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5 開戦


 竜神聖戦は四年に一度開催される。

 各竜の陣営から代表の五人の竜人を選出し、大陸全土を舞台に戦いを繰り広げるのだ。


 それぞれの竜人は旅をしながら他の竜人を探し回る。そして、他の陣営の竜人に遭遇すれば、その場で戦いを始める――いわば、遭遇戦バトルロワイヤルだ。そして、最後の一人になるまで戦い続け、勝ち残った竜人の陣営が勝利となり、大陸を治める覇権を手にするのだった。


 そして、ユリーシアが提案した鉄の竜への予備戦は、この竜神聖戦の遭遇戦の仕組みを模しており、本戦への参戦権をかけた試練としてはふさわしいといえた。


 イルとアッシュは予備戦の開催を商業都市――オゴートにて聞かされた。




「――なるほどね。一週間以内にドラゴニアに来いってか」


「ただ街に来い、じゃない。ドラゴニアの開戦式が行われる広場の祭壇にまでたどり着くことが条件だ」

 イルの呟きに、エドウィンが補足をする。


「当然、邪魔は入るんだろうねぇ」

 イルがグラスを傾けながら言う。


「ああ、どこの竜の陣営も公言はしていないが、六人目が参戦できるんだ、当然お前たちを討ちに来るだろうな。まったく厄介なことになったな」

 エドウィンは困り顔で水を飲んだ。


「おや、心配してくれるのかい? ダメだよ。監査官は中立じゃなきゃ」

 悪戯っぽく微笑みながらイルは言う。


「俺はいたって中立さ。だが、心配くらいはしても規律には反しないだろう」


「それで? その予備戦とやらは、いつから始まるんだい?」


「明日からだ。明日から一週間でドラゴニアの広場の祭壇までたどり着かなきゃならない」


「……へぇ、明日ねえ。おい、アッシュ」

 イルは隣で肉にかじりついていたアッシュの名を呼ぶ。


「なんだよ」


鉄竜牙(ティラガ)は私が持っていく。お前は例の物を受け取って、ドラゴニアを目指しな」


「わかった」

 アッシュは端的に返事をすると、肉を再び口に入れた。


「二手に分かれるのか?」

 エドウィンが問う。


「ああ、そうさ、だからアンタたちも付いてくるなら、二手に分かれな」


 エドウィンはそう言われてエレナの方を向く。


「エレナ、聞いての通りだ。俺はイルについていく。お前はアッシュの方を頼む」


「わ、わかりました」

 エレナはアッシュの方をちらりと見ながら頷いた。


「よし、じゃあ出発だ。アッシュ、遅れるんじゃないよ」

 イルは鉄竜牙が入った布袋を担いで立ち上がった。


「おい、開始は明日からだぞ」

 エドウィンの言葉にイルはふっと笑う。


「エドウィン、覚えときな。どこの世界でも決まりを守らない奴はいるんだよ」


 イルがそう言うと、酒場の扉が内側に向かってに吹き飛んだ。

 そして、長身の男が姿を現した。その男は素人でもわかるほどに、体中から禍々しい殺気を放っていた。


「早速お出ましだ」

 イルは素早く鉄竜牙を取り出す。


疾風突き(ゲイルスラスト)!」

 迷うこと無く、イルは長身の男に向かって攻撃をぶっ放す。男は吹き飛ばされて酒場の壁に叩きつけられた。

 イルはそのまま鉄竜牙を横薙ぎに振るって、扉とは反対側の壁に大穴を開けた。


「じゃあね」

 イルは鉄竜牙(ティラガ)を抱えてその穴から逃げ出した。それをエドウィンも追う。


 それにアッシュも続こうとするが、長身の男が立ち上がり、襲いかかってきた。


 アッシュは目の前のナイフを掴むと男に向かって投げつけた。するとナイフは空中でその形を変化させる。ナイフには鉄を操るアッシュの能力がかけられているのだ。


 ナイフは細長いワイヤーのような形状になって、男の脚に絡みついた。



 男はつんのめって床に転がる。その隙にアッシュも逃げたのだった。



 ◆◇◆◇◆◇




 エレナは必死にアッシュの背を追って懸命に走り続けた。幾度か見失いそうになったものの、なんとか巻かれずに付いていくことができた。

 路地裏に腰をおろしたアッシュの横に、エレナも倒れ込むように座り込んだ。


「ハァ、ハァ、何なのよ、もう。話が違うじゃない」


「うるせえ、黙ってろ。気配が掴めない」


 エレナの文句にアッシュがさらに文句を言う。


 アッシュは路地裏を見渡しながら、耳を澄ましている。エレナはむくれながらも息を潜めた。

 エレナも暫くの間、同じように耳を澄ましていたが、追手の気配は無く、夜更けの路地裏はとても静かだった。


 すると、おもむろにアッシュが立ち上がり、歩き出した。


「どこ行くの?」


「お前には関係ない。というか、ついてくるな」

 エレナの問いかけにアッシュは冷たく答える。


「そういう訳にはいかないのよ」

 語気を強めたエレナをアッシュはうっとうしそうに見る。


「お前がいると、敵に見つかりやすくなる。だからついてこられると困る」


「だから、そういう訳にもいかないの。リタイヤせずにきちんと戦えているかどうかを確認しておかないといけないから、アッシュたちの行動は監視下に置かれるの。それに、前にも言ったけど、私は『お前』じゃない。エレナよ」


 エレナは人差し指をぴんと立てて、さとすように言った。


 アッシュはしばらく睨んでいたが、やがて舌打ちをして歩きだした。


「だから、どこ行くのよ?」


「この街を出る」


「こんな夜更けに?」


「この街にいるより安全だ。それに急がないと間に合わない」

 ぶっきらぼうに答えるアッシュ。

 エレナは一つため息をついて、その後について行った。


 ◆◇◆◇◆◇


 同じ頃、イルも路地裏に身を潜めて辺りの様子をうかがっていた。


「――さっきの奴、闇竜のスケリッジだね」


「ああ、そうだ。最近になってランクを上げて、今じゃ闇竜の十位だ」

 エドウィンの返答にイルはひゅうっと唇を鳴らす。


「いきなり十位が登場かい。光栄だね」


「呑気なことを言っているが、勝てるのか? 強敵だぞ」


「勝つ必要なんざ無いさ。目的地にたどり着けばいいんだから」

 イルはにっと笑う。彼女はこの状況も楽しんでいるように見える。


「だから、逃げるって訳か」


「まぁ、いざとなればやるしかないんだけどね。さてと、追っ手は来ないみたいだし、行くかね。気ままな二人旅としゃれこもうじゃないか。エドウィン」

 イルは立ち上がり、歩き始める。


「気まま、ねえ……」

 あくまでも楽観的なイルの様子に、エドウィンは深いため息をつきながら、後ろをついて行くのだった。



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