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07 ファミレスに集う

「よー櫻井。なんだよ、瑠生達もいんの?」

 

 圭介くんがさらに奥にいた人にも声を掛ける。その後ろに彼の友人達が数人いて、近くのテーブル席へ案内された。

「あ」

 案内されたその中に、一際目立った金髪のツンツン頭がまじっていたのだ。

 

「超サイヤ人さん」

「あン?」

 訝しげにこっちを向く人は、わたしを見て近付いてきた。

「あー、痴漢の」

「痴漢?」

 菜那ちゃんがすぐに反応して、彼を睨み付けた。

 

「いやいや、待てよ俺じゃねーって。助けてやったんだぜ?帰宅ラッシュの最中、変態野郎から俺様が颯爽と………なあ?」

「その節は有り難うございました」

 

 彼はつまらなそうに「ふーん」とわたし達を眺めた後、なぜか蓮水くんを見て薄く笑った。

「悪いな、もーちょい詰めて」

 そして、わたしの隣へドカッと無理矢理居座ってきたのだ。

 

 悪いなと言うならば向こうのテーブルへ行けばいいものを。向こうから「ちょっと瑠生!?」と女の友人が呼んでいるではないか。狭いために腕をソファベンチの背もたれ……ではなく、わたしの肩のほうへ滑らせてくる。なんと横暴な。

 

「ちょっと!星来ちゃんに馴れ馴れしくしないでもらえます!?」

「助けてやった仲だよなぁ?セーラ?」

 すかさず頼りの親友が嗜めるものの、もう呼び捨てをしてくる超サイヤ人は揺るがない。

 

「ねぇ楓くん、この前のことなんだけど」

 と、向かいの席の蓮水くんの隣へ、今度は赤ピアスが座った。

 

 

 櫻井彩花………わたしはこの人を知っている。

 

 同じ中学で同じクラスだったことがあるけれど彼女にいい思い出はない。クラス委員で頭も良く目立つ彼女と、わたしはクラスメイトというくらいで他に接点はなかったというのになぜか目の敵にされた。

 

 掃除や日誌を押し付けられるのは日常で、移動クラスでは嘘をつかれ徐々に孤立させられた。まぁそんなことで病む精神は持ち合わせてはいないのでそう問題はなかったけれど。

 


「楓くん、前にあたしにゆったでしょ?卒業アルバム見たいって」

 赤ピアスの言葉に、蓮水くんはいつかのあの日のように戸惑った表情を見せた。

「遠回しに言わなくてもよかったのに。ねぇ、今からうちに……」

「櫻井、楓にそーゆーこと言うなって前に言ったろ」

 こちらも頼りになる推しの幼馴染である圭介くんが牽制する。

 

「記憶喪失前のことはストレスになるからやめてくれないか。自然に思い出せればそれでいーんだ」

「本当のことを教えてあげてただけじゃない、クラスメイトだもの当然でしょ。ねー楓くん?」

 そう言って、赤ピアスは蓮水くんの腕に手を回したのだった。

 

 同じ学校のクラスメイト………

 もやっと。

 不思議な気持ちになって。

 おやっ?と。

 不思議に思う。

 それもそうか。

 推しへの接触など見ていて気分のいいものじゃないのだろう、と納得だ。


  

「けーすけ、先輩がそろそろ顔出せだと。次こそ瑠生と組ませて大会出すってさ」

 別のテーブル席から友人が声を掛けて圭介くんはギョッとする。

 

「マジで!?いやー、俺はゆる〜く愉しみたい派なんだけどな〜。早起き苦手だし朝練ないから選んだしさぁ」

「俺とじゃ瑠生の足引っ張っちまうし、居た堪れねーよ。まぁ瑠生もたまにしか来ねーけど。テニス部エースが揃ってコレって不幸だよな」

「楓くんもまた顔出してよ、あたしのラケット貸すから!レギュラーより上手いからコーチが大歓迎って!」

 赤ピアスがまた嬉しそうに蓮水くんの腕を引っ張った。

 

「楓は俺を待ってて居合わせただけだろ。興味ない奴に無理言うなよ」

 どうやら話の流れからして彼等は同じテニス部なのだろう………が。

 

 ――――蓮水くんは違うんだ………

 なんとなくホッとした自分にまた不思議に思う。


 

「髪、切ってないな」

 不意に超サイヤ人がそう言ってわたしの髪を一束掬ってきた。

 

「俺様の言うことを聞いたわけだな、偉いぞ」

 いやいや何故。

「特にあなたの言う事を聞いたわけでは」

「黒崎瑠生」

「………特に黒崎くんの言う事を聞いたわけでは」

「瑠生」

 おお、超サイヤ人、強い。


「けーすけ、悪いけど私達先に帰るね」

 感心している間に菜那ちゃんが教科書やノートをまとめ出したのでわたしもそれに従った。

 

「あーら、どこかで見たような顔だと思ったら来栖さんと雪代さん。なぁにお勉強?一人で解けないからって楓くんに縋るなんてホント三流高校は図々しいわね」

「あら、こっちこそ誰かと思ったら櫻井さんだったのね。あまりの厚化粧で一瞬わかんなかったわ。それとウチのバスケ部もテニス部もインターハイ常連だけど?アンタのとこは毎年予選敗退で残念ね」

「はああ!?」

 おおお。

 流石我が親友、負けてないのである。


  

「すいません黒崎くん、もう出るのでどいてもらえますか」

「瑠生」

「………瑠生くん、どいてもらえますか」

 彼はニヤリと笑って席を立ち開けてくれた。


「またな、セーラ」

 声を掛けてきた超サイヤ人に会釈はしたけれど。

 わたしはなんとなく蓮水くんと赤ピアスを見る事はできなかった。

 

 


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