢王だとは言い難いだろうね。君がこれほどまでに王妃に相応しいのだから」


「で、でも、それではあまりにもライラが可哀想です。スヴェイン様だってライラのことを愛しているんでしょう!?」


その言葉は悲鳴のように叫ばれた。シャノンの勢いにスヴェインは少し驚く。


「お願いですライラを側室にしてあげてください」


それはシャノン自身のための懇願だった。

胸が張り裂けそうだ。自分は今まで一体何のために頑張ってきたのだと。

脳裏に浮かぶのは優しく笑うイアンの姿だった。柑橘とムスクの香りが思い出される。


(イアン、イアン……!助けて……!)


「もう、ライラには納得してもらっているんだ。私達二人の間では決着が着いているんだよシャノン」


スヴェインはそう言って優しくシャノンを諭す。

にっこりと笑うスヴェインはゆったりとした足取りでシャノンの隣に座るときゅうとシャノンを抱きしめた。乾いたラベンダーのような香りがする。


スヴェインのことは嫌いではない。

嫌いではないのだ……。


ぐっと涙を流してしまうことだけはしてはいけないと顔を見られないようスヴェインにしがみつき、ぎゅっと歯を噛み締める。抱きしめられる熱を感じながらゆっくりとシャノンは全てを諦めていくのだった。

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